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作戦開始
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「あー、お腹いっぱいだぁ」
クリスはそう言うと、ごろんと寝転がって自らのお腹をさすった。そのあまりのくつろぎように思わず笑ってしまいそうになる。
今更だがとても令嬢のすることとは思えない。まあクリスのそういうところが好きなんだけど。一緒にいて楽だし。
食べてすぐ寝たら牛になるよ、と言いたいところだが、この世界で言ったところで通じるとは思えない。
クリスに続き、レオンとマクシミリアンがごろんと寝転がる。そしてその様子を見たフロレンツも同じように寝転がった。
小綺麗な牛が四匹。込み上げそうになった笑いを唇を噛んで堪えていると、カイが私を見た。
「お弁当ありがとう。やっぱりエレナの作るご飯は美味しいね」
「褒めていただきありがとうございます」
「やっぱり普段も僕たちにお弁当を作ってはくれないかな?」
普段のお弁当は自分とクリスとリリーの分しか作らない。だって学校でお弁当を渡すなんて、そんな面倒なこと……もとい、周りに誤解されそうなこと絶対にしたくない。
このカイの言葉ももう何回聞いただろう。しかし私の返事は変わらない。
「本日は少し力を入れましたが、普段のお弁当など殿下方に食べさせられるようなものではありませんわ」
やんわりと断るとカイは返事は分かっていたとばかりに苦笑いを浮かべた。
「それから、今日のお弁当はわたくしだけではなく、リリー様やカミラも一緒に作ったんですの。ね?」
二人に同意を求めると二人とも「頑張りました」と頷いた。カイは「へえ」と感心したように二人を見る。リリーは家で料理をすることもあるようだが、カミラは今日が本当に初めての料理だった。
全く勝手が分からずにわたわたしているカミラ可愛かったなぁ……。
私の用意した可愛いエプロンを付けて、包丁を持って震えていたカミラを思い出す。私の妹マジ可愛い。
「あ、あの、お姉さま……?」
なんて思っているとカミラの戸惑いを含んだ声が聞こえた。ハッとして意識を現実へと戻す。いけない、頬が緩んでいた。
「ごめんなさい、少し考え事をしていたわ」
クリスが寝転がったままジトっとした視線を私に向けているのが分かった。また変なことでも考えていたでしょと言いたげな顔だ。無視無視。
「それにしても、いつも思っておりましたが、リリー様はお料理がとてもお上手ですよね」
普段のお弁当を作る時も思っていたことを口に出すと、リリーは謙遜してか、「いいえ、そんな」と両手を振った。しかし私はこのチャンスを逃さない。
「きっといいお嫁さんになりますわ。殿下もそうお思いでしょう?」
カイにリリーをアピールするチャンスだ! と思ったが、同意を求められたカイはよく意味が分からないと言った表情だ。さらにリリーも不思議そうな顔をしている。
「お料理ができたらいいお嫁さんになれるのですか?」
カミラがきょとんとして私を見る。……はい、やらかした。
時期皇帝の婚約者に、というか貴族のお嫁さんに料理のスキルが求められるかといえば、絶対に求められない。貴族というのは自分で料理をすることはないのだから。
つまり私がリリーの料理上手をアピールしたところで無駄ということだ。
……つい向こうの世界の基準で考えていた。
なんと言ってごまかすか。頭をフル回転させるが、何も思い浮かばない。クリスが助けてくれないかと期待してみるが、クリスはとても気持ちよさそうに寝ていた。目を閉じているだけではない。あれはがっつり寝ている。私には分かる。
ダメだ、頼みの綱のクリスはいない。
「ほ、ほら、何事もできないよりはできた方がいいでしょう? もし何かの事情で料理人がいない時など、自分で作ることができたら助かるではありませんか」
料理人がいない時って何!? そんな時があるわけないじゃん! 貴族が自分でご飯の準備なんてするわけないじゃん! 例え料理人がいなくても絶対他に誰かいるし!
自分で心の中でツッコむ。しかしそれ以外に言葉が思い浮かばない。
カイは少し何かを考えるような表情を見せ、そして笑った。
「確かにそうだね。できないよりはできた方が良い。私もそう思うよ」
あのツッコミどころ満載の私の言葉に対して、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった。目を丸くする私に、今度はカミラが言った。
「お姉さまのおっしゃる通りですわ」
そのキラキラとした表情を見ると、私に気を遣っているのではなく、本心だと言うことが分かる。予想外の反応に戸惑い、リリーを見るとリリーも「本当ですね」と頷いていた。
……やばい、この三人大丈夫かな。素直すぎて怖い。悪い人にすぐ騙されそうだ。まあとりあえずこの場をごまかすことはできたようなので良しとしよう。
私は立ち上がり、カミラを見る。
「わたくし、少し食後の散歩をしてまいりますわ。カミラ、一緒に行きましょう」
私の誘いにカミラは「はい!」と嬉しそうに頷くとすっと立ち上がった。そしてカイも「私も」と立ち上がろうとする。私は慌てて、だけど不自然ではないようにカイを止める。
「申し訳ありません、殿下。少しだけ二人でお話をさせてくださいませ」
カイが一緒に散歩をするというのにそれを断るなんてとても無礼だ。分かっている。分かっているけど、カイが来てしまっては意味がない。
「リリー様も申し訳ありません。どうぞお二人でお話をしていてくださいませ」
私の言葉で同じく立ち上がりかけたリリーももう一度座り直す。
カミラと二人で話すことなんて特にない。ただカイとリリーを二人にしたいだけだ。クリス達三人が寝てくれたのは好都合だった。
名付けて『自然の中で二人、グッと距離縮まる作戦』!
……ちょっとそのまますぎたかもしれない。
クリスはそう言うと、ごろんと寝転がって自らのお腹をさすった。そのあまりのくつろぎように思わず笑ってしまいそうになる。
今更だがとても令嬢のすることとは思えない。まあクリスのそういうところが好きなんだけど。一緒にいて楽だし。
食べてすぐ寝たら牛になるよ、と言いたいところだが、この世界で言ったところで通じるとは思えない。
クリスに続き、レオンとマクシミリアンがごろんと寝転がる。そしてその様子を見たフロレンツも同じように寝転がった。
小綺麗な牛が四匹。込み上げそうになった笑いを唇を噛んで堪えていると、カイが私を見た。
「お弁当ありがとう。やっぱりエレナの作るご飯は美味しいね」
「褒めていただきありがとうございます」
「やっぱり普段も僕たちにお弁当を作ってはくれないかな?」
普段のお弁当は自分とクリスとリリーの分しか作らない。だって学校でお弁当を渡すなんて、そんな面倒なこと……もとい、周りに誤解されそうなこと絶対にしたくない。
このカイの言葉ももう何回聞いただろう。しかし私の返事は変わらない。
「本日は少し力を入れましたが、普段のお弁当など殿下方に食べさせられるようなものではありませんわ」
やんわりと断るとカイは返事は分かっていたとばかりに苦笑いを浮かべた。
「それから、今日のお弁当はわたくしだけではなく、リリー様やカミラも一緒に作ったんですの。ね?」
二人に同意を求めると二人とも「頑張りました」と頷いた。カイは「へえ」と感心したように二人を見る。リリーは家で料理をすることもあるようだが、カミラは今日が本当に初めての料理だった。
全く勝手が分からずにわたわたしているカミラ可愛かったなぁ……。
私の用意した可愛いエプロンを付けて、包丁を持って震えていたカミラを思い出す。私の妹マジ可愛い。
「あ、あの、お姉さま……?」
なんて思っているとカミラの戸惑いを含んだ声が聞こえた。ハッとして意識を現実へと戻す。いけない、頬が緩んでいた。
「ごめんなさい、少し考え事をしていたわ」
クリスが寝転がったままジトっとした視線を私に向けているのが分かった。また変なことでも考えていたでしょと言いたげな顔だ。無視無視。
「それにしても、いつも思っておりましたが、リリー様はお料理がとてもお上手ですよね」
普段のお弁当を作る時も思っていたことを口に出すと、リリーは謙遜してか、「いいえ、そんな」と両手を振った。しかし私はこのチャンスを逃さない。
「きっといいお嫁さんになりますわ。殿下もそうお思いでしょう?」
カイにリリーをアピールするチャンスだ! と思ったが、同意を求められたカイはよく意味が分からないと言った表情だ。さらにリリーも不思議そうな顔をしている。
「お料理ができたらいいお嫁さんになれるのですか?」
カミラがきょとんとして私を見る。……はい、やらかした。
時期皇帝の婚約者に、というか貴族のお嫁さんに料理のスキルが求められるかといえば、絶対に求められない。貴族というのは自分で料理をすることはないのだから。
つまり私がリリーの料理上手をアピールしたところで無駄ということだ。
……つい向こうの世界の基準で考えていた。
なんと言ってごまかすか。頭をフル回転させるが、何も思い浮かばない。クリスが助けてくれないかと期待してみるが、クリスはとても気持ちよさそうに寝ていた。目を閉じているだけではない。あれはがっつり寝ている。私には分かる。
ダメだ、頼みの綱のクリスはいない。
「ほ、ほら、何事もできないよりはできた方がいいでしょう? もし何かの事情で料理人がいない時など、自分で作ることができたら助かるではありませんか」
料理人がいない時って何!? そんな時があるわけないじゃん! 貴族が自分でご飯の準備なんてするわけないじゃん! 例え料理人がいなくても絶対他に誰かいるし!
自分で心の中でツッコむ。しかしそれ以外に言葉が思い浮かばない。
カイは少し何かを考えるような表情を見せ、そして笑った。
「確かにそうだね。できないよりはできた方が良い。私もそう思うよ」
あのツッコミどころ満載の私の言葉に対して、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった。目を丸くする私に、今度はカミラが言った。
「お姉さまのおっしゃる通りですわ」
そのキラキラとした表情を見ると、私に気を遣っているのではなく、本心だと言うことが分かる。予想外の反応に戸惑い、リリーを見るとリリーも「本当ですね」と頷いていた。
……やばい、この三人大丈夫かな。素直すぎて怖い。悪い人にすぐ騙されそうだ。まあとりあえずこの場をごまかすことはできたようなので良しとしよう。
私は立ち上がり、カミラを見る。
「わたくし、少し食後の散歩をしてまいりますわ。カミラ、一緒に行きましょう」
私の誘いにカミラは「はい!」と嬉しそうに頷くとすっと立ち上がった。そしてカイも「私も」と立ち上がろうとする。私は慌てて、だけど不自然ではないようにカイを止める。
「申し訳ありません、殿下。少しだけ二人でお話をさせてくださいませ」
カイが一緒に散歩をするというのにそれを断るなんてとても無礼だ。分かっている。分かっているけど、カイが来てしまっては意味がない。
「リリー様も申し訳ありません。どうぞお二人でお話をしていてくださいませ」
私の言葉で同じく立ち上がりかけたリリーももう一度座り直す。
カミラと二人で話すことなんて特にない。ただカイとリリーを二人にしたいだけだ。クリス達三人が寝てくれたのは好都合だった。
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