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部屋への招待
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「ベアトリクス様」
ホームルームが終わって放課後、私がベアトリクスの席へと行くと、いつも通り取り巻き達がすごい目で睨んでくる。これももうすっかり慣れっこだ。
ベアトリクスは座ったまま、何の用だと言わんばかりに私を見上げる。決して友好的ではない表情だけど、敵意も感じない。
「もしよろしければわたくしのお部屋で、少々お話でもいかがでしょうか?」
笑顔でそう聞くと、ベアトリクスは無言で私の顔を見つめた。どうしようか考えているのだろうか。別に断られても問題はない。また別の機会に話しかけるだけだ。
「ベアトリクス様があんたみたいな身分の低い女の部屋に行くわけがないでしょう!」
「そうよ! ベアトリクス様に話しかけるなんて無礼ね!」
「身の程をわきまえなさい!」
すぐさま取り巻き達がそう言い出す。最近はベアトリクスよりもこの取り巻き達の方が嫌いだ。まあ前のベアトリクスよりかはマシだけど。
今私が話しかけているのはベアトリクスで、取り巻き達ではない。無視をしていると、取り巻き達はキーキーと横で文句を言い始めた。……うるさいな。
「行きましょう」
ベアトリクスが立ち上がって言う。えーっと、これどっち? 私に言ったの? 取り巻き達?
よく分からなくて、歩き始めるベアトリクスの背を見ていると、すぐさま取り巻き達はベアトリクスの後ろについた。ああ、断られたのか。
今日は諦めるか。そう思ってクリスの方へ戻ろうとした時だった。
「あなた達ではないわ。エレナ、行くわよ」
後ろからそう聞こえ、振り返ると、驚く取り巻き達とこちらを見ているベアトリクスが見えた。……やっぱり変わりすぎだよ。
私はクリスへと視線を向け、ベアトリクスの後を追った。
「どうぞお召し上がりくださいませ」
私達の部屋にベアトリクスがいることにとてつもない違和感を覚えながらも、私はどうにか笑顔を保ってお茶を出した。
……部屋に来てもらうのはやっぱり申し訳なかったかもしれない。でも邪魔が入らずにゆっくり話すにはここが一番だし……もう笑うしかない。
クリスもなんともいえない表情で座っていて、居心地が悪そうだ。自分の部屋だと言うのに。
私の入れたお茶に口を付けたベアトリクスは、顔を上げて、「それで」と私を見た。
「何のお話がしたいのかしら?」
自分に害がなければこのツンツンしているのも可愛く見えてくる不思議。
「たいしたお話ではありませんの。ただ、ベアトリクス様は殿下の婚約者の座は諦められてしまったのかと思いまして」
こんな率直に言って怒りださないかドキドキする。ベアトリクスは物理攻撃なのでお守りも効果ないし。こういう時のために物理攻撃にも対応できるお守りが欲しい。
ダメだ、あの日、ベアトリクスが殴られたことがトラウマになってしまっている……。
「ああ、その話ね」
ふう、とため息をついたベアトリクス。クリスの表情が強張っているのが分かる。ベアトリクスとあまり親交のないクリスはきっと今頃気が気ではないだろう。まあ私もだけど。
「諦めたって言うか、無理じゃない」
「……どういうことです?」
予想していたどの答えでもなかった。無理とはどういうことだろう。もしかしてお城へ出入り禁止をくらっていることだろうか。あれはそろそろ時効じゃないかと思ってるんだけど。……まあ子供の言ったことだし。
「知らないふりなんてしなくていいわ。分かっているんでしょう」
「いえ、本当に分からないのですが……」
ベアトリクスの深刻そうな表情を見て分かった。お城への出禁なんてものじゃない。もっと大きな何か。ベアトリクスがカイの婚約者になるのを無理だと思うほどの何か。
「……何を知ったのです?」
横からクリスが口を挟む。そう、何かを知ってしまったのだ。いや、でもそれはおかしい。だってゲームでのベアトリクスはただの馬鹿な公爵令嬢だった。何も知らない、態度だけ大きい悪役令嬢。
このタイミングでベアトリクスが何かを知って変わるわけがない。だって多分あのゲームへの線路を辿らないのはこれがゲームに繋がると知っている私だけ。
つまり、これは本来ならなかったイレギュラー。大きなイレギュラーなど私は一つしか知らない。
「何を知ったのか、言いたくなければ言わなくても結構です」
ベアトリクスは口を開こうとしない。私は声が震えそうになるのをどうにか抑えようとしたが、無理だった。
「誰があなたにそれを教えて、あなたはその人に何を言ったのですか?」
震える声でそう言うと、ベアトリクスははっとしたように立ち上がった。そしてそのまま部屋を出て行こうとする。私はとっさにその手首をつかんだ。
「お待ちください」
「離しなさい! 無礼よ!!」
私の手はすぐにベアトリクスに振りほどかれる。無礼なのは分かっている。だけどどうしても今ここで聞いておきたいのだ。ここにきて、どうも嫌な予感がしてきた。
「お答えください。何を言ったのです?」
真剣な表情でそう聞く私の顔を見て、ベアトリクスは戸惑っているのが分かる。もしかしたら大したことではないのかもしれない。そうだったらいい。
じっとベアトリクスを見つめると、ベアトリクスはその空気に耐えられなくなったのか、道をふさいでいた私を押しのけた。
「わたくしは何も言っていないわ!!」
そしてそのまま部屋から飛び出して行った。
……これはやばいかもしれない。部屋に残された私とクリスは、呆然と開いたままの扉を見つめた。
ホームルームが終わって放課後、私がベアトリクスの席へと行くと、いつも通り取り巻き達がすごい目で睨んでくる。これももうすっかり慣れっこだ。
ベアトリクスは座ったまま、何の用だと言わんばかりに私を見上げる。決して友好的ではない表情だけど、敵意も感じない。
「もしよろしければわたくしのお部屋で、少々お話でもいかがでしょうか?」
笑顔でそう聞くと、ベアトリクスは無言で私の顔を見つめた。どうしようか考えているのだろうか。別に断られても問題はない。また別の機会に話しかけるだけだ。
「ベアトリクス様があんたみたいな身分の低い女の部屋に行くわけがないでしょう!」
「そうよ! ベアトリクス様に話しかけるなんて無礼ね!」
「身の程をわきまえなさい!」
すぐさま取り巻き達がそう言い出す。最近はベアトリクスよりもこの取り巻き達の方が嫌いだ。まあ前のベアトリクスよりかはマシだけど。
今私が話しかけているのはベアトリクスで、取り巻き達ではない。無視をしていると、取り巻き達はキーキーと横で文句を言い始めた。……うるさいな。
「行きましょう」
ベアトリクスが立ち上がって言う。えーっと、これどっち? 私に言ったの? 取り巻き達?
よく分からなくて、歩き始めるベアトリクスの背を見ていると、すぐさま取り巻き達はベアトリクスの後ろについた。ああ、断られたのか。
今日は諦めるか。そう思ってクリスの方へ戻ろうとした時だった。
「あなた達ではないわ。エレナ、行くわよ」
後ろからそう聞こえ、振り返ると、驚く取り巻き達とこちらを見ているベアトリクスが見えた。……やっぱり変わりすぎだよ。
私はクリスへと視線を向け、ベアトリクスの後を追った。
「どうぞお召し上がりくださいませ」
私達の部屋にベアトリクスがいることにとてつもない違和感を覚えながらも、私はどうにか笑顔を保ってお茶を出した。
……部屋に来てもらうのはやっぱり申し訳なかったかもしれない。でも邪魔が入らずにゆっくり話すにはここが一番だし……もう笑うしかない。
クリスもなんともいえない表情で座っていて、居心地が悪そうだ。自分の部屋だと言うのに。
私の入れたお茶に口を付けたベアトリクスは、顔を上げて、「それで」と私を見た。
「何のお話がしたいのかしら?」
自分に害がなければこのツンツンしているのも可愛く見えてくる不思議。
「たいしたお話ではありませんの。ただ、ベアトリクス様は殿下の婚約者の座は諦められてしまったのかと思いまして」
こんな率直に言って怒りださないかドキドキする。ベアトリクスは物理攻撃なのでお守りも効果ないし。こういう時のために物理攻撃にも対応できるお守りが欲しい。
ダメだ、あの日、ベアトリクスが殴られたことがトラウマになってしまっている……。
「ああ、その話ね」
ふう、とため息をついたベアトリクス。クリスの表情が強張っているのが分かる。ベアトリクスとあまり親交のないクリスはきっと今頃気が気ではないだろう。まあ私もだけど。
「諦めたって言うか、無理じゃない」
「……どういうことです?」
予想していたどの答えでもなかった。無理とはどういうことだろう。もしかしてお城へ出入り禁止をくらっていることだろうか。あれはそろそろ時効じゃないかと思ってるんだけど。……まあ子供の言ったことだし。
「知らないふりなんてしなくていいわ。分かっているんでしょう」
「いえ、本当に分からないのですが……」
ベアトリクスの深刻そうな表情を見て分かった。お城への出禁なんてものじゃない。もっと大きな何か。ベアトリクスがカイの婚約者になるのを無理だと思うほどの何か。
「……何を知ったのです?」
横からクリスが口を挟む。そう、何かを知ってしまったのだ。いや、でもそれはおかしい。だってゲームでのベアトリクスはただの馬鹿な公爵令嬢だった。何も知らない、態度だけ大きい悪役令嬢。
このタイミングでベアトリクスが何かを知って変わるわけがない。だって多分あのゲームへの線路を辿らないのはこれがゲームに繋がると知っている私だけ。
つまり、これは本来ならなかったイレギュラー。大きなイレギュラーなど私は一つしか知らない。
「何を知ったのか、言いたくなければ言わなくても結構です」
ベアトリクスは口を開こうとしない。私は声が震えそうになるのをどうにか抑えようとしたが、無理だった。
「誰があなたにそれを教えて、あなたはその人に何を言ったのですか?」
震える声でそう言うと、ベアトリクスははっとしたように立ち上がった。そしてそのまま部屋を出て行こうとする。私はとっさにその手首をつかんだ。
「お待ちください」
「離しなさい! 無礼よ!!」
私の手はすぐにベアトリクスに振りほどかれる。無礼なのは分かっている。だけどどうしても今ここで聞いておきたいのだ。ここにきて、どうも嫌な予感がしてきた。
「お答えください。何を言ったのです?」
真剣な表情でそう聞く私の顔を見て、ベアトリクスは戸惑っているのが分かる。もしかしたら大したことではないのかもしれない。そうだったらいい。
じっとベアトリクスを見つめると、ベアトリクスはその空気に耐えられなくなったのか、道をふさいでいた私を押しのけた。
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