池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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初めてのパーティー

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慣れないふりっふりのドレスに高いヒール。綺麗に結い上げられた髪。そしてバッチリメイク。違和感がすごい自分の体で馬車に乗り込むと、「遅い」と冷たい声が聞こえた。

こけないように気を付けながら座ろうとすると、さりげなく手を貸してくれた。


「女の支度は長くて待てぬ」

「でしたらわざわざわたくしを連れて行かなくてもお一人で行けばよろしいのでは? ヘンドリックお兄様」

「それでは意味がない」


私が腰を下ろすと、馬車の扉が閉まり、ガタン、と動き出した。正面に座るお兄様はタキシードを着ている。……正直すごくかっこいい。これの隣に並ぶのか、と考えるととても頭が痛い。絶対女の人に睨まれるじゃん。


「ところでわたくし、パーティーは初めてなのですが」


お茶会なら何度か経験があるが、パーティーなんて一度も行ったことがない。イメージは愛玲奈の時に読んだ漫画や小説だ。


「私もだ」


はいぃ!? お兄様だけが頼みの綱なのに、お兄様も始めてなんて……どうするのよ!

急に不安が襲って来て、おろおろしていると、お兄様は呆れたようにため息をついた。


「卒業パーティーは社交の最初だ。未成年は社交界になど呼ばれぬ。年上の婚約者がいる者以外は皆初めてだから気にするな」

「そうなのですか」


それならよかった。ほっと息をつく。すると今度は髪型が気になってきた。アリアがしてくれたが、ダンスの時に崩れてしまわないかが不安。というかこんな高いヒールも初めて履いたし。こけたらどうしよう。変だって笑われたらどうしよう。こんなかっこいいお兄様の隣になんて並びたくない。

学校に着くまで私は馬車の中でそわそわと過ごした。



「着いたな」


馬車が止まり、先に降りるために立ち上がろうとすると、お兄様が先に立って馬車を降りた。ああ、そうか、今日はエスコートされないといけないんだ。

立ち上がると、扉の外にお兄様が立っていて、「どうぞ」と手を出してくる。いつもアリアにされていることだけど、とても緊張する。

いや、分かってるよ。相手はお兄様だもん。お兄様だけど私のお兄様ではないんだもん。もちろん兄だと認識はしているが、やはり本物の兄妹のような感じではない。だって中身は愛玲奈だし。それにしてもかっこよすぎるんだよ。

お兄様の手にそっと手を重ねて馬車を降りると、アリアも立っていた。


「ヘンドリック様、エレナ様、いってらっしゃいませ。何かありましたらいつでもお呼びください」


アリアが腰につけたベルを見る。私貰ってないよ。と視線だけで訴えると、アリアは表情を変えずにお兄様へと視線を向けた。ああ、お兄様が持っているのか。


「行くぞ」


お兄様の右腕に手を添えるとお兄様が歩き出す。私も背筋を伸ばして前だけを見て歩く。それにしても人が少ない気がする。他の馬車もあんまりなかったし。


「パーティーはホールである。あっちだ」


コツコツとヒールを鳴らせて歩くとなんだか気分がいい。が、いつもよりもゆっくりしか歩けない。もどかしさを覚えて必死に足を動かすと、お兄様がため息をついた。


「急ぐ必要はない。ゆっくり歩け」


確かにお兄様も私の速さに合わせてくれているのか、一度も腕が引っ張られることがない。


「わたくし何か気を付けないといけないことはございませんか?」

「余計なことさえ言わなければ何でもいい。好きに食え。好きに踊れ」


なるほど。できるだけお口チャックっと。微笑みを浮かべたまま少しの間歩くとお兄様が小さい声で「あそこだ」と教えてくれた。

突き当りの扉の前に執事さんらしき人が二人立っている。


「おかしいところはありませんか?」


立ち止まってそう聞くと、お兄様はため息をつきながらも上から下まで見てくれた。


「綺麗だ、自信を持て」


……なんか、緊張しすぎて幻聴が聞こえた。やばいやばい、深呼吸。すーはーすーはーと静かに深呼吸していると、お兄様は冷ややかな目で私を見て、冷ややかな声で言った。


「二度言わせる気か」


あ、あれ、幻聴じゃなかったか。なるほど、お兄様にも人の血が通っていたんだな。私はごまかすように笑みを浮かべて、お兄様の手を取った。


「ありがとうございます。お兄様もとてもかっこいいですわ」

「……ふん、行くぞ」


見上げると、耳が少し赤くなっている気がした。


ホールの中はとても明るかった。天井は高くてシャンデリアがいくつもついていて、そして広い。だけど思っていたよりも人は少なかった。

お兄様はすぐにすっと方向を変えて、迷いのない足取りで歩き出す。どこに行っているんだろうと思って前方を見ると、見覚えのある顔が見えた。


「クリスティーナ様」


近付いて名前を呼ぶと、クリスはパッと私を見て、満面の笑みを浮かべた。うわ、眩しい! 結構忘れがちだが、クリスはかわいい。それが着飾ると余計にかわいい。そして、タキシードを着たヨハンはすっごくかっこいい。

お兄様の腕から手を離し、クリスの方へ行くと、お兄様はヨハンの隣に立った。

はい、タキシードを着たイケメンが二人。眼福です。


「エレナ様。ドレス、とても似合ってますわね」

「クリスティーナ様もとてもかわいいですわ」


私がそう言うと、お兄様はふん、と鼻で笑った気がした。うん? 気のせいか?


「ヘンドリック様、なんですの?」


クリスがちょっととげのある声でお兄様を見上げる。が、お兄様は馬鹿にするような笑みをうかべたままだ。


「いや、別に。よく化けたなと思っただけだ。かわいいじゃないか。なあ、ヨハン」


かわいいと言いながらも明らかに馬鹿にしているのが分かる。

話を振られたヨハンは、はは、と笑う。おいおい、お兄ちゃんでしょ! もっとちゃんと妹を守ってあげてよ!


「それはありがとうございます。ヘンドリック様もとってもかっこいいですわよ」

「当たり前だ」


クリスの丁寧だけど刺々しい言葉にお兄様は鼻で笑って答える。何この二人、仲が良いの? 悪いの? お兄様がヨハンと話し始めると、クリスがひそひそと私に話しかけてくる。


「なんかヘンドリック様すごい機嫌よくない? 何かあったの?」

「知らないわ。わたくしが聞きたいくらいよ」


ヨハンと話しているヘンドリックお兄様を見るが、さっきまではそんなに機嫌がいいと言うほどではなかったと思う。というと、あれか? 私がかっこいいって言ったのが嬉しかったのか? なんてそんな可愛い一面があるわけないか。


「それにしても思ったよりも人が少ないのですわね」


一学年+その婚約者だとしたらもっといっぱいいるかと思っていたんだけど。私の言葉に返事をしたのはヨハンだった。


「これからだよ。ほら、見てごらん」


ヨハンが扉を指さして、そっちへと視線を向けた途端、ホール内に人が流れ込んできた。
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