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逃走
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案の定、ユリウス殿下が大人しく返してくれるわけがなかった。
「君にはもう少しここにいてもらうよ」
その言葉と同時にフッと空気が変わった。周りを見てみるが景色は何も変わっていない。だけど違う。
「異空間にいれば少なくとも外から君を見つけることはできない。公爵家の娘はやっかいだけど、異空間を見つけたからってどうしようもできないだろう」
「あら、わたくしが殿下の作った空間に入ることができるのは光属性を持っているからですわ。もう一人いるのをお忘れですの?」
「あの程度の魔力で僕の魔法に対抗できるわけがないよ」
光属性を持っているだけじゃダメなのか。ああ、だからゲーム内でリリーがユリウス殿下に会わなかったんだな。まあいい、こんな空間壊すことなんて簡単だ。
そう思った時、急に睡魔が襲って来た。
「君は眠っている時くらいしか大人しくできないだろう?」
やばい、寝てしまったら何もできない。ほんと闇属性ってチートだ!
「大丈夫、起きたら全部終わっているよ」
ちょっと待ってよ、そんなの困る。行かないといけない。私が、カイのところに。闇属性に対抗できるのは光属性。しかもリリーより魔力が多く、闇属性について知っている私が適任だ。
「僕はカイのところへ行ってくるよ。今回だけは見逃しておくれ」
何のことかと聞き返そうとしたけど、声が出なかった。
「ゆっくりお休み」
薄れゆく意識の中で、優しい声が聞こえ、そしてユリウス殿下の気配が消えた。やばい、行っちゃった。私も早く行かなきゃ……。
しかしどうしても眠い。瞼が重い。どうにか目を覚まさないといけない。体に流れる魔力を意識すると、どうにか短剣を作ることができた。
この睡魔の中ではまともに魔法を使うことも難しい。
光る刀身を一度見て、私はそれを勢いよく振り下ろした。
「いっっ……!」
あまりの痛みに瞼が開いた。右の太ももから血がじわっと出ている。
痛い、すごく痛い……でも目は少し覚めた。しかしこれも今だけだろう。こんなことで魔法に抗うことはできない。
とりあえずこの異空間を壊して……。
ズキズキする足にできるだけ意識を向けないようにしてユリウス殿下の異空間を壊す。しかし痛い。刺さったままの短剣を見て、すぐに目を逸らす。
自分でやったことだけどあまり視界に入れたいものではない。恐怖で気絶でもしたら元も子もないし。
とりあえず私にかかったこの魔法を……。じっと目を閉じて魔力に集中する。
……あ、これ、私の魔力じゃない。あ、やばい、眠い。
慌てて目を開けて、そっと足に刺さったままの短剣に触る。それだけで痛みが走り、眠気が飛んだ。ズキズキするまま、また集中する。今度は目を閉じずに。
……これだ。この魔力。
私の体に流れているユリウス殿下の魔力。それは魔法陣をえがいているような気がした。集中しすぎて目が乾いているが、そんなことも気にせず続ける。これがこうで、ここがこうだから……多分ここ。
授業で勉強した魔法陣の構図。それを壊すように自分の魔力を送る。すると途端に眠気が飛んでいった。
でっきたー……。
ハーと息をつく。以前本物のエレナが言っていた魔法への割り込み。今までも一週間に一度のペースでレオンやクリスに手伝ってもらって練習をしていたが、一度も成功したことがなかった。それが今ここで成功するなんて、私もっているかもしれない。
そうか、魔法を変えるのに魔法で対抗したからダメだったんだ。魔力へ魔力でアプローチ。これが正解。形のない、目に見えない魔法だから掴むことができた。
よっし! 一回コツをつかんだんだ。多分次もできる! っていうか目が乾きすぎて瞼がくっついて……。
無理やり目を閉じ、何度か瞬きをすると、ようやく目が潤ってきた。どんなに集中していても瞬き大事。陸で生きる人間には瞬き必須。
心の中でそう呟き、そして太ももへと視線を落とした。
あー痛い。さっきからずっと痛いけど見たらもっと痛い。普通に泣いてしまうくらいは痛い。そりゃそうだ。足に剣が刺さっているのだから。
あー、今度はこれを抜くのか。嫌だ……。
光魔法で傷は治すことができる。でもそれにはまず抜く必要があるのだ。こんなところでもたもたする時間はない。分かってはいるけど。
「エレナ!!!」
「はいっ!」
急に名前を呼ばれ、反射的に返事をする。それと同時に、何かが勢いよくぶつかって来た。いや、誰かが抱き着いて来た。
「えっと……クリス?」
だよね? 今の声。私よりも高い背に強い力。覚えがある。
「もー! 遅いよ! 逃げるならもっと早く逃げてよ!!」
「ごめんなさい、わたくしもさっきそれを後悔したところですわ」
居心地が良かったと言うのが半分、どうせ逃げられないと言うのが半分。しかし最終的に逃げることになるのは分かっていたのだからもっと早く逃げればよかった。
ぎゅうっと力を入れて抱き着かれる。
「っ! 痛い痛い痛い!」
慌ててクリスを引きはがす。どうやらクリスが短剣へとぶつかっていたようだ。
「何これ!! なんで刺さってんの!?」
「……まあ色々あったのよ」
自分で刺したなんて言ったら多分怒られる。ごまかすようにそう言うが、クリスがジトっとした目で私を見て来た。
遠くへと視線をそらすと、そこには見覚えのある姿があった。
「ヘンドリックお兄様と、ベアトリクス様?」
お兄様はまだ分かる。でもなんでベアトリクス様?
「うん、殿下の異空間を探すならベアトリクス様だからね」
「ああ、そうだったわね」
お兄様はゆっくりと私のところまで歩いて来て、そして足へと目を向けた。丁度いい。自分で抜けないのだ。抜いてもらおう。
「来て早々申し訳ありませんが、これを抜いていただけますか? どうも自分で抜くのは勇気がいりまして……」
えへ、と笑うとお兄様は小さくため息を吐いた。呆れられている。だけどこういうことは私よりお兄様の方が得意そうだし。
お兄様が短剣へと触れ、グッと持つ。少しだけ痛みが走る。だけどもう既に痛いのだ。多少痛みが増したところでたいして変わらないだろう。変わらないよね……?
「一思いにやってくださいませ」
その言葉と同時に短剣が引き抜かれた。
「君にはもう少しここにいてもらうよ」
その言葉と同時にフッと空気が変わった。周りを見てみるが景色は何も変わっていない。だけど違う。
「異空間にいれば少なくとも外から君を見つけることはできない。公爵家の娘はやっかいだけど、異空間を見つけたからってどうしようもできないだろう」
「あら、わたくしが殿下の作った空間に入ることができるのは光属性を持っているからですわ。もう一人いるのをお忘れですの?」
「あの程度の魔力で僕の魔法に対抗できるわけがないよ」
光属性を持っているだけじゃダメなのか。ああ、だからゲーム内でリリーがユリウス殿下に会わなかったんだな。まあいい、こんな空間壊すことなんて簡単だ。
そう思った時、急に睡魔が襲って来た。
「君は眠っている時くらいしか大人しくできないだろう?」
やばい、寝てしまったら何もできない。ほんと闇属性ってチートだ!
「大丈夫、起きたら全部終わっているよ」
ちょっと待ってよ、そんなの困る。行かないといけない。私が、カイのところに。闇属性に対抗できるのは光属性。しかもリリーより魔力が多く、闇属性について知っている私が適任だ。
「僕はカイのところへ行ってくるよ。今回だけは見逃しておくれ」
何のことかと聞き返そうとしたけど、声が出なかった。
「ゆっくりお休み」
薄れゆく意識の中で、優しい声が聞こえ、そしてユリウス殿下の気配が消えた。やばい、行っちゃった。私も早く行かなきゃ……。
しかしどうしても眠い。瞼が重い。どうにか目を覚まさないといけない。体に流れる魔力を意識すると、どうにか短剣を作ることができた。
この睡魔の中ではまともに魔法を使うことも難しい。
光る刀身を一度見て、私はそれを勢いよく振り下ろした。
「いっっ……!」
あまりの痛みに瞼が開いた。右の太ももから血がじわっと出ている。
痛い、すごく痛い……でも目は少し覚めた。しかしこれも今だけだろう。こんなことで魔法に抗うことはできない。
とりあえずこの異空間を壊して……。
ズキズキする足にできるだけ意識を向けないようにしてユリウス殿下の異空間を壊す。しかし痛い。刺さったままの短剣を見て、すぐに目を逸らす。
自分でやったことだけどあまり視界に入れたいものではない。恐怖で気絶でもしたら元も子もないし。
とりあえず私にかかったこの魔法を……。じっと目を閉じて魔力に集中する。
……あ、これ、私の魔力じゃない。あ、やばい、眠い。
慌てて目を開けて、そっと足に刺さったままの短剣に触る。それだけで痛みが走り、眠気が飛んだ。ズキズキするまま、また集中する。今度は目を閉じずに。
……これだ。この魔力。
私の体に流れているユリウス殿下の魔力。それは魔法陣をえがいているような気がした。集中しすぎて目が乾いているが、そんなことも気にせず続ける。これがこうで、ここがこうだから……多分ここ。
授業で勉強した魔法陣の構図。それを壊すように自分の魔力を送る。すると途端に眠気が飛んでいった。
でっきたー……。
ハーと息をつく。以前本物のエレナが言っていた魔法への割り込み。今までも一週間に一度のペースでレオンやクリスに手伝ってもらって練習をしていたが、一度も成功したことがなかった。それが今ここで成功するなんて、私もっているかもしれない。
そうか、魔法を変えるのに魔法で対抗したからダメだったんだ。魔力へ魔力でアプローチ。これが正解。形のない、目に見えない魔法だから掴むことができた。
よっし! 一回コツをつかんだんだ。多分次もできる! っていうか目が乾きすぎて瞼がくっついて……。
無理やり目を閉じ、何度か瞬きをすると、ようやく目が潤ってきた。どんなに集中していても瞬き大事。陸で生きる人間には瞬き必須。
心の中でそう呟き、そして太ももへと視線を落とした。
あー痛い。さっきからずっと痛いけど見たらもっと痛い。普通に泣いてしまうくらいは痛い。そりゃそうだ。足に剣が刺さっているのだから。
あー、今度はこれを抜くのか。嫌だ……。
光魔法で傷は治すことができる。でもそれにはまず抜く必要があるのだ。こんなところでもたもたする時間はない。分かってはいるけど。
「エレナ!!!」
「はいっ!」
急に名前を呼ばれ、反射的に返事をする。それと同時に、何かが勢いよくぶつかって来た。いや、誰かが抱き着いて来た。
「えっと……クリス?」
だよね? 今の声。私よりも高い背に強い力。覚えがある。
「もー! 遅いよ! 逃げるならもっと早く逃げてよ!!」
「ごめんなさい、わたくしもさっきそれを後悔したところですわ」
居心地が良かったと言うのが半分、どうせ逃げられないと言うのが半分。しかし最終的に逃げることになるのは分かっていたのだからもっと早く逃げればよかった。
ぎゅうっと力を入れて抱き着かれる。
「っ! 痛い痛い痛い!」
慌ててクリスを引きはがす。どうやらクリスが短剣へとぶつかっていたようだ。
「何これ!! なんで刺さってんの!?」
「……まあ色々あったのよ」
自分で刺したなんて言ったら多分怒られる。ごまかすようにそう言うが、クリスがジトっとした目で私を見て来た。
遠くへと視線をそらすと、そこには見覚えのある姿があった。
「ヘンドリックお兄様と、ベアトリクス様?」
お兄様はまだ分かる。でもなんでベアトリクス様?
「うん、殿下の異空間を探すならベアトリクス様だからね」
「ああ、そうだったわね」
お兄様はゆっくりと私のところまで歩いて来て、そして足へと目を向けた。丁度いい。自分で抜けないのだ。抜いてもらおう。
「来て早々申し訳ありませんが、これを抜いていただけますか? どうも自分で抜くのは勇気がいりまして……」
えへ、と笑うとお兄様は小さくため息を吐いた。呆れられている。だけどこういうことは私よりお兄様の方が得意そうだし。
お兄様が短剣へと触れ、グッと持つ。少しだけ痛みが走る。だけどもう既に痛いのだ。多少痛みが増したところでたいして変わらないだろう。変わらないよね……?
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