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強い瞳
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「では前提として、ユリウス殿下は生きており、火・水・風・土属性の他にもう一つ属性を持っておられます。わたくし達はこれを闇属性と呼んでおります」
カイが小さく「闇属性……」と呟くのが聞こえる。悪いけど今はこれで納得してもらうしかない。というか私だって闇属性の関してはユリウス殿下の書いたあの本で読んだくらいしかしらないし。
「闇属性は主に、人を操ったり、呪いをかけたり、毒を生成したり、といったあまり良くない使い方が多いようです。今回、わたくしは襲撃の前に眠らされたのですが、それも闇属性の魔法かと思われます」
あの魔法の獣を作ったのは闇属性なのかそれとも他の属性なのかは分からない。あれが闇属性の魔法ではないと言うのなら、私にも同じものが作れるかもしれない。作ろうとも思わないけど。
「そして、ユリウス殿下はわたくしの光属性のことを知っていて、それを国の為に使わせるために、わたくしが光属性を人前で使わなければならない状態を作ったのです」
「その為にあんなことを……!?」
カイが驚愕の表情を浮かべる。それは私も同じ気持ちだ。私が光属性を公表する気になるには、別にあそこまでする必要なんてなかったのに。
「どうして兄上はあんなにも酷いことをしたのですか? 国の為に、なのでしょう?」
本当にそうだ。皆の破れた服を見る。っていうか私達、お兄様以外まだ寝間着じゃん。今更になって恥ずかしくなってくるが、それすらも気にしている余裕がなかったのだ。さっきは。
怪我をした皆の姿が脳裏に浮かぶ。鳥肌が立って、吐き気がした。
「一人の犠牲で百人を救うのだと。ユリウス殿下はそうおっしゃっておられました」
胃から込み上げる何かを飲み込み、無理やり声を出すと乾いた声が出た。ふざけた話だとは思う。怒りも覚える。だけどそれを否定することはできない自分もいた。
「それでもここまでしないといけなかったのでしょうか?」
『光属性を公表しないとこういうことをするよ』って脅されただけでも十分私は動きそうだけど。ああ、でもその場合お兄様がいいって言わないか。それに口で言っただけじゃ信じられないのかも。それにしても規模が大きすぎると思うんだけど。目の前で一人怪我しただけでも私は光属性使うよ、きっと。
「事件は大きければ大きいほどいい。その力を見るものが多ければそれだけ早く話は広がり、なかったことにはできない。そういうことだ」
ヘンドリックお兄様が静かな声でそう言う。しかしその声が怒りを含んでいることは分かった。
私が最初から自分の光属性のことを陛下に言っていたら、そうしたらこんなことは起きなかったのかと胸が痛む。その場合私はもう生きていないかもしれないけど。
「……私の知っている兄上は優しい人だった。よくは覚えていないけど、それは確かなのに」
カイが俯く。ユリウス殿下がいなくなった時、カイは四歳。確かに記憶に残っていることは少ないかもしれないけど、だけど全部は忘れていないだろう。
陛下もヘンドリックお兄様も何も言わない。
実際、ユリウス殿下は優しい人なのかもしれない。ただ、優しさだけでは全てを救うことができないというだけで。
「国の為に、というのはそういうことなのかもしれません」
時には非情な決断も必要で、どちらかを取らないといけないという状況もあるだろう。誰よりも陛下の知っていることだ。陛下は何も言わずにただカイを見つめていた。
「国の為なら、誰も傷付けず、一つの命も軽んじないことだ。こうしてたくさんの生徒を傷付けておいて何が国の為だ!」
カイがキッと顔を上げてそう言う。初めて聞く強い声、強い言葉だった。
「人を救うなら皆を救わなければならない! 犠牲の上に成り立つ幸福などあってはならない! 私の愛するこの国はそんな国ではない!! 私はそんな国絶対につくらない!!」
なぜかは分からない。その言葉を聞いて涙が溢れた。
少数の命を犠牲に多数の命を救う。それに納得している自分が恥ずかしかったのかもしれない。
カイの強い瞳が見ている未来が眩しくて、心が揺れたのかもしれない。
将来国のトップに立つカイのその言葉が嬉しかったのかもしれない。
涙は止まることなくどんどん溢れた。皆の驚く顔が見える。カイですらも。先ほどの強い瞳は驚きに塗りつぶされて私を見ていた。
なんと言ったらいいのか分からなかった。この気持ちがなんなのか分からなかった。
「……そんなあなただからこそ、皆はついて行くのですね。あなたがその志を持ち続ける限り、きっと未来には希望があふれるでしょう」
カイの魅力が分かった。攻略対象として、ではない。皇帝になる人としての。例えそれが綺麗ごとだろうと、そんな未来が見たい。今回みたいなものはもう目にしたくなかった。
ユリウス殿下よりもカイに皇位に就いてもらいたい。
グイっと手の甲で涙を拭く。その為には今はユリウス殿下のことだ。あの人がこんなことだけで終わるとは考えられない。ほとんど何も知らない人だけど、なぜかよく分かった。
カイが小さく「闇属性……」と呟くのが聞こえる。悪いけど今はこれで納得してもらうしかない。というか私だって闇属性の関してはユリウス殿下の書いたあの本で読んだくらいしかしらないし。
「闇属性は主に、人を操ったり、呪いをかけたり、毒を生成したり、といったあまり良くない使い方が多いようです。今回、わたくしは襲撃の前に眠らされたのですが、それも闇属性の魔法かと思われます」
あの魔法の獣を作ったのは闇属性なのかそれとも他の属性なのかは分からない。あれが闇属性の魔法ではないと言うのなら、私にも同じものが作れるかもしれない。作ろうとも思わないけど。
「そして、ユリウス殿下はわたくしの光属性のことを知っていて、それを国の為に使わせるために、わたくしが光属性を人前で使わなければならない状態を作ったのです」
「その為にあんなことを……!?」
カイが驚愕の表情を浮かべる。それは私も同じ気持ちだ。私が光属性を公表する気になるには、別にあそこまでする必要なんてなかったのに。
「どうして兄上はあんなにも酷いことをしたのですか? 国の為に、なのでしょう?」
本当にそうだ。皆の破れた服を見る。っていうか私達、お兄様以外まだ寝間着じゃん。今更になって恥ずかしくなってくるが、それすらも気にしている余裕がなかったのだ。さっきは。
怪我をした皆の姿が脳裏に浮かぶ。鳥肌が立って、吐き気がした。
「一人の犠牲で百人を救うのだと。ユリウス殿下はそうおっしゃっておられました」
胃から込み上げる何かを飲み込み、無理やり声を出すと乾いた声が出た。ふざけた話だとは思う。怒りも覚える。だけどそれを否定することはできない自分もいた。
「それでもここまでしないといけなかったのでしょうか?」
『光属性を公表しないとこういうことをするよ』って脅されただけでも十分私は動きそうだけど。ああ、でもその場合お兄様がいいって言わないか。それに口で言っただけじゃ信じられないのかも。それにしても規模が大きすぎると思うんだけど。目の前で一人怪我しただけでも私は光属性使うよ、きっと。
「事件は大きければ大きいほどいい。その力を見るものが多ければそれだけ早く話は広がり、なかったことにはできない。そういうことだ」
ヘンドリックお兄様が静かな声でそう言う。しかしその声が怒りを含んでいることは分かった。
私が最初から自分の光属性のことを陛下に言っていたら、そうしたらこんなことは起きなかったのかと胸が痛む。その場合私はもう生きていないかもしれないけど。
「……私の知っている兄上は優しい人だった。よくは覚えていないけど、それは確かなのに」
カイが俯く。ユリウス殿下がいなくなった時、カイは四歳。確かに記憶に残っていることは少ないかもしれないけど、だけど全部は忘れていないだろう。
陛下もヘンドリックお兄様も何も言わない。
実際、ユリウス殿下は優しい人なのかもしれない。ただ、優しさだけでは全てを救うことができないというだけで。
「国の為に、というのはそういうことなのかもしれません」
時には非情な決断も必要で、どちらかを取らないといけないという状況もあるだろう。誰よりも陛下の知っていることだ。陛下は何も言わずにただカイを見つめていた。
「国の為なら、誰も傷付けず、一つの命も軽んじないことだ。こうしてたくさんの生徒を傷付けておいて何が国の為だ!」
カイがキッと顔を上げてそう言う。初めて聞く強い声、強い言葉だった。
「人を救うなら皆を救わなければならない! 犠牲の上に成り立つ幸福などあってはならない! 私の愛するこの国はそんな国ではない!! 私はそんな国絶対につくらない!!」
なぜかは分からない。その言葉を聞いて涙が溢れた。
少数の命を犠牲に多数の命を救う。それに納得している自分が恥ずかしかったのかもしれない。
カイの強い瞳が見ている未来が眩しくて、心が揺れたのかもしれない。
将来国のトップに立つカイのその言葉が嬉しかったのかもしれない。
涙は止まることなくどんどん溢れた。皆の驚く顔が見える。カイですらも。先ほどの強い瞳は驚きに塗りつぶされて私を見ていた。
なんと言ったらいいのか分からなかった。この気持ちがなんなのか分からなかった。
「……そんなあなただからこそ、皆はついて行くのですね。あなたがその志を持ち続ける限り、きっと未来には希望があふれるでしょう」
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