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攫われた私
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「あー、お腹すいたね。このまま食堂に行っちゃおうか」
「そうですね、もう遅い時間ですし」
そんなふうに話すクリスとリリーを後ろから眺める。
……リリーが私の立場だったらきっとヘンドリックお兄様の期待にも応えられていたんだろうなぁ。
なんてうじうじ考えていると、リリーがくるっと振り向いて私の方を見た。朗らかな笑顔を私へと向けてくれる。
「それでいいでしょうか、エレナ様」
「ええ、大丈夫よ」
「エレナ様もお腹空きましたよね!」
「もうペコペコだわ」
明るくて可愛いリリー。あのヘンドリックお兄様と一対一でも同じ笑顔を浮かべることのできるリリー。
ヒロインは彼女だ。
リリーがふふっと笑って再び前を向いた。
そしてハッとする。思わず右手で口を抑える。
……もしかして私今嫉妬してた? リリーに対して? モブの私がヒロインのリリーに?
ちょっと魔法が使えても、私はモブなのだ。リリーの方が優れているのは当たり前で、そんなこと分かりきっていたはずなのに。
いけないいけない。驕っていた。ちょっと周りから特別扱いをされていい気になっていた。
これでいいのだ。これが正しいゲームの在り方。
二人の背中を見てふう、と息を吐く。私はただ出来ることをやるだけ。カイとリリーがこの国を守り、導くために。明るい未来のために。
そう思った時だった。後ろからガッと口を押さえられ、そして身動きが取れないよう、すごい力が私の体を締め付ける。
え、何!? ちょっと、痛いんだけど!
全然状況が飲み込めなくて反応が遅れた。魔法を使ってどうにかしようとしたが、魔法が使えない。
……魔力が動いているのは分かる。でもそれが魔法にならない。こんなこと初めてだ。
クリスがどうにか助けてくれないかと視線を上げるが、クリスとリリーの背中はいつの間にかとても遠くに。
やばい、二人とも全然気付いてない! これ自力でどうにかするしかないじゃん! っていうか誰よ!!
相手が一人ではないことは分かる。男の人だってことも分かる。だけどそれしか分からない。
相手は徹底していた。私の視界に入らないよう。声一つ出さないよう。
私に姿を見られて困る相手? そんな人がわざわざ自分で拉致しに来るなんて思えないけど。
なんてことを考える。
魔法も使えず、自分よりも強い力で固められ、もう何もできなかった。
ああ、誰か助けて……!
心からそう思った時、強い衝撃と鈍い痛みが頭に走った。
うっわ、容赦なさすぎ。なんてことを考え、そして私の意識はそこで途切れてしまった。
次に目が覚めた時にまず感じたのは痛みだった。頭がガンガンする。どうにか体を起こして痛む場所を押さえると、パリッととしていた。
え、何、頭が、というか髪がパリパリなんだけど。びっくりして手を引っ込めると、その掌の中には赤黒い小さな塊がいくつもくっついていた。
……もしかして、血? 殴られて出た血が固まってるの?
あらためて周りの様子を見てみる。
木でできた小さな建物。いや、建物というのも憚られる小屋。土やら葉っぱやらが落ちていてお世辞にも綺麗とは言えない。ドアは目の前に一つだけ。鍵がかかっている感じではなさそうだ。小さな窓から入る光で今が夜ではないことは分かる。
そして、私の手も足も拘束をされていない。動こうと思ったら自由に動ける。頭は痛いけど。気になるのは両手首にはめられた枷のようなもの。
……これって普通動きを制限するためにつけるんだよね。鎖も何もついてないけど何か意味があるのかな?
いろいろな角度から眺めたり、いじったりしてみるが、はずれそうな感じはない。
うーん、とりあえず脱出したいところだけど、外に誰かいたりするのかな。まあ攫っておいて放置はないよね。
頭の怪我を治せるか試してみる。が、やはり魔法は使えない。意識してみると、魔法へと変換しようとした魔力は全て手首の枷へと吸い込まれていくのが分かった。
なるほど、魔法を使えなくするためのものか。これは困ったな。
武器もなく魔法も使えないとなると、私は対して戦えない。あー、体術か何かが必要だったな。
まさか剣と魔法のファンタジーで、その二つが使えなくなるとは。
そんな呑気なことを考える。焦っていないわけではない。だけど焦ったってどうしようもない。大体私を攫った理由がわからない。
とはいえ、心当たりはなくとも攫われたって不思議ではない立ち位置なのが私なのだが。
まずは交渉の余地があるか、だね。私の魔法が目当てなら悪いようにはされないはず。
外から足音が聞こえる。ふー、と深く息をついて心を落ち着かせる。
大丈夫。攫われたのが夜。それが昨日なのか一昨日なのかは分からないけど、今は日中。少なくとも半日は経っていると思う。
今頃皆が私を探してくれているはず。できれば自力で脱出。無理だったら救出を待って時間稼ぎ。
目標はこれだ。
ガタガタと乱暴にドアが開けられ、私は眩しさに目を細めながらも、顔を上げて相手を見据えた。
「そうですね、もう遅い時間ですし」
そんなふうに話すクリスとリリーを後ろから眺める。
……リリーが私の立場だったらきっとヘンドリックお兄様の期待にも応えられていたんだろうなぁ。
なんてうじうじ考えていると、リリーがくるっと振り向いて私の方を見た。朗らかな笑顔を私へと向けてくれる。
「それでいいでしょうか、エレナ様」
「ええ、大丈夫よ」
「エレナ様もお腹空きましたよね!」
「もうペコペコだわ」
明るくて可愛いリリー。あのヘンドリックお兄様と一対一でも同じ笑顔を浮かべることのできるリリー。
ヒロインは彼女だ。
リリーがふふっと笑って再び前を向いた。
そしてハッとする。思わず右手で口を抑える。
……もしかして私今嫉妬してた? リリーに対して? モブの私がヒロインのリリーに?
ちょっと魔法が使えても、私はモブなのだ。リリーの方が優れているのは当たり前で、そんなこと分かりきっていたはずなのに。
いけないいけない。驕っていた。ちょっと周りから特別扱いをされていい気になっていた。
これでいいのだ。これが正しいゲームの在り方。
二人の背中を見てふう、と息を吐く。私はただ出来ることをやるだけ。カイとリリーがこの国を守り、導くために。明るい未来のために。
そう思った時だった。後ろからガッと口を押さえられ、そして身動きが取れないよう、すごい力が私の体を締め付ける。
え、何!? ちょっと、痛いんだけど!
全然状況が飲み込めなくて反応が遅れた。魔法を使ってどうにかしようとしたが、魔法が使えない。
……魔力が動いているのは分かる。でもそれが魔法にならない。こんなこと初めてだ。
クリスがどうにか助けてくれないかと視線を上げるが、クリスとリリーの背中はいつの間にかとても遠くに。
やばい、二人とも全然気付いてない! これ自力でどうにかするしかないじゃん! っていうか誰よ!!
相手が一人ではないことは分かる。男の人だってことも分かる。だけどそれしか分からない。
相手は徹底していた。私の視界に入らないよう。声一つ出さないよう。
私に姿を見られて困る相手? そんな人がわざわざ自分で拉致しに来るなんて思えないけど。
なんてことを考える。
魔法も使えず、自分よりも強い力で固められ、もう何もできなかった。
ああ、誰か助けて……!
心からそう思った時、強い衝撃と鈍い痛みが頭に走った。
うっわ、容赦なさすぎ。なんてことを考え、そして私の意識はそこで途切れてしまった。
次に目が覚めた時にまず感じたのは痛みだった。頭がガンガンする。どうにか体を起こして痛む場所を押さえると、パリッととしていた。
え、何、頭が、というか髪がパリパリなんだけど。びっくりして手を引っ込めると、その掌の中には赤黒い小さな塊がいくつもくっついていた。
……もしかして、血? 殴られて出た血が固まってるの?
あらためて周りの様子を見てみる。
木でできた小さな建物。いや、建物というのも憚られる小屋。土やら葉っぱやらが落ちていてお世辞にも綺麗とは言えない。ドアは目の前に一つだけ。鍵がかかっている感じではなさそうだ。小さな窓から入る光で今が夜ではないことは分かる。
そして、私の手も足も拘束をされていない。動こうと思ったら自由に動ける。頭は痛いけど。気になるのは両手首にはめられた枷のようなもの。
……これって普通動きを制限するためにつけるんだよね。鎖も何もついてないけど何か意味があるのかな?
いろいろな角度から眺めたり、いじったりしてみるが、はずれそうな感じはない。
うーん、とりあえず脱出したいところだけど、外に誰かいたりするのかな。まあ攫っておいて放置はないよね。
頭の怪我を治せるか試してみる。が、やはり魔法は使えない。意識してみると、魔法へと変換しようとした魔力は全て手首の枷へと吸い込まれていくのが分かった。
なるほど、魔法を使えなくするためのものか。これは困ったな。
武器もなく魔法も使えないとなると、私は対して戦えない。あー、体術か何かが必要だったな。
まさか剣と魔法のファンタジーで、その二つが使えなくなるとは。
そんな呑気なことを考える。焦っていないわけではない。だけど焦ったってどうしようもない。大体私を攫った理由がわからない。
とはいえ、心当たりはなくとも攫われたって不思議ではない立ち位置なのが私なのだが。
まずは交渉の余地があるか、だね。私の魔法が目当てなら悪いようにはされないはず。
外から足音が聞こえる。ふー、と深く息をついて心を落ち着かせる。
大丈夫。攫われたのが夜。それが昨日なのか一昨日なのかは分からないけど、今は日中。少なくとも半日は経っていると思う。
今頃皆が私を探してくれているはず。できれば自力で脱出。無理だったら救出を待って時間稼ぎ。
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