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救える命
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「幽閉することに費用が必要だとおっしゃるのでしたら、私へ支払われる公費を使ってください」
結婚にあたって説明された。皇族は国の為に生き、公務をする。だからお給料の代わりに公費が支払われると。その金額はとても大きなものだった。それがあれば数十人が普通の生活を送ることも叶うだろう。
「私は最低限の衣食住があれば問題ありません。豪華な食事も綺麗なドレスもいりません。それでも足りないとおっしゃるのでしたら私がどうにかします。彼らの生に責任を持ちます。ですから、どうか罪なき人に選択の自由を。子供たちに未来を」
ユリウス殿下が「素が出ているよ」とくすくすと笑った。しまった、と思う。だけどそんなことどうでもいい。謝罪は後でしよう。ユリウス殿下を目が合った。
「ユリウス殿下、お口添えをお願いします」
ユリウス殿下は微笑んだ。しかし口を開く気はなさそうだ。
あくまで私をここに連れて来ただけ、ということか。救いたいなら自分でどうにかしろ、と。ユリウス殿下はおそらく皆処刑にしてしまいたいだろうに。それがユリウス殿下の譲歩なのだと思った。譲ってくれただけありがたい、など今は言わない。
「叶わないなら、私の持つ全てを賭けてでも押し通すしかありません」
私が賭けることのできる最大のものは命。もう何度この脅しをしただろう。その度にユリウス殿下は困ったように笑う。
「それはいけないね」
今回も同じ表情をした。それを確認して私は床へと座り、そのまま頭を下げる。この世界で土下座が通用するのか分からないけど、だけど私の気持ちを、本気を示すために。
「どうか、お願いします、陛下」
「私からもお願いします、陛下。どうか我が妻の望みを叶えてください」
ユリウス殿下の改まった声が聞こえた。妻という響きにはとても違和感があった。
でもありがとう、ユリウス殿下。殿下が困っている時は助けてあげるから!
なんて心の中でお礼を言って頭を下げ続ける。しばらくの間陛下は何も言わなかった。
「エレナ、頭を上げよ」
ため息と共に聞こえたのはそれだった。
「いいえ、陛下が頷いて下さらない限り」
ここは絶対に譲れない。せめて前向きな検討を約束してもらわないと。強い意思でそう言うとユリウス殿下の声が聞こえた。
「いいから、顔を上げて周りを見てごらん」
周り? 周りに何かあるのだろうか。不思議に思って顔を上げると、私の視界に入ったのは皆の姿だった。
カイ、リリー、クリス、ベアトリクス、ヨハン、お父様、そしてヘンドリックお兄様まで。皆一様に膝をついて頭を下げていた。処刑賛成派の保護者三人までもが。
驚きに目を見張っていると陛下は再び深いため息を吐いた。
「こうして皆にまで頭を下げられてダメとは言えぬ」
ってことはオッケーってこと? 何も知らない人たちは処刑無し?
ドキドキしながら陛下の次の言葉を待つ。本当は飛び上がって喜びたい。だけど陛下はまだはっきりと言ったわけじゃない。
「そなたがこう言い出すことは分かっていたし、頷く気もなかった。……しかしそなたには不思議な魅力がある。皆だけでなく私もそれにあてられたようだ」
うんうん、それで? つまり?
「直接関係のない者の処刑は取りやめる。その上で処刑を望む者に関してはできるだけ苦しまない方法をとる。それでよいか」
良いも何も十分だ。
「ありがとう存じます。陛下へ最大限の感謝を」
深々と頭を下げると陛下はふっと笑った。
「そなたは必死になると口調が崩れるのだな」
「……大変申し訳ありません。以後気を付けます」
確かにそうかもしれない。というか最近気が抜けている。前まではこんなこともなかったのに。私の謝罪に陛下は「よい」と笑う。
「そなたはそのままでよい。結婚して城に入ったが、そなたには変わらずにいてもらいたい。皇后もそう言っていた」
あー、皇后陛下か……。いつも忙しそうでゆっくりお茶をする時間もないけど、おそらく方々から私の噂は聞いているのだろう。私のお義母様になった人。結婚が決まってから皇后陛下には私に会う余裕がなかったので会っていなかったが、どう思われているかは不安だった。
まあ今の私を肯定するくらいなら嫌われてはいなさそう。安心。
「ありがとうございます。今後もわたくしらしく頑張っていきますわ」
これから陛下は忙しくなるだろう。処刑を止めて幽閉にすることで色々と必要なものが出てくる。結構な人数になることが予想できるので場所も必要だろうし。
「わたくしはこれで失礼いたします。くれぐれもよろしくお願い致します」
「ああ、兵はもう既に配置してある。命令が届けばすぐに動ける状態だ。捕縛自体は今日の夕方には終わるだろう」
「決して乱暴しないよう、お願いします」
そう言った私に陛下はふっと笑った。
「そなたはつくづく優しい。……約束しよう」
頭を下げて部屋を出るとクリスもついて来た。ユリウス殿下は残るだろう。二人で部屋へ向かおうとすると、後ろから私を呼び止める声が聞こえた。
振り向くとヘンドリックお兄様とヨハンが立っている。
そうだ、この二人も頭を下げてくれたのだ。お礼を言おうとする前にお兄様が言った。
「エレナ、お前は死にゆく者全てを救うつもりか」
この質問は二度目だ。以前の私はなんと答えただろうか。覚えていないけどなんとなく分かる。今はあの時と違う。
「いいえ、わたくしに救える方だけですわ」
救えない命もあることを知った。身の丈を知った。自らの力に驕り、無理をしたところで全てを失うだけだと今は分かる。
ヘンドリックお兄様は何も返事をせず踵を返した。
「お兄様も困ったときは言ってくださいませ。救って差し上げますわ」
私がそう言うとお兄様は振り向かずひらりと手を振った。
「お前の手を借りずとも問題ない」
ヘンドリックお兄様らしいその言葉に思わず笑ってしまった。ヨハンもおかしそうに笑い、私とクリスを見る。
「気を付けて行ってくるんだよ。何かあったら頼ってね」
「はーい」
「ありがとうございます」
今夜発つ私達。定期的に帰って来るつもりだけどそれがいつかは分からない。もしかしたら数年会うこともないかもしれない。
しんみりとした別れよりも、こういう別れの方が私達には合っている。
並んだヘンドリックお兄様とヨハンの背中を見る。この二人には本当にお世話になった。私は二人の背に向かって深々と頭を下げた。
結婚にあたって説明された。皇族は国の為に生き、公務をする。だからお給料の代わりに公費が支払われると。その金額はとても大きなものだった。それがあれば数十人が普通の生活を送ることも叶うだろう。
「私は最低限の衣食住があれば問題ありません。豪華な食事も綺麗なドレスもいりません。それでも足りないとおっしゃるのでしたら私がどうにかします。彼らの生に責任を持ちます。ですから、どうか罪なき人に選択の自由を。子供たちに未来を」
ユリウス殿下が「素が出ているよ」とくすくすと笑った。しまった、と思う。だけどそんなことどうでもいい。謝罪は後でしよう。ユリウス殿下を目が合った。
「ユリウス殿下、お口添えをお願いします」
ユリウス殿下は微笑んだ。しかし口を開く気はなさそうだ。
あくまで私をここに連れて来ただけ、ということか。救いたいなら自分でどうにかしろ、と。ユリウス殿下はおそらく皆処刑にしてしまいたいだろうに。それがユリウス殿下の譲歩なのだと思った。譲ってくれただけありがたい、など今は言わない。
「叶わないなら、私の持つ全てを賭けてでも押し通すしかありません」
私が賭けることのできる最大のものは命。もう何度この脅しをしただろう。その度にユリウス殿下は困ったように笑う。
「それはいけないね」
今回も同じ表情をした。それを確認して私は床へと座り、そのまま頭を下げる。この世界で土下座が通用するのか分からないけど、だけど私の気持ちを、本気を示すために。
「どうか、お願いします、陛下」
「私からもお願いします、陛下。どうか我が妻の望みを叶えてください」
ユリウス殿下の改まった声が聞こえた。妻という響きにはとても違和感があった。
でもありがとう、ユリウス殿下。殿下が困っている時は助けてあげるから!
なんて心の中でお礼を言って頭を下げ続ける。しばらくの間陛下は何も言わなかった。
「エレナ、頭を上げよ」
ため息と共に聞こえたのはそれだった。
「いいえ、陛下が頷いて下さらない限り」
ここは絶対に譲れない。せめて前向きな検討を約束してもらわないと。強い意思でそう言うとユリウス殿下の声が聞こえた。
「いいから、顔を上げて周りを見てごらん」
周り? 周りに何かあるのだろうか。不思議に思って顔を上げると、私の視界に入ったのは皆の姿だった。
カイ、リリー、クリス、ベアトリクス、ヨハン、お父様、そしてヘンドリックお兄様まで。皆一様に膝をついて頭を下げていた。処刑賛成派の保護者三人までもが。
驚きに目を見張っていると陛下は再び深いため息を吐いた。
「こうして皆にまで頭を下げられてダメとは言えぬ」
ってことはオッケーってこと? 何も知らない人たちは処刑無し?
ドキドキしながら陛下の次の言葉を待つ。本当は飛び上がって喜びたい。だけど陛下はまだはっきりと言ったわけじゃない。
「そなたがこう言い出すことは分かっていたし、頷く気もなかった。……しかしそなたには不思議な魅力がある。皆だけでなく私もそれにあてられたようだ」
うんうん、それで? つまり?
「直接関係のない者の処刑は取りやめる。その上で処刑を望む者に関してはできるだけ苦しまない方法をとる。それでよいか」
良いも何も十分だ。
「ありがとう存じます。陛下へ最大限の感謝を」
深々と頭を下げると陛下はふっと笑った。
「そなたは必死になると口調が崩れるのだな」
「……大変申し訳ありません。以後気を付けます」
確かにそうかもしれない。というか最近気が抜けている。前まではこんなこともなかったのに。私の謝罪に陛下は「よい」と笑う。
「そなたはそのままでよい。結婚して城に入ったが、そなたには変わらずにいてもらいたい。皇后もそう言っていた」
あー、皇后陛下か……。いつも忙しそうでゆっくりお茶をする時間もないけど、おそらく方々から私の噂は聞いているのだろう。私のお義母様になった人。結婚が決まってから皇后陛下には私に会う余裕がなかったので会っていなかったが、どう思われているかは不安だった。
まあ今の私を肯定するくらいなら嫌われてはいなさそう。安心。
「ありがとうございます。今後もわたくしらしく頑張っていきますわ」
これから陛下は忙しくなるだろう。処刑を止めて幽閉にすることで色々と必要なものが出てくる。結構な人数になることが予想できるので場所も必要だろうし。
「わたくしはこれで失礼いたします。くれぐれもよろしくお願い致します」
「ああ、兵はもう既に配置してある。命令が届けばすぐに動ける状態だ。捕縛自体は今日の夕方には終わるだろう」
「決して乱暴しないよう、お願いします」
そう言った私に陛下はふっと笑った。
「そなたはつくづく優しい。……約束しよう」
頭を下げて部屋を出るとクリスもついて来た。ユリウス殿下は残るだろう。二人で部屋へ向かおうとすると、後ろから私を呼び止める声が聞こえた。
振り向くとヘンドリックお兄様とヨハンが立っている。
そうだ、この二人も頭を下げてくれたのだ。お礼を言おうとする前にお兄様が言った。
「エレナ、お前は死にゆく者全てを救うつもりか」
この質問は二度目だ。以前の私はなんと答えただろうか。覚えていないけどなんとなく分かる。今はあの時と違う。
「いいえ、わたくしに救える方だけですわ」
救えない命もあることを知った。身の丈を知った。自らの力に驕り、無理をしたところで全てを失うだけだと今は分かる。
ヘンドリックお兄様は何も返事をせず踵を返した。
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私がそう言うとお兄様は振り向かずひらりと手を振った。
「お前の手を借りずとも問題ない」
ヘンドリックお兄様らしいその言葉に思わず笑ってしまった。ヨハンもおかしそうに笑い、私とクリスを見る。
「気を付けて行ってくるんだよ。何かあったら頼ってね」
「はーい」
「ありがとうございます」
今夜発つ私達。定期的に帰って来るつもりだけどそれがいつかは分からない。もしかしたら数年会うこともないかもしれない。
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