池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
137 / 300

疑い

しおりを挟む
二人で教室へと入ると、一瞬にして全ての視線が私達に集まり、話声は唐突に消えた。異様な雰囲気の中を席まで歩く。とても居心地が悪い。何も悪いことはしていないのに俯いてしまいそうになる。

というか本来祝われるべきじゃない? だって一位だよ、絶対こんな雰囲気になるなんておかしいよ! とちょっとだけ腹が立ってきた時だった。


「エレナ、クリス」


私たちを呼び止める声が聞こえて、私は足を止めて振り返る。その声に緊張で体が強張った。何を言われるのかと身構えて、正面から声の主、カイを見る。

カイはじっと私とクリスの顔を見て、そして爽やかに笑った。


「おめでとう。すごいよ、二人とも」


まず初めにほっとした。カイに誤解されるのはとても嫌だったから。そして、嬉しさが込み上げてきた。クリスの表情も段々明るくなり、いつもの笑顔が咲く。


「次は俺が一位取るからな!」


レオンがいつもと同じ口調でそう言う。今回二位だったのが悔しかったのか、そうではなかったのか分からない口ぶりだ。


「僕も次はクリスを抜くからね」


文官科の三位だったマクシミリアンが笑いながらそう言う。


「二人とも私を忘れてはいないだろうね。今回は出遅れたけど、次はエレナも抜かすからね」


カイがそう言う。私はクリスと顔を見合わせた。この空気の中そんな風に言える三人がとても眩しく見えた。そしてとても心が温かくなった。

自然と頬が緩んだ。人目など気にならないくらい嬉しかった。クリスの表情も段々と明るくなっていく。


「ええ、わたくし達も負けませんわよ」

「次回も頑張りましょうね、エレナ様」


ふっと笑い、改めて席へと進む。教室中の空気がが少しだけ穏やかになったような気がした。その時だった。


「何が『負けません』、だ。どうせカンニングでもしたんだろう」


恐らく皆が思っていただろう。だけど誰も言わなかった言葉だった。そんなに大きな声ではなかったが、空気が一気に凍り付いた。振り返るのが嫌になるこの声。だけど無視はできない。身分は私の方が下なのだ。


「ラルフ様の婚約者の座に少しでも相応しくなりたいと頑張った結果がこれですわ。カンニングなどしておりませんわ」

「ふん、カンニングなどしたら婚約者である俺の評価にも関わるとなぜ分からんのだ」


だからしてないって言ってるじゃん! どうしてこんなに話が通じないの……。

ざわめきがだんだんと大きくなってきた時、教室が扉が開き、コツコツとノイナー先生が入って来た。


「何をしているのですか。授業はもう始まりますよ。早くそれぞれの科の教室に移動してください」


その一言で皆が慌てて動くかと思ったが、その前に声が上がった。


「先生、あのカンニングした二人をこのままにしておいてもいいんですか?」


誰がそう言ったのか確認しなくても分かる。ラルフだ。そしてその言葉に続いてちらほらと同じような言葉が控えめに聞こえた。


「あの二人がどこぞの教師と仲が良いことは誰もが知っていますし」


ヨハンのことか……。

ノイナー先生は何を考えているのか分からない表情でその様子を眺めるばかり。するとどこかでガタン、と大きな音がした。反射的にそちらを見る。

音を立てて立ち上がったのはベアトリクスだった。おお、懐かしのベアトリクス。最近は関わることもないし、嫌がらせもないし忘れていた。悪役令嬢のベアトリクスがこんなチャンスを逃すわけがないよね。

と、思っていたが、ベアトリクスは一人でさっさと教室を出て行った。とても面白くなさそうな表情で。

あれ? 何もなし? ここぞとばかりにカンニングの追及をしてくるかと思っていたんだけど。そう思っていたのはベアトリクスの取り巻き達も同じようで、教室の様子を気にしながらもベアトリクスを追いかけるように出て行った。

……もしかするとカイと距離を置いた私たちはもう敵ではないと思っているのかもしれない。よく分からないけどラッキーだ。


「クリス、行きましょう」


私も授業に遅れるのは嫌だ。幸い次に受けようと思っている文官科の教室はここから比較的近いので間に合うだろう。机の上に置いたいたノートを回収し、クリスと一緒に教室を出る。

あの空気が自分で思っていたよりも辛かったのか、足取りも重かった。カンニングをしたとかしてないとか言っていたらきりがない。証拠なんてないんだし。

少しだけ早足で歩いていると、後ろからぱたぱたと静かな足音が聞こえ、私達に並んだ。誰かなと見てみると、普通に仲良くしている女の子二人だった。


「エレナ様、クリスティーナ様、わたくし達は分かっておりますわ。お二人がどれだけ頑張られていたのか。カンニングなんておっしゃる方のことは気にしないでくださいませ」


私とラルフの関係が決していいものではないと、既に皆気付き始めている。この二人は遠回しにラルフのあの態度を気にするなといいたいのだろう。

……まあ確かに全科で一位を取ったのが私じゃなかったらラルフもわざわざこんな風に言わなかったかもしれない。本当に、私はどうしてこんなにもラルフに嫌われているのだろうか。不愉快だと思う時期はとっくに過ぎた。今はただただ不思議で仕方がない。


「ありがとうございます」


クリスが本当に嬉しそうな笑顔でそう言うと、二人も釣られるように笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...