池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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寮生活

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目を覚まして知らない布団に包まれていることに気が付いた。なんか、いつもと空気が違う気がする……。寝ぼけた頭でそう考えて、思い出した。

そうだ、昨日から寮に入ったんだ。アリアはいないんだから全部自分でやらないと。まだあまり目が覚めない状態でベッドから出ると、寝着のままのクリスが笑顔で私を見た。


「おはよう、エレナ。よく眠れた?」


おう、朝から眩しい。おかげで目が少し覚めた気がする。


「ええ、ぐっすりよ。クリスは?」

「私もぐっすり!」


時計を見ると、まだ五時半だった。授業は八時半から。移動の時間を考えても八時に寮を出ると十分間に合う。となると朝ごはんは七時くらいで……クリスは早起きなんだな。正直もう少し寝ていたかった。一人だったら絶対に二度寝していた。


「シャワーを浴びてもいいかしら?」

「うん、どうぞ。私は後ででいいから」


お言葉に甘えて部屋に付いているシャワーへと向かう。ああ、着替え持って行かないと。いつもだったらアリアが準備してくれるので忘れてしまいそうだ。


「ねえ、クリスのシャンプー使ってみたいのだけど、いいかしら?」

「もちろん。私もエレナの使わせてもらおうかな」

「ええ、ぜひ使ってみてちょうだい」


お風呂場へ入ると、全て二セット用意されている。クリスのシャンプーを手に出してみると、クリスの爽やかな香りがした。ああ、いい匂い。私が使っているシャンプーは甘めの香りだ。嫌いじゃないけど、ずっとクリスの香りもうらやましかったのだ。

あー、シャワー気持ちいい。一人って楽……! エレナになってから昨日初めて一人でお風呂に入った。アリアがいないのはちょっと違和感があったけど、だけど誰の目も気にせずにお風呂でゆっくりできるのはとても嬉しい。他の子にとったらどうなのか分からないけど、私にとっては寮って結構いいところかもしれない。

……昨日の晩御飯の時の皆の姿を思い出す。食事は一人分だけが盛られたものだった。愛玲奈時代でいう定食みたいな。給仕もつかなければ、机まで運ぶのも自分で。全て皆にとってははじめてのことだったのだろう。思ったよりも皆狼狽えていた。だけど私からしてみれば、エレナになる前はそれが普通だったのでなんてことはない。クリスと一緒に食べれるし。

寮って最高……!

シャワーが終わり、魔法で全身の水滴を拭き取る。髪が含んでいる水分も水魔法で全て取り除いてしまうと、まるでシャワーを浴びる前のようになった。いやー、魔法って便利だね。


「お先でしたわ。クリスもどうぞ」


制服を着て浴室から出ると、クリスは「はーい」と言って浴室へと入って行った。……ん? 今手ぶらじゃなかった?


「クリス! 待って! 着替え持ったの!?」

「忘れてたー」


慌ててそう言った私へクリスの呑気な声が返って来て、すぐに戻って来た。えへへ、と笑うクリス。思わずため息をついてしまった。


「昨日も同じことしていたでしょう」

「うん、一人って慣れないね」


ああ、こう見えてクリスも根っからの令嬢だ。一人でご飯は食べれるけど、一人でお風呂に入ったことはなかったのだろう。

椅子に座って机の上に置かれた本をぱらぱらとめくる。部屋に用意された本はもう読んだことのあるものばかりだ。学校だから図書館だってあるよね。今日行ってみようかな。

少ししてクリスが浴室から出てきた。


「エレナ―、乾かしてー……」

「ええ、……っ」


クリスの声に振り向いたぎょっとした。もう制服を着ているクリス。だけど決して外に出れる格好ではなかった。


「昨日も言ったけど、タオルで拭かないといけないのよ。分かるかしら?」

「うん、拭いたんだけどね。おかしいな」


拭いていたらそんなびしょびしょのままでいられないって。髪から水はぼたぼた落ちているわ、綺麗なはずの制服は既にびっしょりだわ。

呆れてものが言えないとはこういうことなのか。もしかして、ヘンドリックお兄様って私といる時常にこういう気持ちってこと!? それは申し訳ないことをしてしまったかもしれない。


「悪いけど、一番早い方法を使うわ。目を閉じて息を止めて」


ぎゅっと顔に力が入るのを確認して、私は魔法の水ですっぽりとクリスを覆う。そして自分にした時と同じように必要のない水分を全て抜き去って、魔法の水と一緒に消した。


「ありがとう」


クリスって何でもできるイメージがあった。困ることなんてないと思っていた。呆れたけど、ちょっと新鮮でいいかもしれない。というか、ほとんどの子がこうなるのかもしれない。寮に入る前に家で練習なんてしないのかな。


「エレナはすごいね。一人で何でもできて」

「……そうね」


なんと答えていいか分からずに曖昧に頷いておく。だってまさか元々令嬢じゃありませんでした、なんて言えない。


「苦手なことは補い合ったらいいわ。わたくしにできないことをクリスはできるでしょう? クリスにできないことをわたくしがするわ」


クリスにできなくて私にできることなんて、たかが知れているけど。魔法と一人で色々できることくらいかもしれない。


「そうだね」


月並みな言葉しか出なかったけど、私の言葉は、私が思った以上にクリスに響いたようで、クリスはそれはそれは眩しい笑顔を見せた。
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