池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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ヘンドリックお兄様の就職先

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今この状況で私に話しかけてくるのはお兄様を狙っていて、私のことを邪魔に思っている人である可能性が高い。臨戦態勢を取りながら、だけど微笑みを浮かべたまま、そちらに視線を向けた。


「ごきげんよう、エレナ様」

「まあ、マルゴット様! ごきげんよう。いらしていたのですか」


いつも魔法省で見る姿とは違いすぎて、一瞬分からなかったけど、そこにいたのはマルゴット様だった。きちんと着飾っていて、メイクをしているが、よく見ると魔法省の人には必ずある目の下の隈が見えた。

それにしてもお兄様を無視して私に話しかけるのはマナー違反なのではないだろうか。今日の主役はあくまでも卒業生で、同伴している私ではないのだから。

もしかして、魔法のことで頭がいっぱいでお兄様がいることに気が付いていないのだろうか。いや、でもそんなはずはないよね。


「ええ、長官不在のため、わたくしが代わりに参りましたの。それにしても先ほどの魔法は見事でしたわ」

「ありがとうございます。どういうものが喜ばれるのか分からなかったのですが、そうおっしゃって下さると嬉しいですわ。合格も頂けましたし」


ちらっとお兄様に視線をやると、マルゴット様はやはりお兄様に気が付いていなかったのか、ハッとして取り繕った笑顔を浮かべた。


「ごきげんよう、ヘンドリック。卒業おめでとうございます」


お兄様は気付かれていなかったことに気が付いているのか、呆れたようにため息をついた。


「ありがとうございます」

「これであなたが私のものになると思うと本当におめでたいですわね」


……うん? 今なんて言った? お兄様がマルゴット様のもの? 何、もしかしてお兄様の相手はマルゴット様!? しかもマルゴット様めっちゃ嬉しそうだし!

恐らくすごい表情になっていたのだろう。お兄様は私の顔を見ると、深いため息をついて、デコピンをした。


「いたっ!」

「誤解だ。先生が嬉しいのは私を好きに使うことができるからだ。私に興味があるわけではない。そうでしょう?」

「ええ、もちろん、魔法省の一員になるからにはしっかり働いてもらいますわ」

「魔法省の一員……?」


お兄様とマルゴット様の関係が誤解だったのは理解できたが、魔法省の一員とはなんだろうか。


「あら、ご存じなくって? ヘンドリックの就職先はうちでしてよ」


なんと……全く知らなかった。それで最近はよくお城でお兄様を見かけたのか。おお、そういえば一緒に魔法省にも行ったことがあるじゃん。

マルゴット様はくすくすと笑うと、「エレナ様もまたいらして下さいね」と言った。


「では、ヘンドリックとお話ししたい方がたくさんいるようなので、わたくしはここで。また会いましょう」


マルゴット様の言葉にちょっと周りを見てみると、それだけで話しかけたそうにしている女の子が数人いることが分かった。おぉ……。お兄様の小さな舌打ちが聞こえてくる。

マルゴット様が去ると次に話しかけてきたのは結構豪華なドレスを着た女の子だった。うん、普通にかわいい。女の子は私をちらちら気にしながらもお兄様に話しかける。

が、話が続かない。なにせお兄様の返事は「ああ」と「いや」と「そうだな」の三つだけだ。そこから話を広げようともせず、自分から話題を振ることもせず、相手の女の子が可哀そうになる。が、私が口を出すのもどうかと思われる。

ボーっと頑張る女の子の姿を眺めていると、突然「おい」と呼ばれた。ハッとしてお兄様を見上げる。会話はまだ終わった様子はない。


「今の話、お前はどう思う?」


今の話!? え、待って、全く聞いてなかったんだけど! 話を振るなら先に言っていてよ! 助けを求めてお兄様を見るが、何を考えているのか分からない。だけど少し機嫌がいいような気もする。

正直に言ってもいいのかな……でも適当な返事をしたってばれるよね。


「申し訳ありません、聞いておりませんでしたわ」

「だ、そうだ。うちの姫は退屈している。つまらん話はしないでいただきたい」


なんですとおぉぉぉ! ちょっと待ってよ! そんな言い方、私めっちゃ悪役じゃん! 相手の子泣きそうなんだけど! え、これ私が悪いの!? っていうかお兄様私が話聞いていないって分かってて話振ったでしょ! 退屈してたのはお兄様でしょ! 大体『うちの姫』って何よ!!

女の子は涙目で謝罪を述べると、早足で去って行ってしまった。あぁ、どうしよう、お兄様が女の子泣かせちゃった……あれ、この場合泣かせたのは私? いや、でもあの女の子最初っから私なんて視界にすら入れてなかったし、話聞いてなくても良いと思うじゃん? やっぱり悪いのはお兄様だよね? 誰かそうだと言って!

まわりにいた子たちは今の一部始終を見て、ひそひそと話をしている。ああ、お兄様の悪評が立ってしまう……。このままじゃ婚約者なんて絶対見つからないじゃん。そう思った時だった。どこかでわっと鳴き声が聞こえ、ホール内がざわざわなり始めた。

そこからかすかに私の名前が聞こえた気がした。

思わずお兄様を見上げると、お兄様は心底面倒臭そうな顔で「何をしたんだ」と言った。


「わたくしが何かをしたというのなら、恐らく半分以上はお兄様の責任ですわよ」


さっきの子の泣きそうな顔が浮かぶ。あの女の人かな。だとしたら悪いのは明らかに私達だろう。ため息を吐くと、クリスが近付いて来た。


「大丈夫?」

「できる兄を持っているはずなのだけれど、とても頭が痛いですわ」

「戻ってきたら一緒に美味しいものを食べましょう」


クリスの令嬢モードの笑顔を見て、少し励まされる。うん、仕方がない。謝って来よう。そして、美味しいものを食べるんだ!

手をすっと出して「エスコートしてください」と示してみる。口に出さなくても伝わったようで、お兄様は舌打ちをしたが、手を差し出してくれた。

嫌だけど、ほんっとに嫌だけど、私はお兄様と一緒にあの輪の中へと入った。
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