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お城へ
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いったあああぁぁぁ!
痛みに転げまわりそうになるが、そんな非効率なことはしない。こういう時は迷わず治癒魔法。
短剣がお兄様の手から捨てられ、カランと音を立てた。
傷が治った。まだ痛い気はするけど気のせいだ。もう治っているのだから痛いわけがない。気の持ちよう。
完全に痛みがなくなり、ほっと息をつく。そして気が緩んだせいか、私の魔法も解けた。
「あ、……」
つまり、魔法で作った短剣が消えたのだ。
そうだ、魔法で作ったんだ。こんな痛い思いをして引き抜かなくても消せばいい話だった。
「馬鹿者」
ヘンドリックお兄様が冷たい声で一言だけ。はい、馬鹿者です。今回は本当に否定できない。
うなだれる私の背をポンポンと叩く誰かの手。クリスだった。
「まあ、エレナらしくていいと思うよ」
「……ありがとう」
嬉しくはない。決して。だけどクリスがフォローしてくれようとした気持ちはありがたい。
「それより、こんなところでボケっとしていていいんですの?」
冷静な声が聞こえた。はっと顔を上げるとベアトリクスはお城の方を見ていた。ここからはお城は見えない。状況が分からない。ユリウス殿下が行ってもう十数分は経っていると思う。
「よくありません!」
勢いよく立ち上がり、ヘンドリックお兄様を見る。
「ここへは何で?」
お兄様の視線の先には馬が二頭。
よっし! 馬! 馬車だったらどうしようかと思った。
「ユリウス殿下はもう既にお城へ行かれていると思われます。わたくしもすぐに!」
馬へと走り出そうとして足を止める。スカートで馬に乗るなんてきっとみっともないことだろう。だけどここに二頭いると言うことは少なくともクリスは乗ってきている。可愛らしいワンピースで。まあいいか。
と、思ったその時だった。グイっと力強く二の腕が引っ張られ、気が付くと私は馬の上にいた。
「先に行く。お前たちは後から来い」
ヘンドリックお兄様の声がすぐ耳元で聞こえ、私は状況を把握した。
「もう少し優しくしてくださいませ」
捕まれた腕をさすり、小さな声で文句を言う。しかし馬は既に走り出している。私の文句はお兄様へは届かなかったようだ。
「ところでお兄様!」
「なんだ」
聞こえるように大きな声を出す私。だけどお兄様の声はすぐ耳元で聞こえる。
なるほど、誰かと馬に乗る時は後ろに乗った方が大きな声を出さなくていいんだ。手綱は持たないといけないけど。
「魔法を打ち消す魔法陣を書いてくださいませ!!」
私は忘れていない。昔、場内でカイと一緒に襲われた時に私の魔法が消されたことを。自分でできはしたけど、今後のことを考えたらすぐに使える魔法陣があれば便利だ。
もっとも、私が自分で書くよりお兄様が書いた方が早いと思うから頼んだのだが。
「どこで聞いたのか知らないが、そんなものはない」
「はあ!?」
ないはずがないじゃん。だってあの男たち使っていたし! 私が言う前にお兄様が付け加える。
「特定の魔法に対するものなら書くことはできる。だがどんな魔法にも使えるものなどない。なんの魔法に対するものが必要だ?」
なるほど。必要な魔法陣なら大体分かっている。
「記憶を消す魔法に対するものです!」
「ああ、無理だな」
「なんでですか!」
上げて下とすスタイルは止めて欲しい。さっき書けるって言ったじゃん!
「元の魔法陣が分からないことには無理だ。殿下の使う闇属性の魔法に関しては打消しの魔法陣も書くことはできない」
あー、なるほどー……。じゃあやっぱり自力でするしかないか。私だって魔法陣のことは勉強してるし、さっきもできたし多分大丈夫。そう自分に言い聞かせて前を向く。
すごい勢いで景色が通り過ぎていく。結構町中に入って来た。人もちらほら見える。そしてその人たちが皆私たちを見て驚いているのが分かった。
……町中を馬で駆けている人は見たことがない。もしかしたら後で怒られるかもしれない。まあいいか。怒られるときはお兄様も一緒だ。この人がいれば怖いものはない。
「……お前、馬に乗るの慣れてないか?」
「ええ、練習しましたもの」
そう言ってハッとした。女の子は馬に乗ってはいけないんだったっけ? おじい様の家で乗馬訓練したことは帰って来てから一度も口にしていない。
「……お父様とお義母様には内緒にしてくださいませ。あと、クルトお兄様にも」
お義母様はレディとしての作法は……とお小言を言うだろう。お父様は呆れた表情で私を諭すだろう。クルトお兄様はそんな危ないことを、と怒るだろう。どれも避けたいたい事態だ。
お兄様からは何も返事が返って来なかった。お兄様もたいがい常識破りだ。きっと黙っていてくれるだろう。
「殿下は迷わなかった」
「え?」
唐突に言われたことに聞き返すと、お兄様は「もう着くぞ」とそれだけ言った。
そしてお城の門が見えた。さすがにお城の中にまで馬で乗り込むわけにはいかない。馬がまだ止まらない内にヘンドリックお兄様の腕を押しのけてヒラリと飛び降りた。
「おい」と咎めるような声が聞こえるが構わずに走る。魔力強化も惜しみなく使って。しかしお城の廊下でスピードの維持は難しい。人はいるし、曲がり角はあるし。
魔力調整が難しいよー。半泣きで走っていると、後ろからもう一つ足音が聞こえた。
「陛下の執務室だ。右に曲がれ。こっちの方が早い」
言われた通り右に曲がり、ひたすら走る。こんな時に広いお城が憎い。細かく魔力を調整しながら走り、ようやく陛下の執務室へと続く扉が見えた。
私はノックもせず音を立ててその扉を開けた。
痛みに転げまわりそうになるが、そんな非効率なことはしない。こういう時は迷わず治癒魔法。
短剣がお兄様の手から捨てられ、カランと音を立てた。
傷が治った。まだ痛い気はするけど気のせいだ。もう治っているのだから痛いわけがない。気の持ちよう。
完全に痛みがなくなり、ほっと息をつく。そして気が緩んだせいか、私の魔法も解けた。
「あ、……」
つまり、魔法で作った短剣が消えたのだ。
そうだ、魔法で作ったんだ。こんな痛い思いをして引き抜かなくても消せばいい話だった。
「馬鹿者」
ヘンドリックお兄様が冷たい声で一言だけ。はい、馬鹿者です。今回は本当に否定できない。
うなだれる私の背をポンポンと叩く誰かの手。クリスだった。
「まあ、エレナらしくていいと思うよ」
「……ありがとう」
嬉しくはない。決して。だけどクリスがフォローしてくれようとした気持ちはありがたい。
「それより、こんなところでボケっとしていていいんですの?」
冷静な声が聞こえた。はっと顔を上げるとベアトリクスはお城の方を見ていた。ここからはお城は見えない。状況が分からない。ユリウス殿下が行ってもう十数分は経っていると思う。
「よくありません!」
勢いよく立ち上がり、ヘンドリックお兄様を見る。
「ここへは何で?」
お兄様の視線の先には馬が二頭。
よっし! 馬! 馬車だったらどうしようかと思った。
「ユリウス殿下はもう既にお城へ行かれていると思われます。わたくしもすぐに!」
馬へと走り出そうとして足を止める。スカートで馬に乗るなんてきっとみっともないことだろう。だけどここに二頭いると言うことは少なくともクリスは乗ってきている。可愛らしいワンピースで。まあいいか。
と、思ったその時だった。グイっと力強く二の腕が引っ張られ、気が付くと私は馬の上にいた。
「先に行く。お前たちは後から来い」
ヘンドリックお兄様の声がすぐ耳元で聞こえ、私は状況を把握した。
「もう少し優しくしてくださいませ」
捕まれた腕をさすり、小さな声で文句を言う。しかし馬は既に走り出している。私の文句はお兄様へは届かなかったようだ。
「ところでお兄様!」
「なんだ」
聞こえるように大きな声を出す私。だけどお兄様の声はすぐ耳元で聞こえる。
なるほど、誰かと馬に乗る時は後ろに乗った方が大きな声を出さなくていいんだ。手綱は持たないといけないけど。
「魔法を打ち消す魔法陣を書いてくださいませ!!」
私は忘れていない。昔、場内でカイと一緒に襲われた時に私の魔法が消されたことを。自分でできはしたけど、今後のことを考えたらすぐに使える魔法陣があれば便利だ。
もっとも、私が自分で書くよりお兄様が書いた方が早いと思うから頼んだのだが。
「どこで聞いたのか知らないが、そんなものはない」
「はあ!?」
ないはずがないじゃん。だってあの男たち使っていたし! 私が言う前にお兄様が付け加える。
「特定の魔法に対するものなら書くことはできる。だがどんな魔法にも使えるものなどない。なんの魔法に対するものが必要だ?」
なるほど。必要な魔法陣なら大体分かっている。
「記憶を消す魔法に対するものです!」
「ああ、無理だな」
「なんでですか!」
上げて下とすスタイルは止めて欲しい。さっき書けるって言ったじゃん!
「元の魔法陣が分からないことには無理だ。殿下の使う闇属性の魔法に関しては打消しの魔法陣も書くことはできない」
あー、なるほどー……。じゃあやっぱり自力でするしかないか。私だって魔法陣のことは勉強してるし、さっきもできたし多分大丈夫。そう自分に言い聞かせて前を向く。
すごい勢いで景色が通り過ぎていく。結構町中に入って来た。人もちらほら見える。そしてその人たちが皆私たちを見て驚いているのが分かった。
……町中を馬で駆けている人は見たことがない。もしかしたら後で怒られるかもしれない。まあいいか。怒られるときはお兄様も一緒だ。この人がいれば怖いものはない。
「……お前、馬に乗るの慣れてないか?」
「ええ、練習しましたもの」
そう言ってハッとした。女の子は馬に乗ってはいけないんだったっけ? おじい様の家で乗馬訓練したことは帰って来てから一度も口にしていない。
「……お父様とお義母様には内緒にしてくださいませ。あと、クルトお兄様にも」
お義母様はレディとしての作法は……とお小言を言うだろう。お父様は呆れた表情で私を諭すだろう。クルトお兄様はそんな危ないことを、と怒るだろう。どれも避けたいたい事態だ。
お兄様からは何も返事が返って来なかった。お兄様もたいがい常識破りだ。きっと黙っていてくれるだろう。
「殿下は迷わなかった」
「え?」
唐突に言われたことに聞き返すと、お兄様は「もう着くぞ」とそれだけ言った。
そしてお城の門が見えた。さすがにお城の中にまで馬で乗り込むわけにはいかない。馬がまだ止まらない内にヘンドリックお兄様の腕を押しのけてヒラリと飛び降りた。
「おい」と咎めるような声が聞こえるが構わずに走る。魔力強化も惜しみなく使って。しかしお城の廊下でスピードの維持は難しい。人はいるし、曲がり角はあるし。
魔力調整が難しいよー。半泣きで走っていると、後ろからもう一つ足音が聞こえた。
「陛下の執務室だ。右に曲がれ。こっちの方が早い」
言われた通り右に曲がり、ひたすら走る。こんな時に広いお城が憎い。細かく魔力を調整しながら走り、ようやく陛下の執務室へと続く扉が見えた。
私はノックもせず音を立ててその扉を開けた。
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