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今できること
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「ということがございましたの!!」
とても落ち着いていられなくて、興奮して説明を終えた私に、ヘンドリックお兄様は冷ややかな目を向けた。
「突然戻って来たと思ったらそんなことか」
ふん、と私を馬鹿にするように見るお兄様はとても冷静に見える。
そんなことって……ユリウス殿下が帝位を狙っているかもしれないのがそんなことなの? カイが死んじゃうかもしれないって言うのに。
「そんなことではございませんわ! 重大事ではありませんか!」
引き下がらずにそう言うと、ヘンドリックお兄様は深いため息を吐いた。
「そんなことは初めから予想の範囲内だ。お前はその可能性も考えていなかったのか?」
う……っ! いや、確かに考えていなかったわけではないけど、でも本当にそんなことになるなんて思わないじゃん。ゲームにはない展開なんだから。
もしかしたらこのまま何もないままかもしれないけど、今まで姿を消していたユリウス殿下が人前に出たということでようやく実感がわいたのだ。
「考えていなかったわけではありませんけど……」
小さな声でそう言うとクリスがジトっとした目を向けて来た。「本当に?」とでも言いたそうな顔だ。
うん、嘘は言っていない。考えていなかったわけではないのだから。だけどその視線が痛い。
「それよりも対策を立てないといけませんわ! お兄様、予想の範囲内でしたら何か防止策があるのでしょう?」
「ない」
お兄様は表情一つ変えずにきっぱりと言った。
……はい?
「あの、ちょっとよく聞こえなくて……わたくし聞き間違えたようですわ。もう一度言っていただけますか?」
あのお兄様が策もないなんてあり得ないもんね。
お兄様に笑顔を向けると、お兄様は呆れたような顔を私に向けた。
「安心しろ。悪いのは耳ではなく頭だ。分かったらさっさと帰れ。私は忙しい」
「んな……っ!」
あまりの暴言に声を上げようとするが、お兄様はもう既に私の方を見てはいなかった。手元の資料に視線を落として真剣な表情をしている。
そのくらい真剣に私の話も聞いて欲しいんだけど。
「あ、あの、お話の途中に申し訳ありません。ヘンドリック様……少しよろしいでしょうか?」
魔法省の若い男の人が様子を伺うように部屋を覗き込んだ。
「ああ、話はちょうど今終わったところだ。丁度いい。これをつまみ出してからにしてくれ」
これって何よ!!
文句を言いたいが、言ったところでお兄様にダメージなどないだろうし、醜態をさらすだけだ。分かっているけどすごくムカつく。
「ご安心を! つまみ出されなくても自分で出て行けますわ!」
口調が荒くなってしまったが仕方がない。ぷんぷんと怒りながら部屋を出て行くとすぐに後ろから話し声が聞こえて来た。それなりに勉強をしている私でも全く理解できない内容だ。
……まあ忙しいというのは本当なんだろうな。
魔法省を出て馬車へ乗り込むと、クリスが言った。
「いつも思うけど、ヘンドリック様相手によくあんな態度とれるね。エレナのメンタルの強さには感心させられるよ」
「何を言っているのよ」
お兄様の人間性はそれなりに理解しているし、口も態度も性格も悪いことは知っている。だから今更少し睨まれたところで怯む私ではない。
あのお兄様相手にはガツガツいかないと何も教えてくれないし、何もしてくれないのだ。
大体クリスには言われたくない。
「クリスだって似たようなものじゃない」
確かにお兄様に対しては他の人と話す時より口数は少ないような気がするけど。でもだからってお兄様の態度でメンタルがやられたことなんてないくせに。
「そうかなぁ」
首を傾げるクリス。ってそんなことはどうでもいいのだ。
「……学校に戻ったらヨハン様のところに行きましょう。お兄様よりは説明してくれるでしょう」
防止策がないというのが聞き間違いじゃなかったとして、せめてもう少し詳しく知りたい。お兄様とヨハンは情報を共有しているはずだ。ヨハンの方が圧倒的に性格がいいし、聞いたら教えてくれるに違いない。
「ということがございましたが、どういうことなのでしょうか?」
校舎内をうろうろしていたらちょうどヨハンがいたので今までの経緯を説明してそう聞くと、ヨハンは「ああ」と全て分かっているように頷いた。
「そうだね、分かりやすく言うと、どうしようもないんだよ」
「それは第一皇子相手には手が出せないってこと?」
クリスが踏み込んで質問をする。
「うん、立場的な話ではなく、能力的な話ね。第一皇子がその気になれば私たちが何をしようが殿下を守り切ることはできない。かといって第一皇子を捕まえることなんてほぼ不可能だよね?」
……まあ確かに。ユリウス殿下は魔法の才能もあるし、更にそれを使いこなすこともできる。きっとできないことなんてないだろう。
「だから、策はないんだよ。第一皇子の目的はエレナちゃんも知っているよね?」
「え、ええ、国をよりよくすること、でしたよね?」
埋もれていた光属性を発掘し、必要があればカイに代わって皇帝になる。全ては国の為だ。
「エレナちゃんも分かっているとは思うけど、後は殿下次第なんだよ。殿下を認めさせることができれば全てはうまくいくはずだ」
……それは分かっている。でもそれしか道がないと言うのが不安なのだ。もしもの時のための保険が欲しい。
「もしかして、学校外実習の時に魔獣に襲われたのも第一皇子の仕業なのかな?」
学校外学習の時の魔獣?
覚えのない出来事に首を傾げ、そして思い出した。そういえばそんなイベントがあった気がする。更に私が寝ている間にリリーがそんなことを言っていたような覚えもある。
一人で納得している私をよそに、ヨハンは頷いた。
「うん、その可能性はかなり高いね。あの場所で魔獣が出るなんて誰かが手引きしたとしか思えないし」
「カイを強くするため?」
「そうだろうね」
ああ、なるほど。あのイベントはリリーとカイの絆を深めるためのものだと思っていたけど、そういう目的もあるのか。
「今私達にできるのは殿下のサポートだけだよ」
ヨハンはそう言って、全く不安などなさそうな表情で微笑んだ。
とても落ち着いていられなくて、興奮して説明を終えた私に、ヘンドリックお兄様は冷ややかな目を向けた。
「突然戻って来たと思ったらそんなことか」
ふん、と私を馬鹿にするように見るお兄様はとても冷静に見える。
そんなことって……ユリウス殿下が帝位を狙っているかもしれないのがそんなことなの? カイが死んじゃうかもしれないって言うのに。
「そんなことではございませんわ! 重大事ではありませんか!」
引き下がらずにそう言うと、ヘンドリックお兄様は深いため息を吐いた。
「そんなことは初めから予想の範囲内だ。お前はその可能性も考えていなかったのか?」
う……っ! いや、確かに考えていなかったわけではないけど、でも本当にそんなことになるなんて思わないじゃん。ゲームにはない展開なんだから。
もしかしたらこのまま何もないままかもしれないけど、今まで姿を消していたユリウス殿下が人前に出たということでようやく実感がわいたのだ。
「考えていなかったわけではありませんけど……」
小さな声でそう言うとクリスがジトっとした目を向けて来た。「本当に?」とでも言いたそうな顔だ。
うん、嘘は言っていない。考えていなかったわけではないのだから。だけどその視線が痛い。
「それよりも対策を立てないといけませんわ! お兄様、予想の範囲内でしたら何か防止策があるのでしょう?」
「ない」
お兄様は表情一つ変えずにきっぱりと言った。
……はい?
「あの、ちょっとよく聞こえなくて……わたくし聞き間違えたようですわ。もう一度言っていただけますか?」
あのお兄様が策もないなんてあり得ないもんね。
お兄様に笑顔を向けると、お兄様は呆れたような顔を私に向けた。
「安心しろ。悪いのは耳ではなく頭だ。分かったらさっさと帰れ。私は忙しい」
「んな……っ!」
あまりの暴言に声を上げようとするが、お兄様はもう既に私の方を見てはいなかった。手元の資料に視線を落として真剣な表情をしている。
そのくらい真剣に私の話も聞いて欲しいんだけど。
「あ、あの、お話の途中に申し訳ありません。ヘンドリック様……少しよろしいでしょうか?」
魔法省の若い男の人が様子を伺うように部屋を覗き込んだ。
「ああ、話はちょうど今終わったところだ。丁度いい。これをつまみ出してからにしてくれ」
これって何よ!!
文句を言いたいが、言ったところでお兄様にダメージなどないだろうし、醜態をさらすだけだ。分かっているけどすごくムカつく。
「ご安心を! つまみ出されなくても自分で出て行けますわ!」
口調が荒くなってしまったが仕方がない。ぷんぷんと怒りながら部屋を出て行くとすぐに後ろから話し声が聞こえて来た。それなりに勉強をしている私でも全く理解できない内容だ。
……まあ忙しいというのは本当なんだろうな。
魔法省を出て馬車へ乗り込むと、クリスが言った。
「いつも思うけど、ヘンドリック様相手によくあんな態度とれるね。エレナのメンタルの強さには感心させられるよ」
「何を言っているのよ」
お兄様の人間性はそれなりに理解しているし、口も態度も性格も悪いことは知っている。だから今更少し睨まれたところで怯む私ではない。
あのお兄様相手にはガツガツいかないと何も教えてくれないし、何もしてくれないのだ。
大体クリスには言われたくない。
「クリスだって似たようなものじゃない」
確かにお兄様に対しては他の人と話す時より口数は少ないような気がするけど。でもだからってお兄様の態度でメンタルがやられたことなんてないくせに。
「そうかなぁ」
首を傾げるクリス。ってそんなことはどうでもいいのだ。
「……学校に戻ったらヨハン様のところに行きましょう。お兄様よりは説明してくれるでしょう」
防止策がないというのが聞き間違いじゃなかったとして、せめてもう少し詳しく知りたい。お兄様とヨハンは情報を共有しているはずだ。ヨハンの方が圧倒的に性格がいいし、聞いたら教えてくれるに違いない。
「ということがございましたが、どういうことなのでしょうか?」
校舎内をうろうろしていたらちょうどヨハンがいたので今までの経緯を説明してそう聞くと、ヨハンは「ああ」と全て分かっているように頷いた。
「そうだね、分かりやすく言うと、どうしようもないんだよ」
「それは第一皇子相手には手が出せないってこと?」
クリスが踏み込んで質問をする。
「うん、立場的な話ではなく、能力的な話ね。第一皇子がその気になれば私たちが何をしようが殿下を守り切ることはできない。かといって第一皇子を捕まえることなんてほぼ不可能だよね?」
……まあ確かに。ユリウス殿下は魔法の才能もあるし、更にそれを使いこなすこともできる。きっとできないことなんてないだろう。
「だから、策はないんだよ。第一皇子の目的はエレナちゃんも知っているよね?」
「え、ええ、国をよりよくすること、でしたよね?」
埋もれていた光属性を発掘し、必要があればカイに代わって皇帝になる。全ては国の為だ。
「エレナちゃんも分かっているとは思うけど、後は殿下次第なんだよ。殿下を認めさせることができれば全てはうまくいくはずだ」
……それは分かっている。でもそれしか道がないと言うのが不安なのだ。もしもの時のための保険が欲しい。
「もしかして、学校外実習の時に魔獣に襲われたのも第一皇子の仕業なのかな?」
学校外学習の時の魔獣?
覚えのない出来事に首を傾げ、そして思い出した。そういえばそんなイベントがあった気がする。更に私が寝ている間にリリーがそんなことを言っていたような覚えもある。
一人で納得している私をよそに、ヨハンは頷いた。
「うん、その可能性はかなり高いね。あの場所で魔獣が出るなんて誰かが手引きしたとしか思えないし」
「カイを強くするため?」
「そうだろうね」
ああ、なるほど。あのイベントはリリーとカイの絆を深めるためのものだと思っていたけど、そういう目的もあるのか。
「今私達にできるのは殿下のサポートだけだよ」
ヨハンはそう言って、全く不安などなさそうな表情で微笑んだ。
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