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騒動
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人をかき分けてそこに到達すると、ざっと人が避けてくれた。泣いているのは……あれ、さっきの人じゃないな。私全く知らないんだけど、この人。
だけどその人は私を見るとさらにひどく泣き出した。
「何があったのか説明してもらいたい」
ヘンドリックお兄様は泣いている女の子を前にしても、とても冷たい声を出す。この人に少しくらい優しさはないのだろうか。女の人は泣いてばかりで何も話さない。
ふと目についたのは、黄色いドレスに着いた赤色のシミだ。
「何があったのか、説明を」
お兄様がさっきよりも冷ややかな声を出す。顔を見なくてもイライラしているのが伝わってきた。そしてようやく話し出したのは、女の人の婚約者とみられる男の人だった。
「彼女が突然泣き出したのです。それが、その……エレナ様の魔法でドレスが汚れた、と」
彼は困った表情を浮かべてそれだけ言うと、女の子のドレスのシミに目を向けた。周りの人がざわざわとなり始めて、私を責めるような声も聞こえてきた。
……えっと、これは、なんていうのが正解なんだろう。
考えていると、ポン、と軽く背中を押された。お兄様を見上げると、面倒臭そうな、呆れたような、馬鹿にするような表情が浮かんでいて、私に丸投げしたことが分かった。
いや、あの、私まだ入学もしてないんだけど。生意気なことを言っても大丈夫なのか? 女の子の婚約者の方へ視線を向けると、彼は全て分かっているようで、私を非難するどころか、申し訳なさそうな顔をしている。
まあいいか。
「わたくしの魔法でドレスが汚れたとおっしゃいましたが、具体的なことをお聞きしてもよろしいですか?」
「……花びらが私のドレスについたのです。そしてそれがシミに……いえ、エレナ様は悪くありませんよね。わたくしが悪いのです。騒いでしまって申し訳ありません」
泣きながらそう言う女の子だが、全て計算済みなのは分かっている。自分を被害者にし、そして加害者である私を庇うことで周りの情を引こうとしているのだ。が、それならそれでいい。
「そうですわね。わたくしは悪くありません。それが分かっているのなら少しくらい騒いだところで構いませんわ。それでは」
よし、この件終わり! 後は頑張れ、婚約者さん。さっさと踵を返して戻ろうとすると、お兄様はくつくつと笑った。
「お前のそういうところが好きだ」
「それはありがとうございます」
今の私の態度の何かが気に入ったのか、お兄様の機嫌が目に見えてよくなった。すっと手を取られて歩き出すと、目の前に違う女の人が立った。鬼のような形相で私を睨んでいる。
「何よ、その態度は! 子爵家の彼女にはあのドレスを用意するのも大変だったのよ! 宰相の息子を婚約者に持つあなたには分からないかもしれないけど! ちょっとくらい誠意を見せたらどうなのよ!」
おおっと、やはり大きな誤解をされている。私達は兄妹であって婚約者じゃないんだって。だけど今はそれを否定するところではないだろう。
「誠意を見せてもらいたいのはこちらの方なのだが」
私が口を開く前にお兄様が言った。あーあ、怒っちゃったかな。たった今機嫌がよくなったところだったのに。
「こちらに非がないのに罵られ、謝罪を要求される。風評被害もいいところだ。これの魔法でドレスが汚れただと? お前たちは学校で何を学んだのだ。もう一度入学しなおしたほうがいいんじゃないか?」
はいはい、お兄様、私を婚約者だと思わせておきたいなら、「これ」なんて言わないでくださいよ。ギャラリーの一部からブーイングが起こる。心なしか、隣に立つお兄様から冷気が出ている気がする。
「お黙り下さいませ」
恐らく今私たちを敵視しているのはそう家格が高い家の人ではないだろう。家格の高い人はそれなりの教養を身につけているはずだ。実際、豪華なドレスやタキシードを着ている人たちは面白そうに今の状況を見ている。
つまり多少の無礼は許されるはずだ。お兄様の権限で。
「おい」
「はい?」
臨戦態勢をとり、口を開こうとしたところでお兄様の声が聞こえた。なんだろうとそちらを見ると、お兄様から物理的に冷気が出ていた。ぎょっとして一歩後ろに下がる。
「なんだこれは。お前の魔法だろう。すぐに解け」
「すみません、思わず……」
さっきのは気のせいじゃなかったのか。無意識に魔法を使っていたようだ。冷気はすぐに消えたが、辺りはひんやりとしたままだ。
まあいい、気を取り直して。
「わたくしの魔法でドレスが汚れるわけがありませんわ。そもそもわたくしは人に当たる前に消えるようにしておりましたもの。他にわたくしの魔法でドレスが汚れた方はいらっしゃいますの?」
誰も反応しない。ついでに赤い色水を出して私は自分のドレスへとパシャっとかけた。あちこちで驚くような声が聞こえる。が、私のドレスはシミが残るどころか、濡れてもいなかった。
「皆様ご存じの通り、魔法で作られたお水は実体をもちませんの。先ほど全て消してしまった私の魔法が今も残っているのはとてもおかしいと思いませんこと?」
そう言うと後から出てきた女の人が必死の形相で私を睨む。もういいって。だってほんとに私の魔法じゃないもん。私お腹空いたから早く何か食べたいんだよ。
だけどその人は私を見るとさらにひどく泣き出した。
「何があったのか説明してもらいたい」
ヘンドリックお兄様は泣いている女の子を前にしても、とても冷たい声を出す。この人に少しくらい優しさはないのだろうか。女の人は泣いてばかりで何も話さない。
ふと目についたのは、黄色いドレスに着いた赤色のシミだ。
「何があったのか、説明を」
お兄様がさっきよりも冷ややかな声を出す。顔を見なくてもイライラしているのが伝わってきた。そしてようやく話し出したのは、女の人の婚約者とみられる男の人だった。
「彼女が突然泣き出したのです。それが、その……エレナ様の魔法でドレスが汚れた、と」
彼は困った表情を浮かべてそれだけ言うと、女の子のドレスのシミに目を向けた。周りの人がざわざわとなり始めて、私を責めるような声も聞こえてきた。
……えっと、これは、なんていうのが正解なんだろう。
考えていると、ポン、と軽く背中を押された。お兄様を見上げると、面倒臭そうな、呆れたような、馬鹿にするような表情が浮かんでいて、私に丸投げしたことが分かった。
いや、あの、私まだ入学もしてないんだけど。生意気なことを言っても大丈夫なのか? 女の子の婚約者の方へ視線を向けると、彼は全て分かっているようで、私を非難するどころか、申し訳なさそうな顔をしている。
まあいいか。
「わたくしの魔法でドレスが汚れたとおっしゃいましたが、具体的なことをお聞きしてもよろしいですか?」
「……花びらが私のドレスについたのです。そしてそれがシミに……いえ、エレナ様は悪くありませんよね。わたくしが悪いのです。騒いでしまって申し訳ありません」
泣きながらそう言う女の子だが、全て計算済みなのは分かっている。自分を被害者にし、そして加害者である私を庇うことで周りの情を引こうとしているのだ。が、それならそれでいい。
「そうですわね。わたくしは悪くありません。それが分かっているのなら少しくらい騒いだところで構いませんわ。それでは」
よし、この件終わり! 後は頑張れ、婚約者さん。さっさと踵を返して戻ろうとすると、お兄様はくつくつと笑った。
「お前のそういうところが好きだ」
「それはありがとうございます」
今の私の態度の何かが気に入ったのか、お兄様の機嫌が目に見えてよくなった。すっと手を取られて歩き出すと、目の前に違う女の人が立った。鬼のような形相で私を睨んでいる。
「何よ、その態度は! 子爵家の彼女にはあのドレスを用意するのも大変だったのよ! 宰相の息子を婚約者に持つあなたには分からないかもしれないけど! ちょっとくらい誠意を見せたらどうなのよ!」
おおっと、やはり大きな誤解をされている。私達は兄妹であって婚約者じゃないんだって。だけど今はそれを否定するところではないだろう。
「誠意を見せてもらいたいのはこちらの方なのだが」
私が口を開く前にお兄様が言った。あーあ、怒っちゃったかな。たった今機嫌がよくなったところだったのに。
「こちらに非がないのに罵られ、謝罪を要求される。風評被害もいいところだ。これの魔法でドレスが汚れただと? お前たちは学校で何を学んだのだ。もう一度入学しなおしたほうがいいんじゃないか?」
はいはい、お兄様、私を婚約者だと思わせておきたいなら、「これ」なんて言わないでくださいよ。ギャラリーの一部からブーイングが起こる。心なしか、隣に立つお兄様から冷気が出ている気がする。
「お黙り下さいませ」
恐らく今私たちを敵視しているのはそう家格が高い家の人ではないだろう。家格の高い人はそれなりの教養を身につけているはずだ。実際、豪華なドレスやタキシードを着ている人たちは面白そうに今の状況を見ている。
つまり多少の無礼は許されるはずだ。お兄様の権限で。
「おい」
「はい?」
臨戦態勢をとり、口を開こうとしたところでお兄様の声が聞こえた。なんだろうとそちらを見ると、お兄様から物理的に冷気が出ていた。ぎょっとして一歩後ろに下がる。
「なんだこれは。お前の魔法だろう。すぐに解け」
「すみません、思わず……」
さっきのは気のせいじゃなかったのか。無意識に魔法を使っていたようだ。冷気はすぐに消えたが、辺りはひんやりとしたままだ。
まあいい、気を取り直して。
「わたくしの魔法でドレスが汚れるわけがありませんわ。そもそもわたくしは人に当たる前に消えるようにしておりましたもの。他にわたくしの魔法でドレスが汚れた方はいらっしゃいますの?」
誰も反応しない。ついでに赤い色水を出して私は自分のドレスへとパシャっとかけた。あちこちで驚くような声が聞こえる。が、私のドレスはシミが残るどころか、濡れてもいなかった。
「皆様ご存じの通り、魔法で作られたお水は実体をもちませんの。先ほど全て消してしまった私の魔法が今も残っているのはとてもおかしいと思いませんこと?」
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