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猩々編1

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「また今回も山か」

「結構しんどいわよね」

 文句をいいながら山道を歩くのは、純白の小袖に浅葱色の袴を身につけ刀を提げた少年と、純白の小袖に緋色の袴を纏い、鈴の付いた榊を持つ少女だった。

「今回の依頼は大した事じゃ無いと思うんだけどな」

「妖魔が現れたら退治するのが私たちの使命よ」

 少年と少女の名は伊庭一刀と天宮雅。
 高校生だが実家である天宮神社の見習い神職と巫女である。
 天宮神社は古より続く由緒正しき神社だが、降魔――妖魔討滅を生業とする異能集団であり、時の権力者から密かに依頼を受け、日夜妖魔を討滅していた。
 二人も、妖魔討滅のために幼い頃から修行をしており、今日も役目を果たそうとしていた。

「でも、物を投げつけてくるだけの妖魔だろう」

 今日の依頼は山で林業の作業をしていると物を投げつけてくる妖魔が居るので退治して欲しいとのことだ。

「山で仕事をしていて物を投げてくるなんて危ないわよ。排除しないと」

「まあ、確かにな」

「少しやる気が無くない?」

「このところの出動回数の多さと運動量を考えると萎えるよ」

 ここ最近、妖魔を討滅する回数が明らかに多くなっており二人は頻繁に討滅へ赴いている。

「ふーん、そうなの?」

「なんだよ」

「別に。いつも役得を楽しんでいるから喜んでいるんじゃないの?」

 ジト目で見ていた雅へ問う一刀だったが、強烈なカウンターを食らって黙り込んだ。
 言った雅も顔を真っ赤にして黙ったままだ。
 二人は幼い頃から兄妹同然に育った幼馴染みで一刀の両親が亡くなってから雅の家で育てて貰い、一つ屋根の下に住む関係だ。そして特殊な事情により、より深い関係にある。
 そのことを思い出して二人は赤面して沈黙した。
 しかし、突然飛び込んできた石がその静寂を破った。

「右前方よ」

 雅が言うと一刀は刀を抜きつつ言われた方向へ突進する。
 暫く駆けた後、目的の妖魔を発見する。

「猩々か」

 猿のような姿形をした妖魔で山に住み、自分の縄張りに入って来た標的に物を投げる妖魔だ。
 作業者へ物を投げているのはこいつに違いない。

「はああっ」

 一刀は裂帛の気合いを込めて刀を振り下ろす。
 しかし猩々は素早く木に登るとあっという間に木の間を飛び抜け、谷を飛び越えて隣の山に行ってしまった。

「畜生! 逃げ足だけは速いな」

「一刀! 気を付けて!」

 一刀が文句を言っていると雅が叫んだ。
 次の瞬間、一刀の目の前に巨大な岩石が迫ってきた。

「うおおおおっ」

 慌てて、逃げて間一髪で避ける。

「何なんだ」

「猩々が投げてきた岩石よ」

「……確かに厄介だな」

 猩々は人間に近い肩を持ち、物を投擲するのに慣れている。
 しかも精気を使って自分より巨大な岩石を高速で投げることが出来る。
 一刀が文句を言う間に猩々は二投目を用意して一刀に向かって投げた。

「クソっ」

 悪態を吐きつつ避ける。距離が遠いため避ける時間は十分にあるが、一方的な攻撃を受けていては、何時か確実に負けてしまう。

「何とか接近してみる」

 一刀は猩々の居る山に向かって駆け出した。
 しかし一刀の進路に向かって猩々は岩を投げてくるため一刀は回避のために方向を転換を強要され中々、近づけない。

「大丈夫よ。私がやるわ」

 そう言うと雅は精神を統一し精気を放つと、身体が輝き光に包まれた。
 光が収まった後には、ショルダーオフとなった純白の小袖と、ミニスカになった緋色の袴、緋色のインナー、ニーソックス、ロングローブの戦闘巫女服を身に纏ったミコトが現れた。
 妖魔が精気を使って超常の現象を起こす存在だが、天宮神社の者達も精気を操ることに長けており、妖魔討滅に使っている。
 特に雅は素質が高いと評価されていた。
 雅は榊にも精気を込めて弓に変形させると精気で矢を形成して番えて放った。

「行けっ」

 雅の放った矢は高速で猩々の居る場所へ高速で飛んでいく。
 だが、距離がありすぎたために命中する前に猩々は悠々と逃げてしまった。

「あれ?」

 雅が外したことに戸惑っていると、猩々が雅を見つけて彼女に向かって岩を投げた。

「避けろ、雅!」

「大丈夫よ。こんな岩!」

 そう言って直ぐさま精気で矢を生成して再び番え、岩に向かって放った。
 今度は寸分違わず岩に命中する。精気を宿した矢は盛大に爆ぜて岩石を爆砕。

「やった!」

 撃破したことに雅ははしゃぐ。だが岩石は無数の破片に分裂し、雅の居る方向へ向かう。

「へ?」

 雅が戸惑っていると岩石が降り注いでくる。

「きゃあっ」

 雨のように落ちてくる岩石を雅は悲鳴を上げてまともに浴びてしまった。

「雅!」

 慌てて駆け寄る一刀。幸い怪我は軽く、額を擦った破片の衝撃で脳震盪を起こしているようだった。

「畜生!」

 雅を傷つけた猩々を直ぐさま切り倒したい一刀だったが、猩々が三投目を投げてきたため、その迎撃に追われた。

「ちっ」

 三投目は先ほどの二投目を見た猩々が、投げる前に岩石を握力で握り潰して拳大にしてから投げられた。無数の岩石が散弾のように、破片が最初から雨のように一刀達に降り注ぐ。
 一刀は雅の前に立ち、向かってくる破片を片っ端からはじき返す。
 日々の鍛錬で鍛えた剣技で全て跳ね返したが、消耗が激しい。
 しかし猩々に疲れた様子は無く、四投目を用意するべく手近な岩を握り潰すのが谷越にハッキリと見えた。

「畜生! このままだとなぶり殺しだ。」

「本当にのう」

 その時、一刀を見下すような妖艶な声が辺りに響き渡った。
 そして背後にいる雅からまたも光が放たれた。
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