池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
91 / 300

解決

しおりを挟む
「あなたが消さなかったら残るでしょう!」


それはそうだよね。ちらっと泣いていた女の人の方を見ると、顔色が悪いように見えた。皆の前で嘘が暴かれるのだ。どうしてこんなことをしたのかは分からない。けど、見て見ぬふりをしてあげようと思った私の良心は踏みにじられたのだ。もうそんな心遣いなどできない。


「それでこちらに何の得がありますの?」


にっこりと笑ってそう言うと、「確かに」とどこかから聞こえた。だがまだ説得力には欠けるようだ。うーん、なんて言ったらいいんだろう。


「……先ほど皆の前で見せた魔法に今使った二つの魔法。それを維持するだけの魔力が残っていると思っているのか?」


おお、お兄様ナイス! それだ! もちろん、魔力はまだたくさん残っているけど。だけど結構説得力のある言葉だったのか、ギャラリーがそれで納得しているような雰囲気を出し始める。

「あんな小さい子がずっと魔法を保持するなんて無理だよな」「まだ学校にも入ってないんだろう」ざわざわした中からそう言った言葉がいくつも聞こえた。


「ええ、おっしゃる通り、わたくしもうほとんど魔力が残っておりませんの。ですが、」


小さな水球を赤いシミにかぶせ、シミごとドレスから抜く。これくらいはしてあげよう。もしかしたら私を陥れるために汚したのかもしれないからね。そうだとしたら敵意を持たれた私にも多少の責任はあるかもしれない。


「誠意とはこれでいいでしょうか? わたくしもう魔力が残っておりませんの。これ以上のことはできませんわ」


魔力がないということを強調して言うと、女の子はポカンとしている。そして後から出てきた人は悔しそうに私を睨んでいるが、もう何も言葉が出てこないようだ。


「戻るぞ」


今度こそこの件終わり! お兄様が差し出してくれた手にそっと手をのせるとお兄様は不満そうな顔をしていた。


「お前は優しすぎる」

「あら、誉め言葉ですの?」

「甘いと言っているのだ」

「二人でちょうど釣り合いが取れているのではなくて?」


いや、やっぱり釣り合いはとれていないかもしれない。お兄様のあの冷たさは私くらいの優しさだとまだまだ不足だ。

再び人混みをかき分けて元の場所に戻ると、クリスが「お疲れ様でした」と令嬢モードの笑顔で迎えてくれた。本当に疲れた。


「わたくしお腹がペコペコですの。クリスティーナ様と一緒に何か食べてきてもよろしいでしょうか?」


そうお兄様に聞くと、お兄様は少し周りを見回した後、ため息をついた。あれ、ダメなの?


「食事は私が取ってくる。お前はここで待っていろ。絶対にヨハンとクリスのそばを離れるな。余計なことは喋るな」

「は、はい」


私が返事をすると、お兄様は歩いて行ってしまった。クリスと顔を見合わせて首を傾げていると、ヨハンが近くに来た。


「良くも悪くも目立ちすぎたみたいだね」


うん? 私のこと? でも私が自分から何かしたわけじゃないよね?


「わたくしが悪く目立っているというなら、半分はお兄様のせいですわ」


いや本当に。だって私がしたのは陛下に頼まれて魔法を使ったことと、お兄様の隣に立っていたことだけだもん。そして次はヨハンの隣に立てと言われた。これで会場中の婚約者のいない女の子をほぼ全て敵に回したことだろう。ああ、もう帰りたい。


「ごきげんよう」


綺麗なドレスを着た女の人が一人近付いて来る。その視線は明らかに私の方を向いているのが分かった。お願いだからこれ以上私を巻き込まないで!

クリスの方へすすっと近付く。


「やあ」


するとヨハンが私の前へ出て、女の人に話しかけた。おかげで前にはヨハン、右にはクリス、後ろには壁と、三方が埋められた。それでもまだあちこちからの視線は感じる。

ヘンドリックお兄様、早く帰ってきて!

……うん? 待てよ、私が碌な目に遭ってないのってほとんどお兄様のせいだし、いない方がいいんじゃない? ヨハンだったら女の子を泣かせることもないし、上手に私から気をそらしてくれているし。

どうせ来るならヨハンと一緒に来たかった。


「クリス、お兄様とヨハン様、交換しませんこと?」


コソコソっとクリスに申し出てみると、クリスはものすごい顔で首を横に振った。そして小声で叫ぶ。


「絶対やだよ!」


ですよね……。


「お二人ともとても仲がよろしいのですね」


その声にハッとして顔を上げると、綺麗なおばさまが立っていた。ヨハンは、と思い目を向けると、いつの間にか女の子たちに囲まれていて、ちらっとその姿が見えるだけだ。

別にお兄様やヨハン狙いの人ではないだろうし、少し話すくらいだったらいいよね……? ぐるっと一周視線を向けて見てもお兄様の姿は見えない。後で怒られたら嫌だからね。一応確認だ。


「ヘンドリックなら先ほどあちらで女の子たちに囲まれておりましたわよ」

「まあ、そうだったのですか。どうりでお戻りになられないのですね」


これ以上お兄様が女の子たちを泣かせないことを祈るばかりだ。納得しているとおばさまはふふっと笑った。そして小さな声で言う。


「ヘンドリックもヨハンも、婚約者の一人や二人、早く見つけて欲しいものですわね」


お兄様たちのことをよく知っているのであろう、おばさまはそう言って笑った。いや、二人はいらないけどね。というか私たちが婚約者じゃないことを知っているんだ。


「わたくし、魔法学校の教師ですの。来月からはよろしくお願いしますね」

「まあ、先生でしたの!」


クリスと一緒に「よろしくお願い致します」と頭を下げると、おばさまはとても優しい目で私たちを見た。まるでお母さんのような目だ。まだ自分の生徒でもない私たちを心の底から大事に思ってくれている目。きっとお兄様もお世話になったのだろう。


「散れ、邪魔だ」


冷ややかな声が聞こえた。お兄様が帰って来たのか。


「あなたのナイト様が帰って来たわね。じゃあまた入学後に会いましょう」


おばさまはふふっと笑うと、私たちが返事をする前に人混みの中に紛れて見えなくなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...