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ダンス
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「ヘンドリック様、わたくしもうお腹が空いて倒れてしまいそうですわよ」
クリスの声にハッとして、慌てて視線をお兄様に向ける。他の人と勝手に話したと知られたら怒られるかもしれない。
お兄様は両手にお皿を一つずつ持っていて、それを私とクリスに手渡してくれた。ちなみにお兄様に散らされた可哀そうな女の子たちは遠巻きにこちらを見ている。
「ありがとうございます。遅かったですね」
「これでも急いだほうだ」
私の言葉を文句だと受け取ったのか、お兄様は不満そうな顔でそう言った。うん、機嫌が悪い。
「また女の人を泣かせたのではありませんよね?」
「私が泣かせたことは一度もない。あっちが勝手に泣くだけだ」
……そうですか。これだから女心が分からない人は。そりゃあんな態度取られたら泣きたくもなるよ。ほんっとうにいい加減にしてほしい。そう思いながらも料理を口に運ぶ。うん、美味しい。
「……泣かないのはお前だけだ」
お兄様の小さな呟きはざわめきの中でも不思議とはっきりと聞き取れた。私泣いてないっけ? そうだとしても多分何回も泣きそうになってると思うんだけど。
「慣れているだけですわ」
にこにこ機嫌良さそうに食べているクリスを眺める。あそこにも泣かない女の子はいるけどね。
寄ってくる女の子達をお兄様と、主にヨハンがさばいているその後ろで、私はクリスと並んでご飯を食べる。パーティーというだけあって、とてもおしゃれだ。そして味がいい。
ちょうどお皿の中が空になる頃、どこからか静かな音楽が流れた。ああ、ダンスの時間か。ホールの真ん中がざざっと空いて、とても豪華なドレスを着た男女が踊り出す。確か身分の高い人から順々に入って行くんだよね。じゃああれは公爵家の人かな?
考えていると、私の手の中から空になったお皿が取られた。顔を上に上げるとヨハンがにっこりと笑っていた。
「ありがとうございます」
ヨハンはそのまま私とクリスの分のお皿を片付けに行ってくれる。
「あああ、ダンスかぁ……」
横からクリスの沈んだ声が聞こえてきた。ヨハンのエスコート相手に決まった時といい、クリスは何をそんなに嫌がっているのだろうか。一緒に練習したけど別にダンスがすごく下手ということもなかったのに。
私はダンス結構好きなんだけどな。楽しくて。
「エレナ、行くぞ」
「はい」
いつの間にか戻って来ていたヨハンもクリスの手を取る。私たちは四人で皆が踊っている輪の中へと飛び込んだ。
こうやってたくさんの人の中で踊るのは初めてだ。そしていつも練習相手はカイやレオン、マクシミリアンだったので、目線の高さも大体同じだった。だけどお兄様は違う。視線は顔を上げないと会わない。それに慣れない身長差に違和感を覚える。
だけど不思議と踊りにくさはなかった。まるでヘンドリックお兄様の手の上で転がされているような感じで、くるくると体が動いた。
楽しい! すっごい楽しい! 練習の時とは比べ物にならない。相手が上手いと、本物の雰囲気の中だとこんなに楽しいんだ!
テンションが抑えきれなくて、令嬢らしい笑みが浮かべられない。ああ、お兄様に怒られるかもしれない……でもまあいっか!
私は気分のままに踊る。表情を作ることなんてもうどうでもよかった。心なしかヘンドリックお兄様の表情も柔らかい気がする。気のせいかもしれないけど。
楽しんで踊っていると、後ろから手を差し出されて反射的にその手を取った。すぐにくるんと回される。
「ヨハン様!」
「エレナちゃんがあまりに楽しそうに踊っていたから交代したくなっちゃった」
なんて笑うヨハン。ヘンドリックお兄様の方を見ると、不満そうな顔でクリスと踊っていた。クリスはぎょっとした表情を浮かべながらも少し楽しそうに見える。
……まあいいか。今度はヨハンと踊る。ヘンドリックお兄様はとても自然に私を躍らせてくれたが、ヨハンはどこまでも丁寧で優しかった。……うん、ダンスって結構性格が出るんだな。いや別にヘンドリックお兄様のダンスが冷たいとかそういうわけではないけど。
いやー、楽しい。さっきまではどうなることかと思ってたけど意外と来てよかったかもしれない。少しするとまた後ろから手が差し出された。お兄様かな、と何も考えずにそれに手を伸ばす。だけどその手に届く前にヨハンがさりげなく私を回し、遠ざけた。
「確認もしないで男の手をとるのはよくないよ」
改めて見てみると全く知らない男の人だった。おお、間違えちゃった。ヨハンの向こうでヘンドリックお兄様が呆れた表情をしているのが分かった。いやー、だってね、ほら……はい、言い訳が思いつきません。
「はい、ヘンドリックのところへお帰り」
手を離され、勢いのまま私はふわっとお兄様の方へと進む。うわー、私の体なのに私の意志で動いてない。エスコートってすごい。と呑気なことを考えていると、ヘンドリックお兄様が私の方へとクリスを押した。
……はい!? ぶつかるって! ちょっと何してんの、お兄様!
慌てた表情のクリスが押された勢いで私の方へと突っ込んでくる。自然と手が出ていた。クリスの手を掴み、そしてその勢いのままくるんと場所が入れ替わった。気が付くと私はヘンドリックお兄様の元に。
「見事だ」
いやいやいや、「見事だ」じゃないよ! 結構本気で焦ったんだけど!? そんな私をよそに、ヘンドリックお兄様は機嫌良さそうな表情だ。一度冷やされた頭はなかなか熱くならない。残りは冷静になって踊ることができた。
クリスの声にハッとして、慌てて視線をお兄様に向ける。他の人と勝手に話したと知られたら怒られるかもしれない。
お兄様は両手にお皿を一つずつ持っていて、それを私とクリスに手渡してくれた。ちなみにお兄様に散らされた可哀そうな女の子たちは遠巻きにこちらを見ている。
「ありがとうございます。遅かったですね」
「これでも急いだほうだ」
私の言葉を文句だと受け取ったのか、お兄様は不満そうな顔でそう言った。うん、機嫌が悪い。
「また女の人を泣かせたのではありませんよね?」
「私が泣かせたことは一度もない。あっちが勝手に泣くだけだ」
……そうですか。これだから女心が分からない人は。そりゃあんな態度取られたら泣きたくもなるよ。ほんっとうにいい加減にしてほしい。そう思いながらも料理を口に運ぶ。うん、美味しい。
「……泣かないのはお前だけだ」
お兄様の小さな呟きはざわめきの中でも不思議とはっきりと聞き取れた。私泣いてないっけ? そうだとしても多分何回も泣きそうになってると思うんだけど。
「慣れているだけですわ」
にこにこ機嫌良さそうに食べているクリスを眺める。あそこにも泣かない女の子はいるけどね。
寄ってくる女の子達をお兄様と、主にヨハンがさばいているその後ろで、私はクリスと並んでご飯を食べる。パーティーというだけあって、とてもおしゃれだ。そして味がいい。
ちょうどお皿の中が空になる頃、どこからか静かな音楽が流れた。ああ、ダンスの時間か。ホールの真ん中がざざっと空いて、とても豪華なドレスを着た男女が踊り出す。確か身分の高い人から順々に入って行くんだよね。じゃああれは公爵家の人かな?
考えていると、私の手の中から空になったお皿が取られた。顔を上に上げるとヨハンがにっこりと笑っていた。
「ありがとうございます」
ヨハンはそのまま私とクリスの分のお皿を片付けに行ってくれる。
「あああ、ダンスかぁ……」
横からクリスの沈んだ声が聞こえてきた。ヨハンのエスコート相手に決まった時といい、クリスは何をそんなに嫌がっているのだろうか。一緒に練習したけど別にダンスがすごく下手ということもなかったのに。
私はダンス結構好きなんだけどな。楽しくて。
「エレナ、行くぞ」
「はい」
いつの間にか戻って来ていたヨハンもクリスの手を取る。私たちは四人で皆が踊っている輪の中へと飛び込んだ。
こうやってたくさんの人の中で踊るのは初めてだ。そしていつも練習相手はカイやレオン、マクシミリアンだったので、目線の高さも大体同じだった。だけどお兄様は違う。視線は顔を上げないと会わない。それに慣れない身長差に違和感を覚える。
だけど不思議と踊りにくさはなかった。まるでヘンドリックお兄様の手の上で転がされているような感じで、くるくると体が動いた。
楽しい! すっごい楽しい! 練習の時とは比べ物にならない。相手が上手いと、本物の雰囲気の中だとこんなに楽しいんだ!
テンションが抑えきれなくて、令嬢らしい笑みが浮かべられない。ああ、お兄様に怒られるかもしれない……でもまあいっか!
私は気分のままに踊る。表情を作ることなんてもうどうでもよかった。心なしかヘンドリックお兄様の表情も柔らかい気がする。気のせいかもしれないけど。
楽しんで踊っていると、後ろから手を差し出されて反射的にその手を取った。すぐにくるんと回される。
「ヨハン様!」
「エレナちゃんがあまりに楽しそうに踊っていたから交代したくなっちゃった」
なんて笑うヨハン。ヘンドリックお兄様の方を見ると、不満そうな顔でクリスと踊っていた。クリスはぎょっとした表情を浮かべながらも少し楽しそうに見える。
……まあいいか。今度はヨハンと踊る。ヘンドリックお兄様はとても自然に私を躍らせてくれたが、ヨハンはどこまでも丁寧で優しかった。……うん、ダンスって結構性格が出るんだな。いや別にヘンドリックお兄様のダンスが冷たいとかそういうわけではないけど。
いやー、楽しい。さっきまではどうなることかと思ってたけど意外と来てよかったかもしれない。少しするとまた後ろから手が差し出された。お兄様かな、と何も考えずにそれに手を伸ばす。だけどその手に届く前にヨハンがさりげなく私を回し、遠ざけた。
「確認もしないで男の手をとるのはよくないよ」
改めて見てみると全く知らない男の人だった。おお、間違えちゃった。ヨハンの向こうでヘンドリックお兄様が呆れた表情をしているのが分かった。いやー、だってね、ほら……はい、言い訳が思いつきません。
「はい、ヘンドリックのところへお帰り」
手を離され、勢いのまま私はふわっとお兄様の方へと進む。うわー、私の体なのに私の意志で動いてない。エスコートってすごい。と呑気なことを考えていると、ヘンドリックお兄様が私の方へとクリスを押した。
……はい!? ぶつかるって! ちょっと何してんの、お兄様!
慌てた表情のクリスが押された勢いで私の方へと突っ込んでくる。自然と手が出ていた。クリスの手を掴み、そしてその勢いのままくるんと場所が入れ替わった。気が付くと私はヘンドリックお兄様の元に。
「見事だ」
いやいやいや、「見事だ」じゃないよ! 結構本気で焦ったんだけど!? そんな私をよそに、ヘンドリックお兄様は機嫌良さそうな表情だ。一度冷やされた頭はなかなか熱くならない。残りは冷静になって踊ることができた。
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