池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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消えた魔法薬

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話はこれで終わりかな。大体全体像はつかめたし。少なくとも私はもう話すことはない。

あー、疲れた。早くベッドで横になりたい。今すぐ伸ばした背筋を丸めて背もたれによりかかりたいくらいだ。こういう時クリスが羨ましくなる。

横目で背もたれに沈むクリスを見ると、クリスは不思議そうな顔で私を見た。

……本当にこんな令嬢はクリスだけだ。そしてそれで許されるのもクリスだけだ。


「父上、話は以上でしょうか。そろそろエレナを休ませてあげなければ」


ああ、カイ、優しい……!

カイが言わなかったら私から言っていたであろうその言葉は、陛下に向けて言うにはかなり失礼だ。もう結構失礼な態度で話しているので今更だけど。

だけどカイは気を遣ってくれたのだろう。息子のカイから言うほうが陛下も引っ掛からないだろうし。

しかし優しくない人はいた。今日はあまり喋っていないから忘れていたけど。


「まだです。もう一件報告が」


横から聞こえて来た声に私はがっくりと肩を落とす。ヘンドリックお兄様は本当に……!

いやでも今日はお兄様も疲れているはずだ。何せ最後まで残って戦ってくれたのだから。その疲れているお兄様に私の気持ちが分からないわけがないだろう。つまりこれは本当に必要な報告なのだ。

そう自分に言い聞かせてお兄様を見る。くだらないことなら文句を言ってやろうと決心して。


「紛失していた二つの魔法薬のうち、一つが見つかりました」


あああー! すっかり忘れていた。全然くだらなくない報告だし! というかそれ飲んだの私だし!!

ってあれ? 二つ?


「殿下よりエレナの手に渡り、既に飲んでおります」


はい、飲んでます。そのおかげで魔力は満タンになりました。その後半分くらい使ってしまったけど。

陛下は私の顔を見て頷いた。


「もう一つの行方は分かりません。殿下が飲んでいるかもしれないし、まだ手元に残っているかもしれません。殿下を捉えないことには何とも……」


なくなった魔法薬が二つ。一つは私が飲んでもう一つは行方知れず。

根拠はない。だけどユリウス殿下は飲んでいないと思う。三年生の今。このタイミングでなくなるなんて可能性は一つしか思い浮かばない。

もう少ししたらもう一人の光魔法の使い手が見つかる。魔法薬を飲めない平民の中から。

魔法薬を飲まないと魔法が使えないこの世界でどうやってリリーは使えるようになったのかと思っていたけど、ユリウス殿下が魔法薬を与えたのかもしれない。

となるとゲームの世界ではユリウス殿下は自力であの空間から脱出していたことになるけど……あり得そうだ。

もしくはリリーが私と同じように魔法薬を飲まなくても魔法を使えるとか? でも私には魔法石があったけどリリーにはないし……。

まあこの流れだったらユリウス殿下からリリーに魔法薬が渡るかな。

うん、まあそれは別に私にとっては特に問題ないし、国にとってもいいことだ。光属性の使い手は多いにこしたことはないだろう。大体本来の光属性の使い手はリリーだし。

リリーを張っておけば魔法薬は取り返せるかもしれないけど、これに関しては私は知らないふりをしてっと……。

ふと顔を上げるとヘンドリックお兄様と視線が合った。偶然ではない。お兄様が私を見ていた。まさか私の考えが読まれてるとか? いやでもリリーのことは誰も知っているはずがない。私は知らないふりをするだけだ。

不自然にならないように視線をそらし、少し下を向く。


「あれが魔法薬を必要とするほど魔力を使う予定があると考える方が自然だな」


……ユリウス殿下が自分で飲むと考えているのか。まあ貴族の子なら皆魔法薬は与えられるからそれくらいしか使い道がないもんね。

まさか平民から光属性の使い手が出てくるなんて考えられないだろうし。


「とりあえずそなた達にはユリウスの捜索を頼む。些細な情報でも私のところへ持って来てくれ」


陛下はそう言うと立ち上がって部屋を出て行った。

あー、終わった。早く部屋に戻ってベッドで寝よう。ああ、家に帰らないとなんだっけ。でももう疲れたしな。ひと眠りしてからでいっか。

部屋を出ようと立ち上がると、視線を感じた。見られているのは分かる。だけど無視無視。私はこれから寝るんだ。もう部屋に戻るんだ。

クリスがそちらを気にした様子で私の後をついて来る。部屋を出たところでベアトリクスを置いてきてしまったことに気が付いた。いくらベアトリクスといってもさっきの今で一人は心細いだろう。

一緒に寮まで行こうと振り返ると、そこにはすごく不満そうな顔をしたヘンドリックお兄様が立っていた。

……怒ってらっしゃる。無視をしただけでそんなに怒らなくてもいいじゃん。大体声すらかけられていないんだから。

ジーっと見られ、私はため息を吐いた。


「クリス、殿下とベアトリクス様と先に寮へ帰っていてちょうだい。お兄様と少し話してから戻るわ」


私がそう言うとクリスはあからさまにほっとした顔をして頷いた。よほどお兄様が怖かったようだ。

三人が歩いて行く背中を見ながら私はお兄様に聞いた。


「どうされましたの? まだお話しすることが?」

「魔法薬について何を知っている」


ああー……ばれてたか。顔に出した覚えはないんだけどな。野生の勘ってやつ? ああ、全然野性味はないか。

知らないふりをしたってごまかされてくれるとは思えない。私はにっこりと笑って首を傾げた。


「わたくし顔に出てましたか?」


私の作り笑顔を見てお兄様は不快そうな顔をする。


「出ていなさ過ぎたんだ。普段のお前ならもっと不思議そうな顔をする」


兄妹というのはやはりすごい。そんなことで分かるなんて。


「今後、光属性の使い手がもう一人現れますの。魔法薬はそこへ届くのではないかと」


どうしてそんなことを知っていると聞かれても私は答えられない。ゲームで知ってます、なんて言ったところでって感じだし。信じるか信じないかはどっちでもいい。どっちにしろ私はこれ以上話す気はないから。


「どうしてそんなことが分かる。殿下に聞いたのか?」

「いいえ、分かるのではなく知っているのです」

「……そうか」


え、あれ? それでいいの? それで納得しちゃうの?

もっと追及されるものだと思っていた私が目を丸くしていると、お兄様は表情を変えずに言った。


「お前がそう言うのならそうなんだろう」


そのままお兄様は歩いて行ってしまう。私は一人、その背中を見て立ち尽くした。

……まあいいか。
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