池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
217 / 300

誤解

しおりを挟む
「……どうしてユリウス殿下はお兄様方にその話を持ちかけたのでしょう?」


あのユリウス殿下がわざわざ私の救出に関してお兄様を挟むとは思えない。

だって多分私の居場所を見つけることなんて簡単にできただろうし。ユリウス殿下は勝手に動きそうなのに……。


「あ、あのね、私たち、エレナの場所が分からなくて……」


クリスが口を開く。


「ええ、それで?」

「殿下が、エレナを助け出して、場所を教える代わりに誘拐犯を差し出して欲しいって」

「私たちはお前を救出でき、殿下は犯人が手に入る。どうせお前を攫うような人間だ。必要ない」

「黒幕は誰だったのですか?」

「魔法省の人間だ。リリーと仲良くなり、お前の存在が邪魔だったんだと」


そういうことか。居場所が分からない私の救出と、犯人を交換。私がお兄様の立場でもそう悪い条件ではないかもしれない。

……でも、あそこに来たのがユリウス殿下じゃなかったら、きっと命を取られることはなかっただろう。そう考えてしまう。


「お前は無事に救出され、私たちに損害はない。何か問題があるか?」


確かにそうだ。問題はない。ただ私を誘拐した人も、ちゃんと血の通った人間だっただけ。もしこれを口に出せば、危険な目に遭ったくせに、と言われるのは分かっている。だから言えない。


「……いいえ、問題はありません。助けて下さってありがとうございます」


きゅっと唇を結ぶと、お兄様は何か言いたそうな顔で私を見た。しかし口を開くことはなかった。


「私は他に仕事がある。ヨハン、後は頼んだ。陛下への報告はしておく」

「ああ、分かったよ」


そのままお兄様は部屋を出て行った。残ったのは私とヨハンとクリス。さっきお兄様がヨハンに聞けと言っていた詳しい話を聞こうと、ヨハンに向き直る。するとヨハンはクリスを見て言った。


「クリス、皆にエレナちゃんが起きたことを報告してきてくれないか? その辺りのことはヘンドリックにはまず期待できないし」

「あ、うん」


頷いて立ち上がったクリスがふと、私とヨハンの顔を見る。


「でも私がいなくなったら部屋に兄様とエレナの二人になるよ。よくないんじゃない?」

「大丈夫だよ。何かあったら責任は取るから。ね?」


ヨハンが私に同意を求めてくる。責任を取るっていうと、誤解はちゃんと解いてくれるってことだよね。それならまあ別に。ヨハンと二人になったからといって何かが起こるなんてあり得ないし。


「ええ、まあ」

「エレナがそう言うならいっか。じゃあ行って来るね。できるだけ早く戻るから」


早く皆に報告がしたかったのだろう。クリスは嬉しそうにそわそわと部屋を出て行った。まあ私も早く皆に会いたい。皆がずっと待ってくれていたことは知っているから。


「さて、じゃあまずはヘンドリックのことを話そうか」

「え? お兄様、ですか? どうかされましたか?」


てっきりユリウス殿下の話をしてくれるのかと思っていた。お兄様の話なんて別に何もないけど……。

首を傾げると、ヨハンは「クリスに聞いたよ」と言った。


「クリスもだけど、エレナちゃんはちょっと誤解しているみたいだから」

「えっと、何の話でしょう?」

「ヘンドリックに突き放されたって聞いたけど?」


お兄様に突き放された。そう言われて思い浮かんのは私がエレナになって最初に会った時だ。確かに思いっきり押されたな。なんて考えてそのことじゃないと気がつく。

あれだ。「お前には失望した」ってやつ。言葉はもっと違ったと思うけど。


「はい、恥ずかしながら、わたくしはお兄様の信頼を失ってしまったようです。一応、頑張ってはきたんですが……」


もうそこまでダメージはない。あれ以来お兄様の態度が変わったわけでもないし。大体私自身そこまで自分を信じられるわけでもないし。

ヨハンは「やっぱり」と頷く。やっぱり? 何が?


「多分ね、それ、エレナちゃんが思っているような意味じゃないよ。ほら、ヘンドリックの言葉が足りないのはいつものことでしょ?」

「え? でしたらどういう……?」


確かにお兄様の言葉が足りないのは否定できない。でもあの言葉に関しては他に受け取りようがなかった。あの後も私のことなんて無視して歩いて行っちゃったし。

目が点な私を見てヨハンが笑う。


「聞いたところ、エレナちゃんはユリウス殿下を捕らえるために、喉に剣を突きつけて騎士団を待ったんだってね?」

「え、ええ」


騎士団さえ来たら安心かと思って。違ったのかな?


「そういう時はまず、相手の足を潰すんだ」

「……はい?」


聞き間違いだろうか。この爽やか青年なヨハンからそんなバイオレンスな言葉が出てくるなんて。


「次は腕。手足を潰して逃げられないようにするのが最優先だ」


はい、聞き間違いじゃなかったようです。


「人を捕らえると言っても、無傷である必要はない。その時もそれが正解だった」


え、いいの? ユリウス殿下を怪我させちゃって……っていうかそんな痛いことできる訳ないじゃん! 剣は練習してきたけど実際に人を傷つけたことなんてないし!


「エレナちゃんにできる?」


ヨハンの言葉にブンブンと首を横に振る。そんなことできる訳ない!! すると、ヨハンは「そうでしょ?」と笑った。


「ヘンドリックや私はできるよ。多分、クリスも言えばできる」


ひえぇぇぇぇ! クリスはできないよ! そんなひどいこと! できないと信じたい!


「だから、ヘンドリックは言ったんだ。エレナちゃんは人相手の戦いに向いてないって」


え? そういうこと? いやでもそれならそう言ってくれればよかったのに!


「でもお兄様はそんなこと教えてくださらなかったですわ」

「うん、教えられたってできないでしょ?」


うっ……。

的を射た辛辣な一言がぐさっと刺さる。確かに。


「責めているわけではないよ。今までそういうことを教えなかったのは、出来なくてもいいと思っているからなんだ。むしろ、ヘンドリックは出来ないままでいて欲しいんだと思うよ」


え、何それ、私に成長するなって言いたいの? いや、やれって言われてもできないけど。でも教えてもくれないって、なんかもやもやする。


「私もそう思っているよ。エレナちゃんは人を傷つけることのできない、優しいままでいて欲しい」

「だから、お兄様はもうユリウス殿下を探さなくていいとおっしゃったのですか?」

「うん、そういう戦い方ができないエレナちゃんにはユリウス殿下を捕らえるなんて無理だからね」


……なるほど? 納得がいくようないかないような。


「ヘンドリックはエレナちゃんを突き放したわけでも、失望したわけでもないよ。ただエレナちゃんには無理だって思っただけ。人には向き不向きがあるっていう、それだけの話」


そう言ってヨハンは笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...