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誤解
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「……どうしてユリウス殿下はお兄様方にその話を持ちかけたのでしょう?」
あのユリウス殿下がわざわざ私の救出に関してお兄様を挟むとは思えない。
だって多分私の居場所を見つけることなんて簡単にできただろうし。ユリウス殿下は勝手に動きそうなのに……。
「あ、あのね、私たち、エレナの場所が分からなくて……」
クリスが口を開く。
「ええ、それで?」
「殿下が、エレナを助け出して、場所を教える代わりに誘拐犯を差し出して欲しいって」
「私たちはお前を救出でき、殿下は犯人が手に入る。どうせお前を攫うような人間だ。必要ない」
「黒幕は誰だったのですか?」
「魔法省の人間だ。リリーと仲良くなり、お前の存在が邪魔だったんだと」
そういうことか。居場所が分からない私の救出と、犯人を交換。私がお兄様の立場でもそう悪い条件ではないかもしれない。
……でも、あそこに来たのがユリウス殿下じゃなかったら、きっと命を取られることはなかっただろう。そう考えてしまう。
「お前は無事に救出され、私たちに損害はない。何か問題があるか?」
確かにそうだ。問題はない。ただ私を誘拐した人も、ちゃんと血の通った人間だっただけ。もしこれを口に出せば、危険な目に遭ったくせに、と言われるのは分かっている。だから言えない。
「……いいえ、問題はありません。助けて下さってありがとうございます」
きゅっと唇を結ぶと、お兄様は何か言いたそうな顔で私を見た。しかし口を開くことはなかった。
「私は他に仕事がある。ヨハン、後は頼んだ。陛下への報告はしておく」
「ああ、分かったよ」
そのままお兄様は部屋を出て行った。残ったのは私とヨハンとクリス。さっきお兄様がヨハンに聞けと言っていた詳しい話を聞こうと、ヨハンに向き直る。するとヨハンはクリスを見て言った。
「クリス、皆にエレナちゃんが起きたことを報告してきてくれないか? その辺りのことはヘンドリックにはまず期待できないし」
「あ、うん」
頷いて立ち上がったクリスがふと、私とヨハンの顔を見る。
「でも私がいなくなったら部屋に兄様とエレナの二人になるよ。よくないんじゃない?」
「大丈夫だよ。何かあったら責任は取るから。ね?」
ヨハンが私に同意を求めてくる。責任を取るっていうと、誤解はちゃんと解いてくれるってことだよね。それならまあ別に。ヨハンと二人になったからといって何かが起こるなんてあり得ないし。
「ええ、まあ」
「エレナがそう言うならいっか。じゃあ行って来るね。できるだけ早く戻るから」
早く皆に報告がしたかったのだろう。クリスは嬉しそうにそわそわと部屋を出て行った。まあ私も早く皆に会いたい。皆がずっと待ってくれていたことは知っているから。
「さて、じゃあまずはヘンドリックのことを話そうか」
「え? お兄様、ですか? どうかされましたか?」
てっきりユリウス殿下の話をしてくれるのかと思っていた。お兄様の話なんて別に何もないけど……。
首を傾げると、ヨハンは「クリスに聞いたよ」と言った。
「クリスもだけど、エレナちゃんはちょっと誤解しているみたいだから」
「えっと、何の話でしょう?」
「ヘンドリックに突き放されたって聞いたけど?」
お兄様に突き放された。そう言われて思い浮かんのは私がエレナになって最初に会った時だ。確かに思いっきり押されたな。なんて考えてそのことじゃないと気がつく。
あれだ。「お前には失望した」ってやつ。言葉はもっと違ったと思うけど。
「はい、恥ずかしながら、わたくしはお兄様の信頼を失ってしまったようです。一応、頑張ってはきたんですが……」
もうそこまでダメージはない。あれ以来お兄様の態度が変わったわけでもないし。大体私自身そこまで自分を信じられるわけでもないし。
ヨハンは「やっぱり」と頷く。やっぱり? 何が?
「多分ね、それ、エレナちゃんが思っているような意味じゃないよ。ほら、ヘンドリックの言葉が足りないのはいつものことでしょ?」
「え? でしたらどういう……?」
確かにお兄様の言葉が足りないのは否定できない。でもあの言葉に関しては他に受け取りようがなかった。あの後も私のことなんて無視して歩いて行っちゃったし。
目が点な私を見てヨハンが笑う。
「聞いたところ、エレナちゃんはユリウス殿下を捕らえるために、喉に剣を突きつけて騎士団を待ったんだってね?」
「え、ええ」
騎士団さえ来たら安心かと思って。違ったのかな?
「そういう時はまず、相手の足を潰すんだ」
「……はい?」
聞き間違いだろうか。この爽やか青年なヨハンからそんなバイオレンスな言葉が出てくるなんて。
「次は腕。手足を潰して逃げられないようにするのが最優先だ」
はい、聞き間違いじゃなかったようです。
「人を捕らえると言っても、無傷である必要はない。その時もそれが正解だった」
え、いいの? ユリウス殿下を怪我させちゃって……っていうかそんな痛いことできる訳ないじゃん! 剣は練習してきたけど実際に人を傷つけたことなんてないし!
「エレナちゃんにできる?」
ヨハンの言葉にブンブンと首を横に振る。そんなことできる訳ない!! すると、ヨハンは「そうでしょ?」と笑った。
「ヘンドリックや私はできるよ。多分、クリスも言えばできる」
ひえぇぇぇぇ! クリスはできないよ! そんなひどいこと! できないと信じたい!
「だから、ヘンドリックは言ったんだ。エレナちゃんは人相手の戦いに向いてないって」
え? そういうこと? いやでもそれならそう言ってくれればよかったのに!
「でもお兄様はそんなこと教えてくださらなかったですわ」
「うん、教えられたってできないでしょ?」
うっ……。
的を射た辛辣な一言がぐさっと刺さる。確かに。
「責めているわけではないよ。今までそういうことを教えなかったのは、出来なくてもいいと思っているからなんだ。むしろ、ヘンドリックは出来ないままでいて欲しいんだと思うよ」
え、何それ、私に成長するなって言いたいの? いや、やれって言われてもできないけど。でも教えてもくれないって、なんかもやもやする。
「私もそう思っているよ。エレナちゃんは人を傷つけることのできない、優しいままでいて欲しい」
「だから、お兄様はもうユリウス殿下を探さなくていいとおっしゃったのですか?」
「うん、そういう戦い方ができないエレナちゃんにはユリウス殿下を捕らえるなんて無理だからね」
……なるほど? 納得がいくようないかないような。
「ヘンドリックはエレナちゃんを突き放したわけでも、失望したわけでもないよ。ただエレナちゃんには無理だって思っただけ。人には向き不向きがあるっていう、それだけの話」
そう言ってヨハンは笑った。
あのユリウス殿下がわざわざ私の救出に関してお兄様を挟むとは思えない。
だって多分私の居場所を見つけることなんて簡単にできただろうし。ユリウス殿下は勝手に動きそうなのに……。
「あ、あのね、私たち、エレナの場所が分からなくて……」
クリスが口を開く。
「ええ、それで?」
「殿下が、エレナを助け出して、場所を教える代わりに誘拐犯を差し出して欲しいって」
「私たちはお前を救出でき、殿下は犯人が手に入る。どうせお前を攫うような人間だ。必要ない」
「黒幕は誰だったのですか?」
「魔法省の人間だ。リリーと仲良くなり、お前の存在が邪魔だったんだと」
そういうことか。居場所が分からない私の救出と、犯人を交換。私がお兄様の立場でもそう悪い条件ではないかもしれない。
……でも、あそこに来たのがユリウス殿下じゃなかったら、きっと命を取られることはなかっただろう。そう考えてしまう。
「お前は無事に救出され、私たちに損害はない。何か問題があるか?」
確かにそうだ。問題はない。ただ私を誘拐した人も、ちゃんと血の通った人間だっただけ。もしこれを口に出せば、危険な目に遭ったくせに、と言われるのは分かっている。だから言えない。
「……いいえ、問題はありません。助けて下さってありがとうございます」
きゅっと唇を結ぶと、お兄様は何か言いたそうな顔で私を見た。しかし口を開くことはなかった。
「私は他に仕事がある。ヨハン、後は頼んだ。陛下への報告はしておく」
「ああ、分かったよ」
そのままお兄様は部屋を出て行った。残ったのは私とヨハンとクリス。さっきお兄様がヨハンに聞けと言っていた詳しい話を聞こうと、ヨハンに向き直る。するとヨハンはクリスを見て言った。
「クリス、皆にエレナちゃんが起きたことを報告してきてくれないか? その辺りのことはヘンドリックにはまず期待できないし」
「あ、うん」
頷いて立ち上がったクリスがふと、私とヨハンの顔を見る。
「でも私がいなくなったら部屋に兄様とエレナの二人になるよ。よくないんじゃない?」
「大丈夫だよ。何かあったら責任は取るから。ね?」
ヨハンが私に同意を求めてくる。責任を取るっていうと、誤解はちゃんと解いてくれるってことだよね。それならまあ別に。ヨハンと二人になったからといって何かが起こるなんてあり得ないし。
「ええ、まあ」
「エレナがそう言うならいっか。じゃあ行って来るね。できるだけ早く戻るから」
早く皆に報告がしたかったのだろう。クリスは嬉しそうにそわそわと部屋を出て行った。まあ私も早く皆に会いたい。皆がずっと待ってくれていたことは知っているから。
「さて、じゃあまずはヘンドリックのことを話そうか」
「え? お兄様、ですか? どうかされましたか?」
てっきりユリウス殿下の話をしてくれるのかと思っていた。お兄様の話なんて別に何もないけど……。
首を傾げると、ヨハンは「クリスに聞いたよ」と言った。
「クリスもだけど、エレナちゃんはちょっと誤解しているみたいだから」
「えっと、何の話でしょう?」
「ヘンドリックに突き放されたって聞いたけど?」
お兄様に突き放された。そう言われて思い浮かんのは私がエレナになって最初に会った時だ。確かに思いっきり押されたな。なんて考えてそのことじゃないと気がつく。
あれだ。「お前には失望した」ってやつ。言葉はもっと違ったと思うけど。
「はい、恥ずかしながら、わたくしはお兄様の信頼を失ってしまったようです。一応、頑張ってはきたんですが……」
もうそこまでダメージはない。あれ以来お兄様の態度が変わったわけでもないし。大体私自身そこまで自分を信じられるわけでもないし。
ヨハンは「やっぱり」と頷く。やっぱり? 何が?
「多分ね、それ、エレナちゃんが思っているような意味じゃないよ。ほら、ヘンドリックの言葉が足りないのはいつものことでしょ?」
「え? でしたらどういう……?」
確かにお兄様の言葉が足りないのは否定できない。でもあの言葉に関しては他に受け取りようがなかった。あの後も私のことなんて無視して歩いて行っちゃったし。
目が点な私を見てヨハンが笑う。
「聞いたところ、エレナちゃんはユリウス殿下を捕らえるために、喉に剣を突きつけて騎士団を待ったんだってね?」
「え、ええ」
騎士団さえ来たら安心かと思って。違ったのかな?
「そういう時はまず、相手の足を潰すんだ」
「……はい?」
聞き間違いだろうか。この爽やか青年なヨハンからそんなバイオレンスな言葉が出てくるなんて。
「次は腕。手足を潰して逃げられないようにするのが最優先だ」
はい、聞き間違いじゃなかったようです。
「人を捕らえると言っても、無傷である必要はない。その時もそれが正解だった」
え、いいの? ユリウス殿下を怪我させちゃって……っていうかそんな痛いことできる訳ないじゃん! 剣は練習してきたけど実際に人を傷つけたことなんてないし!
「エレナちゃんにできる?」
ヨハンの言葉にブンブンと首を横に振る。そんなことできる訳ない!! すると、ヨハンは「そうでしょ?」と笑った。
「ヘンドリックや私はできるよ。多分、クリスも言えばできる」
ひえぇぇぇぇ! クリスはできないよ! そんなひどいこと! できないと信じたい!
「だから、ヘンドリックは言ったんだ。エレナちゃんは人相手の戦いに向いてないって」
え? そういうこと? いやでもそれならそう言ってくれればよかったのに!
「でもお兄様はそんなこと教えてくださらなかったですわ」
「うん、教えられたってできないでしょ?」
うっ……。
的を射た辛辣な一言がぐさっと刺さる。確かに。
「責めているわけではないよ。今までそういうことを教えなかったのは、出来なくてもいいと思っているからなんだ。むしろ、ヘンドリックは出来ないままでいて欲しいんだと思うよ」
え、何それ、私に成長するなって言いたいの? いや、やれって言われてもできないけど。でも教えてもくれないって、なんかもやもやする。
「私もそう思っているよ。エレナちゃんは人を傷つけることのできない、優しいままでいて欲しい」
「だから、お兄様はもうユリウス殿下を探さなくていいとおっしゃったのですか?」
「うん、そういう戦い方ができないエレナちゃんにはユリウス殿下を捕らえるなんて無理だからね」
……なるほど? 納得がいくようないかないような。
「ヘンドリックはエレナちゃんを突き放したわけでも、失望したわけでもないよ。ただエレナちゃんには無理だって思っただけ。人には向き不向きがあるっていう、それだけの話」
そう言ってヨハンは笑った。
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