池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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解決

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「あなたが消さなかったら残るでしょう!」


それはそうだよね。ちらっと泣いていた女の人の方を見ると、顔色が悪いように見えた。皆の前で嘘が暴かれるのだ。どうしてこんなことをしたのかは分からない。けど、見て見ぬふりをしてあげようと思った私の良心は踏みにじられたのだ。もうそんな心遣いなどできない。


「それでこちらに何の得がありますの?」


にっこりと笑ってそう言うと、「確かに」とどこかから聞こえた。だがまだ説得力には欠けるようだ。うーん、なんて言ったらいいんだろう。


「……先ほど皆の前で見せた魔法に今使った二つの魔法。それを維持するだけの魔力が残っていると思っているのか?」


おお、お兄様ナイス! それだ! もちろん、魔力はまだたくさん残っているけど。だけど結構説得力のある言葉だったのか、ギャラリーがそれで納得しているような雰囲気を出し始める。

「あんな小さい子がずっと魔法を保持するなんて無理だよな」「まだ学校にも入ってないんだろう」ざわざわした中からそう言った言葉がいくつも聞こえた。


「ええ、おっしゃる通り、わたくしもうほとんど魔力が残っておりませんの。ですが、」


小さな水球を赤いシミにかぶせ、シミごとドレスから抜く。これくらいはしてあげよう。もしかしたら私を陥れるために汚したのかもしれないからね。そうだとしたら敵意を持たれた私にも多少の責任はあるかもしれない。


「誠意とはこれでいいでしょうか? わたくしもう魔力が残っておりませんの。これ以上のことはできませんわ」


魔力がないということを強調して言うと、女の子はポカンとしている。そして後から出てきた人は悔しそうに私を睨んでいるが、もう何も言葉が出てこないようだ。


「戻るぞ」


今度こそこの件終わり! お兄様が差し出してくれた手にそっと手をのせるとお兄様は不満そうな顔をしていた。


「お前は優しすぎる」

「あら、誉め言葉ですの?」

「甘いと言っているのだ」

「二人でちょうど釣り合いが取れているのではなくて?」


いや、やっぱり釣り合いはとれていないかもしれない。お兄様のあの冷たさは私くらいの優しさだとまだまだ不足だ。

再び人混みをかき分けて元の場所に戻ると、クリスが「お疲れ様でした」と令嬢モードの笑顔で迎えてくれた。本当に疲れた。


「わたくしお腹がペコペコですの。クリスティーナ様と一緒に何か食べてきてもよろしいでしょうか?」


そうお兄様に聞くと、お兄様は少し周りを見回した後、ため息をついた。あれ、ダメなの?


「食事は私が取ってくる。お前はここで待っていろ。絶対にヨハンとクリスのそばを離れるな。余計なことは喋るな」

「は、はい」


私が返事をすると、お兄様は歩いて行ってしまった。クリスと顔を見合わせて首を傾げていると、ヨハンが近くに来た。


「良くも悪くも目立ちすぎたみたいだね」


うん? 私のこと? でも私が自分から何かしたわけじゃないよね?


「わたくしが悪く目立っているというなら、半分はお兄様のせいですわ」


いや本当に。だって私がしたのは陛下に頼まれて魔法を使ったことと、お兄様の隣に立っていたことだけだもん。そして次はヨハンの隣に立てと言われた。これで会場中の婚約者のいない女の子をほぼ全て敵に回したことだろう。ああ、もう帰りたい。


「ごきげんよう」


綺麗なドレスを着た女の人が一人近付いて来る。その視線は明らかに私の方を向いているのが分かった。お願いだからこれ以上私を巻き込まないで!

クリスの方へすすっと近付く。


「やあ」


するとヨハンが私の前へ出て、女の人に話しかけた。おかげで前にはヨハン、右にはクリス、後ろには壁と、三方が埋められた。それでもまだあちこちからの視線は感じる。

ヘンドリックお兄様、早く帰ってきて!

……うん? 待てよ、私が碌な目に遭ってないのってほとんどお兄様のせいだし、いない方がいいんじゃない? ヨハンだったら女の子を泣かせることもないし、上手に私から気をそらしてくれているし。

どうせ来るならヨハンと一緒に来たかった。


「クリス、お兄様とヨハン様、交換しませんこと?」


コソコソっとクリスに申し出てみると、クリスはものすごい顔で首を横に振った。そして小声で叫ぶ。


「絶対やだよ!」


ですよね……。


「お二人ともとても仲がよろしいのですね」


その声にハッとして顔を上げると、綺麗なおばさまが立っていた。ヨハンは、と思い目を向けると、いつの間にか女の子たちに囲まれていて、ちらっとその姿が見えるだけだ。

別にお兄様やヨハン狙いの人ではないだろうし、少し話すくらいだったらいいよね……? ぐるっと一周視線を向けて見てもお兄様の姿は見えない。後で怒られたら嫌だからね。一応確認だ。


「ヘンドリックなら先ほどあちらで女の子たちに囲まれておりましたわよ」

「まあ、そうだったのですか。どうりでお戻りになられないのですね」


これ以上お兄様が女の子たちを泣かせないことを祈るばかりだ。納得しているとおばさまはふふっと笑った。そして小さな声で言う。


「ヘンドリックもヨハンも、婚約者の一人や二人、早く見つけて欲しいものですわね」


お兄様たちのことをよく知っているのであろう、おばさまはそう言って笑った。いや、二人はいらないけどね。というか私たちが婚約者じゃないことを知っているんだ。


「わたくし、魔法学校の教師ですの。来月からはよろしくお願いしますね」

「まあ、先生でしたの!」


クリスと一緒に「よろしくお願い致します」と頭を下げると、おばさまはとても優しい目で私たちを見た。まるでお母さんのような目だ。まだ自分の生徒でもない私たちを心の底から大事に思ってくれている目。きっとお兄様もお世話になったのだろう。


「散れ、邪魔だ」


冷ややかな声が聞こえた。お兄様が帰って来たのか。


「あなたのナイト様が帰って来たわね。じゃあまた入学後に会いましょう」


おばさまはふふっと笑うと、私たちが返事をする前に人混みの中に紛れて見えなくなってしまった。
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