池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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「エレナとクリスの思っている通りだ。殿下が戻って来られても皇位継承権の順位を変えることは難しい。戻ってこられた殿下が本物かどうかなんて誰にも分からないからな」


ああ、やっぱりそうだよね。


「難しいけど、可能だということなのですか?」


私が言おうと思っていたことを先にクリスが言ってくれた。ヴェルナー様は頷く。難しい顔をしたまま。


「普通は不可能だ。だが相手はあのユリウス殿下。昔の殿下を知っている者ならあのお方の優秀さは分かっている。戻ってこられ、私のように思い出したとなるとあのお方を皇帝へと推す者が出てくる。それも決して少なくはないだろう」

「だけど難しいと言うことは、普通に姿を現しただけでは不可能だと言うことですよね? 具体的にはどのような方法があるのですか?」

「今の状況だと次の皇帝候補はカイ殿下かユリウス殿下の二人だ」

「待ってください。その言い方ですと、第一皇子も継承権を持っているように聞こえるのですが……」


話が複雑になってきてちょっと訳が分からないけど、確かにユリウス殿下には継承権はないと私も思っていた。戻って来た本物か分からない皇子にも皇位継承権はあるのか?

クリスの質問にヴェルナー様は首を振った。


「いや、皇位継承権はない。だが、あの優秀さと人望だ。今継承権がなくてもこの先は分からない。カイ殿下よりも上になることはないだろうが」


うん、なるほど。


「つまり、ユリウス殿下が帝位につくとなると、目先の障害は殿下なのですね?」


ヴェルナー様が頷く。


「それって、第一皇子が皇帝になるにはカイがいなくなるのが手っ取り早いてこと、だよね……?」

「……わたくしもそう思いますわ」


そしてあのユリウス殿下なら本当にやりかねない。相手が弟でもためらいなく剣を振れる人だ。そう思うと冷や汗が出て来た。


「ユリウス殿下の元に人が集まり、カイ殿下にもしものことがあった場合、帝位につくのはユリウス殿下だと思われる。これは私個人の考えだが、ほぼ確実だ。陛下がどう考えられてもあのお方の下につく者たちの声を無視することはできまい」

「ユリウス殿下の人望はそれほどに厚いのでしょうか?」


陛下にも無視することができないとなると、お城の重臣たち半分以上がユリウス殿下につくと考えても間違いではないだろう。


「強く、賢く、膨大な魔力を持ち、心優しい方だ。殿下がまだおられたころ、この城の臣下、騎士、召使いの半数以上が殿下を崇拝していた」

「崇拝ってそんな、神様じゃないんですから」


クリスが可笑しそうに笑う。しかしヴェルナー様は全く表情を変えることなく、真っすぐ私たちを見た。


「そうだな、神様じゃない。だが神様のようなお方だ。人の心を掴み、全てをご存じだ。殿下がおっしゃったことは本当にその通りになる。それがユリウス殿下だ」


まるで魔法を使っているようだな。そう思って本当にそうなのかもしれないと思った。

光属性には魅了の魔法が使えると言う噂がある。その真偽は確かめてないし、確かめようとも思わないけど、闇属性にも同じような、人を操るような魔法がある。


「ユリウス殿下についてはよく分かりました。それでヴェルナー様はどちらに帝位についていただきたいとお考えでしょうか?」


笑顔でそう聞くが、心臓が音を立てて鳴っている。ヴェルナー様がユリウス殿下につくと言うのならかなりの強敵だ。

ヴェルナー様は少し考え、そして言った。


「正直に言うと、今の時点ではどちらとも言えない」


クリスが「えぇっ」と驚き半分、不満半分な声を上げる。私も気持ちは分かるので何も言わないでおく。


「ユリウス殿下の作る未来は見たい。が、それはカイ殿下を失うことと同じだ……」

「そうですか」


まあ今の時点ではユリウス殿下が帝位を狙っているわけではない。カイがユリウス殿下の認める器になればいいだけの話だ。


「今お話ししたことはとりあえず忘れましょう。ヴェルナー様にはとにかく殿下を鍛えていただくことを最優先にしていただけますか? ユリウス殿下がおっしゃったのですよね?」

「あ、ああ……」


正規ルートではカイが皇帝になるはずだ。実際ゲームではそこまで時間は進んでいないけど。でも皇帝になるエンドなんだからカイは皇帝の器のはず。

心配しなくても大丈夫。ユリウス殿下にハッピーエンドの邪魔はさせない。そして私は安全安心な未来を築くのだ。

ああ、そうだ。


「わたくし、一つだけ言えることがございますの」


ヴェルナー様の言葉に一つだけ引っ掛かっていることがあるんだった。これだけは言っておかないと。


「ユリウス殿下は強く、賢く、膨大な魔力を持ち、心優しい方だと先ほどおっしゃいましたよね?」


強いのも賢いのも魔力量も、確かにすごい。でも心優しいというのだけは理解できない。悪い人ではないのかもしれないけど、目的の為なら非情になれる人だ。


「心の優しさだけは確実にわたくしたちの殿下の方がはるかに勝っておりますわ」


胸を張ってそう言うと、横でクリスが「同感!」と手を挙げた。

そんな私たちを見てヴェルナー様はふっと笑う。


「そうかもしれないな」


そうかもではなく確実にそうだと言い張れる。皇帝になるのはカイだ。国の為に国民を犠牲にできるユリウス殿下ではなく、「犠牲の上に成り立つ幸福などあってはならない」と怒ったカイだ。

強敵だろうが何だろうが絶対にユリウス殿下には負けないし!!

私はグッとこぶしを握った。
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