池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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新技編み出し

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盗賊たちが走ってくる。私たちをなめているのか、隙だらけだ。正直魔法なんて使わなくても素手で倒せそうな気がする。まあそんな危ないことをしたらアリアに怒られるからしないけど。

すぐそこにせまる盗賊の剣。私は息を大きく吸い込んでできるだけ大きな声を出した。


『止まりなさい!』


それと同時にすべての盗賊たちの動きが止まる。まるで時が止まったかのように。どうやら上手く言ったようだ。


「エ、エレナ……? 何したの?」


クリスが驚いたように聞いてくる。盗賊たちも驚きに目を見開いている。動こうと頑張っているようだけど、動けないのだろう。その顔がだんだん怒りや戸惑いへと変わる。

何をしたんだ、とか、何で動けないのだ、とか、そんな意味の汚い言葉が聞こえてくる。


「声に魔力を込めてみたの。できるか分からなかったけど、良い感じね」


愛玲奈の時に漫画で読んだことのある技。魔力を使えば再現できるかなと軽く思っただけだ。まあ属性が分からない以上、人前で簡単に使えないけど。それか身体強化のように魔力を使うものだから無属性? んー、なんでもいっか。


『おすわり!』


もう一度指示を出してみる。盗賊たちがペタンとその場に座った。おお、いいね、これ。


『お黙り下さいませ』


カミラには下品な言葉をあまり聞かせたくない。急に静かになる。でも効果はどのくらい持つんだろう。試してみたいけどでも今は皆いるもんね。長くなりそうだし止めておこう。


「エ、エレナ? それ最強じゃない……?」


そう言うクリスは若干引いている気がする。


「ええ、わたくしもそう思うわ」


さて、この後どうしようか。盗賊たちの表情が憎悪に満ちているような気がする。まあなめていた小娘相手に何もできずにこのざまはかなり恥ずかしいだろう。

この世界にも警察的な人たちはいるのかな。いるならどこまで行けばいいんだろう。ちょっとアリアに聞いてみよう。そう思って私はアリアの乗っている馬車の方へと行くために盗賊たちに背中を向けた。


「エレナ!」


クリスの慌てたような声が聞こえ、私は反射的に振り向く。そこには私へと剣を振り上げる盗賊の姿があった。先ほどの「おすわり」がとけたのか、根性でといたのか、動けているのはリーダー格のその一人だけだ。

不思議と焦りはなかった。


『ひれ伏しなさい!』


とっさに浮かんだ言葉を口に出す。男は押しつぶされるように地面へと落ちた。まるで何かに縫い留められているかのように、起き上がろうとしても起き上がれない。

うーん……なんか、犬の調教でもしている気分。


「エレナ様!」

「あ、アリア」


呑気にそんなことを思っていると、アリアが焦りを含んだ表情で駆け寄って来た。


「ご無事ですか? お怪我は?」

「大丈夫よ」


私がそう言うが、アリアは聞いていないのか、聞こえていないのか、私の体を色々な方向から見た。全部見終わって怪我がないことを確認すると、ほっと息を吐く。


「ご無事でよかったです。申し訳ありません、クリス様のお言葉に甘えず、私が真っ先に出るべきでした」


ああ、こういう時にどうするかは先にクリスが話していたんだな。と、どうでもいいことを考える。だから騎士なしでの旅行だったんだね。


「いいえ、そんな危険なことはしては駄目よ。わたくし達なら魔法でどうにでもなるもの。それよりアリア、この人たちどうしたらいいと思う?」

「エレナ様がこれ以上危害を加えたくないと思われるのでしたら、役人に突き出しましょう。近くの村にいるはずです」


……つまり死ぬか牢行きか。


「じゃあそうしましょう。村まではどうやって運ぶの?」

「いえ、運ぶ必要はございません」


そう言うとアリアは手に持っていた何かを私に見せた。なんだろう、打ち上げ花火、みたいな……。


「狼煙でございます。少し前より、こちらで役人を呼ぶことが可能になりました。火をつけていただいてもよろしいでしょうか?」


これってもしかしなくても打ち上げ花火の応用だよね。花火はヘンドリックお兄様達が作ったって言っていたけど、これもそうなのかもしれない。そんなことを考えながら狼煙へ火をつけると、すぐにポンッと小さな音がして、何かが飛び出た。それはすぐに空ではじけて消える。

ぎょっとして身を引く。何も考えずに火をつけてしまったが、こういうのって普通地面に置いてやるんじゃないの? でも音も小さかったし別に危険そうではなかった。

この世界ではそうやって使うものであっているのかもしれない。

役人を待つ間、私は盗賊たちを見張る。しかし盗賊たちは一向に動かない。というか動けないのか。


「あの、さっきはなんで動けたのですか?」


リーダー格の男にそう聞くとその人は静かに言った。


「無理やりだよ。安心しろ、もう動けねえから」


……なるほど。


『しばらくそのままでいてくださいませ』


にっこりと笑ってそう言うと、男は一瞬だけぽかんとして、そして何が可笑しいのか、笑い始めた。ふむ、よく見るとそこまで悪い人ではなさそう。というか悪い顔ではない。そして他の人に比べると頭が良さそう。まあリーダーをするくらいだ。馬鹿には務められないだろう。


「正解だよ。無理やり頑張ればもう一回くらい動けそうだった。かなりきついがな」


ふむふむ、効果は結構長く続くけど、頑張れば破られる、と。次に使う時は気を付けよう。

そんなことを考えていると、馬の蹄の音が聞こえて来た。


「役人が来ましたね。後は私に任せてエレナ様とクリス様は馬車へお戻りください」

「ええ、そうするわ」


踵を返して馬車へ向かおうとすると、後ろから「おい」と呼び止められた。足を止めて振り向く。


「次はなめてかからねえから気を付けろよ」

「ええ、再戦の申し込みは喜んで。だけど当分牢の中で大人しくしていてくださいませ」


なんとなくこの人と会うのはこれが最後ではないような気がした。まあできれば盗賊に襲われる経験なんてもうしたくないけど。


『後は役人の言う通りにしてください』


そう言い残して私は馬車へと戻った。クリスはるんるんと楽しそうだ。


「エレナの新しい技は最強だねぇ。これで何かあった時にヘンドリック様も言う通りに動いてくれるんじゃない?」


確かに。お兄様に頼みごとがある時に使えるかもしれない。そう考えたが、どうもあのお兄様に効果があるとは思えない。私の言う通りになるお兄様なんて想像ができない。どころか、すごくひどいビジョンが想像できる。


「後からの報復が怖いから止めておくわ」


私がそう言うとクリスは「確かに」と真剣な表情で頷いた。
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