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――エレナを助けないと決めたのは、エレナなら自分でなんとかなると思ったからだ。
カイはそう言った。
――だけど私の記憶からエレナが失われるかもしれないと思った時は怖くて動けなかった。
知っていた。あの時カイの顔色が悪かったのも足が震えていたのも。
――エレナ、君は私の人生に必要な人間だ。遠くに行ってくれても構わない。必ず私の元へ帰って来てくれ。
もちろん。カイを支えるために旅に出るんだから。
――私もエレナの助けになれるようにリリーと頑張るよ。
――ええ、エレナ様に比べるとできることは少ないかもしれませんが、私も精進します。
カイにリリー。
――何かあったら俺たちを頼ってくれ。少しはエレナの力になれるかもしれない。
――エレナ、僕達も頼ってばっかりじゃいられない。だから、エレナも困ったことがあったら何でも言ってね。
レオンとマクシミリアン。
――エレナちゃん、僕エレナちゃんが好きだよ。だからどこにも行かないでね。
フロレンツ。
――エレナちゃんは一人で頑張りすぎだよ。少しは年長者を頼って。
――おい、無理はするな。お前が倒れたって私は助けないからな。
ヨハンにヘンドリックお兄様。
――私は何があってもエレナと一緒にいるよ! ずっとだからね!
クリス。
夢の中で皆の顔が代わる代わる映る。
……私、皆に愛されている。
――君だけが僕の全てだと言ったね? 君は否定したけど今ならはっきりと言える。君の為ならこの身でもこの国でも喜んで差し出すよ。君だけが、僕の全てだ。エレナ。
……ユリウス殿下。
そして私は現実へと引き戻された。
目を開けると部屋は薄暗かった。だけどカーテンの隙間から漏れる光で朝だと気が付く。ついでにいつも以上にたくさん寝ていたことに。
アリア起こしてくれればいいのに。
ベッドから出て鏡の前に座ると自分の顔が映った。とてもすっきりしているのが見ただけで分かる。手元の鈴を鳴らし、乱れた髪を手で軽く整えているとアリアが来た。
「おはようございます、エレナ様」
「おはよう」
ついに今日が来てしまった。鏡に映った自分の部屋を見る。元から物は多くない部屋だ。それが今ではすっからかんになってしまっていた。
「朝食はすぐにお持ちしてよろしいでしょうか?」
アリアが私の髪を櫛ですきながら言った。
「ええ、食べたらすぐに出るわ。アリアは後で来るのよね?」
「はい」
今日、私は結婚する。
婚約から四か月。今日結婚書類にサインして正式に皇族となる。そしてそれと同時にお城へと住居を映す。つまりはお引越し。アリアも連れて。
昨日の内に必要なものは持って行ってもらっている。あと自分で持って行くのはスマホだけ。これは自分で持って行こうと思っていた。万が一落として壊れたらショックだから。
今年は今日だ。ここ数日月を眺めていたので確信がある。最後にエレナと電話をしたのがいつかは分からないけど、全て終わった今日はちゃんと電話に出ようと思っている。
アリアが朝食を運んでくれて、自宅で食べる食事は呆気なく終わった。
エレナとして過ごした家を出る。私はユリウス殿下の嫁になる。ここへ帰って来ることもそう簡単ではないだろう。皇族は基本的にお城から出ることはないのだから。しかしちゃんと目に焼き付けておく、なんてことはしない。だってお城に引きこもるつもりなんてさらさらない。
早速今晩には発つ予定。カイともそう話しているし、陛下の耳にも入っていることだろう。クリスもそのつもりで必要なものを準備してくれているはず。
お城に着くとクリスが先にいた。ひらひらと手を振るクリスに近付くとクリスは周りを気にしながら小さい声で言う。
「荷物は茂みに隠したよ。夜、抜け出した後回収しよう」
「ありがとう」
さすがに旅をするのに手ぶらではいけない。最低限の荷物は必要だ。しかし私は家で下手なことはできなかった。優秀な使用人のアリアはどんな小さなことにも気が付くのだ。ばれるわけにはいかない。
「とりあえず結婚しに行きましょうか」
「なんか軽いね」
あはは、とクリスが笑う。結婚すると言っても書類にサインするだけ。式もパーティーもしなくていいと陛下の許可は貰った。そういうのはカイとリリーに任せる。
だから正直実感はない。自分が皇族になることも、ユリウス殿下のお嫁さんになることも。
廊下を歩いていると明らかに私たちを待っていたであろうユリウス殿下がいた。私たちに気が付いた途端寄りかかっていた壁から離れて手を振る。
「おはよう、お嫁さん」
「おはようございます、ユリウス殿下」
足を止めずにそう言うとユリウス殿下は自然と私の隣に並んだ。クリスとユリウス殿下に挟まれてお城の廊下を歩く。なんかこうして中央歩いていると私すごく偉そうなんだけど……。どうせならユリウス殿下が真ん中を歩けばいいのに。
そう思って隣を歩くユリウス殿下を見上げるとにこっと微笑まれた。今日は機嫌がいい。
こうして機嫌の良し悪しが分かる程度には一緒に過ごす時間もあった。しかしユリウス殿下は今日私が旅立つことについて何も言わない。ダメとも言われていないので止められることはないと思うけど、私を止められるとしたらこの人だけ。できれば敵に回したくはない。
なんて考えているとあっという間に陛下の執務室へと着いた。
カイはそう言った。
――だけど私の記憶からエレナが失われるかもしれないと思った時は怖くて動けなかった。
知っていた。あの時カイの顔色が悪かったのも足が震えていたのも。
――エレナ、君は私の人生に必要な人間だ。遠くに行ってくれても構わない。必ず私の元へ帰って来てくれ。
もちろん。カイを支えるために旅に出るんだから。
――私もエレナの助けになれるようにリリーと頑張るよ。
――ええ、エレナ様に比べるとできることは少ないかもしれませんが、私も精進します。
カイにリリー。
――何かあったら俺たちを頼ってくれ。少しはエレナの力になれるかもしれない。
――エレナ、僕達も頼ってばっかりじゃいられない。だから、エレナも困ったことがあったら何でも言ってね。
レオンとマクシミリアン。
――エレナちゃん、僕エレナちゃんが好きだよ。だからどこにも行かないでね。
フロレンツ。
――エレナちゃんは一人で頑張りすぎだよ。少しは年長者を頼って。
――おい、無理はするな。お前が倒れたって私は助けないからな。
ヨハンにヘンドリックお兄様。
――私は何があってもエレナと一緒にいるよ! ずっとだからね!
クリス。
夢の中で皆の顔が代わる代わる映る。
……私、皆に愛されている。
――君だけが僕の全てだと言ったね? 君は否定したけど今ならはっきりと言える。君の為ならこの身でもこの国でも喜んで差し出すよ。君だけが、僕の全てだ。エレナ。
……ユリウス殿下。
そして私は現実へと引き戻された。
目を開けると部屋は薄暗かった。だけどカーテンの隙間から漏れる光で朝だと気が付く。ついでにいつも以上にたくさん寝ていたことに。
アリア起こしてくれればいいのに。
ベッドから出て鏡の前に座ると自分の顔が映った。とてもすっきりしているのが見ただけで分かる。手元の鈴を鳴らし、乱れた髪を手で軽く整えているとアリアが来た。
「おはようございます、エレナ様」
「おはよう」
ついに今日が来てしまった。鏡に映った自分の部屋を見る。元から物は多くない部屋だ。それが今ではすっからかんになってしまっていた。
「朝食はすぐにお持ちしてよろしいでしょうか?」
アリアが私の髪を櫛ですきながら言った。
「ええ、食べたらすぐに出るわ。アリアは後で来るのよね?」
「はい」
今日、私は結婚する。
婚約から四か月。今日結婚書類にサインして正式に皇族となる。そしてそれと同時にお城へと住居を映す。つまりはお引越し。アリアも連れて。
昨日の内に必要なものは持って行ってもらっている。あと自分で持って行くのはスマホだけ。これは自分で持って行こうと思っていた。万が一落として壊れたらショックだから。
今年は今日だ。ここ数日月を眺めていたので確信がある。最後にエレナと電話をしたのがいつかは分からないけど、全て終わった今日はちゃんと電話に出ようと思っている。
アリアが朝食を運んでくれて、自宅で食べる食事は呆気なく終わった。
エレナとして過ごした家を出る。私はユリウス殿下の嫁になる。ここへ帰って来ることもそう簡単ではないだろう。皇族は基本的にお城から出ることはないのだから。しかしちゃんと目に焼き付けておく、なんてことはしない。だってお城に引きこもるつもりなんてさらさらない。
早速今晩には発つ予定。カイともそう話しているし、陛下の耳にも入っていることだろう。クリスもそのつもりで必要なものを準備してくれているはず。
お城に着くとクリスが先にいた。ひらひらと手を振るクリスに近付くとクリスは周りを気にしながら小さい声で言う。
「荷物は茂みに隠したよ。夜、抜け出した後回収しよう」
「ありがとう」
さすがに旅をするのに手ぶらではいけない。最低限の荷物は必要だ。しかし私は家で下手なことはできなかった。優秀な使用人のアリアはどんな小さなことにも気が付くのだ。ばれるわけにはいかない。
「とりあえず結婚しに行きましょうか」
「なんか軽いね」
あはは、とクリスが笑う。結婚すると言っても書類にサインするだけ。式もパーティーもしなくていいと陛下の許可は貰った。そういうのはカイとリリーに任せる。
だから正直実感はない。自分が皇族になることも、ユリウス殿下のお嫁さんになることも。
廊下を歩いていると明らかに私たちを待っていたであろうユリウス殿下がいた。私たちに気が付いた途端寄りかかっていた壁から離れて手を振る。
「おはよう、お嫁さん」
「おはようございます、ユリウス殿下」
足を止めずにそう言うとユリウス殿下は自然と私の隣に並んだ。クリスとユリウス殿下に挟まれてお城の廊下を歩く。なんかこうして中央歩いていると私すごく偉そうなんだけど……。どうせならユリウス殿下が真ん中を歩けばいいのに。
そう思って隣を歩くユリウス殿下を見上げるとにこっと微笑まれた。今日は機嫌がいい。
こうして機嫌の良し悪しが分かる程度には一緒に過ごす時間もあった。しかしユリウス殿下は今日私が旅立つことについて何も言わない。ダメとも言われていないので止められることはないと思うけど、私を止められるとしたらこの人だけ。できれば敵に回したくはない。
なんて考えているとあっという間に陛下の執務室へと着いた。
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