池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
102 / 300

お弁当

しおりを挟む
最後まで読み切った私はパタンと音を立てて本を閉じた。それに反応してクリスが動く気配がする。驚くようなことは書いてあった。だけど思ったよりも収穫は少ない。


「どうだった?」

「そうね……」


要約すると、魔法についてかなり詳しく書かれた本だ。私の知らないことは闇属性のことだけだった。光属性があるのだから闇属性もあってもおかしくはない。ただゲームには登場しなかっただけだ。

そして闇属性にできること。これは大体イメージ通り。人を呪う、操る、毒を作る、そして一番興味深いのは別の空間を作り出せること。文字通り、新たに空間を作り出せる。使いようによってはとても使える魔法だ。


「おそらく作者は全属性な上に闇属性が使えたんじゃないかと思うの」


光属性は伝説として、おとぎ話として残っていた。しかし闇属性なんてものは聞いたこともない。そんな属性のことを詳しく書くことができる理由なんて本人が使えるから以外に思い浮かばない。さらに、本にはもちろん光属性のことも書いてあったが、詳しい事なんて何も書いていなかった。私が皆に聞いた話くらいだ。

私の話を静かに聞いていたクリスは、首を傾げて本を眺めた。


「でもさ、これって何のための本なんだろう」


そう、そこだ。私も気になっていた。


「普通の魔法の本と違うところって闇属性について書かれてるってとこだよね。もしこれを誰にも知られたくないのなら普通本にして学校になんて置かないよね?」

「ええ、わざわざ読むための条件を設けるところも訳が分からないわね。誰にも読ませる気がないじゃない。読んでもらいたいのか読ませたくないのか分からないわ」


学校に置いたということは誰かに読んで欲しいということ。だけど全属性持ちの魔力強化できる人がいったい何人いるというのか。矛盾している。

私はため息を一つ落として椅子から立ち上がった。


「これではまるで内容どうのというよりも、読める人を探しているようね」


全属性持ちの魔力強化が可能な人。それをあぶりだすための本。だけどその理由が分からない。


「そうだね。とりあえずエレナは読めないふりをしていた方が良いんじゃない? 先にこれの作者を突き止めようよ」

「ええ、そうしましょう」


面倒ごとはごめんだ。まだゲームも始まっていないというのに。ようやく子供らしく学校生活を送れると思ったのに。


「とりあえず今日はもう寝ましょう。この本は明日図書室へ返すわ。その時にベルメール先生に探りを入れてみましょう」


明らかに何かを知っているベルメール先生。先生が敵なのか味方なのかをまず見極めないといけない。……別に敵も味方もないかもしれないけど。

時計はもう既に十時を指している。いい子は寝る時間だ。クリスは頷いてベッドへと入る。私はそれを確認すると明かりを消す魔法陣へと触れた。

真っ暗な中でベッドへと入り、布団をかぶる。闇の魔法。光の魔法の真逆の存在。簡単に人を殺すことのできる属性。もしこれが世の中に知れ渡ったら、もしこれを持つのが悪い人だったら、きっとこの世界は簡単になくなってしまうんだろうなと思う。

少なくとも私の知らない、私が憧れたファンタジー世界ではなくなってしまう。それだけは本当に嫌だ。面倒ごとは避けたい。だけど放っておくことはできない。ヒロインが編入してくるまであと三年。それまでにできるだけのことはしたいと思った。ただのモブに徹する為に。とりあえず、本の作者を探すことと、ヘンドリックお兄様とヨハンへの協力要請だ。



翌日の目覚めはあまり良くなかった。ぐっすり眠れていない感じ。まだ寝足りない。だけど無理やり体を動かしてベッドから出ると、自分で思っていたよりも動けそうだった。とりあえず食堂のキッチンを借りてお弁当作りっと。

食堂のおばちゃんには昨日交渉してオッケーを貰っている。部屋の外に出るために身支度を整えていると、クリスがもぞもぞと動く気配がした。

時間はまだ五時。あと三十分は寝かせておいてあげたい。できるだけ物音を立てないようにこそこそと部屋を出て廊下を歩く。もちろんまだ誰も起きていないようで、人の気配は全くない。


「おはようございます」


食堂へと入ると、もう既におばちゃん達が朝ごはんの支度をはじめていた。


「おはよう、エレナちゃん。早起きだね」

「ええ、六時から剣の訓練へ行いますので。じゃあこの隅をお借りしてもいいでしょうか?」

「うん、食材は好きに使ってもらっていいからね」


お礼を言って冷蔵庫を開けてみる。エレナになってから料理される前の食材を見たのは数えるほどしかない。だけど見た限り私の知らない食べ物はなさそうだ。

うん、これなら大丈夫そう。あまり高くない私の料理スキルでもお弁当は完成しそうだ。

卵焼きと、唐揚げと、ウインナーと……あとはお弁当の定番って言ったら何だろう。ああ、きんぴらごぼう? でもごぼうがないな。ポテトサラダにしよう。あとはなんと言ってもおにぎり!

はっきり言うと私は和食に飢えていた。この世界に来てからというもの、食事は洋食ばかり。お米はあるけどいつもピラフとかパエリアになって出てくる。お醤油もあるのに和食にはならない。もちろん美味しいし、おしゃれでバリエーションも豊富だけど、それでも日本人としては和食が食べたい。

さっさと作って魔法で作っておいたわっぱのお弁当箱に詰めていく。二人分だから簡単。それに汚れ物を洗うのに水魔法を使うと一瞬で終わるので超楽!

お弁当はあっという間にできあがり、私はお礼を言って食堂を出た。……おばちゃん達すごい私の方見てたな。やっぱり見たことない料理だからだよね。今度時間のある時にでも教えてあげようかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...