池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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意見の違い

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そんな私の様子を見て、お兄様が心底嫌そうな顔をして言った。


「そんなこと誰が教えた」


そんなことって舌打ちのこと? 誰も何も普通に知ってるでしょ。ああ、普通の令嬢は舌打ちなんかしないのか。もちろん私もエレナになって人前でしたのは初めてだけど……。


「あら、ヘンドリックお兄様がよくされているではありませんか」


なんて言っておく。

お兄様は不快そうに顔をしかめると、チッと舌打ちをした。それを見てヨハンがはは、と笑う。


「心配されなくとももうしませんわ。それより早くお水を消して、順番に話してくださいませ」


こんなことがアリアやお義母様に知られたら怒られるだけでは済まないだろう。ちゃんと令嬢らしくするから別に心配しなくてもいいよ。今はちょっとムカついただけだから。

お兄様は何か言いたそうだったが、すぐに水が消えた。

その顔を見て少し満足する。私はやられっぱなしで終わらないのだ。反撃はしっかりするよ。すっきり。

しかしお兄様は完全に機嫌が悪くなったようだ。その様子を見てヨハンが苦笑いを浮かべる。


「エレナちゃんを城に置いたのは安全のためだよ。一応今回の黒幕は捕まえたけど、次にいつ同じような人間が現れるか分からないからね」

「だけどそれですと、色々な人が出入りするお城よりも、我が家の方が安全かと思われるのですが……」


自分の部屋にこもってたらまず他人は入って来られないし、家にだってバルドルトをはじめとした騎士がいる。お城よりも安全だと思うんだけど。


「エレナちゃんは普通に出入りしているから忘れているかもしれないけど、お城だって誰だって入れるわけじゃないんだよ。特に、こんな奥まで来られる人間は少ない。扉の前を騎士で固めて、魔法陣で結界を張れば、他人が中に入ることはおろか、勝手に連れ出すことはまず不可能だ」


ヨハンの視線を辿ってみると、数カ所に魔法陣が貼ってあるのが見えた。……なるほど。


「エレナちゃんのおうちでも同じような環境は作れるんだけど、魔法陣を使うための魔力が足りないんだ。ここだったらヘンドリックでも私でもクリスでも、魔力を持つ人はたくさんいる。エレナちゃんが魔石に移した魔力もあるしね」

「それに、ここだったら常に誰かが側にいられるんだよ。ほら、ヘンドリック様だってクルト様だって働いているのはここだし、マルゴット様だっているじゃん? 戦える誰かが同じ部屋にずっといるのって安心するでしょ?」

「……そうね、それは安心するわ」


たしかにそれはうちでは難しいかもしれない。うちで戦えるなんて騎士くらいだけど、私の護衛だけをしてもらうのは難しい。人数的にも。

それにずっと同じ部屋にいられるのは兄弟か同性だけだ。目が覚めて変な噂が立っているのは流石に私も嫌だ。

手っ取り早く、簡単に安全な環境を作るにはここが最適だったというわけね。


「はい、お城にいることについては納得しました」


じゃあ次はユリウス殿下の件だ。しっかりと説明してもらおう。

お兄様へ視線を向けると、お兄様はいつもの無表情で言った。


「殿下が助けに行ったことがそんなに不満か?」

「当たり前ではありませんか!」


ユリウス殿下は私たちにとって敵で、捕らえるべき相手なのだ。よりにもよってそんな相手に助けられるなんて……。


「何故」


何故?


「ユリウス殿下は魔法学校を襲い、生徒を傷つけたのです。いわば犯罪者です。そんな人に助けられるなど……」


そう言って、気がついた。ヘンドリックお兄様とヨハンが顔を見合わせている。クリスも不思議そうに首を傾げている。

え? 私何かおかしいこと言った? なんで皆そんな微妙な顔してるの?


「ユリウス殿下はわたくし一人の魔法を表に出すためだけに、たくさんの命を脅かしたのです……! ベアトリクス様だって襲われました。このままではユリウス殿下の手によって何人もが命を落とすことになります!」


ヘンドリックお兄様とヨハンの何か言いたそうな顔、クリスの不思議そうな顔。三人のその表情の意味がよく分からなくて必死にそう言うと、お兄様は静かに頷いた。


「……そうか、そこからなのか」

「え……?」


何が? 何がそこからなの?

全く訳が分からなくて呆然とお兄様を見ると、お兄様はヨハンへと視線を向けた。ヨハンが頷く。


「詳しい話は後でヨハンに聞け。ヨハンの方が丁寧に説明してくれる。私から聞くよりも理解しやすいだろう」


いや、だから何が?


「とりあえず結論だけ言っておくと、殿下は別に犯罪者ではない。魔法学校襲撃の件は陛下も特に問題視していないし、失くなった魔法薬の行方も分かっている。今のところ殿下を捕らえなければならない理由は特にない」


魔法学校襲撃は問題視されてない? 捕らえる理由はない? え? じゃあなんで今までユリウス殿下を探していたの? え?


「殿下を探していたのは少し話がしたかったからだ。それも今回の件で目的は達成した」


話がしたかった? え、それだけ?


「ですが、ユリウス殿下によって命が失われる可能性もあるのですよ?」

「その話は後だ。今回のお前の救出に関してはあちらから話を持ちかけてくれた。私たちは断る理由もなかったから協力してもらった。それだけだ」


断る理由も何も、協力するっていうそれがまずあり得ないでしょ! 何考えてるの!? 相手はユリウス殿下だよ? 今までどんな思いをさせられてきたか……。

怒りや悲しみや戸惑い。色んな感情が込み上がってきて、私は唇を噛んだ。
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