池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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初めての授業

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「少し早いけど行こうか。ここにいてもすることないもんね」


皆が食堂に集まるであろう時間よりも早く食事を終わらせた私たちは、早めに寮を出た。時間は七時半。授業が始まるまでまだあと一時間もある。適当に学校の敷地内をぶらぶら歩いていると、訓練場でクルトお兄様の姿を見つけた。クルトお兄様も私に気が付いたのか、振っていた木剣を止めて手を上げてくれる。


「おはよう、エレナ」

「おはようございます。朝からお稽古ですの?」


訓練場に近付いて改めて見て見ると、クルトお兄様だけでなく、他にも人がいた。皆木剣を持っているが、もう終わるのか、片付けの雰囲気だ。


「ああ、騎士科の皆じゃないけど、やる気のある人は毎朝こうやって集まっているんだ」


へえ、朝からお稽古か。すごいな。なんて感心していると、クルトお兄様の後ろから女子生徒が顔を出した。


「クルトの妹よね? ヘンドリック様との試合見ましたわ。すごいですわね」

「あ、ありがとうございます。だけどわたくしなんてまだまだですわ」


綺麗というよりは可愛らしい顔立ちの、明るい女の子。お兄様を呼び捨てにするくらいは親しいのだろう。


「来年は騎士科に来ますの? ぜひ来てくださいませ!」


お、おう……ぐいぐい来るなこの人。その勢いにちょっとたじろいでいると横からクリスが口をはさんだ。


「まだ決まっていないとおっしゃっておられましたわよね? エレナ様」

「ええ、そうですの。お父様とお話してから決めようと思っておりますわ」


とりあえずこの勢いのまま頷いてしまわないように気を付けてそう言うが、エミリア様はそんなことでは引かなかった。


「じゃあこの朝のお稽古だけでも来られませんか? エレナ様はお強いので皆歓迎しますわ」

「エミリア、あまりエレナに無理を言わないでくれ。ほら、早く行かないと遅刻するよ」


半ば無理やりにクルトお兄様がエミリア様を追い払う。だけどその追い払い方がヘンドリックお兄様と比べるととても優しい。これが普通なんだろうけど、なんだか感動してしまった。これが普通なんだろうけど!


「すまない、エレナ。エミリアは少し押しが強いところがあってね。悪い子ではないんだけど……」

「ええ、分かっております。気にしないでくださいませ」


私が頷くとお兄様は安心したように微笑んだ。ああ、この普通さ! クルトお兄様の近くにいるととても安心する。……周りが変わった人達ばっかりなんだもん。


「ところでお兄様、騎士科を選ぶかは分かりませんが、朝のお稽古はぜひご一緒したいのですが、どうでしょうか?」


押しは強いエミリア様だったけど、いい提案をしてくれた。これまで毎日剣の訓練をしていた身としてはここでの訓練を止めるのはちょっともったいない気がする。ヘンドリックお兄様が教えてくれた身体強化ももっと練習したいし。


「うん、エレナがいいならぜひ一緒にしよう。六時からだよ。起きられるかい?」

「ええ、わたくしが起きられなくてもクリスが起こしてくれますわ。ね?」


微笑んでクリスへと視線を向けると、クリスはぎょっとした顔をした。あれ、一緒にお稽古しないの? お城では一緒にしてたからてっきりここでも一緒にするのかと思っていた。


「あら、わたくし勝手にクリスも一緒にお稽古するのかと思っておりましたわ。ごめんなさい、無理強いはしないわ」


私がしたくてすることにクリスを巻き込むわけないは行かない。慌ててそう言うと、クリスも慌てて手を振った。


「違うよ、私も剣のお稽古は一緒にするよ。だけど起きるのは自分で起きて欲しいな」


クリスの言葉にクルトお兄様がはは、と笑った。いやまあそうだけどね。だって目覚まし時計ないんだもん。ヘンドリックお兄様に相談してみようかな。

……いや、やっぱりヨハンにしよう。ヘンドリックお兄様に言ったら絶対に馬鹿にされる。「お前は朝も起きれないのか」と。


「ああ、僕もそろそろ準備をしないと遅刻してしまう。じゃあまた明日ね」

「はい、また明日」


そう言うと、クルトお兄様は木剣を手に寮の方向へと歩いて行ったので、私たちも訓練場を離れて再び歩き出した。



「皆さんご存じの通り、来年以降は魔法科、文官科、騎士科にそれぞれ分かれていただきます」


授業が始まる鐘とともに入って来た先生は開口一番にそう言った。あ、あの先生卒業パーティ―の時に話しかけてきた先生だ。こうやってここに立ってるってことは担任の先生なのかな?


「その為に一年生は主に全ての科目の基礎を勉強します。これから五年間、教師は変わりません。紹介しましょう」


その言葉と同時に扉が開き、二人入って来た。そのうちの一人はヨハンだ。ヨハンは私とクリスの姿を見て、ふっと微笑んだ。おお、知ってはいたけど本当に先生だ……。


「ではまず魔法科担当のヨハン・クレヴィング先生。彼は去年の卒業生ですが、その知識量は目を見張るものがあります。若いからと言って馬鹿にしては痛い目を見ますよ」


ヨハンはそれを聞いて、困ったように笑った。その笑顔にクラスの何人が心をときめかせたか。ちらっとクリスを見ると、クリスははあ、とため息をついた。


「ノイナー先生、買いかぶりすぎですよ」


あの先生、ノイナー先生って言うんだ。ヘンドリックお兄様たちの先生って言っていたから、卒業生を受け持っていた先生が次の一年生、って感じでいくのかな?


「次に騎士科のニコラウス・ブレッカー先生」


ああ、いかにもって感じ。だって筋肉すごいもん。めっちゃがたいがいいもん。


「五年間よろしく。俺の授業は厳しいからな。振り落とされるなよ!」


うっわ、めっちゃ声でかい……。なんか、すごい熱血って感じ。こういう先生は愛玲奈の時から苦手だ。できるだけ関わりたくない。


「最後にわたくし、文官科のアンナ・ノイナーです。学校生活で困ったことがあったらわたくし達に言ってください。昨日も聞いたかもしれませんが授業は強制ではありません。魔法学校は生徒の自主性を重んじます。ただ、学校生活の態度があまりにひどいようでしたら、退学処分が下されるので気を付けてください」


へえ、そこはやっぱり普通の学校と一緒なんだ。って言ったって退学なんてよっぽどのことがないとされないだろうけど。


「さて、では授業を始めましょう」


その一言でヨハンとブレッカー先生が一冊ずつ本を配って回る。そしてそれが終わると教室から出て行った。ヨハンは私たちの机へ来た時に小さな声で「頑張って」と言ってくれた。が、それが他の人に睨まれる原因になることをそろそろ気付いて欲しい。

私たちは刺々しい視線を無視して授業を受けた。ちなみに授業内容はもうすでにお城で勉強したところだった。
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