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もう一つのプロローグ
二度と咲かない桜(※死に関する表現有り)
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晴れ渡る空はどこまでも青い。
暖かく穏やかな4月の風が優しく吹き抜ける。
白亜の建物の横には満開の桜の木。
見事な薄紅は、もう何年も帰ってない地元の桜を思い起こさせる。
晴が見つけたその桜は、幼馴染3人の秘密となって。
俺の溢れる思いを晴人にぶつける場となり。
それが一方通行では無かった事に歓喜する様を見ていた。
そんな特別な桜は、もうない。
老化が激しく、伐採されてしまったからだ。
高校を卒業して10年経った事を思えば、長寿とされる桜の樹が傷むのも無理はない。
当時でも相当な樹齢のようだったから。
ただ、決して表には出さなかったが誰よりも嘆いたのは俺だと思う。
だって、あの桜はーーー
「蓮!」
男にしては少し高めの柔らかい声。
いつだって心を震わせるそれは、振り返らなくても分かる。
誰よりも大切な、俺のーーー
「もう来てるって蓮母に聞いてさ!久しぶり!」
嬉しそうに笑う晴が俺に近付いて来る。
色素の薄い髪に白い肌。
青みがかった瞳は何よりも綺麗だ。
この瞳が楽しげに輝く様も、涙に曇る様も、そして…熱に濡れる様も俺は良く知っている。
誰よりも晴を知っているのは俺だ。
ーーー否、俺だった。
「蓮、今何処にいるんだ?お前全然連絡して来ないじゃん!」
口を尖らせる晴が懐かしくて少し笑った。
「今はアメリカ。いつまでいるかは分かんねえけど。」
笑う事が久しぶりすぎて口の端が引き攣った。
「相変わらずスゲェなぁ。今度は何?」
「映画。来年公開する。」
「マジ⁉︎絶対観るわ!」
楽しみだ、と笑う晴が愛おしい。
「あ、蓮!頭に花弁ついてる!」
クスクス笑った晴が腕を伸ばして俺の髪に触れた。
少し背伸びするその仕草は、唇を合わせる時にしていたそれで。
激情に任せて、離れていく腕を掴もうとしたその時ーーー。
「晴人くーん!」
白亜の建物の2階から声が響いた。
大きな窓からこっちに向けて、白いドレスの小柄な女が手を振っている。
それを見て大きく手を振り返す晴人の笑顔が輝く。
幸せで満たされたその顔に、胸の傷が疼いた。
「あはっ、行かなきゃ!蓮、楽しんでいってね!」
そう言って晴はサッと俺に背を向ける。
『晴!!!』
叫びたい。呼び止めたい。もう一度、こっちを。
俺を見てくれーーー。
「あ、そうだ!」
くるりと振り返ったその姿に心臓が跳ねる。
だけどーーー
「スピーチ啓太なんだよ!お互いに中学からの約束果たすとか凄くない⁉︎」
そう笑って、今度こそ去って行く。
白いタキシード姿が消えた建物を、俺はただ見つめていた。
急激に周りの気温が下がったように感じる。
晴れ渡っていた空は灰色に曇り、舞い散る桜の花は煤か何かのようだ。
その変化に驚きそうになって…
これが俺の普通なんだと思い出した。
8年前、俺の世界は色を無くした。
暖かさも寒さも、食べ物の味も感じない。
俺を照らしてくれる光を失って、何一つとして感情が動かなくなった。
晴人と別れたその日から。
別れてから疎遠になった俺達は、それぞれの道へ進んだ。
俺は芸能界に入って俳優をやっている。
『感情が見えない』のは一般社会ではマイナスだが、芸能界では一つの武器だ。
事務所の方針で『ミステリアス』を売りにしている俺は、バラエティには出ないしインタビューも受けない。
それでも出演依頼が絶えないから、世間に名前は広く認知されている。
『蓮は芸能人になれそうだよな!』
いつか、何の気無しに言った晴の言葉が今日までの俺を創ってきた。
だけど、もう終わりだ。
今日、俺の最愛の人は結婚する。
知らせを聞いた時は嘔吐しそうになってーー吐き出す物などなくて胃液を出すばかりだった。
欠席する事も考えたがーーどうしても会いたい気持ちが勝って。
新婦のドレスの調整をする陽子と共に、早めに会場に入った。
『蓮母!よろしくね!』
覚悟が決まらず別室にいた俺の鼓膜を擽ったのは、数年振りに聞いた晴の声。
その瞬間、全てが息を吹き返した。
空の青さも、草木の瑞々しさも、明るく降り注ぐ太陽も。
まるで生まれて初めて視界がクリアになったかのように、俺は辺りを見回した。
そして、庭園に出て桜の美しさを噛み締める。
それはまるで、あの頃に戻ったかのようで。
だけど、現実は残酷だ。
時の流れは確かに存在していて、俺から晴を奪っていく。
他の誰かと永遠を誓う、俺の最愛。
世界は再び色を無くしたけれど、これでいい。
最後に桜を美しいと感じる事ができて良かった。
俺の唯一は晴しか有り得ない。
晴を失った世界を、俺はもう必要としない。
むしろ、ここまで良くもたせたと思う。
『もう一度だけ会いたい』
その願いだけで生き続けたんだからーー。
偶然を装って上手く自分を消滅させる術はある。
医師免許を持っていて良かったと、今程思った事は無い。
決行はアメリカに戻ってからだ。
晴がほんの1ミリでも自分を責める事のないように、細心の注意を払って。
周到に準備した計画は上手くいくだろう。
ただ、クロ辺りは今日の俺の様子で何か勘づくかもしれない。
アイツの勘の鋭さは目を見張るものがある。
そこだけは注意しなくては。
さあ、結婚式が始まる。
俺は最愛の笑顔を、この細胞の全てに焼き付けよう。
逝き着く先で地獄の業火に焼かれるようと、晴の顔を忘れないように。
例えその笑顔が、俺に向けられたものじゃなかったとしてもーーーー。
あの桜は俺の支えだったんだ。
あれがある限り、何処かで晴と繋がっているような気がしていたから。
あわよくば。
桜の木を見たときだけでいい。
最愛の君が、俺を思い出してくれる事を。
切に願う。
●●●
初っ端から暗い。笑
ハピエンタグは固定です!!
暖かく穏やかな4月の風が優しく吹き抜ける。
白亜の建物の横には満開の桜の木。
見事な薄紅は、もう何年も帰ってない地元の桜を思い起こさせる。
晴が見つけたその桜は、幼馴染3人の秘密となって。
俺の溢れる思いを晴人にぶつける場となり。
それが一方通行では無かった事に歓喜する様を見ていた。
そんな特別な桜は、もうない。
老化が激しく、伐採されてしまったからだ。
高校を卒業して10年経った事を思えば、長寿とされる桜の樹が傷むのも無理はない。
当時でも相当な樹齢のようだったから。
ただ、決して表には出さなかったが誰よりも嘆いたのは俺だと思う。
だって、あの桜はーーー
「蓮!」
男にしては少し高めの柔らかい声。
いつだって心を震わせるそれは、振り返らなくても分かる。
誰よりも大切な、俺のーーー
「もう来てるって蓮母に聞いてさ!久しぶり!」
嬉しそうに笑う晴が俺に近付いて来る。
色素の薄い髪に白い肌。
青みがかった瞳は何よりも綺麗だ。
この瞳が楽しげに輝く様も、涙に曇る様も、そして…熱に濡れる様も俺は良く知っている。
誰よりも晴を知っているのは俺だ。
ーーー否、俺だった。
「蓮、今何処にいるんだ?お前全然連絡して来ないじゃん!」
口を尖らせる晴が懐かしくて少し笑った。
「今はアメリカ。いつまでいるかは分かんねえけど。」
笑う事が久しぶりすぎて口の端が引き攣った。
「相変わらずスゲェなぁ。今度は何?」
「映画。来年公開する。」
「マジ⁉︎絶対観るわ!」
楽しみだ、と笑う晴が愛おしい。
「あ、蓮!頭に花弁ついてる!」
クスクス笑った晴が腕を伸ばして俺の髪に触れた。
少し背伸びするその仕草は、唇を合わせる時にしていたそれで。
激情に任せて、離れていく腕を掴もうとしたその時ーーー。
「晴人くーん!」
白亜の建物の2階から声が響いた。
大きな窓からこっちに向けて、白いドレスの小柄な女が手を振っている。
それを見て大きく手を振り返す晴人の笑顔が輝く。
幸せで満たされたその顔に、胸の傷が疼いた。
「あはっ、行かなきゃ!蓮、楽しんでいってね!」
そう言って晴はサッと俺に背を向ける。
『晴!!!』
叫びたい。呼び止めたい。もう一度、こっちを。
俺を見てくれーーー。
「あ、そうだ!」
くるりと振り返ったその姿に心臓が跳ねる。
だけどーーー
「スピーチ啓太なんだよ!お互いに中学からの約束果たすとか凄くない⁉︎」
そう笑って、今度こそ去って行く。
白いタキシード姿が消えた建物を、俺はただ見つめていた。
急激に周りの気温が下がったように感じる。
晴れ渡っていた空は灰色に曇り、舞い散る桜の花は煤か何かのようだ。
その変化に驚きそうになって…
これが俺の普通なんだと思い出した。
8年前、俺の世界は色を無くした。
暖かさも寒さも、食べ物の味も感じない。
俺を照らしてくれる光を失って、何一つとして感情が動かなくなった。
晴人と別れたその日から。
別れてから疎遠になった俺達は、それぞれの道へ進んだ。
俺は芸能界に入って俳優をやっている。
『感情が見えない』のは一般社会ではマイナスだが、芸能界では一つの武器だ。
事務所の方針で『ミステリアス』を売りにしている俺は、バラエティには出ないしインタビューも受けない。
それでも出演依頼が絶えないから、世間に名前は広く認知されている。
『蓮は芸能人になれそうだよな!』
いつか、何の気無しに言った晴の言葉が今日までの俺を創ってきた。
だけど、もう終わりだ。
今日、俺の最愛の人は結婚する。
知らせを聞いた時は嘔吐しそうになってーー吐き出す物などなくて胃液を出すばかりだった。
欠席する事も考えたがーーどうしても会いたい気持ちが勝って。
新婦のドレスの調整をする陽子と共に、早めに会場に入った。
『蓮母!よろしくね!』
覚悟が決まらず別室にいた俺の鼓膜を擽ったのは、数年振りに聞いた晴の声。
その瞬間、全てが息を吹き返した。
空の青さも、草木の瑞々しさも、明るく降り注ぐ太陽も。
まるで生まれて初めて視界がクリアになったかのように、俺は辺りを見回した。
そして、庭園に出て桜の美しさを噛み締める。
それはまるで、あの頃に戻ったかのようで。
だけど、現実は残酷だ。
時の流れは確かに存在していて、俺から晴を奪っていく。
他の誰かと永遠を誓う、俺の最愛。
世界は再び色を無くしたけれど、これでいい。
最後に桜を美しいと感じる事ができて良かった。
俺の唯一は晴しか有り得ない。
晴を失った世界を、俺はもう必要としない。
むしろ、ここまで良くもたせたと思う。
『もう一度だけ会いたい』
その願いだけで生き続けたんだからーー。
偶然を装って上手く自分を消滅させる術はある。
医師免許を持っていて良かったと、今程思った事は無い。
決行はアメリカに戻ってからだ。
晴がほんの1ミリでも自分を責める事のないように、細心の注意を払って。
周到に準備した計画は上手くいくだろう。
ただ、クロ辺りは今日の俺の様子で何か勘づくかもしれない。
アイツの勘の鋭さは目を見張るものがある。
そこだけは注意しなくては。
さあ、結婚式が始まる。
俺は最愛の笑顔を、この細胞の全てに焼き付けよう。
逝き着く先で地獄の業火に焼かれるようと、晴の顔を忘れないように。
例えその笑顔が、俺に向けられたものじゃなかったとしてもーーーー。
あの桜は俺の支えだったんだ。
あれがある限り、何処かで晴と繋がっているような気がしていたから。
あわよくば。
桜の木を見たときだけでいい。
最愛の君が、俺を思い出してくれる事を。
切に願う。
●●●
初っ端から暗い。笑
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