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無邪気な笑顔
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他愛のない話で盛り上がっていると、馬車がだんだんとゆっくりになり、そして止まった。窓の外を見てみると緑が見えた。
「着いたね。早く降りよう」
馬車のドアが開けられるよりも早くクリスが立ち上がった。私もすぐに立ち上がりたい気持ちを堪えて、じっと座って待った。カミラもリリーもわくわくしているのが表情から伝わってくる。
すぐにドアは開いた。クリスがさっと外に出て、私達三人も順番に席を立った。外に出ると、ふわっと柔らかな風が吹いていて、緑の匂いがした。
胸いっぱいに爽やかな空気を吸い込む。
あー、気持ちいい。やっぱり自然は最高だ。
街から少ししか離れていない場所だけど、やっぱり家や学校ではない空気だ。足元の柔らかな芝生に寝転がってしまいたくなる。が、そんなことできるわけもなく。
「近くにこんなにいい場所があるなんて驚いたね」
カイがそう言いながらこちらへ歩いて来た。うん、それは私も驚き。街から出るなんてあまりないしね。
「ええ、本当に。教えてくださったレオナ様に感謝ですわ」
私もクリスはもちろん、カミラもリリーもあまり外に遊びに行くことをしない。カイ達四人は自然を満喫したいと思ったらお城に行けば立派なお庭があるわけだし。つまり私たちは良いピクニック場所を知らなかったのだ。
ピクニックに行くと決めたはいいものの、場所すら決まらず途方に暮れていたところ、レオナ様が教えてくれた。
どうもレオナ様はベアトリクスから私たちがピクニックに行くことを聞き、親切心で教えてくれたようだ。一緒にどうかと誘ってみたら断られたが。
一緒に来ていたカイの執事さんが芝生の上にシートを引いてくれているのが見えた。本当は机と椅子を用意しようかと言われていたが、私が断ったのだ。だってピクニックと言えばビニールシートに座って地べたでお弁当、が醍醐味だし。
まあビニールシートなんてないこの世界で用意されたのはとてもおしゃれな布のシートなのだけど。しかも超高そうな。
こんないいところなら他にも人がいそうだけど、全く人の姿が見えない。もしかするとカイが裏から手を回してくれたのかもしれない。まあ皇子様がほいほい外に出るわけにはいかないもんね。今日は護衛もついていないし。
「エレナ!」
名前を呼ばれてそちらを見ると、クリスが満面の笑顔で私に向かって手を上げていた。レオンやフロレンツ、マクシミリアンまでもが既に走り回っている。カミラとリリーも控えめながらはしゃいでいるのが分かった。
「エレナもこっちで遊ぼうよ!」
何もない芝生でただ走り回るだけ。バレーもバドミントンもないこの世界。何が楽しいのかと以前の私なら言っていたかもしれない。だけど今は足がうずうずしていた。気持ちが高ぶっていた。
気持ちとともに溢れる魔力を魔法へと変える。土でできた犬に水でできた魚を数匹ずつ作り、それをクリス達の方へと放った。皆がそれを見てわーわーきゃーきゃー言いながら逃げ出す。
その様子を見て思わず頬が緩んだ。
「こんなに簡単に魔法を使うなんてエレナにしかできないね」
隣でカイがふっと笑った。うん、私もそう思う。最初の頃は魔法は自在に使えるのが当たり前だと思っていたけど、他の人が魔法陣なしでは碌に魔法が使えないことを知って、かなり制限していたのだ。
せっかく魔法が使える世界に来たというのにちょっと不満だけど。
でも今は私が自在に魔法を使えると知っている人たちしかいないので思いっきり使うことができる。楽しくて、どんどんいろんな動物ができた。猫に馬に兎に羊。
クリス達がとても楽しそうに魔法でできた動物たちと戯れている。人目がないからか、クリスだけでなく他の皆も学校では見たことのない、子供のような笑顔で笑っている。
よく考えると向こうの世界では皆まだ中学生の年だ。大人びているけど、まだまだ子供なのだ。かくいう私ももう走り出したくて仕方がない。精神年齢だけで言うともう二十歳すぎているはずの私だけど。
隣を見ればカイが目を輝かしているのが分かった。
「殿下、わたくし達も行きましょう」
「そうだね」
なんて落ち着いた返事を返して来たカイだったが、皆の輪に入ってしまえばもういつもの落ち着きはなくなっていた。わーわー言って騒ぐ男子たち。
動物もいいけど、もう少し何か欲しい。私は手の中に水風船を作り出した。少しの衝撃で破れるようにして。そしてそれを一つクリスへと投げてみる。
「わっ!?」
驚いたような声がして、クリスが私の方を見た。私は水風船を何個も作り、それをクリスに見せる。
「それいいね」
クリスはそれだけでニヤッとして、水風船を両手に持って走って行った。それぞれレオンとフロレンツに当たって弾けるのが見えた。こんないい天気なのだ。少しくらい濡れても気持ちいいだけ。まあ今日は特別温かいとはいえもう涼しい季節だし、後で温かい飲み物でも淹れてあげよう。魔法の水だからすぐ消せるしね。
次々に水風船を作り、それをクリスが持って行く。
「エレナ、俺ももらっていくぜ!」
「僕もちょうだい!」
男子たちもクリスから逃げながら水風船を持って行く。それを容赦なくクリスにあてて、クリスがびしゃびしゃになっているのが分かる。
四対一ではクリスもかわいそうだ。
「カミラ、リリー様、二人も参戦してちょうだい」
後ろで可笑しそうに笑っていた二人にも水風船を手渡す。二人はそれを持って戸惑ったように私を見た。自分よりも身分の高い人たちにぶつけることに抵抗があるのだろう。気持ちは分からなくもない。
「早く行かないとクリスがやられちゃうわよ! ほら、こんなことで怒る方たちではないから!」
わざと焦らせるように言って二人の背中を押すと、二人は恐る恐る水風船を投げた。カミラのがフロレンツに、リリーのがカイに当たる。
「……カミラ、やったね」
「俺は女子にも容赦はしないぜ!」
二人がニヤッとして水風船を振りかぶる。あっという間にカミラもリリーも濡れてしまった。そしてすぐに二人の遠慮もなくなったのか、どんどん水風船を持っては投げている。
……やばい、超楽しい。
私も水風船を作りながら皆の輪に入り、ひたすらに投げまくった。心の底から笑ったのは本当に久しぶりだった。
「着いたね。早く降りよう」
馬車のドアが開けられるよりも早くクリスが立ち上がった。私もすぐに立ち上がりたい気持ちを堪えて、じっと座って待った。カミラもリリーもわくわくしているのが表情から伝わってくる。
すぐにドアは開いた。クリスがさっと外に出て、私達三人も順番に席を立った。外に出ると、ふわっと柔らかな風が吹いていて、緑の匂いがした。
胸いっぱいに爽やかな空気を吸い込む。
あー、気持ちいい。やっぱり自然は最高だ。
街から少ししか離れていない場所だけど、やっぱり家や学校ではない空気だ。足元の柔らかな芝生に寝転がってしまいたくなる。が、そんなことできるわけもなく。
「近くにこんなにいい場所があるなんて驚いたね」
カイがそう言いながらこちらへ歩いて来た。うん、それは私も驚き。街から出るなんてあまりないしね。
「ええ、本当に。教えてくださったレオナ様に感謝ですわ」
私もクリスはもちろん、カミラもリリーもあまり外に遊びに行くことをしない。カイ達四人は自然を満喫したいと思ったらお城に行けば立派なお庭があるわけだし。つまり私たちは良いピクニック場所を知らなかったのだ。
ピクニックに行くと決めたはいいものの、場所すら決まらず途方に暮れていたところ、レオナ様が教えてくれた。
どうもレオナ様はベアトリクスから私たちがピクニックに行くことを聞き、親切心で教えてくれたようだ。一緒にどうかと誘ってみたら断られたが。
一緒に来ていたカイの執事さんが芝生の上にシートを引いてくれているのが見えた。本当は机と椅子を用意しようかと言われていたが、私が断ったのだ。だってピクニックと言えばビニールシートに座って地べたでお弁当、が醍醐味だし。
まあビニールシートなんてないこの世界で用意されたのはとてもおしゃれな布のシートなのだけど。しかも超高そうな。
こんないいところなら他にも人がいそうだけど、全く人の姿が見えない。もしかするとカイが裏から手を回してくれたのかもしれない。まあ皇子様がほいほい外に出るわけにはいかないもんね。今日は護衛もついていないし。
「エレナ!」
名前を呼ばれてそちらを見ると、クリスが満面の笑顔で私に向かって手を上げていた。レオンやフロレンツ、マクシミリアンまでもが既に走り回っている。カミラとリリーも控えめながらはしゃいでいるのが分かった。
「エレナもこっちで遊ぼうよ!」
何もない芝生でただ走り回るだけ。バレーもバドミントンもないこの世界。何が楽しいのかと以前の私なら言っていたかもしれない。だけど今は足がうずうずしていた。気持ちが高ぶっていた。
気持ちとともに溢れる魔力を魔法へと変える。土でできた犬に水でできた魚を数匹ずつ作り、それをクリス達の方へと放った。皆がそれを見てわーわーきゃーきゃー言いながら逃げ出す。
その様子を見て思わず頬が緩んだ。
「こんなに簡単に魔法を使うなんてエレナにしかできないね」
隣でカイがふっと笑った。うん、私もそう思う。最初の頃は魔法は自在に使えるのが当たり前だと思っていたけど、他の人が魔法陣なしでは碌に魔法が使えないことを知って、かなり制限していたのだ。
せっかく魔法が使える世界に来たというのにちょっと不満だけど。
でも今は私が自在に魔法を使えると知っている人たちしかいないので思いっきり使うことができる。楽しくて、どんどんいろんな動物ができた。猫に馬に兎に羊。
クリス達がとても楽しそうに魔法でできた動物たちと戯れている。人目がないからか、クリスだけでなく他の皆も学校では見たことのない、子供のような笑顔で笑っている。
よく考えると向こうの世界では皆まだ中学生の年だ。大人びているけど、まだまだ子供なのだ。かくいう私ももう走り出したくて仕方がない。精神年齢だけで言うともう二十歳すぎているはずの私だけど。
隣を見ればカイが目を輝かしているのが分かった。
「殿下、わたくし達も行きましょう」
「そうだね」
なんて落ち着いた返事を返して来たカイだったが、皆の輪に入ってしまえばもういつもの落ち着きはなくなっていた。わーわー言って騒ぐ男子たち。
動物もいいけど、もう少し何か欲しい。私は手の中に水風船を作り出した。少しの衝撃で破れるようにして。そしてそれを一つクリスへと投げてみる。
「わっ!?」
驚いたような声がして、クリスが私の方を見た。私は水風船を何個も作り、それをクリスに見せる。
「それいいね」
クリスはそれだけでニヤッとして、水風船を両手に持って走って行った。それぞれレオンとフロレンツに当たって弾けるのが見えた。こんないい天気なのだ。少しくらい濡れても気持ちいいだけ。まあ今日は特別温かいとはいえもう涼しい季節だし、後で温かい飲み物でも淹れてあげよう。魔法の水だからすぐ消せるしね。
次々に水風船を作り、それをクリスが持って行く。
「エレナ、俺ももらっていくぜ!」
「僕もちょうだい!」
男子たちもクリスから逃げながら水風船を持って行く。それを容赦なくクリスにあてて、クリスがびしゃびしゃになっているのが分かる。
四対一ではクリスもかわいそうだ。
「カミラ、リリー様、二人も参戦してちょうだい」
後ろで可笑しそうに笑っていた二人にも水風船を手渡す。二人はそれを持って戸惑ったように私を見た。自分よりも身分の高い人たちにぶつけることに抵抗があるのだろう。気持ちは分からなくもない。
「早く行かないとクリスがやられちゃうわよ! ほら、こんなことで怒る方たちではないから!」
わざと焦らせるように言って二人の背中を押すと、二人は恐る恐る水風船を投げた。カミラのがフロレンツに、リリーのがカイに当たる。
「……カミラ、やったね」
「俺は女子にも容赦はしないぜ!」
二人がニヤッとして水風船を振りかぶる。あっという間にカミラもリリーも濡れてしまった。そしてすぐに二人の遠慮もなくなったのか、どんどん水風船を持っては投げている。
……やばい、超楽しい。
私も水風船を作りながら皆の輪に入り、ひたすらに投げまくった。心の底から笑ったのは本当に久しぶりだった。
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