池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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処罰

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部屋を見ているとお城に来て初めてのお昼ご飯が運ばれてきた。机と椅子がふわっと浮いて一瞬で並んだ。


「食事はこの形。覚えておくように」


ユリウス殿下だった。クリスへとそう言って自分も椅子に座る。当たり前のようにここで食べるらしい。まあいいけど。


「椅子が三つありますが?」


一つに腰かけ、もう一つは誰だろうかと思って聞くと、クリスが座った。


「クリスティーナ様にはご一緒に召し上がっていただくように陛下より承っております」

「つまり毒見だよ」


……皇族ってこわ。

食事を運んでくれた数人のメイドさんが出て行き、アリアだけが残った。アリアが一人で三人分の給仕をしなければならないのは大変だ。早めに誰か探す必要があるかもしれない。と、思ったがアリアは全く困った様子なくテキパキとしていた。

さすがアリア。もしかしたらアリアは一人でも大丈夫かもしれない。また聞いてみよう。


「ユリウス殿下、わたくし毒見なんて必要ありませんわ。見ればわかりますもの」


これも光属性のおかげだろう。毒草を見ると直感的に分かる。形が変わって毒薬となってもそれは変わらなかった。だからおそらく料理に毒が入っていたとしたら分かると思う。万が一分からなかったとしても光属性で治癒すればいいだけ。わざわざ毒見なんてしなくてもいい。

そう言うとユリウス殿下は「そうだね」と微笑んだ。


「僕も父上にそう言ったんだけどね」


そしてパクパクと食べているクリスに視線を向けた。


「前から思っていたけど、お城の料理人って腕がいいよね。毎日このご飯が食べられたら幸せだろうなあ」


それは私も前から思っている。本当に美味しそうに食べているクリスに毒見なんてしなくていいと言おうとした。が、先に言ったのはクリスだった。


「そうでも言わないと使用人の私がエレナと一緒にご飯食べられないからね。陛下の気遣いだよ」

「ああ、そういうこと」


それはとても嬉しい気遣いだ。クリスにはこのままずっと毒見役をお願いして、陛下には次に会った時にお礼を言っておこう。


「ところで、午後から一仕事あるんだけど、どうする?」

「一仕事、ですか。わたくしも何かすることがあるのでしょうか?」

「いいや、何もしなくていい。来ても来なくてもどちらでもいいよ。ただ、来たいかと思って」

「では行きます」


何があるのか分からないけど、ユリウス殿下がわざわざそう言うということはきっと行っておいた方がいい。私の返事にユリウス殿下は頷いた。


ユリウス殿下とクリスと三人で陛下の執務室へ行く。するとそこにはいつものメンバーがそろっていた。陛下、お父様、カイにリリー、ヨハンとヘンドリックお兄様。マクシミリアンとレオンは仕事だろうか。

私たちが入った直後、扉が開いてまた誰か入ってくる。ベアトリクスだった。


「そろったな。では始めよう」


陛下のその言葉はベアトリクスに向いているようだった。そして頷いたベアトリクスの顔色は決していいとは言えない。私は察してしまった。

……クラッセン公爵家の一件だ。急に気持ちが重くなる。しかし来なければよかったとは思わない。

陛下の後ろに立つお父様が次々と名前を読み上げていく。クラッセン公爵に近しい人をはじめとし、すぐに別の名字を持つ人も混ざり始める。


「以上がクラッセン公爵家の血筋の者でございます。公爵、公爵夫人を含め、数人は公開処刑に、その他は毒による処刑でよろしいでしょうか」


たんたんとそう言うお父様は私のお父様ではなかった。完璧な宰相の顔。私は初めて見た。


「ああ」


陛下が頷く。


「では、これまでクラッセン公爵家の不正による利益を受け取った家の処分はいかがいたしましょうか」

「不正だと知ったうえで受け取った者、その当主は処刑。知らなかった者に関してはその分だけを取り立てる」

「期限はいかがいたしましょう」

「十年だ」


陛下とお父様で次々と話が進んでいく。それを私たちはただ聞いているだけ。ならばどうして私はここにいるのだろうか。


「その他の処分はまた決める。それで問題はないか、ベアトリクス」

「……はい」


頷いた声が震えていた。声だけじゃない。よく見ると手も足も震えている。立っているのがやっとといったようだ。


「先ほど読み上げた中に漏れはなかったか?」

「わたくしの知る限り、ございません」


とても残酷だ。おそらくクラッセン公爵と血の近い人全てだろう。その中に名前がないのはベアトリクスだけ。

陛下が頷く。これで決まってしまう。


「すぐに各家に通達。同時に騎士団を出せ。片っ端から捕縛だ」

「お待ちください……!」


気が付いた時にはそう言っていた。
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