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価値観のずれ
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人には向き不向きがある。それは確かにそうなんだろうと思う。実際、出来ないことは出来ないし、私にできるからって他の人にできるとも限らない。逆もしかり、だ。
つまり、あの一件でお兄様はそれを再認識して、私には出来ないから、と探す必要はないと言った。なるほど。失望されて突き放されたと思っていたのは私だけだったのか。
「納得がいきました。説明してくださりありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ次は殿下の件だね」
「はい」
ヨハンってかっこいいな。優しくてスマートで、大人の男の人って感じ。ヘンドリックお兄様にはない全てを持っている感じ。これはリリーだって好きになるわ。
……できることなら私の婚約者もヨハンみたいな人だったらよかったのに。なんて考えたって仕方のないことを思う。
そういえばラルフはどうしているのだろうか。私が寝ている間お見舞いなんて絶対に来なかっただろうし。まあ別に来て欲しいなんて思わないけど。
「さっきエレナちゃんは、殿下が魔法学校の生徒を傷つけた犯罪者だって言ったよね」
「ええ」
「次に誰が傷つけられるか、命を落とすかって」
「はい、その通りです」
はっきりと頷いた私を見てヨハンは真剣な表情を浮かべた。真っ直ぐなその目はまるで私が間違っているとでも言いたそうで、少したじろいでしまう。
「確かにそれは私もヘンドリックも気を付けていた。だからこそ、早く殿下を見つける必要があったんだ」
どうしてヨハンは過去形で話をしているのだろう。もう見つける必要はないと言うのだろうか。
「今回、殿下と話をしたと言っただろう? あの方の目的は今までもこれからも、国をより良くする、本当にそれだけなんだよ」
「……知っております。だけど、それなら人の命を奪うことが許されるのでしょうか?」
百人の命を救う為には一人の命が犠牲になることも厭わない。そう言ったユリウス殿下の言葉が忘れられない。
過程や結果はどうあれ、人の命を奪うことはいけないことだ。私はそう教えられて育ってきた。綺麗事ではない。それが私の中の常識なのだ。
「あの一件を陛下が問題視していないのは、結果としてたくさんの命が救われたからですか?」
「あれは光属性の存在を公にするには有効な手段だったと陛下は思っている」
その口ぶりで分かった。例えあの時に何人が死のうとも、きっと陛下は問題視しなかったこと。そして、ヨハン本人もあの方法はアリだったと思っていること。
「……理屈は分かります。ですが、それを許すのは話が別ではありませんか?」
結果はどうあれ罪は罪。そう思うのは間違っているのだろうか。
「……うん、そうだね」
ヨハンが頷いてくれたのが嬉しくて、勢いよく顔を上げる。しかしヨハンの表情は私が思っていたのとは全然違った。
何かを諦めたような表情。どうしてそんな顔をしているんだと聞くことはできなかった。
「だけど、陛下が許す限り、この国にあの方を裁くことのできる人間はいないんだよ」
それが本心からの言葉であることは分かった。だけど、違う。心からそれを悔しがり、残念に思い、だけど仕方がないと思っている。そんな表情。
その瞬間気が付いた。根本から違うのだ。
「……もしも、クリス一人を差し出すことで千人が救われるなら、ヨハン様はどうされますか?」
私の唐突の問いに不思議そうな顔をするヨハン。しかし迷わず口を開く。
「クリスを差し出すよ」
「では百人でしたら?」
「答えは変わらない」
「十人でも?」
「うん」
「では、二人でしたら?」
そこでヨハンは口をつぐんだ。少し考えて、そして言う。
「それはちょっと迷うね」
「……そうですか。少し、一人にしていただけませんか?」
俯いてそう言うと、ヨハンは静かに頷いて立ち上がった。そのまま部屋を出ていく。
ヨハンは優しい。ヘンドリックお兄様のようにぐさぐさと言葉を選ばずに喋らない。だからなかなか分からなかった。
つまり、私の価値観とこの世界の価値観が違うのだ。
あっちの世界では、命はとても大切なものです。何があっても人を殺してはいけません。
そう教えられた。だけど、こっちの世界では、命はとても大切なものです。できるだけ人を殺してはいけません。
そんな感じだ。基本は一緒。だけど決定的な違い。だから微妙に話が通じていなかった。お互いに。
私だったら例え千人が救われるとしてもクリスを差し出すことを迷いなく決めることは出来ない。迷った結果、自分がどうするかは別にして、迷いなく答えることなんて出来ない。相手が二人になって初めて迷うなんて、兄としておかしい。この世界ではそれは当たり前の考えなのか。それとも、頭の良いヨハンだからそう言うのだろうか。
そう考えると、あの時、犠牲の上に成り立つ幸福などあってはならないと言ったカイの言葉は、他の人にはどんな風に聞こえたのだろうか。
ベッドに横になって大きく息を吐くと、一緒に涙が溢れた。
ヨハンや皆がどう思っていようと、誰かのために命が失われることは許されない。私の心は変わらない。
とりあえず協力すべきはカイだ。比較的私の考えに近いカイ。あとはリリー。ゲームの進行上、バッドエンドにさえ入らなければ近しい人が死ぬことはないと思う。だけどそのゲームのストーリーもどのくらいズレているかは分からない。
こうなれば仕方がない。ヨハンやお兄様が何もしてくれないのなら私がユリウス殿下を止める。グイッと涙を拭って、そう決意した。
つまり、あの一件でお兄様はそれを再認識して、私には出来ないから、と探す必要はないと言った。なるほど。失望されて突き放されたと思っていたのは私だけだったのか。
「納得がいきました。説明してくださりありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ次は殿下の件だね」
「はい」
ヨハンってかっこいいな。優しくてスマートで、大人の男の人って感じ。ヘンドリックお兄様にはない全てを持っている感じ。これはリリーだって好きになるわ。
……できることなら私の婚約者もヨハンみたいな人だったらよかったのに。なんて考えたって仕方のないことを思う。
そういえばラルフはどうしているのだろうか。私が寝ている間お見舞いなんて絶対に来なかっただろうし。まあ別に来て欲しいなんて思わないけど。
「さっきエレナちゃんは、殿下が魔法学校の生徒を傷つけた犯罪者だって言ったよね」
「ええ」
「次に誰が傷つけられるか、命を落とすかって」
「はい、その通りです」
はっきりと頷いた私を見てヨハンは真剣な表情を浮かべた。真っ直ぐなその目はまるで私が間違っているとでも言いたそうで、少したじろいでしまう。
「確かにそれは私もヘンドリックも気を付けていた。だからこそ、早く殿下を見つける必要があったんだ」
どうしてヨハンは過去形で話をしているのだろう。もう見つける必要はないと言うのだろうか。
「今回、殿下と話をしたと言っただろう? あの方の目的は今までもこれからも、国をより良くする、本当にそれだけなんだよ」
「……知っております。だけど、それなら人の命を奪うことが許されるのでしょうか?」
百人の命を救う為には一人の命が犠牲になることも厭わない。そう言ったユリウス殿下の言葉が忘れられない。
過程や結果はどうあれ、人の命を奪うことはいけないことだ。私はそう教えられて育ってきた。綺麗事ではない。それが私の中の常識なのだ。
「あの一件を陛下が問題視していないのは、結果としてたくさんの命が救われたからですか?」
「あれは光属性の存在を公にするには有効な手段だったと陛下は思っている」
その口ぶりで分かった。例えあの時に何人が死のうとも、きっと陛下は問題視しなかったこと。そして、ヨハン本人もあの方法はアリだったと思っていること。
「……理屈は分かります。ですが、それを許すのは話が別ではありませんか?」
結果はどうあれ罪は罪。そう思うのは間違っているのだろうか。
「……うん、そうだね」
ヨハンが頷いてくれたのが嬉しくて、勢いよく顔を上げる。しかしヨハンの表情は私が思っていたのとは全然違った。
何かを諦めたような表情。どうしてそんな顔をしているんだと聞くことはできなかった。
「だけど、陛下が許す限り、この国にあの方を裁くことのできる人間はいないんだよ」
それが本心からの言葉であることは分かった。だけど、違う。心からそれを悔しがり、残念に思い、だけど仕方がないと思っている。そんな表情。
その瞬間気が付いた。根本から違うのだ。
「……もしも、クリス一人を差し出すことで千人が救われるなら、ヨハン様はどうされますか?」
私の唐突の問いに不思議そうな顔をするヨハン。しかし迷わず口を開く。
「クリスを差し出すよ」
「では百人でしたら?」
「答えは変わらない」
「十人でも?」
「うん」
「では、二人でしたら?」
そこでヨハンは口をつぐんだ。少し考えて、そして言う。
「それはちょっと迷うね」
「……そうですか。少し、一人にしていただけませんか?」
俯いてそう言うと、ヨハンは静かに頷いて立ち上がった。そのまま部屋を出ていく。
ヨハンは優しい。ヘンドリックお兄様のようにぐさぐさと言葉を選ばずに喋らない。だからなかなか分からなかった。
つまり、私の価値観とこの世界の価値観が違うのだ。
あっちの世界では、命はとても大切なものです。何があっても人を殺してはいけません。
そう教えられた。だけど、こっちの世界では、命はとても大切なものです。できるだけ人を殺してはいけません。
そんな感じだ。基本は一緒。だけど決定的な違い。だから微妙に話が通じていなかった。お互いに。
私だったら例え千人が救われるとしてもクリスを差し出すことを迷いなく決めることは出来ない。迷った結果、自分がどうするかは別にして、迷いなく答えることなんて出来ない。相手が二人になって初めて迷うなんて、兄としておかしい。この世界ではそれは当たり前の考えなのか。それとも、頭の良いヨハンだからそう言うのだろうか。
そう考えると、あの時、犠牲の上に成り立つ幸福などあってはならないと言ったカイの言葉は、他の人にはどんな風に聞こえたのだろうか。
ベッドに横になって大きく息を吐くと、一緒に涙が溢れた。
ヨハンや皆がどう思っていようと、誰かのために命が失われることは許されない。私の心は変わらない。
とりあえず協力すべきはカイだ。比較的私の考えに近いカイ。あとはリリー。ゲームの進行上、バッドエンドにさえ入らなければ近しい人が死ぬことはないと思う。だけどそのゲームのストーリーもどのくらいズレているかは分からない。
こうなれば仕方がない。ヨハンやお兄様が何もしてくれないのなら私がユリウス殿下を止める。グイッと涙を拭って、そう決意した。
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