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お守りじゃらじゃら
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「ではヨハン様、こちらを殿下方にお渡しいただけますか?」
バングルを三つ、ヨハンへと渡す。私たちと同じものを付けていることが知られると困るので、服に隠れる二の腕に付けられるように加工してもらったのだ。お守りはそれぞれ三つついている。
「水色を殿下に、赤色をレオン様、緑色をマクシミリアン様にお願い致します」
「はい、任せて」
フロレンツにはバングル、カミラにはブレスレットを既に渡してあるのでこれで最後だ。
「お前達の残りのお守りはこちで加工しておく。出来次第ヨハンに渡すから、絶対に身につけておけ。分かったな」
「はい、分かりました」
果たしてどんな形になって戻ってくるのやら。私は耳に付けたピアスをいじった。こんなのただの保険でおしゃれなだけだけどな。
「それからこれに刻んだ魔法陣を書いていけ。研究したい」
紙とペンを渡されたので何度もガラス玉に刻んだ魔法陣を書く。複雑で、最初は苦労したけどもう体が覚えている。
書き終わった紙をお兄様へ渡すと、お兄様は一瞥して満足そうに頷いた。
「では本日はもう帰ります。お仕事もいいですが、しっかり休んでくださいね、ヘンドリックお兄様」
「分かっているからさっさと帰れ」
帰る前にちょっとだけお小言を言うと、しっしとうっとおしそうに手を振られた。しかし言わなければならないことがある。
「それから、婚約者を早く決めてくださいませ。近頃お兄様への婚約の申し込みがたくさん来ております。中には侯爵家の方も……早くご自分で見つけられないとお父様が勝手に決めてしまわれますわ」
学校を卒業した時点で婚約者が決まっていない人は半分くらいだろう。だけどあれからもう一年以上が経っている。お兄様ももう十七歳。申し込まれる婚約をかわすのもそろそろ限界だろう。特に侯爵家からの申し込みは。
ヘンドリックお兄様は一瞬だけピクリと反応したがすぐに何でもない顔に戻る。
「それも考えている。余計な心配は必要ない。早く帰れ。ああ、魔力は魔法省に置いて行けよ。最近はお前がいなかったから心もとなくなっている」
「……分かっております」
お兄様って私のこと魔力の塊としか思ってないんじゃない!? せっかく心配してあげたって言うのに……いや、心配は押し付けるものじゃないか。
クリスと一緒に部屋を出る。来た時は大量に持っていた荷物がほとんどなくなって身軽だ。さ、魔法省に寄って帰ろう。
残りの休暇はあっという間に終わってしまった。
午前中は勉強、午後から剣。たまにカミラとお喋りして、遊びに来るクリスと勉強して。旅行の間サボっていたツケが一気に回って来た一週間だった。それはもう泣きたくなるような日々だった。
「あー、もう勉強はいいや……」
寮へと戻った私達。クリスが最初に言ったのはそれだった。しかし残念。
「勉強はこれからが本番よ。一緒に頑張りましょう」
ここは学校の寮。今までが休暇であの勉強量だったのだから、学校が始めるこれからは比べ物にならないだろう。……自分で考えて嫌になって来た。
「わたくし少し外を歩いてきますわ」
「はーい、行ってらっしゃい」
クリスの声を背に部屋を出ると、寮の中はまだ閑散としていた。学校が始まるのは明後日から。おそらくほとんどの生徒が寮に戻るのは明日だろう。
静かな校内を歩いていると、少し日常が戻って来たような気がした。何も考えずに適当に歩く。
「よう」
後ろから誰かに肩を叩かれ、私は足を止めて振り返った。
「あら、お久しぶりですわね、レオン様」
てっきりまだ家にいるのかと思っていた。最後に会ってからひと月ほどしか経っていないというのに、すごく雰囲気が変わったような気がする。なんかゲームのレオンに近付いたというか……。
「これ、ありがとな」
レオンが自分の二の腕辺りに触れて言う。お守りのことだろう。しっかりつけてくれていることが分かって安心だ。
「いいえ、ちょっとしたおまけのついた、ただのお土産ですわ」
「ただのお土産、な」
私の言葉にレオンは苦笑した。ただのお土産ではないことは知っているのだろう。だけど私としてはお土産ついでのお守りなので、嘘は言っていない。
「レオン様は休暇の間はどう過ごされていたのですか? お家でゆっくりされましたか?」
「ああ、俺はここにいたよ。家に帰ったって別に楽しくもないし」
ああ、そうだった、失敗した。レオンは親からあまりいい扱いを受けていないんだった。それで女の子達と遊ぶようになるんだよね。今は全くそんな様子がないから、すっかり忘れていた。
「そう、ですか……」
なんと言っていいのか分からずにそう言うと、レオンはニカッと笑った。
「それよりその耳のやつどうなってるんだ? 俺らと同じやつだよな?」
「あ、はい、ガラス玉は同じです。これは耳に穴をあけて……」
片方のピアスを外して見せると、レオンはぎょっとした表情で私の耳を見た。……そんなに驚くことか。あっちの世界ではピアスなんて珍しくなかったからな。
「穴を開ける時は痛いですが、今はもう痛くありませんのよ。まあ、真似はしない方が良いかと思いますが……」
光魔法もなしに穴を開けて傷が膿んだら大変だ。そう思って忠告したのだが、レオンが若干引き気味に「そんな怖いこと真似しねえよ」と言った。うわ、また引かれてる。あはは、ととりあえず笑っておく。
「エレナちゃん、レオン」
微妙な空気になったところに声をかけられ、私は救いを求めてそちらを見た。
「ヨハン様」
「ヘンドリックからこれを預かって来たよ」
ヨハンから小さな包みを渡され、中を覗くと、前お兄様に預けたお守り達が全て装飾品になって入っていた。指輪にネックレスにブレスレットに……。全部一つにして欲しかったけど、落とした時のことを考えるとリスクは高いので文句は言えない。
だけどじゃらじゃらと入っているそれにため息を吐きたくなる。
あー、こんなにもつける気はなかったんだけど。アクセサリーをじゃらじゃらつけるのって嫌いなんだよね。
「レオン、エレナちゃんのお守りもあるけど、油断はしてはいけないよ。殿下のことは頼んだからね」
「あ、ああ……」
いきなりそう忠告されたってわけがわかるわけがない。「じゃあ」と言って歩いて行こうとするヨハンの背に、レオンが声をかけた。
「ヨハン、これが必要になるような何かが起こるのか?」
ヨハンは足を止めて振り返った。
「起こらないといいんだけどね」
「嫌な予感がするんだ」と、そう笑ったヨハンの表情はいつもとどこか違って、私は何とも言えない気持ちになった。
バングルを三つ、ヨハンへと渡す。私たちと同じものを付けていることが知られると困るので、服に隠れる二の腕に付けられるように加工してもらったのだ。お守りはそれぞれ三つついている。
「水色を殿下に、赤色をレオン様、緑色をマクシミリアン様にお願い致します」
「はい、任せて」
フロレンツにはバングル、カミラにはブレスレットを既に渡してあるのでこれで最後だ。
「お前達の残りのお守りはこちで加工しておく。出来次第ヨハンに渡すから、絶対に身につけておけ。分かったな」
「はい、分かりました」
果たしてどんな形になって戻ってくるのやら。私は耳に付けたピアスをいじった。こんなのただの保険でおしゃれなだけだけどな。
「それからこれに刻んだ魔法陣を書いていけ。研究したい」
紙とペンを渡されたので何度もガラス玉に刻んだ魔法陣を書く。複雑で、最初は苦労したけどもう体が覚えている。
書き終わった紙をお兄様へ渡すと、お兄様は一瞥して満足そうに頷いた。
「では本日はもう帰ります。お仕事もいいですが、しっかり休んでくださいね、ヘンドリックお兄様」
「分かっているからさっさと帰れ」
帰る前にちょっとだけお小言を言うと、しっしとうっとおしそうに手を振られた。しかし言わなければならないことがある。
「それから、婚約者を早く決めてくださいませ。近頃お兄様への婚約の申し込みがたくさん来ております。中には侯爵家の方も……早くご自分で見つけられないとお父様が勝手に決めてしまわれますわ」
学校を卒業した時点で婚約者が決まっていない人は半分くらいだろう。だけどあれからもう一年以上が経っている。お兄様ももう十七歳。申し込まれる婚約をかわすのもそろそろ限界だろう。特に侯爵家からの申し込みは。
ヘンドリックお兄様は一瞬だけピクリと反応したがすぐに何でもない顔に戻る。
「それも考えている。余計な心配は必要ない。早く帰れ。ああ、魔力は魔法省に置いて行けよ。最近はお前がいなかったから心もとなくなっている」
「……分かっております」
お兄様って私のこと魔力の塊としか思ってないんじゃない!? せっかく心配してあげたって言うのに……いや、心配は押し付けるものじゃないか。
クリスと一緒に部屋を出る。来た時は大量に持っていた荷物がほとんどなくなって身軽だ。さ、魔法省に寄って帰ろう。
残りの休暇はあっという間に終わってしまった。
午前中は勉強、午後から剣。たまにカミラとお喋りして、遊びに来るクリスと勉強して。旅行の間サボっていたツケが一気に回って来た一週間だった。それはもう泣きたくなるような日々だった。
「あー、もう勉強はいいや……」
寮へと戻った私達。クリスが最初に言ったのはそれだった。しかし残念。
「勉強はこれからが本番よ。一緒に頑張りましょう」
ここは学校の寮。今までが休暇であの勉強量だったのだから、学校が始めるこれからは比べ物にならないだろう。……自分で考えて嫌になって来た。
「わたくし少し外を歩いてきますわ」
「はーい、行ってらっしゃい」
クリスの声を背に部屋を出ると、寮の中はまだ閑散としていた。学校が始まるのは明後日から。おそらくほとんどの生徒が寮に戻るのは明日だろう。
静かな校内を歩いていると、少し日常が戻って来たような気がした。何も考えずに適当に歩く。
「よう」
後ろから誰かに肩を叩かれ、私は足を止めて振り返った。
「あら、お久しぶりですわね、レオン様」
てっきりまだ家にいるのかと思っていた。最後に会ってからひと月ほどしか経っていないというのに、すごく雰囲気が変わったような気がする。なんかゲームのレオンに近付いたというか……。
「これ、ありがとな」
レオンが自分の二の腕辺りに触れて言う。お守りのことだろう。しっかりつけてくれていることが分かって安心だ。
「いいえ、ちょっとしたおまけのついた、ただのお土産ですわ」
「ただのお土産、な」
私の言葉にレオンは苦笑した。ただのお土産ではないことは知っているのだろう。だけど私としてはお土産ついでのお守りなので、嘘は言っていない。
「レオン様は休暇の間はどう過ごされていたのですか? お家でゆっくりされましたか?」
「ああ、俺はここにいたよ。家に帰ったって別に楽しくもないし」
ああ、そうだった、失敗した。レオンは親からあまりいい扱いを受けていないんだった。それで女の子達と遊ぶようになるんだよね。今は全くそんな様子がないから、すっかり忘れていた。
「そう、ですか……」
なんと言っていいのか分からずにそう言うと、レオンはニカッと笑った。
「それよりその耳のやつどうなってるんだ? 俺らと同じやつだよな?」
「あ、はい、ガラス玉は同じです。これは耳に穴をあけて……」
片方のピアスを外して見せると、レオンはぎょっとした表情で私の耳を見た。……そんなに驚くことか。あっちの世界ではピアスなんて珍しくなかったからな。
「穴を開ける時は痛いですが、今はもう痛くありませんのよ。まあ、真似はしない方が良いかと思いますが……」
光魔法もなしに穴を開けて傷が膿んだら大変だ。そう思って忠告したのだが、レオンが若干引き気味に「そんな怖いこと真似しねえよ」と言った。うわ、また引かれてる。あはは、ととりあえず笑っておく。
「エレナちゃん、レオン」
微妙な空気になったところに声をかけられ、私は救いを求めてそちらを見た。
「ヨハン様」
「ヘンドリックからこれを預かって来たよ」
ヨハンから小さな包みを渡され、中を覗くと、前お兄様に預けたお守り達が全て装飾品になって入っていた。指輪にネックレスにブレスレットに……。全部一つにして欲しかったけど、落とした時のことを考えるとリスクは高いので文句は言えない。
だけどじゃらじゃらと入っているそれにため息を吐きたくなる。
あー、こんなにもつける気はなかったんだけど。アクセサリーをじゃらじゃらつけるのって嫌いなんだよね。
「レオン、エレナちゃんのお守りもあるけど、油断はしてはいけないよ。殿下のことは頼んだからね」
「あ、ああ……」
いきなりそう忠告されたってわけがわかるわけがない。「じゃあ」と言って歩いて行こうとするヨハンの背に、レオンが声をかけた。
「ヨハン、これが必要になるような何かが起こるのか?」
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