池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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帰宅

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その後の帰り道は特に問題なかった。行きは途中の村で一泊したが、帰りは一気に帰った。家へ着いたのは夕方だった。

馬車を降りて伸びをしたい衝動を抑える。体を小さく動かすと、あちこちに鈍い痛みが走る。あー、すっかり体が固まってしまっている。

おそらくカミラもなのだろう。微妙な表情をしている。馬車から降りてクリスとフロレンツにお礼を言おうとすると、屋敷の扉が開く音が聞こえた。


「おかえりなさい」


そしてひと月ぶりの声が聞こえた。振り返るとそこにはお義母様ともう一人女の人が立っていた。……なんか見たことあるけど誰だろう。

そう思った時だった。


「げっ……!」


後ろから令嬢らしからぬ声が聞こえた。声の主は確認しなくても分かる。クリスしかいない。ああ、そうだ、クリスのお母さんだ。前にお茶会で会ったことを思い出す。そういえばお義母様のお友達だったね。私達の帰りを一緒に待っていたのかな。


「お久しぶりです、クレヴィング伯爵夫人」

「ええ、久しぶりね、エレナ。ごめんなさいね、うちの子が迷惑をかけたでしょう?」


クリスのお母さんは笑顔だ。だけど怒っているのが伝わってくる。え、え、なんで怒ってるの?


「い、いいえ、クリスのおかげでとても楽しい休暇を送ることができましたわ」


戸惑いを隠してそう言って笑うと、クリスのお母さんは「いつも仲良くしてくれてありがとう」と言った。そして私からクリスへと視線を向ける。


「クリス、メイドも執事も連れずに行くなんてどういうことかしらね?」


うわ、こわっ……!

うちのお義母様は目を吊り上げて怒るタイプだけど、どうもクリスのお母さんは笑顔で怒るタイプだ。正直こっちの方が怖い。

クリスはというと、後ずさりしながら言い訳を考えているようだ。


「誰も連れて行かずに困るのはあなたでしょう」


その言葉にクリスは反応して、けろりとした表情になった。直感で分かった。これはやばい。クリスの言葉を止めようとするが、間に合わなかった。


「それがね、魔法学校での生活のおかげで全然困らなかったんだよ。魔法学校に入れるように教育してくれたお母様には感謝だね!」


あー……終わった。

空気が凍り、皆が息をのむ。気が付いていないのはどうもクリスだけのようだ。


「あ、あの、クリス、今日までありがとう。とても楽しかったわ」


クリスが無理やり連れて帰られる前に旅行のお礼を言っておこうと思ったのだが、どうも最期のお礼みたいになってしまった。意図したことではないけど、これはちょっと縁起がよろしくない。


「また会いましょうね」


そう付け加えると、クリスは何も気にせずに「うん!」と元気よく頷いた。クリスのお母さんが怖い笑顔で「では皆様、また」と言って二人で同じ馬車へと乗り込む。

……ごめん、クリス。私にはどうしようもないから。

すぐに馬車の扉が閉まり、動き出した。カミラやフロレンツは何も言わずにその馬車を見つめている。目が同情しているのが分かる。

うん、まあ、今回はクリスが悪いし。仕方がない。


「フロレンツ」


気を取り直して私はフロレンツを見て意識して明るい声を出した。


「本当にありがとう。行ってよかったわ。とても楽しかった。またぜひ誘ってくれるかしら?」

「うん、もちろん。次の時もカミラも一緒に行こうね」

「ええ、ぜひ! ありがとうござます!」


そんな別れを終えてフロレンツは馬車へと乗って帰って行った。私たちはお義母様へと向き直る。


「エレナ、カミラ、ただいま帰りました」

「ええ、おかえりなさい。二人のいない家はとても寂しかったわ。さあ、入って色々なお話を聞かせてちょうだい」

「はい! わたくしお母様へたくさんお話したいことがありますの!」


カミラがはしゃぎながらお義母様と一緒に屋敷に入って行く。私は屋敷へと入る前に後ろを振り返った。もう馬車の姿は見えない。……クリスは大丈夫かな。後ろ髪が引かれる思いで、私は我が家へと入った。


あー、疲れた……。お義母様に一言断って私は部屋へと直行した。カミラはお義母様と一緒に歩いて行ったので今頃、お義母様の部屋で土産話をしているところだろう。

私もできれば参加したかったがそんな元気はない。すぐにでもベッドに飛び込みたい衝動を抑えて、椅子へ座ると、アリアは何も言わずにお茶を出してくれた。

ふわっと香る匂い。向こうで散々飲んだお茶だが、ここで匂うのはとても新鮮だった。あー、ちょっと休んだら厨房に行かないと。


「アリア、疲れているところ悪いけど厨房に行って晩御飯に一品作らせてもらえるように頼んでくれるかしら?」

「かしこまりました」


休暇は残り一週間程度。お土産を配るのと、勉強と、ああ、ちょっとさぼっていた剣のお稽古もしないとな。

ぼんやりとそんなことを考えて、私は重い瞼を閉じた。
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