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諦めのベアトリクス
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カイのサポート。
今はそれしかできないとして、何をサポートすればいいのだろうか。ユリウス殿下がカイに求めているのは何なんだろうか。
剣の強さ? 頭の良さ? 魔法?
剣に関してはヴェルナー様がいるし、勉強に関しては学校で十分のはず。というか学校で習う以上のことは私だって分からないからどうしようもないし。魔法だって本人の素質がほとんどだ。
……つまり、私にできることは今ないってことだね!
大体ストーリーに関係していないエレナは何かをする必要などないのだ。カイを支えるのはヒロインのリリーの役目。私はそれを見守るだけ。
とはいっても不安だ。カイを信じていないわけではない。ただユリウス殿下の考えが私にはよく分からない。根本が国の為だとしても、その為に何をするのかが想像つかないのだ。
とりあえずできるのはカイの周辺に気を配っておくくらいか。あのユリウス殿下からカイを守ることはヨハンも言っていた通り不可能だし。
「エレナ、考えたって仕方ないよ」
考え込む私を見てクリスがため息を吐いた。クリスも私と同じ結論に至ったのだろう。顔に「何をしても無駄だから」と書いてある気がした。
「それより、あっちはどうするの?」
あっち? あっちって何?
首を傾げてクリスの視線の先を辿る。
「ベアトリクス様!」
そこにはベアトリクスがいた。どこかへ向かう途中なのか、寮から出ようとしているところだったベアトリクスは、私の声にびくっと肩を揺らして振り向いた。とても嫌そうな顔をしている。
「急に大きな声を出さないでちょうだい。普通に呼んでくだされば聞こえるわ」
「あ、申し訳ありません。つい……」
そうだ、クラッセン公爵家の件でお城に行ったんだった。すっかり忘れていた。
「それで、何の用かしら?」
近寄ってきてくれるベアトリクス。
「ああ、いえ、何かご用事があるのでしたらまた後でお部屋に伺いますわ」
思わず呼び止めてしまったけど、そんなに急ぎの用事でもない。重大な用事ではあるけど。私がそう言うと、ベアトリクスは「別に」と首を振った。
「暇だから図書室にでも行こうかと思っていただけよ。用事なんてないわ」
あのベアトリクスが暇だから図書室に行くなんて……! ゲーム内では暇さえあればリリーをいじめていたあのベアトリクスが……!
感動に震えていると、クリスがはあ、とため息を吐いた。
おっと。
コホンと咳払いをして何気ない顔をすると、ベアトリクスは怪訝そうに私を見ていた。クリスは「またか」とでも言いたげだ。クリスの中で私はすっかり『変な子』だ。もう今更だしお互い様だけど。ほら、類は友を呼ぶって言うしね。
「申し訳ありません、少し他のことを考えておりましたわ」
にっこりとしてそう言っておく。
「お話と言うのは、この先のことに関してですわ」
ここで話す内容でもあるまい。ベアトリクスの部屋にはレオナ様がいるかもしれないし、私の部屋にでも来てもらおう。そう思って口を開こうとする前にベアトリクスは「ああ」と頷いた。
「その件なら特に何もしなくてもいいわ。連座は免れないもの」
いつもと変わらない表情でそう言ったベアトリクスはそのまま歩いて行こうとする。一瞬何を言われたのか理解できなかった私は、咄嗟にその手首を掴んでしまった。
あああ、やってしまった……!
どっと冷や汗が出る。いくら同性だって言ったって腕を掴むなんて失礼極まりない。しかも自分よりもずっと身分が上の相手だ。ベアトリクスは何を考えているのか全く分からない無表情で、自分の手を掴んでいる私の手を見ていた。
パッと手を離す。
「も、申し訳ありません……!」
慌てて頭を下げる。これはやばい。最近少し仲が良いとは言っても公爵家と伯爵家だ。少し怒られるくらいですめば万々歳。……殴られるかも。
いつぞやの悪夢がよみがえる。あの時めっちゃ顔腫れたんだよな。いやまあ今回は治癒魔法すぐ使えるし。……でも痛いのは嫌だな。
意外と余裕でそんなことを考えていると、頭上から予想外に落ち着いた声が聞こえた。
「……別に」
あれ? 怒ってない?
「そんなに謝る必要なんてないわ。少しびっくりしただけよ」
そりゃそうだ。親子の触れ合いすら少ないこの世界、というか貴族の生活で、他人に触れられるなんてそうそうあることではない。しかも結構ガシッと掴んでしまったわけだし。
頭を上げてベアトリクスの顔を見るが、本当に怒っている様子はない。私が掴んだ左手首を右手でさすっている。
「痛かったですよね……? 本当に申し訳ありません」
もう一度謝るとベアトリクスは何か言いたげな顔をして、だけど口を閉じた。
……これは本当に大丈夫そうだ。怒ってすらいない。
ほっと胸をなでおろし、改めてベアトリクスと向き合う。話を戻そう。
「あの、連座を逃れる方法があるかもしれないと言ったら、どうされますか?」
小声でそう言う。まだその方法が分かってはいないけど。もう諦めているのなら少しは希望になるだろう。
しかしベアトリクスの反応は私の予想していたものではなかった。
「知っているわ。だけどそれは到底無理よ。だからもういいの」
知っているけど到底無理?
首を傾げていると、今度こそベアトリクスは歩いて行ってしまった。
「無理って言うってことは、ベアトリクス様はその方法を知っているのかしら?」
クリスに視線を向けてそう聞くとクリスは「そうだろうね」と頷いた。
「どうして無理なの?」
「そんなの私だって分からないよ」
「そうよね」
せっかく見つけた希望なのだ。初めから諦めるなんて嫌だ。どうにかしてその方法を探り、実現させる必要があるな。
今はそれしかできないとして、何をサポートすればいいのだろうか。ユリウス殿下がカイに求めているのは何なんだろうか。
剣の強さ? 頭の良さ? 魔法?
剣に関してはヴェルナー様がいるし、勉強に関しては学校で十分のはず。というか学校で習う以上のことは私だって分からないからどうしようもないし。魔法だって本人の素質がほとんどだ。
……つまり、私にできることは今ないってことだね!
大体ストーリーに関係していないエレナは何かをする必要などないのだ。カイを支えるのはヒロインのリリーの役目。私はそれを見守るだけ。
とはいっても不安だ。カイを信じていないわけではない。ただユリウス殿下の考えが私にはよく分からない。根本が国の為だとしても、その為に何をするのかが想像つかないのだ。
とりあえずできるのはカイの周辺に気を配っておくくらいか。あのユリウス殿下からカイを守ることはヨハンも言っていた通り不可能だし。
「エレナ、考えたって仕方ないよ」
考え込む私を見てクリスがため息を吐いた。クリスも私と同じ結論に至ったのだろう。顔に「何をしても無駄だから」と書いてある気がした。
「それより、あっちはどうするの?」
あっち? あっちって何?
首を傾げてクリスの視線の先を辿る。
「ベアトリクス様!」
そこにはベアトリクスがいた。どこかへ向かう途中なのか、寮から出ようとしているところだったベアトリクスは、私の声にびくっと肩を揺らして振り向いた。とても嫌そうな顔をしている。
「急に大きな声を出さないでちょうだい。普通に呼んでくだされば聞こえるわ」
「あ、申し訳ありません。つい……」
そうだ、クラッセン公爵家の件でお城に行ったんだった。すっかり忘れていた。
「それで、何の用かしら?」
近寄ってきてくれるベアトリクス。
「ああ、いえ、何かご用事があるのでしたらまた後でお部屋に伺いますわ」
思わず呼び止めてしまったけど、そんなに急ぎの用事でもない。重大な用事ではあるけど。私がそう言うと、ベアトリクスは「別に」と首を振った。
「暇だから図書室にでも行こうかと思っていただけよ。用事なんてないわ」
あのベアトリクスが暇だから図書室に行くなんて……! ゲーム内では暇さえあればリリーをいじめていたあのベアトリクスが……!
感動に震えていると、クリスがはあ、とため息を吐いた。
おっと。
コホンと咳払いをして何気ない顔をすると、ベアトリクスは怪訝そうに私を見ていた。クリスは「またか」とでも言いたげだ。クリスの中で私はすっかり『変な子』だ。もう今更だしお互い様だけど。ほら、類は友を呼ぶって言うしね。
「申し訳ありません、少し他のことを考えておりましたわ」
にっこりとしてそう言っておく。
「お話と言うのは、この先のことに関してですわ」
ここで話す内容でもあるまい。ベアトリクスの部屋にはレオナ様がいるかもしれないし、私の部屋にでも来てもらおう。そう思って口を開こうとする前にベアトリクスは「ああ」と頷いた。
「その件なら特に何もしなくてもいいわ。連座は免れないもの」
いつもと変わらない表情でそう言ったベアトリクスはそのまま歩いて行こうとする。一瞬何を言われたのか理解できなかった私は、咄嗟にその手首を掴んでしまった。
あああ、やってしまった……!
どっと冷や汗が出る。いくら同性だって言ったって腕を掴むなんて失礼極まりない。しかも自分よりもずっと身分が上の相手だ。ベアトリクスは何を考えているのか全く分からない無表情で、自分の手を掴んでいる私の手を見ていた。
パッと手を離す。
「も、申し訳ありません……!」
慌てて頭を下げる。これはやばい。最近少し仲が良いとは言っても公爵家と伯爵家だ。少し怒られるくらいですめば万々歳。……殴られるかも。
いつぞやの悪夢がよみがえる。あの時めっちゃ顔腫れたんだよな。いやまあ今回は治癒魔法すぐ使えるし。……でも痛いのは嫌だな。
意外と余裕でそんなことを考えていると、頭上から予想外に落ち着いた声が聞こえた。
「……別に」
あれ? 怒ってない?
「そんなに謝る必要なんてないわ。少しびっくりしただけよ」
そりゃそうだ。親子の触れ合いすら少ないこの世界、というか貴族の生活で、他人に触れられるなんてそうそうあることではない。しかも結構ガシッと掴んでしまったわけだし。
頭を上げてベアトリクスの顔を見るが、本当に怒っている様子はない。私が掴んだ左手首を右手でさすっている。
「痛かったですよね……? 本当に申し訳ありません」
もう一度謝るとベアトリクスは何か言いたげな顔をして、だけど口を閉じた。
……これは本当に大丈夫そうだ。怒ってすらいない。
ほっと胸をなでおろし、改めてベアトリクスと向き合う。話を戻そう。
「あの、連座を逃れる方法があるかもしれないと言ったら、どうされますか?」
小声でそう言う。まだその方法が分かってはいないけど。もう諦めているのなら少しは希望になるだろう。
しかしベアトリクスの反応は私の予想していたものではなかった。
「知っているわ。だけどそれは到底無理よ。だからもういいの」
知っているけど到底無理?
首を傾げていると、今度こそベアトリクスは歩いて行ってしまった。
「無理って言うってことは、ベアトリクス様はその方法を知っているのかしら?」
クリスに視線を向けてそう聞くとクリスは「そうだろうね」と頷いた。
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