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陛下の呼び出し
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どんどん人が流れ込んで来て、私はそれを呆然と見つめた。え、めっちゃ入ってくるじゃん。人の流れ止まらないじゃん。
「おい、何をしている。巻き込まれるぞ」
お兄様の声にハッとして隣へと移動すると、すっとすごくさりげなく手を取られて端へと歩かされる。……エスコート上手そうとは思ったけど、上手すぎでしょ。婚約者もいないどころか女の人を嫌いなのに。
「お兄様、女の人の扱いに慣れておられますが、どこの方と?」
あっという間にホールを埋め尽くした人達を見ながらそう尋ねると、「馬鹿か」と冷ややかな声が返って来た。
「授業でやっただけだ」
へえ、授業でやっただけでこんなにもできるんだ。ヨハンとクリスの方を見てみると、ヨハンもお兄様並みにエスコートが上手い。その辺のお兄様たちと同学年っぽい男の人なんてすごくぎこちないし、下手だし、女の人が不満そうだ。
攻略対象のヨハンはともかく、ヘンドリックお兄様がそれに並べるっていうのが本当にすごい。私といいお兄様といい、このゲームの設定はどうなっているんだろうか。
周りの女の人がちらちらと私の横に立つお兄様へ視線を向けているのが分かる。その中には婚約者のいない人もいるだろうけど、婚約者持ちの人も、誰かの婚約者もいるだろう。そして決まって隣に立つ私を見てとても残念そうな顔をするのだ。
カイのことを好きな子か、お兄様のことを好きな子にいつか刺されそうだ。
「それにしても、一学年の生徒とその婚約者でこんな広いホールが埋め尽くされるんですね。驚きましたわ」
「生徒と婚約者だけじゃない。生徒の就職先の人も招待される。お前も気になるところがあるなら話を聞きに行ってもいいぞ」
そう言われたって五年も先のことなんて考えられない。まだ入学すらしていないのに。首を横に振る私に、お兄様はそれ以上何も言わなかった。
たくさんの視線を受けながら、立っていると、ホール内がざわざわし始めた。
「なんでしょう?」
「陛下ですわ」
いつの間にか隣に立っていたクリスが教えてくれる。そっか、国立の学校の卒業パーティーだもんね。陛下がいたって別に不思議じゃない。
少しすると、ざわざわが消えて水を打ったように静まり返った。そして陛下の声が聞こえる。校長挨拶ならぬ皇帝挨拶か。あまり長いのは嫌だよ。陛下の言葉を右から左に聞き流していると、不意に肩が叩かれた。
ハッとしてお兄様を見上げる。お兄様は呆れた表情で私を見下ろしていた。
「行くぞ」
手を差し出されるが、それを取るのがちょっとためらわれる。……行くってどこに? 周りの様子を見てもまだ陛下の話が終わったわけではなさそうだ。だけどちょっとざわざわしているような気もする。
「陛下が呼んでるよ。エレナに魔法を見せてもらいたいんだって」
クリスが小さな声でとんでもないことを教えてくれた。私の魔法って……こんな大勢の前で使うの!? 目立ちまくりじゃん、やだよ。
「早く行くぞ。皇帝陛下が呼んでいるんだ」
「……クリスも一緒に行きましょう。魔法を使うのなら風魔法も欲しいわ」
「そうだね、そうしようか」
クリスは私の言葉にゲッと嫌な顔をしたが、ヨハンがにこやかに頷いた。そして私はお兄様の手を取る。お義母様に習った令嬢としての姿勢と笑み。気合を入れてそれを作る。それにしてもここから陛下のいる壇上までは人であふれかえってる。どうやって行くのだろうか。
そう思った時だった。
「道を開けろ」
陛下の声が響いて、目の前の人混みが左右二つに割れた。そして私たちの前に陛下の元へと通じる一本の道ができた。……ここを歩くのか。
クリスの笑顔が引きつっているのが分かる。うん、私も顔が引きつりそう。その点、ヘンドリックお兄様とヨハンはいつも通りだ。
お兄様と一緒に並んで歩く。こんなにも注目されたのは愛玲奈の時もエレナになってからもなかった。しっかりと礼儀作法を勉強していてよかった。お義母様、ありがとうございます。
心の中でお義母様に感謝をしていると、お兄様が前を見たまま私にしか聞こえないくらいの声量で「余裕だな」と呟いた。決して余裕ではない。でももうどうにでもなれって感じだ。
陛下の前へと着くと、いつも執務室やお茶会で会っている陛下とは雰囲気が違った。お兄様がそれとなく誘導してくれて、私はそこに膝をつく。お兄様とクリス、ヨハンが後ろに膝をついたのが分かった。
「ここにいる者たちにそなたの魔法を見てもらいたい。どうだ? 上に上がってやってくれるか?」
「はい、喜んで」
嫌です。ってはっきり言いたい。でもそんなこと言えるわけないもん。
「もう一人一緒に上がる許可をいただきたく存じます」
陛下は私の言葉で後ろにいるクリスをちらっと見ると、「うむ」と頷いた。すっと立ち上がると、すぐにお兄様が隣に来て、手を取ってくれる。エスコートされて壇上に上がると、お兄様とヨハンはすぐに横に避けた。
一緒にやってくれないんかい!! 魔法の上手い二人を当てにしていたのに……まあ失敗したら多分助けてくれるよね。
「おい、何をしている。巻き込まれるぞ」
お兄様の声にハッとして隣へと移動すると、すっとすごくさりげなく手を取られて端へと歩かされる。……エスコート上手そうとは思ったけど、上手すぎでしょ。婚約者もいないどころか女の人を嫌いなのに。
「お兄様、女の人の扱いに慣れておられますが、どこの方と?」
あっという間にホールを埋め尽くした人達を見ながらそう尋ねると、「馬鹿か」と冷ややかな声が返って来た。
「授業でやっただけだ」
へえ、授業でやっただけでこんなにもできるんだ。ヨハンとクリスの方を見てみると、ヨハンもお兄様並みにエスコートが上手い。その辺のお兄様たちと同学年っぽい男の人なんてすごくぎこちないし、下手だし、女の人が不満そうだ。
攻略対象のヨハンはともかく、ヘンドリックお兄様がそれに並べるっていうのが本当にすごい。私といいお兄様といい、このゲームの設定はどうなっているんだろうか。
周りの女の人がちらちらと私の横に立つお兄様へ視線を向けているのが分かる。その中には婚約者のいない人もいるだろうけど、婚約者持ちの人も、誰かの婚約者もいるだろう。そして決まって隣に立つ私を見てとても残念そうな顔をするのだ。
カイのことを好きな子か、お兄様のことを好きな子にいつか刺されそうだ。
「それにしても、一学年の生徒とその婚約者でこんな広いホールが埋め尽くされるんですね。驚きましたわ」
「生徒と婚約者だけじゃない。生徒の就職先の人も招待される。お前も気になるところがあるなら話を聞きに行ってもいいぞ」
そう言われたって五年も先のことなんて考えられない。まだ入学すらしていないのに。首を横に振る私に、お兄様はそれ以上何も言わなかった。
たくさんの視線を受けながら、立っていると、ホール内がざわざわし始めた。
「なんでしょう?」
「陛下ですわ」
いつの間にか隣に立っていたクリスが教えてくれる。そっか、国立の学校の卒業パーティーだもんね。陛下がいたって別に不思議じゃない。
少しすると、ざわざわが消えて水を打ったように静まり返った。そして陛下の声が聞こえる。校長挨拶ならぬ皇帝挨拶か。あまり長いのは嫌だよ。陛下の言葉を右から左に聞き流していると、不意に肩が叩かれた。
ハッとしてお兄様を見上げる。お兄様は呆れた表情で私を見下ろしていた。
「行くぞ」
手を差し出されるが、それを取るのがちょっとためらわれる。……行くってどこに? 周りの様子を見てもまだ陛下の話が終わったわけではなさそうだ。だけどちょっとざわざわしているような気もする。
「陛下が呼んでるよ。エレナに魔法を見せてもらいたいんだって」
クリスが小さな声でとんでもないことを教えてくれた。私の魔法って……こんな大勢の前で使うの!? 目立ちまくりじゃん、やだよ。
「早く行くぞ。皇帝陛下が呼んでいるんだ」
「……クリスも一緒に行きましょう。魔法を使うのなら風魔法も欲しいわ」
「そうだね、そうしようか」
クリスは私の言葉にゲッと嫌な顔をしたが、ヨハンがにこやかに頷いた。そして私はお兄様の手を取る。お義母様に習った令嬢としての姿勢と笑み。気合を入れてそれを作る。それにしてもここから陛下のいる壇上までは人であふれかえってる。どうやって行くのだろうか。
そう思った時だった。
「道を開けろ」
陛下の声が響いて、目の前の人混みが左右二つに割れた。そして私たちの前に陛下の元へと通じる一本の道ができた。……ここを歩くのか。
クリスの笑顔が引きつっているのが分かる。うん、私も顔が引きつりそう。その点、ヘンドリックお兄様とヨハンはいつも通りだ。
お兄様と一緒に並んで歩く。こんなにも注目されたのは愛玲奈の時もエレナになってからもなかった。しっかりと礼儀作法を勉強していてよかった。お義母様、ありがとうございます。
心の中でお義母様に感謝をしていると、お兄様が前を見たまま私にしか聞こえないくらいの声量で「余裕だな」と呟いた。決して余裕ではない。でももうどうにでもなれって感じだ。
陛下の前へと着くと、いつも執務室やお茶会で会っている陛下とは雰囲気が違った。お兄様がそれとなく誘導してくれて、私はそこに膝をつく。お兄様とクリス、ヨハンが後ろに膝をついたのが分かった。
「ここにいる者たちにそなたの魔法を見てもらいたい。どうだ? 上に上がってやってくれるか?」
「はい、喜んで」
嫌です。ってはっきり言いたい。でもそんなこと言えるわけないもん。
「もう一人一緒に上がる許可をいただきたく存じます」
陛下は私の言葉で後ろにいるクリスをちらっと見ると、「うむ」と頷いた。すっと立ち上がると、すぐにお兄様が隣に来て、手を取ってくれる。エスコートされて壇上に上がると、お兄様とヨハンはすぐに横に避けた。
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