池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
96 / 300

寮生活

しおりを挟む
目を覚まして知らない布団に包まれていることに気が付いた。なんか、いつもと空気が違う気がする……。寝ぼけた頭でそう考えて、思い出した。

そうだ、昨日から寮に入ったんだ。アリアはいないんだから全部自分でやらないと。まだあまり目が覚めない状態でベッドから出ると、寝着のままのクリスが笑顔で私を見た。


「おはよう、エレナ。よく眠れた?」


おう、朝から眩しい。おかげで目が少し覚めた気がする。


「ええ、ぐっすりよ。クリスは?」

「私もぐっすり!」


時計を見ると、まだ五時半だった。授業は八時半から。移動の時間を考えても八時に寮を出ると十分間に合う。となると朝ごはんは七時くらいで……クリスは早起きなんだな。正直もう少し寝ていたかった。一人だったら絶対に二度寝していた。


「シャワーを浴びてもいいかしら?」

「うん、どうぞ。私は後ででいいから」


お言葉に甘えて部屋に付いているシャワーへと向かう。ああ、着替え持って行かないと。いつもだったらアリアが準備してくれるので忘れてしまいそうだ。


「ねえ、クリスのシャンプー使ってみたいのだけど、いいかしら?」

「もちろん。私もエレナの使わせてもらおうかな」

「ええ、ぜひ使ってみてちょうだい」


お風呂場へ入ると、全て二セット用意されている。クリスのシャンプーを手に出してみると、クリスの爽やかな香りがした。ああ、いい匂い。私が使っているシャンプーは甘めの香りだ。嫌いじゃないけど、ずっとクリスの香りもうらやましかったのだ。

あー、シャワー気持ちいい。一人って楽……! エレナになってから昨日初めて一人でお風呂に入った。アリアがいないのはちょっと違和感があったけど、だけど誰の目も気にせずにお風呂でゆっくりできるのはとても嬉しい。他の子にとったらどうなのか分からないけど、私にとっては寮って結構いいところかもしれない。

……昨日の晩御飯の時の皆の姿を思い出す。食事は一人分だけが盛られたものだった。愛玲奈時代でいう定食みたいな。給仕もつかなければ、机まで運ぶのも自分で。全て皆にとってははじめてのことだったのだろう。思ったよりも皆狼狽えていた。だけど私からしてみれば、エレナになる前はそれが普通だったのでなんてことはない。クリスと一緒に食べれるし。

寮って最高……!

シャワーが終わり、魔法で全身の水滴を拭き取る。髪が含んでいる水分も水魔法で全て取り除いてしまうと、まるでシャワーを浴びる前のようになった。いやー、魔法って便利だね。


「お先でしたわ。クリスもどうぞ」


制服を着て浴室から出ると、クリスは「はーい」と言って浴室へと入って行った。……ん? 今手ぶらじゃなかった?


「クリス! 待って! 着替え持ったの!?」

「忘れてたー」


慌ててそう言った私へクリスの呑気な声が返って来て、すぐに戻って来た。えへへ、と笑うクリス。思わずため息をついてしまった。


「昨日も同じことしていたでしょう」

「うん、一人って慣れないね」


ああ、こう見えてクリスも根っからの令嬢だ。一人でご飯は食べれるけど、一人でお風呂に入ったことはなかったのだろう。

椅子に座って机の上に置かれた本をぱらぱらとめくる。部屋に用意された本はもう読んだことのあるものばかりだ。学校だから図書館だってあるよね。今日行ってみようかな。

少ししてクリスが浴室から出てきた。


「エレナ―、乾かしてー……」

「ええ、……っ」


クリスの声に振り向いたぎょっとした。もう制服を着ているクリス。だけど決して外に出れる格好ではなかった。


「昨日も言ったけど、タオルで拭かないといけないのよ。分かるかしら?」

「うん、拭いたんだけどね。おかしいな」


拭いていたらそんなびしょびしょのままでいられないって。髪から水はぼたぼた落ちているわ、綺麗なはずの制服は既にびっしょりだわ。

呆れてものが言えないとはこういうことなのか。もしかして、ヘンドリックお兄様って私といる時常にこういう気持ちってこと!? それは申し訳ないことをしてしまったかもしれない。


「悪いけど、一番早い方法を使うわ。目を閉じて息を止めて」


ぎゅっと顔に力が入るのを確認して、私は魔法の水ですっぽりとクリスを覆う。そして自分にした時と同じように必要のない水分を全て抜き去って、魔法の水と一緒に消した。


「ありがとう」


クリスって何でもできるイメージがあった。困ることなんてないと思っていた。呆れたけど、ちょっと新鮮でいいかもしれない。というか、ほとんどの子がこうなるのかもしれない。寮に入る前に家で練習なんてしないのかな。


「エレナはすごいね。一人で何でもできて」

「……そうね」


なんと答えていいか分からずに曖昧に頷いておく。だってまさか元々令嬢じゃありませんでした、なんて言えない。


「苦手なことは補い合ったらいいわ。わたくしにできないことをクリスはできるでしょう? クリスにできないことをわたくしがするわ」


クリスにできなくて私にできることなんて、たかが知れているけど。魔法と一人で色々できることくらいかもしれない。


「そうだね」


月並みな言葉しか出なかったけど、私の言葉は、私が思った以上にクリスに響いたようで、クリスはそれはそれは眩しい笑顔を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

処理中です...