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乗馬訓練
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クリスの選んだ馬はとても大きかった。真っ黒な毛で、顔はキリッとしていていかにも強そうだ。クリスの好きそうな馬だった。
対して私の選んだ馬はあまり大きくはない。混じりっ気のない真っ白な毛。顔は穏やかで優しい。
とても対照的な二頭だった。
馬の背に座ると思っていた以上に視界が高くなる。いつもだったら見上げないといけないアリアも余裕で越してしまう。……というかめっちゃ揺れるんだけど! え、これほんとに落ちないよね!? めっちゃ落ちそうなんだけど!
手綱を握る手に思わず力が入ってしまう。歩く度にぐらぐらと揺れる視界。恐怖で顔が引きつる。
「お願いだから落ちないようにゆっくり歩いてね」
『分かっているわ』
何度目か分からない言葉をもう一度繰り返す。馬はその度に呆れずにちゃんと返事をしてくれる。
「エレナ! もっと背筋伸ばして! クリスは良い感じだ!」
叔父様の言葉で背筋をぐっと伸ばす。そしてクリスの方を見ると、クリスは余裕そうに笑っていた。私の方は他の人が手綱を持っているというのにクリスは一人で自由に走り回っている。
あれで馬に乗るのが始めてなんて嘘でしょ!
『大丈夫よ、エレナ。ゆっくり練習すればいいわ』
とうとう馬に慰められる始末。しょんぼりと俯いた途端、バランスを崩した。
「わっ……!」
背中に強い衝撃。受け身が間に合わなかった。あまりの痛みに起き上がれないでいると、あちこちから足音が聞こえた。
「エレナ!!」
叔父様の声が近付いて来る。私は何も考えずにとりあえず光魔法を自分にかけた。痛みがすっと引いて、ほっと息をつく。うん、大丈夫。死なない限りどうにかなる。
叔父様が私を覗き込む。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。ご心配おかけしました」
手を借りて立ち上がると、馬も心配そうに私を見ていた。頭を撫でる。
「上手に乗ってあげられなくてごめんね」
楽しそうに走っているクリスとクリスの馬を見る。私もあんな風に乗ってあげたい。走らせてあげたい。
『子供はそんなこと気にしなくていいのよ。ほら、元気出して』
「お、おい、エレナ、今日はもう止めにしないか?」
もう一度乗ろうとすると、叔父様が慌てたように私を止めた。だけど私を首を横に振る。
「いいえ、もう少し頑張らせてくださいませ。もう少しで何か掴めそうな気がしますの」
なんて何も掴める気はしないけど。だけどここで止めるのはすごく嫌だ。手伝ってもらって馬にまたがると、また視界が高くなる。さっきの落ちた痛みが頭の中に残っている。さっきは魔法で治せたけど次は……?
死ななかったらどうにかなるって思ったけど、もし死んでしまったら……?
一度そう考えると恐怖で体がすくんだ。手綱を握る手がカタカタと震えた。……無理だ。もう、無理だ。私を心配そうに見上げる叔父様とアリアの顔が見えた。
「申し訳ありません。今日はもう終わります」
るんるんと楽しそうに隣を歩くクリスを見る。とても満足そうで、少しだけ羨ましい。
「……どうしたら上手に乗れるの?」
ポツリとそう言うと、クリスはあっけらかんとした表情で言った。
「なんでエレナは乗れないの?」
予想外の言葉に私は目を見張る。なんで乗れないのかなんて私が聞きたい。
「だってさ、エレナ私より剣使えるし、運動神経はエレナの方がいいし、体力は私も同じくらいじゃん? 他のことならなんでもできるのに、なんで馬だけダメなの?」
確かにそう言われればそうかもしれない。なんでだろう。
「センス、とか……?」
人には向き不向きがあるのだ。他のことはできても乗馬のセンスが異様なほどない可能性だってある。アリアにも意見を求めるために振り返る。アリアは言いづらそうに口を開いた。
「エレナ様は怖がっていることで体に力が入っているような気がいたします」
「え? 怖いの?」
はい、怖いです。すっごい怖いです。速攻そう言いたくなったが、それもなんだかかっこ悪い。
「クリスは怖くないの?」
「怖くないよ」
すぐに返ってきたその言葉に、私はぽかんとしてしまった。怖いけど大丈夫、とか怖いけど楽しい、とかそういう返事を予想していた。
「あの高さよ? 落ちたら怪我をするのよ? どうして怖くないの?」
「え? だってエレナがいるじゃん。落ちたって怪我をしたって大抵のことはエレナがいたら何とかなるでしょ?」
……はい? 私? 私がいたらどうにかなるの? 間抜けな顔をしていると自分でも分かる。だけどちょっと意味が理解できなかった。
そんな私の顔を見て、クリスは笑いながらほっぺを突く。
「エレナなんでもできるじゃん。魔法だって得意だし。落ちたら魔法を駆使してどうにかしたらいいんだよ。怖くないでしょ」
……確かに。風属性で勢いよく落ちないようにできるし、水属性はクッションにもなる。なんなら土属性で下をふわふわにしてもいいし。それで怪我をしたら光属性。
私って実は最強なのでは? なんて都合いい思考へと切り替わった。……落ちても怖くない? 属性ばれする可能性はあるけど、それは避けたいけど酷いけがはしない。それだけで少しだけ恐怖が和らいだ気がする。
確かに何事も楽しんでするのが上達への近道かもしれない。私はクリスにお礼を言い、そして明日また頑張ろうと決意した。
対して私の選んだ馬はあまり大きくはない。混じりっ気のない真っ白な毛。顔は穏やかで優しい。
とても対照的な二頭だった。
馬の背に座ると思っていた以上に視界が高くなる。いつもだったら見上げないといけないアリアも余裕で越してしまう。……というかめっちゃ揺れるんだけど! え、これほんとに落ちないよね!? めっちゃ落ちそうなんだけど!
手綱を握る手に思わず力が入ってしまう。歩く度にぐらぐらと揺れる視界。恐怖で顔が引きつる。
「お願いだから落ちないようにゆっくり歩いてね」
『分かっているわ』
何度目か分からない言葉をもう一度繰り返す。馬はその度に呆れずにちゃんと返事をしてくれる。
「エレナ! もっと背筋伸ばして! クリスは良い感じだ!」
叔父様の言葉で背筋をぐっと伸ばす。そしてクリスの方を見ると、クリスは余裕そうに笑っていた。私の方は他の人が手綱を持っているというのにクリスは一人で自由に走り回っている。
あれで馬に乗るのが始めてなんて嘘でしょ!
『大丈夫よ、エレナ。ゆっくり練習すればいいわ』
とうとう馬に慰められる始末。しょんぼりと俯いた途端、バランスを崩した。
「わっ……!」
背中に強い衝撃。受け身が間に合わなかった。あまりの痛みに起き上がれないでいると、あちこちから足音が聞こえた。
「エレナ!!」
叔父様の声が近付いて来る。私は何も考えずにとりあえず光魔法を自分にかけた。痛みがすっと引いて、ほっと息をつく。うん、大丈夫。死なない限りどうにかなる。
叔父様が私を覗き込む。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。ご心配おかけしました」
手を借りて立ち上がると、馬も心配そうに私を見ていた。頭を撫でる。
「上手に乗ってあげられなくてごめんね」
楽しそうに走っているクリスとクリスの馬を見る。私もあんな風に乗ってあげたい。走らせてあげたい。
『子供はそんなこと気にしなくていいのよ。ほら、元気出して』
「お、おい、エレナ、今日はもう止めにしないか?」
もう一度乗ろうとすると、叔父様が慌てたように私を止めた。だけど私を首を横に振る。
「いいえ、もう少し頑張らせてくださいませ。もう少しで何か掴めそうな気がしますの」
なんて何も掴める気はしないけど。だけどここで止めるのはすごく嫌だ。手伝ってもらって馬にまたがると、また視界が高くなる。さっきの落ちた痛みが頭の中に残っている。さっきは魔法で治せたけど次は……?
死ななかったらどうにかなるって思ったけど、もし死んでしまったら……?
一度そう考えると恐怖で体がすくんだ。手綱を握る手がカタカタと震えた。……無理だ。もう、無理だ。私を心配そうに見上げる叔父様とアリアの顔が見えた。
「申し訳ありません。今日はもう終わります」
るんるんと楽しそうに隣を歩くクリスを見る。とても満足そうで、少しだけ羨ましい。
「……どうしたら上手に乗れるの?」
ポツリとそう言うと、クリスはあっけらかんとした表情で言った。
「なんでエレナは乗れないの?」
予想外の言葉に私は目を見張る。なんで乗れないのかなんて私が聞きたい。
「だってさ、エレナ私より剣使えるし、運動神経はエレナの方がいいし、体力は私も同じくらいじゃん? 他のことならなんでもできるのに、なんで馬だけダメなの?」
確かにそう言われればそうかもしれない。なんでだろう。
「センス、とか……?」
人には向き不向きがあるのだ。他のことはできても乗馬のセンスが異様なほどない可能性だってある。アリアにも意見を求めるために振り返る。アリアは言いづらそうに口を開いた。
「エレナ様は怖がっていることで体に力が入っているような気がいたします」
「え? 怖いの?」
はい、怖いです。すっごい怖いです。速攻そう言いたくなったが、それもなんだかかっこ悪い。
「クリスは怖くないの?」
「怖くないよ」
すぐに返ってきたその言葉に、私はぽかんとしてしまった。怖いけど大丈夫、とか怖いけど楽しい、とかそういう返事を予想していた。
「あの高さよ? 落ちたら怪我をするのよ? どうして怖くないの?」
「え? だってエレナがいるじゃん。落ちたって怪我をしたって大抵のことはエレナがいたら何とかなるでしょ?」
……はい? 私? 私がいたらどうにかなるの? 間抜けな顔をしていると自分でも分かる。だけどちょっと意味が理解できなかった。
そんな私の顔を見て、クリスは笑いながらほっぺを突く。
「エレナなんでもできるじゃん。魔法だって得意だし。落ちたら魔法を駆使してどうにかしたらいいんだよ。怖くないでしょ」
……確かに。風属性で勢いよく落ちないようにできるし、水属性はクッションにもなる。なんなら土属性で下をふわふわにしてもいいし。それで怪我をしたら光属性。
私って実は最強なのでは? なんて都合いい思考へと切り替わった。……落ちても怖くない? 属性ばれする可能性はあるけど、それは避けたいけど酷いけがはしない。それだけで少しだけ恐怖が和らいだ気がする。
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