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不思議な本
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夜、寮の部屋で私は椅子に座って例の本と向き合っていた。ヨハンにも読めなかったこの本。多分ヘンドリックお兄様にも読めなかったのだろう。
貸出の時のベルメール先生の言葉が頭の中に響く。
『この本は少し特別なの。だから本当は貸し出しはひと月だけなのだけど、汚したり破ったりしない限りは持っていてもらっても構いません。もちろん、卒業までには返していただきますが。もし読むことができたら教えてくださいませ。わたくしはこの本を読める方をずっと待っているのです』
ベルメール先生はこの不思議な本について何かを知っている。ヨハンも知らないような何かを。読む方法までは知らないかもしれないけど。
深いため息が落ちた。正直すごく悩む。この本が何を書いているのかは知らない。だけど誰にでも読めるわけではないということはしょうもないことが書いてあるわけがない。
あーあ、こんなファンタジー感の溢れる本読みたくないわけがないよ。……うん、読もう! ファンタジー大好きな私としてはこのお宝を手放すわけにはいかない。
魔法に関してはヘンドリックお兄様とヨハン。剣に関してはクルトお兄様。権力に関してはカイ。そしているだけで心強いクリス。幸い、結構強い味方が私の周りにはいる。何が書いてあったってどーんとこい! だよ!
最初にこの本を見つけた時のように魔力を目に集中して表紙を見る。するとやはり光る文字が浮かび上がって来た。
えーと、何々……『魔法について』。
ページを一枚めくる。
『この本は全属性を持つ者にしか読めないよう仕掛けがしてある。また、魔力強化によるものでしか文字は浮かび上がらない。いつかこの本を読むことのできるものが現れると信じている』
……なるほど。そういうことか。だからヨハンにもお兄様にも読めないんだ。っていうか、つまりこの本を書いた人は全属性持っていたってこと? そうじゃなかったとしても詳しいってことよね。いつ書かれた本なんだろう。まだ新しそうだけど。
そんなことを気にしながらも私はページをめくる。前書き以降、書き並べられていたのは、どの属性でどんな魔法が使えるか、だった。細かく詳しく書かれてあり、私はそれを頭に叩き込む。水魔法しか使えない私が人前で他の属性を使うわけにはいかない。
今まではなんとなく直感で水魔法っぽいものを選んで使ってきたが、これで間違える心配はなさそうだ。どこの誰だか知らないけどありがとう!
……それにしてもそんなにすごい内容ではないな。これほど詳しく書かれた本は他にないかもしれない。だけどそんなにびっくりするような内容ではない。
その時、ガラッと浴室へのドアが開いて、クリスが出てきた。
「あー、気持ちよかったぁ」
本を閉じて魔力強化を解く。そして振り返ると、クリスはタオルで髪を拭きながら歩いていた。
……ほんっとうに令嬢らしくないな、この子。まるでエレナになる前の私のようだ。この世界の令嬢は濡れた髪で歩き回らないし、歩きながら身支度を整えるなんてあり得ない。
「……」
何も言葉が出ず、無言でクリスへと温風を吹かせる。クリスは「ありがとう」と嬉しそうに言うと、立ち止まって静かに温風に当たっている。
ちらっと机の上に置かれた本に視線を移す。それに気が付いたのか、クリスが近寄ってきて、本をめくる。大体髪が乾いたのを確認して私は温風を止めた。
「これ読めたの? 兄様にも読めなかったんだよね」
ぱらぱらと真っ白なページを眺めてクリスは何気なく聞いた。なんと答えるべきか。正直に読めたと言ってもいいのか。少し迷って、私は頷く代わりに言った。
「全属性を持っていて、魔力強化できることが条件みたいね。だからヨハン様には読めなかったのだわ」
クリスは私が読めたことに驚きはしなかった。代わりに「あはは」と笑う。
「全属性ってだけでもいるわけないのに、更に魔力強化って……エレナがいなかったらきっとこの本永遠に読まれることなかったんじゃない?」
「やっぱり魔力強化って普通にできることじゃないのね?」
改めて確認はしたことがなかった。でもなんとなく知っていた。だって騎士団の人も騎士団長も、誰もしているところを見たことがなかったから。こんなものが使えるとなったらきっと皆こぞって使っているだろう。
「すごい集中力と魔力量が必要だからね。百年に一人できるかできないかくらいだって兄様が言っていたよ」
「……自分で言うけど、すごい兄妹なのね」
本当にどういうことだ。ヘンドリックお兄様ができて私もできるってクルトお兄様もやってみたらできるんじゃない? と思ったが、ヘンドリックお兄様が以前言ってたことを思い出した。曰く、『クルトは魔法の才能はからっきしだが、剣の才能は目を見張るものがある』と。
このゲームを作った人って、絶対うちの兄妹三人をひいきしてるでしょ。今愛玲奈として暮らしているエレナがその辺りのことを詳しく調べてくれないかな。なんて。
「とりあえず全部読んでしまうわ。内容はその後に教えるわね」
「うん。じゃあ私はあっちで静かにしているよ」
え、クリスが静かに!? と内心すごく驚いたが、確かに静かにしていてくれるとありがたい。私は何も言わずに再び本へと向き直った。
貸出の時のベルメール先生の言葉が頭の中に響く。
『この本は少し特別なの。だから本当は貸し出しはひと月だけなのだけど、汚したり破ったりしない限りは持っていてもらっても構いません。もちろん、卒業までには返していただきますが。もし読むことができたら教えてくださいませ。わたくしはこの本を読める方をずっと待っているのです』
ベルメール先生はこの不思議な本について何かを知っている。ヨハンも知らないような何かを。読む方法までは知らないかもしれないけど。
深いため息が落ちた。正直すごく悩む。この本が何を書いているのかは知らない。だけど誰にでも読めるわけではないということはしょうもないことが書いてあるわけがない。
あーあ、こんなファンタジー感の溢れる本読みたくないわけがないよ。……うん、読もう! ファンタジー大好きな私としてはこのお宝を手放すわけにはいかない。
魔法に関してはヘンドリックお兄様とヨハン。剣に関してはクルトお兄様。権力に関してはカイ。そしているだけで心強いクリス。幸い、結構強い味方が私の周りにはいる。何が書いてあったってどーんとこい! だよ!
最初にこの本を見つけた時のように魔力を目に集中して表紙を見る。するとやはり光る文字が浮かび上がって来た。
えーと、何々……『魔法について』。
ページを一枚めくる。
『この本は全属性を持つ者にしか読めないよう仕掛けがしてある。また、魔力強化によるものでしか文字は浮かび上がらない。いつかこの本を読むことのできるものが現れると信じている』
……なるほど。そういうことか。だからヨハンにもお兄様にも読めないんだ。っていうか、つまりこの本を書いた人は全属性持っていたってこと? そうじゃなかったとしても詳しいってことよね。いつ書かれた本なんだろう。まだ新しそうだけど。
そんなことを気にしながらも私はページをめくる。前書き以降、書き並べられていたのは、どの属性でどんな魔法が使えるか、だった。細かく詳しく書かれてあり、私はそれを頭に叩き込む。水魔法しか使えない私が人前で他の属性を使うわけにはいかない。
今まではなんとなく直感で水魔法っぽいものを選んで使ってきたが、これで間違える心配はなさそうだ。どこの誰だか知らないけどありがとう!
……それにしてもそんなにすごい内容ではないな。これほど詳しく書かれた本は他にないかもしれない。だけどそんなにびっくりするような内容ではない。
その時、ガラッと浴室へのドアが開いて、クリスが出てきた。
「あー、気持ちよかったぁ」
本を閉じて魔力強化を解く。そして振り返ると、クリスはタオルで髪を拭きながら歩いていた。
……ほんっとうに令嬢らしくないな、この子。まるでエレナになる前の私のようだ。この世界の令嬢は濡れた髪で歩き回らないし、歩きながら身支度を整えるなんてあり得ない。
「……」
何も言葉が出ず、無言でクリスへと温風を吹かせる。クリスは「ありがとう」と嬉しそうに言うと、立ち止まって静かに温風に当たっている。
ちらっと机の上に置かれた本に視線を移す。それに気が付いたのか、クリスが近寄ってきて、本をめくる。大体髪が乾いたのを確認して私は温風を止めた。
「これ読めたの? 兄様にも読めなかったんだよね」
ぱらぱらと真っ白なページを眺めてクリスは何気なく聞いた。なんと答えるべきか。正直に読めたと言ってもいいのか。少し迷って、私は頷く代わりに言った。
「全属性を持っていて、魔力強化できることが条件みたいね。だからヨハン様には読めなかったのだわ」
クリスは私が読めたことに驚きはしなかった。代わりに「あはは」と笑う。
「全属性ってだけでもいるわけないのに、更に魔力強化って……エレナがいなかったらきっとこの本永遠に読まれることなかったんじゃない?」
「やっぱり魔力強化って普通にできることじゃないのね?」
改めて確認はしたことがなかった。でもなんとなく知っていた。だって騎士団の人も騎士団長も、誰もしているところを見たことがなかったから。こんなものが使えるとなったらきっと皆こぞって使っているだろう。
「すごい集中力と魔力量が必要だからね。百年に一人できるかできないかくらいだって兄様が言っていたよ」
「……自分で言うけど、すごい兄妹なのね」
本当にどういうことだ。ヘンドリックお兄様ができて私もできるってクルトお兄様もやってみたらできるんじゃない? と思ったが、ヘンドリックお兄様が以前言ってたことを思い出した。曰く、『クルトは魔法の才能はからっきしだが、剣の才能は目を見張るものがある』と。
このゲームを作った人って、絶対うちの兄妹三人をひいきしてるでしょ。今愛玲奈として暮らしているエレナがその辺りのことを詳しく調べてくれないかな。なんて。
「とりあえず全部読んでしまうわ。内容はその後に教えるわね」
「うん。じゃあ私はあっちで静かにしているよ」
え、クリスが静かに!? と内心すごく驚いたが、確かに静かにしていてくれるとありがたい。私は何も言わずに再び本へと向き直った。
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