池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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相棒探し

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叔父様から解放されたのはすっかり日が暮れてからだった。魔法についてあれこれと質問され、色々やって見せてくれと頼まれ、また質問され……結局三時間は叔父様の部屋にいた。

勢いよく手を挙げたクリスも最初は馬に乗れると上機嫌だったが、一向に開放してくれない叔父様に段々と機嫌が悪くなっていった。……こうなるのが分かっていたから言いたくなかったのに。

しかし明日は乗馬を教えてもらうことをしっかり約束してきた。そのことだけが救いだ。

疲れてぐったりとしているクリスと一緒に歩いていると、前から誰かが走ってくる姿が見えた。屋敷の中で走っているなんて珍しい。何かあったのかなと他人事のように考えてる。しかしよく見るととても見覚えのある顔だ。

……しまった、アリアのこと忘れていた。クリスと自分の恰好を見る。


「……クリス、もうひと頑張りしましょう」


私がそう言うとクリスは遠い目をして小さく頷いた。


翌日、朝ごはんが終わり、訓練着で外に出る。天気は快晴。服には涼しくなる魔法陣を書いているのでそこまで暑くはない。うん、乗馬日和だ。


「馬小屋はどこかしら?」


アリアを見ると、アリアは「あちらです」と手で方向を示してくれた。少し歩くと想像した通りの馬小屋があった。中に入ると、左右にずらっと馬が並んでいる。その様子に少し怖気づくが、クリスは全く気にした様子もなく奥へと進んで行った。


「皆かっこいいねぇ。私を乗せてくれる子は誰かな?」


楽しそうで何よりだ。私はあまり中に入らずに入り口付近で馬の顔を見る。……私よりもはるかに大きくて正直怖い。こんなにも近い距離で見たのは初めてだ。


「待たせたね」


叔父様はすぐに来て、小屋の中へと入って行った。私も後に続く。なんか両側からの威圧感がすごいけど。気のせいだろうけど怖いものは怖い。いつもよりアリアにくっついて歩くと、アリアはふふっと笑った。

だって怖いんだもん……!


「まずは馬を選ぶところからだな。気に入った子がいるなら言ってみてくれ。馬の性格にもよるができるだけ考慮するから」

「やったー!」


クリスは嬉しそうに一頭一頭見て回っている。正直顔は皆一緒にしか見えない。色と模様が違うだけだ。私はアリアから離れないようにしながら、適当にその辺にいた子に手を伸ばした。真っ白で曇りのない子。

すると馬が突然暴れ出した。反射的に手を引いて、アリアにしがみつく。え、何、何もしてないよ! まだ触ってすらないんだけど!

叔父様がすぐに近付いて来て、馬を見た。


「ああ、この馬は駄目だ。先に言わないといけなかったな。この子は先週あたりから様子がおかしいんだ。前は大人しい馬だったんだが。急に暴れるようになって原因も分からなくてな。悪いが他の子にしてくれ」

「おじ様ー!」


叔父様はクリスに呼ばれて向こうへと歩いて行った。大人しい馬が急に暴れるようになるっておかしくない? 体調が良くないのかな? それなら可哀そうだ。

叔父様が離れたところでクリスと話しているのを確認する。そして私は光魔法を馬へとかけた。ぱっと見は何か変わったか分からない。また暴れられないかとおそるおそる手を伸ばす。今度は暴れられない。ゆっくりと手を伸ばし、とうとう鼻先へと触れた。

なでなでと優しく手を動かす。どうやら不機嫌の原因は取り除けたようだ。


『ありがとう』


どこからか声が聞こえて来たが、誰でもないことは確かだ。私の知らない声。周りには誰もいなさそうだ。……気のせいか。


『ありがとう、人間の子供』


はい、気のせいじゃありません! 今のは絶対に聞こえた。アリアを見上げてみるが、特に変わった様子はない。聞こえていないのかもしれない。

こういう時のお決まりはこの馬って言うパターンだけど、それは流石にないよね。うん? でも今『人間の子供』って言ってたよね。

もう一度馬へと視線を向ける。


「あなたなの?」


小さな声でそう聞くと、『そうよ』と返事があった。まさか馬と意思疎通できるようになるとは思わなかった。驚き八割、嬉しさ二割って感じだ。

……もしかしなくても私が光魔法を使ったことが原因だろう。こんな使い方があるなんて知らなかったけど。でもまあ感謝されてるみたいだし、細かいことはいっか。こうして話ができるなら怖くはない。ぜひとも私を乗せてもらいたい。


「私をその背に乗せてくれないかしら?」

『ええ、ぜひとも』


よーし、この子に決定!


「エレナは決まったかい?」


叔父様が馬を一頭引いてやってくる。ほくほくとしたクリスの表情を見れば、気に入った子が見つかったに違いない。


「ええ、この子がいいですわ」

「だからそいつは危ないから」

「いいえ、わたくし、絶対にこの子がいいのです。この子が気に入ったのです!」


どうやって手懐けたかなんて聞かれても困る。子供のわがままとして通さなければならない。叔父様は私を見て困ったような表情をする。


「叔父様、お願いします。少しでも危ないと思ったら他の子にしますから」


一生懸命頼みこむと、叔父様は少しして頷いた。


「分かった。じゃあ出すから小屋の外に出ていてくれ。怪我をしてはいけないから」

「はい」


よっしゃ! 暴れないのは分かっているけど、私は叔父様の言う通り、小屋の外へと出た。クリスが不思議そうに私を見る。


「あの子じゃないといけないの?」

「ええ、光魔法を使ったら言葉が分かるようになったの。だからあの子なら怖くないわ」


なるほど、とクリスは頷いて、大人しく出てくる馬を見た。何も疑わずに納得できるのがすごい。クリスだからか、光魔法だからか。ああ、どっちもか。

真っ白な毛が太陽に照らされてキラキラ光るその様子はとても神秘的だった。叔父様は不思議そうに首を傾げている。

よし! 無事に馬も決まったことだし、乗馬体験開始!
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