池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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往来の騒ぎ

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学校が再開するまで、そう時間はかからなかった。

寮へ戻るために屋敷から出ると眩しい日の光が私を刺した。目を細めて空を見る。久しぶりの外の空気だ。

休みの間は家にずっと引きこもっていた。アリアが出してくれなかったからだ。私が光属性を使えるということは貴族の間で知らない人はいないだろうから、と。魔法省くらいは顔を出してもいいかと言おうと思ったけど、あのマルゴット様に会ったら絶対に面倒だ。

お兄様からは魔法省へ来るようにと魔法が飛んできたが、無視した。今頃すごく怒っているかもしれない。

というか陛下からの呼び出しがなかったのが結構驚き。光属性を使って欲しいというお願いがあるかと思っていたけど……意外と怪我とか病気で困ってる人も少ないのかな。

目の前に止められた馬車へと乗り込むと、既にクルトお兄様が乗っていた。


「お待たせして申し訳ありません」

「いいや、待ってないから大丈夫だよ」


爽やかな笑顔でそう言うクルトお兄様。しかしすぐにその表情が曇る。


「学校に着いたら僕から離れないでね」


家にいる数日間で何度も言われた言葉だった。皆私の光属性を求めて騒ぐだろうから、と。でもそれはないと思っている。だってリリーが編入した時、皆遠巻きに見るだけでそんな反応していなかったもん。最初に話しかけてきたのはカイだったもん。

クルトお兄様は心配しすぎだ。だけど私のことを思っての心配は嬉しいので喜んで隣にいさせてもらおう。


「ありがとうございます、お兄様」


すっかり上機嫌になった私は、流れる景色を窓から見ていた。


学校の前で馬車は止まる。扉が開いて外へ出ると、そこには頭を抱えたくなる光景が広がっていた。


「久しぶりだね、エレナ」

「よお! 元気だったか?」

「明日からまた学校だね」

「会いたかったよ、エレナちゃん」


……どうして学校の前に皆が並んでいるんだろう。

カイにレオンにマクシミリアンにフロレンツ。勢ぞろいだ。丁度今学校に着いた他の子達がチラチラとこっちを見ているのが分かる。

果たして私を見ているのか、このイケメン集団を見ているのか。

ため息が出た。私はクルトお兄様を見る。お兄様も驚きの表情を浮かべて固まっている。そりゃそうだ。皇子に公爵家と侯爵家の息子。ついでに自分の従兄弟。それが明らかに私を待っていたのだから。


「ごきげんよう、皆様。ではクルトお兄様、行きましょう」


笑顔で挨拶だけして歩き出すと、後ろでお兄様が「いやいやいや」と焦っていた。


「エレナ、殿下たちは絶対にエレナを待ってたんだよ? 一緒に行けばいいじゃないか」

「あら、わたくしはお願いも約束もしておりませんわよ?」


勝手に待っていただけじゃないかと、振り向いてカイ達にも聞こえるようにそう言うと、四人とも表情一つ変えずに頷いた。

私は再び歩き出す。横でクルトお兄様が後ろを気にしてチラチラを振り返っている。四人が少し離れて後ろをついてきているのが分かった。

大体私はカイ達攻略対象とどうこうなりたいなんて思っていないのだ。もちろん、皆かっこいいとは思うけど。でも現実と画面の中では話が違う。私は伯爵家のモブなのだ。とりあえずフラグは叩き折っていくに限る。

周りからの視線を受けながら私は歩く。クルトお兄様はもう既に後ろの四人を気にすることなく周りへと気を配っている。

そんなに警戒しなくてもいいじゃん。そう思った時だった。


「フィオーレ伯爵令嬢!」


一人の男子生徒が私の前へとやって来て、膝をついた。ゲッと思わず足を止める。な、何……。


「お願いします、その力をお貸しください! 母が病気なんです! このままでは……!」


え、待って、この人って上級生で、しかも侯爵家の人じゃない? なんで敬語なの? なんで膝をついてるの?

混乱して固まる。


「私にもお願い!」

「俺の妹にも!」


皆がそう声を上げながら近づいて来る。気が付けば私はたくさんの生徒に囲まれていた。

いやいや、待ってよ、どういう状況? だってゲームでは……リリーの時はこんなこと一回もなかったじゃん。そう思ってハッと気が付いた。

平民だからか……!!

クルトお兄様が私の前に立って生徒たちにどいてもらうように言うが、皆全く聞いていない。親が、兄弟が、婚約者が、友達が、と聞こえてくるのはそればかりだ。

あー、しまったー……どうしようかと周りを見る。別にけがや病気を治すのは一向にかまわない。私だって助けられるなら助けたいし。でも今こうして囲まれたところでどうにかできるものでもない。


「この集団は何かしら。とても邪魔でしてよ」


よく通る高い声が耳に入り、皆が一斉に口をつぐむ。


「ねえ、殿下もそう思いませんこと?」

「ああ、往来でこの騒ぎは少し迷惑かもしれないね」


振り向くと、そこにはカイ達と一緒にベアトリクスが立っていた。ベアトリクスの後ろからクリスも顔を出す。

あー、助かったわー……。

とても心強いメンバーたちに胸をなでおろす。権力も気の強さも冷静さも兼ね添えている面子だ。その中にベアトリクスが入っているって言うのがちょっと笑ってしまうけど。


「で、殿下……!」


ざわざわと私の周りの生徒たちが少し離れる。気持ちはよく分かる。分かるので、ここで無視してしまうのはちょっと良心が痛む。


「殿下、今病気や怪我をされている方の件について、どうなっておられますの?」


私には何も言われていない。だけど陛下はきっと色々と準備をしているだろう。カイがそのことについてどこまで知っているか分からないけど。


「その件については順調だよ。そう遠くない内にエレナにお願いすることになると思う」


殿下の言葉で皆がほっと胸をなでおろした。よし、これでここから離れられるな。


「エレナ、早く寮に行こう。明日からの準備をしないと」

「ええ、そうね」


特に準備なんて何もないけど、そう頷いてクリスと歩き出すと、クリスとは反対の方にベアトリクスが並んだ。ちょっと前までは考えられなかった三人に、私は思わず頬があがってしまった。
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