池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
83 / 300

合格発表

しおりを挟む
そして合格発表の日。私は手に一通の手紙を握り締めていた。朝早くに届いたのだ。差出人は魔法学校だ。


「お姉さま、早く開けてくださいませ」


カミラが横から急かしてくる。いざ合格発表となると緊張して、なかなか中が見れない。試験の後はあんなに自信があったのに!

もし落ちてたらどうしよう。回答欄が一個ずつずれていたとかないよね? 問題文読み間違えていたとかないよね? なかなか中を見れない私にしびれを切らしたのか、私の正面に座っているお義母様がピシャリと言った。


「エレナ、もう合否は決まっているのです。早く開けなさい。開けられないならわたくしが開けて差し上げますわよ」

「いえ、ダメです! これはわたくしが自分で開けるのです!」


二人に急かされて、無理やり覚悟を決めると、えいやっと紙を封筒から抜いた。


「エレナ、結果は?」

「お姉さま、どうですの?」


二人が身を乗り出して聞いてくる。ドキドキしながらそれを読むと、合格という文字が見えた。

よっし! 受かった!


「合格ですわ!!」

「まあ! おめでとうございます!」

「おめでとう、エレナ」


心の底から嬉しさが込み上げて、表情が作れない。表情筋が痛いくらいの笑顔だ。だけどそれはお義母様もカミラもそうだった。

二人がこんなにも喜んでくれるとは思っていなくて、それがとても嬉しい。が、あまりゆっくりもしていられない。


「わたくし、お城に行って参りますわ!」


クリスも今頃家で合格発表を見ているだろう。そしてすぐに飛び出すに違いない。早く準備をしないと待たせてしまうことになる。


「気を付けて行ってらっしゃい」

「夕食はご馳走ですわ、お姉さま。早く帰ってきてくださいね」

「はい、ありがとうございます」


端に控えていたアリアと一緒にお義母様の部屋を出るが、やはりじわじわと嬉しさがこみあげてきて、顔がにやけてしまう。


「おめでとうございます、エレナ様。たった二年弱で魔法学校に合格されるとは驚きです」

「アリアのおかげよ。ありがとう、わたくしをエレナと呼んでくれて」


そもそもアリアが文字や作法から教えてくれたから今の私があるのだ。全てはアリアのおかげだ。


「学校へはついていけませんが、エレナ様ならきっと大丈夫です。このアリア、何かあったらいつでも参りますので」

「そうね、あとひと月しかないのよね。アリアがいないと寂しいわ」


いつだって隣にいたアリアが学校ではいないのだ。身の回りのことは普通にできるので困ることはないけど、分からないことがあったら何でも聞けていたアリアがいないのは困る。そして本当に寂しい。

愛玲奈の時でも寮生活はしたことがない。家族から離れるというのはとても心細い。


「クリスティーナ様がいらっしゃいますよ」

「そうね、クリスがいたら寂しさなんてどこかへ言ってしまいそうですわ」


にぎやかな学校生活になりそうだ。クリスが合格していれば。



「私合格したよ」


第一声はそれだった。馬車の中で向かい合って座る。そっか、クリスも合格したんだ。良かった。カイ達三人はゲーム内でもいたので心配していなかったが、ゲームに出てこなかったクリスはちょっと心配していたのだ。


「わたくしも合格ですわ」


私の言葉にクリスはとても嬉しそうに笑った。



いつもの部屋に入ると、もう既に皆集まっていた。フロレンツはいないけど、ヨハンとヘンドリックお兄様がいる。皆の顔を見るだけで合格したことは分かる。だって皆そわそわしてるし。

私たちが椅子に座ると、カイがいつもよりもトーンの明るい声で言った。


「合格発表の日だけど、皆どうだったかな?」


その言葉にレオンとマクシミリアンがすっと手紙を取り出した。


「合格だぜ」

「僕も合格」


うんうん、だよね。クリスも元気よく手を上げる。


「私も! カイもでしょ?」

「うん。エレナは?」


皆に注目されて、私も持って来ていた手紙を取り出した。そしてそれを開いて見せる。


「もちろん、合格ですわ」

「よっしゃあ! 皆合格!」


一番初めに反応したのはレオンだった。ちょっとびっくりしてその顔を見ると、「なんだ?」というような表情で見られた。いや、別に何でもないけど……なんだろう、レオンにそこまで好かれていた自信がないというか、レオンはカイが合格していたらいいって思っていそうだったから、そんな風に喜んでもらえるとは思っていなかったというか。

レオンと二人で話すことなんてそんなになくて、昔から仲の良かったカイ達だけを大事にしていそうだったから、その輪の中に私も入れてくれているのが嬉しかった。


「おい、それ見せろ」

「はい?」


嬉しさを噛みめている中での突然の言葉に、咄嗟に聞き返すと、お兄様は鋭く私を睨んだ。


「二度言わせるな」

「は、はい」


それってこの手紙だよね? 見たって別に何もないだろうに。まあ見たいって言うなら別にいいけど。立ち上がって渡そうと思うと、それよりも先にお兄様が身を乗り出して手を出した。おかげで私は全く動かず、そんなに手を伸ばすこともなく渡すことができる。

……基本的に女の子の扱いがうまいというか、スマートなんだよね。ちょっと強引なところはあるけど。なんというかエスコートが上手そう。婚約者がいないのがとても残念だ。性格さえ我慢したらすごく条件がいいのに。……その性格が一番大事なんだけどね。

なんて考えながらお兄様を見ていると、手紙をちらっと見たお兄様は満足そうに笑った。そしてそれをヨハンへと渡す。ヨハンも手紙を一瞥するとふっと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...