池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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解決策

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『エレナ、今すぐ出て来てくれ。女子寮の外にいる』


翌日、部屋でゆっくりしていた私の元へ届いたのはカイの声だった。目の前で魔法陣が現れて、そして声と同時に消えた。


「わざわざカイからの呼び出されるなんて、何したの?」


クリスが立ち上がって私を見る。当たり前のように一緒に行ってくれるようだ。カイからの呼び出しだ。無視するわけにもいかない。私も立ちあがって、そして答える。


「そんなのわたくしが聞きたいわ」


心当たりはないこともない。昨日の今日だ。大方、昨日の会話の内容をレオンから聞いて、馬鹿なことをするな、と文句を言いに来たのだろう。

面倒だけど仕方がない。私はため息を吐いて外に出た。



本当に女子寮の外に立っていたカイは、私を見るなり、すごい剣幕で怒った。ついでにカイと一緒にいたリリーからは心配そうな目を向けられた。

カイは昨日のレオンやマクシミリアンと同じようなことを私に言い、そして言いたいことを一通り言い終えると、「分かったかな?」と私を見た。

ほとんど聞き流していた私はそれに答えずににっこりと笑う。


「そのように怒らなくても、わたくしはベアトリクス様をお救いしたいだけなのですわ」

「それは彼女がクラッセン公爵から離脱すれば済む話だ。エレナまで身分を捨てる必要はないだろう?」


さっきからコンコンと家から離脱したらどんなに辛く、大変かというのを語っていたというのに、ベアトリクスには一人でその辛い道を歩かせようと言うのか。

ベアトリクスのことはどうでもいいのか、私のことを心配するあまり、そのことに気が付いていないのか。後者だろうなと思った。

カイは優しい。だけど視野が狭い。


「殿下、ご存じではありませんか? 人はいつだって死ぬことができるのです」


処刑から助けたところでその先で自殺でもされたら意味がない。


「……では、エレナは家を離脱せずに彼女を気にかけてあげればいい」

「そんなのはただの偽善ですわ」


その選択肢はない。首を横に振ると、カイはもどかしそうにまた口を開こうとした。その前に私は言葉を発する。


「何も持っていない人に寄り添い、分けてあげたってその人の気持ちは分からないものです。自らも全てを捨てて初めて、その人の気持ちを理解し、寄り添うことができるのです」


自分はいつだって光あふれる場所にいていい顔をするなんて綺麗ごとだ。ただの同情だ。相手から見れば偽善にしか見えないだろう。


「だが……っ」

「そうおっしゃるのでしたら殿下がどうにかしてくださいませ。そうしたらわたくしはそのようなことは致しません」


私の言葉にカイが戸惑ったような表情を浮かべた。

そりゃそうだ。皇子のカイにもどうしようもできないことだ。分かっている。分かっているから、私がこう言っているのだ。


「……どうして彼女の為にそこまでするのか聞いても?」


どうして? そんなこと決まっている。


「ベアトリクス様がわたくしの大事なお友達だからですわ。誤解しないでいただきたいのは、ベアトリクス様だから、ではないということです。たとえばそれが殿下でも、レオン様でも、もちろんクリスでも、わたくしは同じことをしますもの」


笑顔でそう言うと、カイは「そうだね」と頷いた。


「エレナはそういう女の子だ。今更何を言っても無駄か」

「ええ。ベアトリクス様が処刑を免れた後の生活のサポート。わたくしにしかできないことですもの。大丈夫ですわ。わたくしは家を出ても幸せになる自信があります」


身分のなくなった私が家族や仲の良い皆に会うことは難しいだろうから、そこだけは寂しいけど。そう思った時だった。


「俺がするよ」


いきなりそんな声がした。振り返るとそこにはレオンとマクシミリアンが立っている。

話を聞かれたのがこの二人だったことに安堵すると同時に、周囲への警戒を怠っていたことを反省する。こんな話をしているのに、全然周りのことを気にしていなかった。他の人に話を聞かれていたら大変なことだ。

考えていることが表情に出ていたのか、クリスがこそっと教えてくれる。


「大丈夫だよ。他は誰も来ていないから」


どうやらずっと周りを警戒してくれていたようだ。ナイスクリス!


「エレナにしかできないことじゃない。俺がする」

「とおっしゃいますと……?」


レオンが何を言っているのかよく分からなくて聞き返すと、レオンは自分の胸に右手を置いて言った。


「公爵令嬢と俺が結婚する。そうしたらクラッセン公爵家を抜けても、公爵家の一員として扱われる。それが最善だろ」


……なるほど。

同じ公爵家だ。ベアトリクスにとって悪い話ではないだろう。


「ただ、少し肩身の狭い思いはさせるかもしれねえけど……」

「でもさ、レオンがそう言ってもディターレ公爵がいいって言うか分からないよね?」


クリスが首を傾げる。

確かに。レオンはよくてもレオンの両親的には何も得がないのに、首を縦に振るわけがない。相手は身分もなく、本来なら処刑されるはずだったベアトリクスなのだ。面倒ごとでしかないだろう。

しかしレオンは自信のある表情だ。


「エレナは跡継ぎってどうやって決まるか知っているか?」

「え、いえ……」


家を継ぐとか継がないとか、私には無関係な話だ。そんなこと気にしたこともなかった。


「基本的には長男が継ぐことになっている」


うん、まあそれが当たり前だよね。あ、でもお父様は長男なのに家を継いではいないんだよね。ヘンドリックお兄様だって継ぐ気はなさそうだし。


「次男、三男が家を継ぐには、長男の家を継ぐ気はないって言う意思表示が必要なんだ」


カイが横から教えてくれる。ほうほう、なるほど。つまり、お父様もヘンドリックお兄様もそれをしたか、これからするかってことよね。

それが今何の関係があるんだろう。

首を傾げると、レオンは朗らかに笑った。


「うちの両親はディターレ家を弟に継いで欲しいんだ」


そういえばレオンの家はレオンよりも弟の方が大事にされているんだったな、と思い出す。そして理解した。


「つまり、その意思表示をすることを交換条件にベアトリクス様を受け入れてもらうおつもりですの?」

「ああ。俺は元々継ぐ気なんてないし、そう言ったらあの二人は絶対にダメなんて言わないからな」


それなら確かにそれが最善だ。私の田舎暮らしの夢は叶わないけど。ベアトリクスのことを考えても絶対にそっちの方がいだろう。


「ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願い致します」


深々と頭を下げる私に、レオンは「エレナに言われることじゃねえよ」と笑った。
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