池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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皇子と伯爵令嬢

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「心当たりは?」


恨まれる覚え。そう聞いて浮かぶのはベアトリクスの顔だ。……ないことはない。おまけに今日だけでも何人もの女の子の恨みを買っただろう。特にうちよりも爵位の高い家の子は、殿下に近付く伯爵家の娘が面白いわけがない。

だけどカイの手前、はっきりと言葉に出すの憚られる。とりあえず曖昧に笑っておくと、お兄様はため息をついた。


「皇子に公爵子息に侯爵子息。恨まれないわけがあるまい」


おいおいおい! はっきり言っちゃったよ、この人!

カイが愕然とした表情でお兄様を見る。


「私のせいだというのか?」

「そうじゃない可能性もあります。が、一度ご自分の行動を振り返ってみてください。心当たりがないのなら原因は別にある」


その言い方だと完全にカイのせいだって言っているようだ。さっきその話したばかりだし。……自分が怒られることは考えていたけど、他の人が怒られることは考えていなかった。

カイの表情はあからさまに沈んでいるのが分かる。もういいって。結局何ともなかったし。そんなに怒らないであげて! ……そう言う問題ではないか。


「今回は何ともなかった。だが次は? エレナが入学する時、私はもう卒業して一緒にはいない。そうなると誰がエレナを守る? クリス一人にその負担を押し付けて自分はただ見ているだけか? それくらいなら初めから近くにいない方がいいと思うが、どうだろうか?」


いやほんとに止めて! 威圧感がすごいんだけど! カイだけじゃない。レオンもマクシミリアンも俯いている。……本当にどうしてヘンドリックお兄様はこんなにも偉そうなのだろう。少しはクルトお兄様を見習って欲しい。


「お兄様、わたくしのことを心配してくださるのはとても嬉しいのですが、わたくし、自分の身は自分で守りますわよ?」

「それができなかったから今こういう状況になっているのだ。分かっていないくせにしゃしゃり出るな」


言葉がグサッと刺さった。確かに分かってないかもしれないけど! でもそんな言い方はないじゃん!


「じゃあわたくしはあの場でどうするのが最適でしたの? 分からないので教えてくださいませ」


賢いヘンドリックお兄様なら分かるんでしょ! 何も分かっていない私と違って!! ムカつくのを隠さずに刺々しく言ってしまった。令嬢らしいことではないけど、だけど我慢ができない。ヨハンが苦笑いを浮かべている気がするが気にしない。

だがお兄様はそんな私を全く気にした様子もなくけろりと言った。


「どうするも何もあれが最適だ」

「……はい?」

「聞こえなかったか。お前はあれ以上何かをすることは不可能だ」


すっかり毒気を抜かれてポカンとする。うん? 私は何もしなくて良かったの? あれで良かったの?

なんとなくクリスを見てみるが、やはりよく分からないようで、恐らく私と同じ顔をしていた。


「身体強化に魔力を使っている内は魔法は使えぬ。私が魔法を使えなかったのも同じ理由だ。そしてあのスピードで魔法を使うために身体強化を解いていたら死んでいた」


死……っ!? そりゃそうか、あの速さだもん。走ってる車から投げ出されるようなものよね。身体強化を解くという発想はなかったが、思いつかなかった私グッジョブ!


「だからこそ周りがどうにかしないといけない状況だったんだが」


おおっと、話が戻ってしまった。お兄様は責めるようにカイ達を見回す。だから止めてあげてよ! 皆まだ十歳なんだよ! 責任を負わすようなことしないで!!


「炎を消すにはどうするか、もちろん知っているよな? 誰が適任だったかも」

「……私だ。水属性の私がしないといけなかった」


ひえぇ、本当にもう止めてあげて! 大体カイのせいじゃないし!


「お兄様、殿下を責めるのはお門違いではなくって? 悪いのは魔法を使った人と、うまく立ち回れなかったわたくしですわ。本当に、もう止めてくださいませ」


なんかいつも冷静なお兄様らしくない気がする。いつもだったらお前が自分でどうにかしろって言いそうだもん。こうやって第三者を責めるなんてお兄様のすることじゃない。

切実にそう言うと、お兄様は面白くなさそうに私を見て言った。


「何かあって死ぬのはお前だ。私じゃない。それを分かっているのか」


分かってるよ。分かってるけど、だからって誰かに守ってもらうばかりじゃかっこ悪い。それも年下の男の子に。私はそのために剣も魔法も勉強してきたのだから。

私が口を開こうとすると、先にカイが言った。


「私は分かっていなかった。ヘンドリックに言われなかったら気付けなかった。すまない、エレナ」


ええ、皇子に頭を下げさせちゃったよ……。別に謝らなくてもいいんだけど。

深々と頭を下げられ、おろおろしていると、お兄様がカイに言う。


「守る力がないなら側にいるな。つまらん権力争いにエレナを巻き込むな。状況を考えろ」


権力争い、か。そうだよね。皆皇子の婚約者の席を狙ってるんだもんね。


「別に話しかけるなと言っているわけではない。ただ、あそこは城とは違う。エレナに限らない。クリスだってあそこでは伯爵令嬢として見られる。皇子が伯爵家の娘を特別扱いするな。それだけだ」


……うん、間違ったことは言っていない。でもほんっとに偉そう! 敬語もなくなって命令口調だし!


「分かった。学校ではエレナとクリスとは少し距離を置こう。ヘンドリック、感謝する」


話がまとまってしまった。最初から最後までお兄様の独擅場だった。私としては望む結果になったけど。


「エレナ、すまなかった。学校ではちゃんと立場を考えて振舞う。だからどうかこの城の中では今まで通りでいたい。許してくれるだろうか」


心なしかしょんぼりとしたカイが私を見てくる。そんな表情をされては嫌なんて言えない。


「ええ、もちろんですわ。ぜひ、今まで通りでいてくださいませ」


ほっと息をついたカイは十歳の笑顔で無邪気に笑った。……十分の一でいいので、この無邪気さをヘンドリックお兄様に分けてあげて欲しい。
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