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本の秘密
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「兄様」
魔法の授業が終わると同時にクリスが立ち上がってヨハンを呼び止めた。既にこの教室内ではクリスはヨハンの妹だということが知られているので誰も注目はしていない。が、これが私となると話は違う。
私がヨハンに話しかけて近寄ろうものならクラスの一部の女子からの刺々しい視線がとんでくる。もちろんそれは私に限ったことではない。彼女たちは妹以外の女が大好きなヨハンに近付くことが許せないらしいのだ。
……この視線の中でヨハンを攻略するって、ヒロインすごいな。まあ私はヨハンルートは攻略していないんだけど。いや、ヨハンルートどころではない。誰一人として攻略していない。カイルートですらも結局最後までできていないのだ。
世界観とキャラクターにドはまりしてその辺りは詳しく知っているけど、ストーリーに関することやネタバレになりそうなことは避けていた。つまり、私のゲームの知識は、この世界で生きていくうえで皆無と言ってもいいほどのことだった。
クリスとヨハンが話しているのを椅子に座ったまま眺める。クリスは放課後に本を返しに行くのでヨハンにもついてきてもらいたいという打診をしに行ってくれたのだ。ボーっとしていると、クリスがヨハンとの話を終えて戻って来た。そして椅子に座ってにこっと笑う。
「了解していただきましたわ。兄様もあの本に関してはやはり気になるようですので」
「それはよかったわ。ありがとう、クリス」
カイがちらちらとこちらを気にしているのが分かる。が、無視。カイにはまず他の子たちと普通に話すくらいは仲良くなって欲しい。入学してまだ数日。カイに自分から話しかける勇気のある子はまだいない。しかもカイの横には常にレオンとベアトリクスがいる。
うんざりしている二人の顔をこの数日で何度も見た。
……カイから他の子に話しかけてみればいいのに。他の男の子と仲良くなったら流石にベアトリクスも今までみたいにべったりということはないだろうし。
「次の授業はノイナー先生ですわね」
「ええ」
文官科基礎の教科書を引出しから出し、私はクリスと話をしながらノイナー先生を待った。ちなみに私もカイのことは言えない。クリス以外の友達、未だゼロ人。中身女子高生の私は新たな友達の作り方などとっくに忘れてしまっていた。
放課後、三人で図書室へと入ると、ベルメール先生はカウンターに座って本のお手入れをしていた。すぐに手を止めて私たちの方へと顔を向けてくれる。
「こんにちは、皆さん。もしかしてもう本の返却に?」
「ええ、さっぱり読めませんでしたの。ずっと持っていても読める気がしませんわ」
私の言葉にベルメール先生は残念そうに「そうめすか」と頷いた。ちなみにこの本が読めたことはまだヨハンにも言っていない。ただこの本について詳しく知りたいからついてきて欲しいとお願いしただけで。だけどもしかしたらなんとなく気が付いているのかもしれない。
「ベルメール先生、この本は一体何なんですか? そろそろ教えてくれてもいいでしょう?」
ヨハンが爽やかな笑みを浮かべてそう言う。その言葉から、何度もベルメール先生に探りを入れてきたことと、何も教えてもらえなかったことが分かった。
ベルメール先生は静かに首を振る。
「いいえ、この本に関しては何も話してはいけないと約束をしているのです」
約束? ベルメール先生が誰と? 思いつくのはこの本を書いた人。だけどこの本はそんなに最近書かれた本なのか。確かに綺麗で新しそうではあるけど……。とはいえ最近全属性を持つ人がいたとするなら、きっと噂になるはず。それすらないってことは……えっと、つまり、どういうこと?
真剣に考えていたが、急に集中力が切れて考える気も起きなくなった。……お腹が空いた。
「ベルメール先生はこの本の読み方を知っているのです?」
クリスが首を傾げて聞く。それに対し、ベルメール先生は「いいえ」と首を横に振った。
「ではこの本に何が書かれているかは?」
「知りません」
ヨハンとクリスと顔を見合わせる。私達の思っている以上にベルメール先生は何も知らないのかもしれない。読み方くらいは知っていると思っていた。
「では、ベルメール先生が知っているのはこの本を書いたのが誰かということだけなのですね?」
そう聞きながらも答えてくれないかもしれないと思っていた。
ベルメール先生が頷けばその約束は作者としたものだと考えられるだろう。そしてベルメール先生にそれ以上の手掛かりはない。もちろん誰が書いたかも教えてくれないだろうし。
ベルメール先生が否定すればこの本に関わっている人は、作者と、ベルメール先生と約束をした人の最低二人だ。そしてこの場合もベルメール先生にそれ以上の手掛かりはない。
ちょっと待って、詰んだ。どっちにしろ何も分からずじまいじゃん。この質問何の意味もないじゃん。
「ええ、わたくしが言われたのは、この本を読める者が現れたら教えて欲しいと、それだけですわ」
「この本が実際に何も書かれておらず、読む方法などないという可能性は?」
ヨハンが聞く。が、その答えを私とクリスは既に知っていた。ベルメール先生は静かに首を振る。
「あの方はそのような方ではございません」
だよね、だって私読めたし。
さて、そろそろ移動しよう。残念ながらベルメール先生からは何も聞きだせない。
「ありがとうございました。この本の返却なのですが、魔法陣から魔力を抜いたらいいのですね?」
「ええ」
ベルメール先生が頷いたのを確認して、私は魔法陣にこもっている自分の魔力を回収する。
「ヨハン様、お願いできますか?」
「うん」
私の手から本が飛んでいく。今頃本棚へと向かっているだろう。これで返却完了。
「お邪魔しました。また本を借りに来ます」
ヨハンの言葉と同時にベルメール先生に頭を下げると、ベルメール先生は「お待ちしています」と頷いた。
魔法の授業が終わると同時にクリスが立ち上がってヨハンを呼び止めた。既にこの教室内ではクリスはヨハンの妹だということが知られているので誰も注目はしていない。が、これが私となると話は違う。
私がヨハンに話しかけて近寄ろうものならクラスの一部の女子からの刺々しい視線がとんでくる。もちろんそれは私に限ったことではない。彼女たちは妹以外の女が大好きなヨハンに近付くことが許せないらしいのだ。
……この視線の中でヨハンを攻略するって、ヒロインすごいな。まあ私はヨハンルートは攻略していないんだけど。いや、ヨハンルートどころではない。誰一人として攻略していない。カイルートですらも結局最後までできていないのだ。
世界観とキャラクターにドはまりしてその辺りは詳しく知っているけど、ストーリーに関することやネタバレになりそうなことは避けていた。つまり、私のゲームの知識は、この世界で生きていくうえで皆無と言ってもいいほどのことだった。
クリスとヨハンが話しているのを椅子に座ったまま眺める。クリスは放課後に本を返しに行くのでヨハンにもついてきてもらいたいという打診をしに行ってくれたのだ。ボーっとしていると、クリスがヨハンとの話を終えて戻って来た。そして椅子に座ってにこっと笑う。
「了解していただきましたわ。兄様もあの本に関してはやはり気になるようですので」
「それはよかったわ。ありがとう、クリス」
カイがちらちらとこちらを気にしているのが分かる。が、無視。カイにはまず他の子たちと普通に話すくらいは仲良くなって欲しい。入学してまだ数日。カイに自分から話しかける勇気のある子はまだいない。しかもカイの横には常にレオンとベアトリクスがいる。
うんざりしている二人の顔をこの数日で何度も見た。
……カイから他の子に話しかけてみればいいのに。他の男の子と仲良くなったら流石にベアトリクスも今までみたいにべったりということはないだろうし。
「次の授業はノイナー先生ですわね」
「ええ」
文官科基礎の教科書を引出しから出し、私はクリスと話をしながらノイナー先生を待った。ちなみに私もカイのことは言えない。クリス以外の友達、未だゼロ人。中身女子高生の私は新たな友達の作り方などとっくに忘れてしまっていた。
放課後、三人で図書室へと入ると、ベルメール先生はカウンターに座って本のお手入れをしていた。すぐに手を止めて私たちの方へと顔を向けてくれる。
「こんにちは、皆さん。もしかしてもう本の返却に?」
「ええ、さっぱり読めませんでしたの。ずっと持っていても読める気がしませんわ」
私の言葉にベルメール先生は残念そうに「そうめすか」と頷いた。ちなみにこの本が読めたことはまだヨハンにも言っていない。ただこの本について詳しく知りたいからついてきて欲しいとお願いしただけで。だけどもしかしたらなんとなく気が付いているのかもしれない。
「ベルメール先生、この本は一体何なんですか? そろそろ教えてくれてもいいでしょう?」
ヨハンが爽やかな笑みを浮かべてそう言う。その言葉から、何度もベルメール先生に探りを入れてきたことと、何も教えてもらえなかったことが分かった。
ベルメール先生は静かに首を振る。
「いいえ、この本に関しては何も話してはいけないと約束をしているのです」
約束? ベルメール先生が誰と? 思いつくのはこの本を書いた人。だけどこの本はそんなに最近書かれた本なのか。確かに綺麗で新しそうではあるけど……。とはいえ最近全属性を持つ人がいたとするなら、きっと噂になるはず。それすらないってことは……えっと、つまり、どういうこと?
真剣に考えていたが、急に集中力が切れて考える気も起きなくなった。……お腹が空いた。
「ベルメール先生はこの本の読み方を知っているのです?」
クリスが首を傾げて聞く。それに対し、ベルメール先生は「いいえ」と首を横に振った。
「ではこの本に何が書かれているかは?」
「知りません」
ヨハンとクリスと顔を見合わせる。私達の思っている以上にベルメール先生は何も知らないのかもしれない。読み方くらいは知っていると思っていた。
「では、ベルメール先生が知っているのはこの本を書いたのが誰かということだけなのですね?」
そう聞きながらも答えてくれないかもしれないと思っていた。
ベルメール先生が頷けばその約束は作者としたものだと考えられるだろう。そしてベルメール先生にそれ以上の手掛かりはない。もちろん誰が書いたかも教えてくれないだろうし。
ベルメール先生が否定すればこの本に関わっている人は、作者と、ベルメール先生と約束をした人の最低二人だ。そしてこの場合もベルメール先生にそれ以上の手掛かりはない。
ちょっと待って、詰んだ。どっちにしろ何も分からずじまいじゃん。この質問何の意味もないじゃん。
「ええ、わたくしが言われたのは、この本を読める者が現れたら教えて欲しいと、それだけですわ」
「この本が実際に何も書かれておらず、読む方法などないという可能性は?」
ヨハンが聞く。が、その答えを私とクリスは既に知っていた。ベルメール先生は静かに首を振る。
「あの方はそのような方ではございません」
だよね、だって私読めたし。
さて、そろそろ移動しよう。残念ながらベルメール先生からは何も聞きだせない。
「ありがとうございました。この本の返却なのですが、魔法陣から魔力を抜いたらいいのですね?」
「ええ」
ベルメール先生が頷いたのを確認して、私は魔法陣にこもっている自分の魔力を回収する。
「ヨハン様、お願いできますか?」
「うん」
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