池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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裏切ったのは誰?

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「話を戻しましょう。クリス」

「うん」


私が名前を呼ぶと、クリスは頷いて話し始めた。


「私は気が付いた時には外に立っていたよ」


ああ、そういえばそう言っていたな。確か他の生徒もそうだったんだよね。多分そこにいなかったのは私だけ。


「その時には攻撃が始まっていて、私はとりあえず敵を倒しながら、怪我人を運んで、エレナを探してた」


クリスが「ほら、私力はあるから」と笑う。うん、確かに。


「気が付いたら外に立っていたと言ったが、それは闇属性の魔法だろうな」


陛下がそう言う。私もそう思う。人を操る魔法とかそう言う系の魔法だろう。それにしても寮生全員を操ったうえであれだけの獣を作って、自分は別の空間にいる。それはどれだけの魔力を使うのだろうか。

魔力量も、魔法の才能もやはり普通の人とは比べ物にならない。


「一定数以上の怪我人を出したいけど、エレナだけは死んだら困るから、眠らされたのかな」

「うむ、そう考えるのが妥当だろう」


クリスに言葉に陛下が頷く。


「問題はどこから光属性のことが洩れたか、ですわ」


私はユリウス殿下に光属性が使えるということははっきりとは言っていない。切り札はあるとは言ったけど。ある程度予感があったにしても確実ではないことに人の命を賭けるとは思えない。

ユリウス殿下は私が光属性を使えることを知っていたのだ。


「わたくしの光属性のことを知っていたのはクリスとヘンドリックお兄様、ヨハン様、そして殿下だけ。誰からも情報が洩れるとは思えません」


あの事件の時に最小限に抑えた結果がこれだ。皆信用できる。この四人は絶対に誰にも話していない。あと考えられるのは……。

私がベアトリクスへ視線を向けると、ベアトリクスは退屈そうな表情で私を見た。皆の視線もベアトリクスへと集まり、ベアトリクスは少し不快そうに眉をひそめる。


「ベアトリクス様でしょう?」

「え?」


反応したのはカイだった。驚きの表情を隠さずにベアトリクスを見る。ベアトリクスの表情は全く変わらない。


「それなら誰かが彼女に言ったということかい? 一体誰が?」


ああ、そうか、そう考えるのか。クリスも困惑した表情を浮かべてきょろきょろとしている。ヘンドリックお兄様は顔色一つ変えず、何を考えているのか分からない。


「エレナが言ったの?」


戸惑いながらそう聞いて来るクリスに、私は思わず笑ってしまった。確かに他の四人よりも私が言ったと考える方が自然ではある。前よりは少し仲良くなったし。


「誰も言っておりませんわ」


だけど私ではない。他の誰でもない。誰も私の光属性のことは外に洩らしていない。


「ベアトリクス様はかなり目が良いようですわね」


そう言うと、ベアトリクスは深く息をついて静かな声で話し始めた。


「殿下は青、クリスティーナは緑、エレナのお兄様も青、陛下は赤」


皆が困惑しているのが分かる。お兄様と陛下は表情には出さないけど。多分分かっているのは私だけ。私だって当てずっぽうだし。多分そうだと思っただけ。


「え、何? 何の色?」


クリスが全く理解できていない顔で私を見る。対して陛下とお兄様は理解できたようだ。カイは黙り込んで考えている。頭を使うのは良いことだ。


「マクシミリアン様は茶色」


私はカイへと少しヒントを出す。するとカイははっと顔を上げて、「レオンは赤、か?」と言った。

はい、正解。


「あの方は黒。エレナは、金色」


ベアトリクスはそう続ける。


「わたくしはそう言っただけですわ」


嘘をついていないのは顔を見ただけで分かる。本当にベアトリクスはそう言っただけなのだろう。


「そなたには魔力が見えるのか」


陛下が聞き、ベアトリクスが頷く。いくら私が魔法を使って探しても見つからないわけだ。ベアトリクスは私の魔力を避けて逃げればいいだけの話なのだから。

私には見えない風の獣の場所を言い当てた時、もしかして、と思った。そしてユリウス殿下の異空間を見つけ出した時、少しの確信があった。

私の知らないゲームの裏設定なんて今更珍しくない。


「一年ほど前、学校内を歩いていて、わたくしは偶然、あの方の異空間を見つけてしまったのです」


あー、ユリウス殿下をずっと探していたけど結構近くにいたんだな。いやまあ異空間に隠れられたらこっちからは全然分かんないし。それにしても結構リスクが高いことしてたんだ。こっちからあっちが分からないのと同じようにあっちからもこっちが分からないはずだから。

だからベアトリクスに会ったのか。

何気ないベアトリクスの言動から魔力を見ることができることを知り、私の切り札の正体を暴こうとした。おそらくある程度の確信はあったのだろう。そしてその結果、ユリウス殿下の知りたい情報をベアトリクスは与えてしまった、と。

要約するとそんな感じだった。


「どうしてそなたはあれに情報を与えた。黒い魔力など信用していいものではないと思わなかったのか?」


魔力の色は人間性とは関係ない。それでも闇属性の魔法は人に害を与えるものばかりだ。ベアトリクスはそれを知らなかったのかもしれない。

そう考えているとベアトリクスは首を横に振った。


「黒でも金でも関係ありません。わたくしはこの目で見たものを人に言うことはございません」


……魔力が見えるならベアトリクスはずっと私の属性が普通ではないことを知っていたはずだ。だけどそのことは噂にもなっていない。他の生徒達の中では私は魔法が上手な女の子だと、そういう認識だった。

つまり、私のことを敵対視していて嫌がらせはいっぱいしてきたけど、魔力のことに関しては何も言っていないということ。となると、どうして今になってユリウス殿下の言葉に従ったのか。

何にせよ、ユリウス殿下は一枚も二枚も上手なのだと思い知らされた。
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