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解決編
2.(※微エロ有り)
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(side晴人)
「え…と、どちら様ですか?」
俺の言葉に、その女性は大きな目を瞬かせた。
え、もしかして知り合い?
でも、本当に覚えがない。
とんでもなく小さい顔に完璧に整った顔立ちは、一度会ったら忘れないと思うんだけどな。
綺麗にセットされた茶髪、オフショルのワンピースから覗く華奢な肩、スラリとした長い手足。
あ!大学の友達がファンだって言ってた『高学歴モデル』だ!!
唐突に閃いたその名前は確かーー。
「リリナ…?」
そう呟くと、目の前の女性は満足そうに頷いた。
「そう。私、ここの環境情報学部2年なの。」
「あ、すみません呼び捨てして…。」
俺が謝ると、彼女はチラリと周りを見回す。
「ぜーんぜん!気さくに呼んでもらって大丈夫だよ!」
遠巻きにしつつも興味深々のギャラリーに聞こえるような、大きな声。
うーん、正直あんまり関わりたく無いタイプかも。
「あの…」「蓮が誰かと暮らしてるって噂があってね。もしかして、偶に一緒に帰って行く君かなって思って。それで、知り合いの白田君に聞いたら蓮と君が幼馴染って言ってたから、やっぱりそうなのかなって。」
ここから去る口実を探してた俺は、知った名前に動きを止めた。
白田君は特進クラスだった、蓮の友達だ。
うーん…蓮の友達の友達(?)なら、そこまで無碍にもできないなぁ。
なんて、甘い考えがいけなかった。
「蓮がいつもお世話になってます。」
…ねぇ、信じられる?
これ、俺が言ったんじゃないんだよ。
目の前の女性から放たれた言葉なの。
いやいや、こう言うのって普通さ、身内とか恋人とか親しい人から言うんじゃないの?
唖然としてると、騒めきを感じた。
ギャラリーの中の女子達が、食い入るようにこっちを見ている。
あ…。
もしかしてこれ、マウントなのかも。
この女性は蓮の事を狙ってて、
『私と蓮はこんなに親しいのよ』って周りへのアピール。
…つまり俺、それに利用されてる?
「私、蓮とよく話すんだけどね。」
そこまで言うと、彼女は急に声を潜めた。
「蓮って彼女とかいるのかな?入学してから20人以上に告られてるのに1回もOKしてないんだよね。」
に、20人、ですと…?
いや、勿論モテるのは知ってたけど…高校の時みたいに直接目にしなくなったから。
家ではそんな話し一切して来ないし。
けど、確かに大学生になってからの蓮はイケメンっぷりに磨きがかかってる。
艶のあるセンターパートの黒髪をかきあげる仕草とか、気怠げに長い脚を組んで座る姿とか、本人は無自覚だろう長い睫毛越しの流し目とか。
とにかく、男の色気が増し増しでヤバイ。
蓮と連れ立って出かける度に、老若男女みーんな見惚れてる。
服の下に隠れたバキバキの腹筋なんか見ちゃった日には…絶対誰にも見せたくないけど…卒倒しちゃうんじゃないかな。
斯く言う俺も、そんな蓮のフェロモンにあてられまくってる。
『晴、挿れるぞ。』
掠れた声で囁かれて、余裕の無い表情で覆い被さってこられたら堪らなくて。
訳が分からなくなりながら『もっと』なんて強請ってしまう。
翌朝思い出して、羞恥に震える事になるって分かってるのに。
昨日の夜だって、あんな格好でーー。
って違う違う!
蓮がモテるって話し!
えっと…そう。
とにかく、そんな蓮が人気なのは不思議でもなんでもない。
しかもさ、高校生の時に比べて雰囲気が柔らかくなったの。
オーラに圧倒されながらも告白する人が絶えないのは、そのせいだと思う。
そんな彼氏を持つ身としては、心配は尽きない。
その一因である目の前の女性に意識を戻すと、彼女はまた周りに聞こえる声で話し出した。
「ほら、蓮のレベルだと相手が一般人じゃ釣り合わないでしょ?だから、簡単に告白OKする訳ないって分かるんだけどね。
やっぱり芸能人とかじゃないと。
…それこそ、モデルとか?」
意味あり気に目配せしてくるのは、自分なら蓮に相応しいって俺に同意を求めてるんだろうな。
ふーん。
「蓮、恋人いますよ。」
「え?」
目の前の女がポカンとする中、俺は声を大きくした。
絶対周りにも聞こえるように。
「凄いラブラブなんで、誰に告白されても断ると思います。」
それから、こう言うのは俺が言うやつだから。
「蓮の事を気にかけて貰ってありがとうございます。リリナさんの名前を蓮から聞いた事は1度もないんですけど…これからもよろしくお願いしますね。」
柔かに見えるように笑うと、真っ赤になった彼女を置いてその場を後にする。
早足で歩いて、やがて駆け足になって…大学の門を出てから大きく息を吐いた。
やっちゃった…!!
まさかの、マウントにマウントで返してしまった。
だって、めちゃめちゃ腹が立ったんだ。
何だよあの言い方、蓮は俺のなのに!!
キィーッと心の中で叫んでから、ふと気付く。
俺、こんなに言い返せる様になったんだ…。
蓮に『相応しい』筈のキラキラした相手に対して、全く気後れしなかった。
男同士って立場上、蓮が自分の恋人とまではいえなかったけど…それでも大きな進歩だ。
だって蓮は、態度の一つから言葉の端々から、俺の事が好きだって伝えてくれる。
だから俺も、堂々と蓮の隣に立っていたい。
自分が地味なモブ属性だって事は十分自覚してるけど、それでも。
世界で1番蓮の事が好きなのは、俺だから。
『周りは色々言って来るだろうけど、私の攻撃に負けなかったんだからこの先も大抵の事は大丈夫よ。
保証してあげてもいいわ。』
ふいに思い出したのは、ミルクティー色のお姫様。
別れの時にくれたこの言葉に、少し笑って空を見上げる。
うん、そうだね。
強くありたいと、俺も思うよ。
手元のスマホが着信を知らせて、少し焦った蓮の声が聞こえる。
『悪い、教授に捕まって遅くなった。もう着いてるよな、何かあった?』
いつもの待ち合わせ場所にいない俺を心配してくれてるらしい。
『そうそう!蓮狙いの女のマウントに利用されそうだったから逃げて来たんだ!蓮と親しいとか言われて悔しかったから、ちょっと仕返しもしたよ!』
…なぁんて、言えないよね。
「実は俺も遅れてて、今着いたとこ。門の前で待ってる。」
無難にそう答えて通話を切った。
ほどなくして現れた蓮の姿に、辺りを歩いてた学生が騒めく。
だけど、そんなのには目もくれず真っ直ぐに近付いて来る俺の恋人。
「晴。」
名前を呼ばれて微笑みかけられると、さっきの嫌な出来事とかどうでも良くなって。
「蓮、お疲れ!」
自分でもチョロいなって思うけど、満面の笑顔になってしまう。
そんな俺を見た蓮が手を伸ばして来てーー。
「ま、待った!ここはダメ!」
抱き締めようとしてるのを察知して、サッと身を引いた。
それに対して蓮はめちゃめちゃ不満そうだけど、大学で噂になったらどうすんだよ。
「ハァ、分かった。で、アウター買いたいんだっけ。」
渋々言う蓮が、今日の目的を確認してくる。
そう、肌寒くなってきたからアウターが欲しくて、
蓮にアドバイスして貰おうと思ってた。
思ってたんだけど…。
「やっぱ、帰る。」
色々あったから、凄く蓮に触れたい。
「どうした?体調悪いのか?」
すかさず俺の額にあてられたその手を取って、顔を見上げる。
甘やかして欲しいな、なんて願いを込めて。
「…ダメ?」
一瞬黙った蓮は、次の瞬間には俺の腕を掴んで歩き出した。
あれよあれよとタクシーに押し込められて、マンションに着いて。
玄関に引っ張り込まれるのと同時に唇を塞がれた。
「…んっ…蓮…」
深いキスに翻弄される俺を、蓮が抱き上げる。
靴を脱ぎ落とされて、リュックとシャツを剥ぎ取られた。
玄関から廊下へ点々と散らばっていく自分の服をボンヤリ見てる間に、ベッドの上に横たえられる。
その頃には身に付ける物は何もなくなってて、蓮の早業に愕然とした。
「ま、待って…」「無理。我慢できねぇ。」
被せ気味に返しながら、蓮が身体を乗り上げてくる。
「あっ…準備、してな…」
「ん。今は挿れねぇから、触らせて。」
最後までするつもりがないからか、裸の俺と違って蓮は着衣のまま。
めちゃめちゃ恥ずかしいのに、キスが気持ち良すぎて何も言えなくなってしまう。
って言うか…今はって事は、この後ーー。
ブワワと赤くなる顔を自覚しながら、触れてくる蓮の温もりにグズグズになって。
その後連れ込まれたバスルームで、しっかり準備されてしまった。
絶対に見られたくない最初のそれは、意地でも自分でやってたのに…!
1度イかされてボンヤリしてたから、抵抗もせず許してしまうと言う不覚。
気付いた時には全部終わってて、何の抵抗もなく蓮のモノを受け入れてた。
「ここ、晴のイイ所んだもんな?」「んっ、イイ…もっと…」
強請れば、更に強い刺激が与えられる。
いつもみたいに意地悪されず、欲しいだけ素直に与えられる快楽。
囁かれる『好き』『可愛い』の嵐に、苦しい程に胸が高鳴って。
蓮の熱に、何もかもが甘く溶かされていった。
身も心も。
それから…少しの不安も。
その日以来、蓮の大学で絡まれる事は無く、彼女の姿も見る事はなく。
平和に過ぎる日々に小さなトラブルが舞い込んだのは、バイト先での事だった。
「え…店長!?大丈夫ですか!?」
随分慣れたバイトの休憩室で、俺は思わず大きな声を上げた。
部屋の隅で丸まって眠る中年男性は、間違いなくこのファミレスの店長だ。
だけど…何で寝袋にくるまってるんだろうか。
「あっ、萱島君。驚かせてごめんね。」
目をシパシパさせながら言う店長曰く、夜と土日に入っていたバイトが急に3人も辞めたらしい。
8割が子持ちのお姉様達で占められたこの職場で、夜シフトが減ってしまうのは由々しき事態だ。
「入院と、祖父母の介護と、結婚…。どれも止められなくて。」
ションボリする店長は、その穴埋めの為に17連勤中。
家に帰る時間が惜しいので寝袋で休憩室に泊まっている、と…。
「ちょっ、そんな事になってるなら言って下さいよ!」
焦る俺に『でも、萱島君は土日も22時以降もダメって言ってたから』と更にションボリする店長。
気が弱いこの人は、いつも損な役回りばかりしている。
だけど、従業員を大切にしてくれる優しい人でもある。
俺も、お客さんの理不尽なクレームから庇ってもらった事があって。
そんな店長が大変なら、俺もできる事はしないと。
「店長、俺入れます!土日も夜も任せて下さい!!」
高らかに宣言したこの時の俺は知らない。
この一言が後に齎す大きな影響を。
●●●
晴人が回想してる言葉は、side晴人高校編71話で言われてます。
絡んで来たリリナはside蓮52話で蓮がウンザリしてる女子の中の1人です。
晴人、成長しました!腹立つ女を撃退!
それに関してはよくやったんだけど…。
ただでさえバイトを反対してた蓮に、相談もなしに土日夜勤務をOKするのは…冷や汗。。
「え…と、どちら様ですか?」
俺の言葉に、その女性は大きな目を瞬かせた。
え、もしかして知り合い?
でも、本当に覚えがない。
とんでもなく小さい顔に完璧に整った顔立ちは、一度会ったら忘れないと思うんだけどな。
綺麗にセットされた茶髪、オフショルのワンピースから覗く華奢な肩、スラリとした長い手足。
あ!大学の友達がファンだって言ってた『高学歴モデル』だ!!
唐突に閃いたその名前は確かーー。
「リリナ…?」
そう呟くと、目の前の女性は満足そうに頷いた。
「そう。私、ここの環境情報学部2年なの。」
「あ、すみません呼び捨てして…。」
俺が謝ると、彼女はチラリと周りを見回す。
「ぜーんぜん!気さくに呼んでもらって大丈夫だよ!」
遠巻きにしつつも興味深々のギャラリーに聞こえるような、大きな声。
うーん、正直あんまり関わりたく無いタイプかも。
「あの…」「蓮が誰かと暮らしてるって噂があってね。もしかして、偶に一緒に帰って行く君かなって思って。それで、知り合いの白田君に聞いたら蓮と君が幼馴染って言ってたから、やっぱりそうなのかなって。」
ここから去る口実を探してた俺は、知った名前に動きを止めた。
白田君は特進クラスだった、蓮の友達だ。
うーん…蓮の友達の友達(?)なら、そこまで無碍にもできないなぁ。
なんて、甘い考えがいけなかった。
「蓮がいつもお世話になってます。」
…ねぇ、信じられる?
これ、俺が言ったんじゃないんだよ。
目の前の女性から放たれた言葉なの。
いやいや、こう言うのって普通さ、身内とか恋人とか親しい人から言うんじゃないの?
唖然としてると、騒めきを感じた。
ギャラリーの中の女子達が、食い入るようにこっちを見ている。
あ…。
もしかしてこれ、マウントなのかも。
この女性は蓮の事を狙ってて、
『私と蓮はこんなに親しいのよ』って周りへのアピール。
…つまり俺、それに利用されてる?
「私、蓮とよく話すんだけどね。」
そこまで言うと、彼女は急に声を潜めた。
「蓮って彼女とかいるのかな?入学してから20人以上に告られてるのに1回もOKしてないんだよね。」
に、20人、ですと…?
いや、勿論モテるのは知ってたけど…高校の時みたいに直接目にしなくなったから。
家ではそんな話し一切して来ないし。
けど、確かに大学生になってからの蓮はイケメンっぷりに磨きがかかってる。
艶のあるセンターパートの黒髪をかきあげる仕草とか、気怠げに長い脚を組んで座る姿とか、本人は無自覚だろう長い睫毛越しの流し目とか。
とにかく、男の色気が増し増しでヤバイ。
蓮と連れ立って出かける度に、老若男女みーんな見惚れてる。
服の下に隠れたバキバキの腹筋なんか見ちゃった日には…絶対誰にも見せたくないけど…卒倒しちゃうんじゃないかな。
斯く言う俺も、そんな蓮のフェロモンにあてられまくってる。
『晴、挿れるぞ。』
掠れた声で囁かれて、余裕の無い表情で覆い被さってこられたら堪らなくて。
訳が分からなくなりながら『もっと』なんて強請ってしまう。
翌朝思い出して、羞恥に震える事になるって分かってるのに。
昨日の夜だって、あんな格好でーー。
って違う違う!
蓮がモテるって話し!
えっと…そう。
とにかく、そんな蓮が人気なのは不思議でもなんでもない。
しかもさ、高校生の時に比べて雰囲気が柔らかくなったの。
オーラに圧倒されながらも告白する人が絶えないのは、そのせいだと思う。
そんな彼氏を持つ身としては、心配は尽きない。
その一因である目の前の女性に意識を戻すと、彼女はまた周りに聞こえる声で話し出した。
「ほら、蓮のレベルだと相手が一般人じゃ釣り合わないでしょ?だから、簡単に告白OKする訳ないって分かるんだけどね。
やっぱり芸能人とかじゃないと。
…それこそ、モデルとか?」
意味あり気に目配せしてくるのは、自分なら蓮に相応しいって俺に同意を求めてるんだろうな。
ふーん。
「蓮、恋人いますよ。」
「え?」
目の前の女がポカンとする中、俺は声を大きくした。
絶対周りにも聞こえるように。
「凄いラブラブなんで、誰に告白されても断ると思います。」
それから、こう言うのは俺が言うやつだから。
「蓮の事を気にかけて貰ってありがとうございます。リリナさんの名前を蓮から聞いた事は1度もないんですけど…これからもよろしくお願いしますね。」
柔かに見えるように笑うと、真っ赤になった彼女を置いてその場を後にする。
早足で歩いて、やがて駆け足になって…大学の門を出てから大きく息を吐いた。
やっちゃった…!!
まさかの、マウントにマウントで返してしまった。
だって、めちゃめちゃ腹が立ったんだ。
何だよあの言い方、蓮は俺のなのに!!
キィーッと心の中で叫んでから、ふと気付く。
俺、こんなに言い返せる様になったんだ…。
蓮に『相応しい』筈のキラキラした相手に対して、全く気後れしなかった。
男同士って立場上、蓮が自分の恋人とまではいえなかったけど…それでも大きな進歩だ。
だって蓮は、態度の一つから言葉の端々から、俺の事が好きだって伝えてくれる。
だから俺も、堂々と蓮の隣に立っていたい。
自分が地味なモブ属性だって事は十分自覚してるけど、それでも。
世界で1番蓮の事が好きなのは、俺だから。
『周りは色々言って来るだろうけど、私の攻撃に負けなかったんだからこの先も大抵の事は大丈夫よ。
保証してあげてもいいわ。』
ふいに思い出したのは、ミルクティー色のお姫様。
別れの時にくれたこの言葉に、少し笑って空を見上げる。
うん、そうだね。
強くありたいと、俺も思うよ。
手元のスマホが着信を知らせて、少し焦った蓮の声が聞こえる。
『悪い、教授に捕まって遅くなった。もう着いてるよな、何かあった?』
いつもの待ち合わせ場所にいない俺を心配してくれてるらしい。
『そうそう!蓮狙いの女のマウントに利用されそうだったから逃げて来たんだ!蓮と親しいとか言われて悔しかったから、ちょっと仕返しもしたよ!』
…なぁんて、言えないよね。
「実は俺も遅れてて、今着いたとこ。門の前で待ってる。」
無難にそう答えて通話を切った。
ほどなくして現れた蓮の姿に、辺りを歩いてた学生が騒めく。
だけど、そんなのには目もくれず真っ直ぐに近付いて来る俺の恋人。
「晴。」
名前を呼ばれて微笑みかけられると、さっきの嫌な出来事とかどうでも良くなって。
「蓮、お疲れ!」
自分でもチョロいなって思うけど、満面の笑顔になってしまう。
そんな俺を見た蓮が手を伸ばして来てーー。
「ま、待った!ここはダメ!」
抱き締めようとしてるのを察知して、サッと身を引いた。
それに対して蓮はめちゃめちゃ不満そうだけど、大学で噂になったらどうすんだよ。
「ハァ、分かった。で、アウター買いたいんだっけ。」
渋々言う蓮が、今日の目的を確認してくる。
そう、肌寒くなってきたからアウターが欲しくて、
蓮にアドバイスして貰おうと思ってた。
思ってたんだけど…。
「やっぱ、帰る。」
色々あったから、凄く蓮に触れたい。
「どうした?体調悪いのか?」
すかさず俺の額にあてられたその手を取って、顔を見上げる。
甘やかして欲しいな、なんて願いを込めて。
「…ダメ?」
一瞬黙った蓮は、次の瞬間には俺の腕を掴んで歩き出した。
あれよあれよとタクシーに押し込められて、マンションに着いて。
玄関に引っ張り込まれるのと同時に唇を塞がれた。
「…んっ…蓮…」
深いキスに翻弄される俺を、蓮が抱き上げる。
靴を脱ぎ落とされて、リュックとシャツを剥ぎ取られた。
玄関から廊下へ点々と散らばっていく自分の服をボンヤリ見てる間に、ベッドの上に横たえられる。
その頃には身に付ける物は何もなくなってて、蓮の早業に愕然とした。
「ま、待って…」「無理。我慢できねぇ。」
被せ気味に返しながら、蓮が身体を乗り上げてくる。
「あっ…準備、してな…」
「ん。今は挿れねぇから、触らせて。」
最後までするつもりがないからか、裸の俺と違って蓮は着衣のまま。
めちゃめちゃ恥ずかしいのに、キスが気持ち良すぎて何も言えなくなってしまう。
って言うか…今はって事は、この後ーー。
ブワワと赤くなる顔を自覚しながら、触れてくる蓮の温もりにグズグズになって。
その後連れ込まれたバスルームで、しっかり準備されてしまった。
絶対に見られたくない最初のそれは、意地でも自分でやってたのに…!
1度イかされてボンヤリしてたから、抵抗もせず許してしまうと言う不覚。
気付いた時には全部終わってて、何の抵抗もなく蓮のモノを受け入れてた。
「ここ、晴のイイ所んだもんな?」「んっ、イイ…もっと…」
強請れば、更に強い刺激が与えられる。
いつもみたいに意地悪されず、欲しいだけ素直に与えられる快楽。
囁かれる『好き』『可愛い』の嵐に、苦しい程に胸が高鳴って。
蓮の熱に、何もかもが甘く溶かされていった。
身も心も。
それから…少しの不安も。
その日以来、蓮の大学で絡まれる事は無く、彼女の姿も見る事はなく。
平和に過ぎる日々に小さなトラブルが舞い込んだのは、バイト先での事だった。
「え…店長!?大丈夫ですか!?」
随分慣れたバイトの休憩室で、俺は思わず大きな声を上げた。
部屋の隅で丸まって眠る中年男性は、間違いなくこのファミレスの店長だ。
だけど…何で寝袋にくるまってるんだろうか。
「あっ、萱島君。驚かせてごめんね。」
目をシパシパさせながら言う店長曰く、夜と土日に入っていたバイトが急に3人も辞めたらしい。
8割が子持ちのお姉様達で占められたこの職場で、夜シフトが減ってしまうのは由々しき事態だ。
「入院と、祖父母の介護と、結婚…。どれも止められなくて。」
ションボリする店長は、その穴埋めの為に17連勤中。
家に帰る時間が惜しいので寝袋で休憩室に泊まっている、と…。
「ちょっ、そんな事になってるなら言って下さいよ!」
焦る俺に『でも、萱島君は土日も22時以降もダメって言ってたから』と更にションボリする店長。
気が弱いこの人は、いつも損な役回りばかりしている。
だけど、従業員を大切にしてくれる優しい人でもある。
俺も、お客さんの理不尽なクレームから庇ってもらった事があって。
そんな店長が大変なら、俺もできる事はしないと。
「店長、俺入れます!土日も夜も任せて下さい!!」
高らかに宣言したこの時の俺は知らない。
この一言が後に齎す大きな影響を。
●●●
晴人が回想してる言葉は、side晴人高校編71話で言われてます。
絡んで来たリリナはside蓮52話で蓮がウンザリしてる女子の中の1人です。
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