168 / 300
三年生
しおりを挟む
と、まあ私とクリスはあちこちにお守りを付けて過ごしたが、何もないまま三年生になった。
二年生の最後のテストでは悔しくも文官科の一位をマクシミリアンに奪われてしまった。それ以外では特に変わったことはなく、私たちは何も変わらないまま三年生だ。
ああ、フロレンツの入学はあった。だけど正直学年が違うと関わることはあまりない。寮は男子寮と女子寮で別だし、授業で一緒になることはまずない。たまに教室を移動するときに廊下で会うけど、呑気に話している時間なんてない。
食堂に行けばいるかもしれないけど、あまり行きたくはない。そもそもあんな人が多いところでゆっくり話すなんて無理だ。
「なんか、三年生になってから授業簡単になってない?」
静かに勉強をしていたクリスがふと顔を上げて言った。
それは私も感じる。去年クルトお兄様が、「三年生になったらだいぶ余裕ができるよ」と言っていたのをあまり信じてはいなかったけど、どうも本当だったようだ。
「そうね。授業が簡単になったというか、私達の土台がしっかりしたんだわ」
二年生になったばかりの頃は何も分からず、自分が分からないことが何なのかすらも分からなかった。それが今では基本的なことはすべて頭に入り、理解ができるようになっているんだと思う。
今は去年ほど勉強に追われていない。ただ三科全部というのはちょっと大変で、補習は今でもしてもらっているけど。
私はペンを置く。
今は三年生の春。後もう一年も経たない内に四年生になって、リリーが編入してくる。そうしたらゲームが始める。
まず何があるんだっけ。正直もうほとんど覚えていない。エレナになってもう四年が経っている。日々を送るので精一杯の私はもう愛玲奈時代にしたゲームの内容なんてほとんど覚えていない。うーん……まじか、何も思い出せないんだけど。あ、そうだ、学園に魔獣が現れるって言うのはあったかも。ん? あれって別のゲームだっけ?
えー……悪役令嬢であるベアトリクスの断罪イベントは確か卒業後だったよね。私まだそこまでプレイできてなかったし。確か、四年生、五年生で絆を深めて、卒業後一年ほどして婚約して、終わり、よね。……多分。
というかこれしか分からないって全然役に立たないな。とりあえずベアトリクスに本格的に接触していくか。今までもちょこちょこ仲を深めては来たけど。まだ友達と呼べるほどは仲良くない。普通に喋れるようになったくらい。
それにしても最近はベアトリクスがカイに絡んでいるところは滅多に見ない。カイの婚約者の座はもう諦めたのかな。最初に会った頃には考えられないんだけど。
カイも、レオンも、マクシミリアンも、フロレンツも、ヨハンもこの四年でかなり変わった。最初に会った頃は皆ただの子供だったが、今ではもう私が前から知っている皆の姿に近付いている。かっこかわいかった皆が今ではもうすっかりかっこいい男の子になっている。
だからと言って私がどうこうなりたいとは思わないんだけど。ゲームのキャラだったからキャーキャー言っていたけど、自分が実際に恋愛をするっていうのはなんか違うんだよね。
まあだからこそ今の大人しいベアトリクスにはとても違和感がある。私の知っているベアトリクスだったらもっとカイの周りをうろうろするはずだ。ベアトリクスが成長した? あのベアトリクスが?
「……レナ、エレナー、ねえ、何考えてるの?」
はっとして振り返ると、クリスが私を見ていた。すっかり考え事に没頭していて、全然気が付かなかった。
「クリス、人が変わる時ってどんな時かしら?」
「え? 人が変わる時?」
何かきっかけがあるとしか思えない。問題はそのきっかけが何なのか。どうもベアトリクスは私の知らないところでゲームの筋から外れていっている気がする。私はほとんど何もしていないのに。
クリスはいきなりの質問にもちゃんと考えてくれている。腕を組んで「うーん」と言っているその姿に思わず笑いそうになってしまう。
「恋をした時、とか?」
斜め上の答えに私は言葉に詰まってしまった。うん、言葉の足りなかった私が悪いんだ。
「……ベアトリクス様の話よ」
「ああ、ベアトリクスか。確かに最近すごい変わったね。カイの婚約者の座を諦めるきっかけがあったんだろうけど、正直分かんないや。元々何考えてるか分からない子だし」
……確かに。最近はともかく、前は言葉が通じなかったもんね。まあこれは直接本人から探るしかないか。
「……それにしても、クリスは身長がすごく伸びたわね」
こうして私が座っていて、クリスが立っているととても大きく見える。
「そうかな」
えへへ、と笑うクリスの横に立ってみると、前はほとんど同じくらいだった目線が、ちょっと見上げないと合わない。私も結構身長伸びたと思うんだけどな。今年で十三歳。まだまだ成長期だ。クリスに負けないように私も大きくならないと!
牛乳をいっぱい飲むぞ!
二年生の最後のテストでは悔しくも文官科の一位をマクシミリアンに奪われてしまった。それ以外では特に変わったことはなく、私たちは何も変わらないまま三年生だ。
ああ、フロレンツの入学はあった。だけど正直学年が違うと関わることはあまりない。寮は男子寮と女子寮で別だし、授業で一緒になることはまずない。たまに教室を移動するときに廊下で会うけど、呑気に話している時間なんてない。
食堂に行けばいるかもしれないけど、あまり行きたくはない。そもそもあんな人が多いところでゆっくり話すなんて無理だ。
「なんか、三年生になってから授業簡単になってない?」
静かに勉強をしていたクリスがふと顔を上げて言った。
それは私も感じる。去年クルトお兄様が、「三年生になったらだいぶ余裕ができるよ」と言っていたのをあまり信じてはいなかったけど、どうも本当だったようだ。
「そうね。授業が簡単になったというか、私達の土台がしっかりしたんだわ」
二年生になったばかりの頃は何も分からず、自分が分からないことが何なのかすらも分からなかった。それが今では基本的なことはすべて頭に入り、理解ができるようになっているんだと思う。
今は去年ほど勉強に追われていない。ただ三科全部というのはちょっと大変で、補習は今でもしてもらっているけど。
私はペンを置く。
今は三年生の春。後もう一年も経たない内に四年生になって、リリーが編入してくる。そうしたらゲームが始める。
まず何があるんだっけ。正直もうほとんど覚えていない。エレナになってもう四年が経っている。日々を送るので精一杯の私はもう愛玲奈時代にしたゲームの内容なんてほとんど覚えていない。うーん……まじか、何も思い出せないんだけど。あ、そうだ、学園に魔獣が現れるって言うのはあったかも。ん? あれって別のゲームだっけ?
えー……悪役令嬢であるベアトリクスの断罪イベントは確か卒業後だったよね。私まだそこまでプレイできてなかったし。確か、四年生、五年生で絆を深めて、卒業後一年ほどして婚約して、終わり、よね。……多分。
というかこれしか分からないって全然役に立たないな。とりあえずベアトリクスに本格的に接触していくか。今までもちょこちょこ仲を深めては来たけど。まだ友達と呼べるほどは仲良くない。普通に喋れるようになったくらい。
それにしても最近はベアトリクスがカイに絡んでいるところは滅多に見ない。カイの婚約者の座はもう諦めたのかな。最初に会った頃には考えられないんだけど。
カイも、レオンも、マクシミリアンも、フロレンツも、ヨハンもこの四年でかなり変わった。最初に会った頃は皆ただの子供だったが、今ではもう私が前から知っている皆の姿に近付いている。かっこかわいかった皆が今ではもうすっかりかっこいい男の子になっている。
だからと言って私がどうこうなりたいとは思わないんだけど。ゲームのキャラだったからキャーキャー言っていたけど、自分が実際に恋愛をするっていうのはなんか違うんだよね。
まあだからこそ今の大人しいベアトリクスにはとても違和感がある。私の知っているベアトリクスだったらもっとカイの周りをうろうろするはずだ。ベアトリクスが成長した? あのベアトリクスが?
「……レナ、エレナー、ねえ、何考えてるの?」
はっとして振り返ると、クリスが私を見ていた。すっかり考え事に没頭していて、全然気が付かなかった。
「クリス、人が変わる時ってどんな時かしら?」
「え? 人が変わる時?」
何かきっかけがあるとしか思えない。問題はそのきっかけが何なのか。どうもベアトリクスは私の知らないところでゲームの筋から外れていっている気がする。私はほとんど何もしていないのに。
クリスはいきなりの質問にもちゃんと考えてくれている。腕を組んで「うーん」と言っているその姿に思わず笑いそうになってしまう。
「恋をした時、とか?」
斜め上の答えに私は言葉に詰まってしまった。うん、言葉の足りなかった私が悪いんだ。
「……ベアトリクス様の話よ」
「ああ、ベアトリクスか。確かに最近すごい変わったね。カイの婚約者の座を諦めるきっかけがあったんだろうけど、正直分かんないや。元々何考えてるか分からない子だし」
……確かに。最近はともかく、前は言葉が通じなかったもんね。まあこれは直接本人から探るしかないか。
「……それにしても、クリスは身長がすごく伸びたわね」
こうして私が座っていて、クリスが立っているととても大きく見える。
「そうかな」
えへへ、と笑うクリスの横に立ってみると、前はほとんど同じくらいだった目線が、ちょっと見上げないと合わない。私も結構身長伸びたと思うんだけどな。今年で十三歳。まだまだ成長期だ。クリスに負けないように私も大きくならないと!
牛乳をいっぱい飲むぞ!
12
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる