池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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とても偉そうなお兄様

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いつもの部屋でいつも通り座る。違うところは、フロレンツがいなくてヘンドリックお兄様がいるところだ。なんか空気がピリピリしているような気がする。

すごく居心地が悪くて執事さんの入れてくれたお茶をすする。……なんかお兄様が説教モードのような気がするんだけど。


「まず、」


突然、お兄様が口を開いた。皆が視線を向ける。


「殿下、婚約者のいる女を同じ馬車に誘うのはいかがなものかと」


そっちかい! 訓練場の一件じゃないんかい!!

思わず心の中でツッコんでしまった。が、確かに今後を考えると誰かが注意してくれないといけない。とはいえよく皇子相手に堂々と説教できるな、と思う。昔から交流のあるヨハンならともかく。

まあそのくらいじゃカイは怒らないだろう。カイは良くも悪くも身分を気にしていない。もっと気にして欲しい時はあるけど。

カイははっとしたようにお兄様を見て、そして私に視線を向けた。


「はい、殿下にあのようなことを言われては困ってしまいます。わたくしに限りません。殿下はこの国の皇子なのですから。お願いでもお誘いでも、お相手には命令だと捉えられる可能性がございます」


できるだけ説教臭くさならいように、だけどちゃんと伝わるように言葉を選ぶ。が、そんな私の気遣いなど気にせずにお兄様は説教を続ける。


「本日のことも聞きました。席順が決まっていないとはいえ、伯爵家の娘の座る場所へ行ったり、かと思えばエレナを上座に連れて行ったり。それは皇子として相応しい態度でしょうか」


言葉遣いは丁寧だ。だけどなぜだろう。とても偉そうだ。なにせ態度がでかい! せめて手の甲での頬杖は止めようよ。


「あなたはもっと考えるべきだ。自分の立場や振る舞いが周りにどのような影響を与えるのか。少なくとも今の状況で今日のような振る舞いは相応しくない。分かりますね?」


全てその通りだ。間違ったことは一つも言っていない。が、本当にどうしてそんなに堂々と説教ができるのだろうか。

カイは真剣な表情でお兄様の言葉を聞いていた。そして、少し考えると、私に向かって頭を下げた。


「すまなかった。私のしたことは全てエレナの負担になっていたんだね。私は自分のことしか考えていなかったよ。今後は態度を改めるよう気を付ける」


うっわ、めっちゃいい子やん。めっちゃ素直やん。もしこれがベアトリクスだったら今頃平和ではいられなかっただろう。


「ヘンドリック、今後もこのようなことがあったら何でも言って欲しい。今まで私に厳しく言ってくれるのはヨハンしかいなかったんだ」


そんなこと言ったら本当に厳しく言われるよ! お兄様手加減なしだよ!? 絶対やめておいた方がいいって!! そう言いたいけど言えるわけがない。こんなことを口に出したらお兄様に睨まれるのは私だ。

お兄様は当たり前のように頷く。


「じゃあ訓練場の件だね」


カイの話は終わり、ヨハンが話題を変える。ヘンドリックお兄様はとても深いため息をついた。


「お前には失望した、ヨハン」

「うん」


はいぃ!? なんで突然そうなるの!? 皆が驚きに目を見張る中、ヨハンだけは平然と頷いている。え、ヨハン何したの? 全っ然分からないんだけど。

どうも心当たりがあるのはヨハン本人だけで、皆分かっていないようだ。それにしてもあんな少ない言葉で理解できるって、二人は本当に仲が良いんだな。


「兄様、何のこと?」


クリスが首を傾げてヨハンに聞くが、答えたのはお兄様だった。


「クリス、お前はよくやった。褒められるのはお前だけだ」

「え!?」


クリスが思わずといったように驚きの声を上げる。顔には「ヘンドリック様が人を褒めるなんて」と書いてある。……うん、まあ普段のお兄様を見てたらね。褒められても嬉しさより驚きが先行するよね。


「話が全然分からねぇ」


とうとうレオンが口を開いた。うん、私も分からない。二人だけで分かってないで私達にも分かるように説明をして欲しい。

お兄様へと視線を向けるが、声が聞こえたのは別の方向からだった。


「私たちは動けなかった。あの時咄嗟に動けたのはヘンドリックとクリスだけ。私たちはただ見ていることしかできなかった」

「そうだ。あなた達は何もしなかった。もし私が動けなかったら、クリスが炎を消さなかったら、どうなっていたか分かるな?」


はい、分かりません。あのまま突っ込んでも一瞬だったらちょっと熱いくらいで済むと思っていた。だけどお兄様の口ぶりから、そんな軽いことでは済まないだろうなと思った。

カイは俯いて黙った。……これは分かっているのか? よく分からないな。

首を傾げると、お兄様はいつも通りの呆れた表情を浮かべて面倒くさそうに口を開いた。


「あれは魔法の炎だ。使い手の気持ち一つでその効果は変わる。お前に対する敵意に比例してな。それがそれほどではなければ触れてもたいしたことはない。だがあんな公衆の面前で魔法を使うくらいだ。よほど恨まれているのだな」


にやりと唇の端を上げて笑ったお兄様の表情を見て、ぞわっととり肌が立った。あのまま突っ込んでいたら私どうなってたんだろう……。魔法って怖っ!
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