池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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久しぶりの魔法省

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翌朝、早く起きた私は食堂のキッチンを借りてせっせとお弁当を作った。お兄様のお気に入りのおかずを中心に栄養バランスよく。

ヘンドリックお兄様は私のお弁当を気に入ってくれているのでこれで機嫌がよくなったらいいな、という微かな期待を込めて。賄賂ごときでどうにかなる人ではないだろうけど。

お城に行くついでにクルトお兄様にも会って行こうと、クルトお兄様の分のお弁当を作り、私はそれを両手に持って馬車へと乗り込んだ。


「先にカイに相談してみればよかったかな?」


動き出した馬車の中でクリスが言った。

……確かに。カイなら何か知っていたかもしれない。わざわざヘンドリックお兄様に聞きに行かなくてもよかった?

いやいや、と首を横に振る。せっかくクリスが馬車を用意してくれたのだ。そう言う風に思っては申し訳ない。


「いいえ、もう少し詳しい情報が欲しいもの。まとめてヘンドリックお兄様に聞いてみましょう」



「何をしに来た」


ヘンドリックお兄様の第一声はそれだった。とても面倒そうな声で。久しぶりに会った妹なんだからもっと他に言うことあるでしょ。

にっこりと笑ってお弁当を見せる。


「お仕事を頑張っていらっしゃるお兄様方へ、お弁当を作って参りましたの」

「そうか。そこに置いておけ」


話は終わりだとばかりに再び机に向かうお兄様。その態度にカチンときた。今日来ることは昨日声を飛ばして伝えている。お兄様からの返事はなかったけど、だけど確実に届いているはずだ。ダメとも言われてないんだし。


「お話を聞いてくださらないと言うのでしたらお弁当は両方ともクルトお兄様に差し上げます」


私の言葉にヘンドリックお兄様は不快そうに眉をひそめた。


「クルトお兄様はどんなに忙しくても可愛い妹を邪魔扱いしませんもの」


笑顔でそう言うと、お兄様はチッと舌打ちをして立ち上がった。


「お前が話があると言えばいつも面倒ばかりだから嫌なんだ」

「あら、本日はちょっと聞きたいことがあるだけですわ。お兄様は教えてくれるだけでよろしいのです。ね、クリス?」


隣に立つクリスに同意を求めると、クリスも「はい」と頷いた。それを見てお兄様は深いため息をついて魔法省を出た。

いつもの部屋で向かい合って座ると、お兄様は私の持って来たお弁当を早速開けた。

え、今食べるの!? お昼ご飯にって思って持って来たのに……。


「ここ数日忙しくて食べる時間も碌になかったんだ。話は聞いてやるから食わせろ」

「ま、まあ、それはお忙しい時に申し訳ありません」

「本当にな」


そう言うなら昨日の時点で「今度にしてくれ」って言ってくれたらよかったのに。心の中で文句を言ってお兄様を睨んでみるが、お兄様は全く気にせずにお弁当を食べ始めた。

しかし無理だと言われなかったということはなんとか時間を空けてくれたのだろう。そこは素直に感謝。いつもより丁寧にお茶を入れてあげよう。


「早速ですが、クラッセン公爵について知りたいのです」


私の言葉にお兄様は何の反応も示さずに唐揚げを食べた。そしてお茶を一口飲んでお弁当を置く。お弁当箱の中は既に三分の一は減っている。本当にお腹が空いていたのだろう。


「例えばなんだ。お前に何度も刺客を送り込んできて、それを娘の仕業に仕立てていたことか?」


あ、確かにベアトリクスは自分じゃないって言っていたよね。でも娘の仕業にするって父親としてどうなの……。


「クラッセン公爵はベアトリクス様を殿下の婚約者にさせたかったのでは? それなのにベアトリクス様の評判を落とすようなことをするなんてよく分かりませんわ」

「あそこの本命は初めから妹の方だ」


クリスはそれを聞き、「ああ」と何かを思い出したかのような声を出した。そして小さな声で教えてくれる。


「前に一回だけ会ったことがあるけど、ちゃんとした子だったよ。気は強かったけど」


なるほど。ベアトリクスは最初から切り捨てる予定だったのか。そうなると小さい頃にちゃんと教育を受けていない可能性もある。だからあんなに何も知らない子だったのかも。

って違う! そんなことが聞きたいんじゃない。

私が口を開こうとすると、先にお兄様が言った。


「それともあれか? いつぞやの暗殺事件。お前を庇って殿下が怪我をしたあの一件もクラッセン公爵の仕業だ」


それはそうだと思っていた。けどあれも気になることがあるのだ。


「あの時の暗殺者たちは殿下の命をも取ろうとしておりましたが、それもクラッセン公爵の考えでしょうか?」


自分の娘をカイの婚約者にしようとしているのに殺してしまってもいいというのはとてもおかしい話だと思うんだけど……。


「違う。あれは完全にあいつらの独断だ。大体公爵にとってはあの場に殿下がいたことがイレギュラーだ。あれで殿下にもしものことがあれば今頃公爵の頭と体は繋がっていない」


ああ、そうだよね。

ってちっがーう!


「違います! わたくしが聞きたいのはそんなことではありませんわ!」


すっかり普通に話してしまっていたけど、そんなこと今更どうでもいい。大きな声を出した私を見てヘンドリックお兄様は呆れたように言った。


「お前だって興味津々だっただろ」

「ぅ……っ! そ、そうですが、違うのです! わたくしが聞きたいのは今後のことですわ!」


お兄様は私の言葉に返事をせず、再びお弁当を食べ始めた。それで確信した。私が聞きたいことをお兄様は初めから分かっていたこと。そしてそれを話す気はないということ。

しかし私はこのくらいじゃくじけない。


「クラッセン公爵家は今後どうなるのでしょうか? ベアトリクス様はどうすれば助かるのです?」
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