【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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番外編

桜の追憶⑤

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お読みいただく前に時系列の訂正です!
桜の追憶①の前書きにて、解決編67話と68話の間のお話とお伝えしましたが、正しくは69話の後になります。
ちょこっと訂正してる箇所がありますが本筋は変わらないのでそのまま読んでいただいて大丈夫かと…!すみません!!

●●●





(side 切藤蓮)

焦った様子の親父と翔の視線を痛い程感じる。

二人は知ってるから。

それが俺にとって、どんなに大きな意味を持つかを。

今の法律では、パートナーが同性の場合直面する問題は多いと聞く。

例えば、一緒に暮らす為の部屋を借りる事や、入院した時、果ては遺産相続に関しても問題があるらしい。

それは偏に「戸籍上では他人」だからで、解決するために養子縁組をする場合も多いそうだ。

家は買えばいいし、入院はここですれば面倒な手続きはいらないし、俺の遺産が全て晴に渡るように弁護士を雇って書類を整えればいい。

俺達の場合はこうやって、ある程度は金や人脈でどうにかできるとは思う。

だけど、やっぱり生きづらさはあるだろう。

特に、図太い俺と違って晴にはーー。

その点を踏まえて考えると、与一郎側からの提案は相当魅力的だ。

国がその権利を認めるなら、世の中も大きく変わっていくだろう。

そうすれば、あの日桜の下で晴に誓った言葉を実現する事ができる。


「…俺は、晴が周りを気にせず安心して暮らせる未来を創りたい。」

口に出すと、与一郎が微笑んだ。

「蓮、待て…!」「蓮ならそう言うと思ったよ!じゃあ、まずは彼の方に報告を…」

青褪める親父と翔を尻目に、与一郎が話を進めていく。


この結論に後悔は無い。

春の陽射しみたいなあの笑顔が、他人からの偏見や悪意で曇る事のないように。

まだ打ち明けられてない母親美香さんに、晴が少しでも話やすくなるように。

だからこそ、この選択を。




「誰が当主なんかやるかよ。舐めんな。」





「「「え…?」」」

三つの視線が虚を突かれたかのようにこっちに向けられた。

「霊泉家の再建なんか興味ねぇよ。普通に断る。」

そう言うと、明らかにほっとした様子の親父達とは対照的に与一郎が慌てる。

「どうして!?こんなチャンス、2度とないかもしれないんだよ?」

目的の為には受け入れるのが最も効率的だって事は分かってる。

だけど…

『それを、一番近くで晴に見てて欲しい。俺の隣で笑ってて欲しい。』

あの日、俺の言葉に晴は頷いてくれた。

だから

「俺は自分の力で世の中を変える。交換条件にしてくるような奴らに頼らなくてもな。」

俺が語る不確定な未来を信じて、一緒に生きると約束してくれた晴に恥じないように。

「そんな事…」

言葉を失う与一郎は不可能だと思ってるんだろう。

だが、理想論でも夢物語でも無くこれは事実だ。

だって

「晴が傍にいるのに、俺に不可能があるとでも?」

この能力も見た目も家柄も、全てはただ一人の為に。

萱島晴人のために、俺は生まれてきたんだから。




「ふっ…ははは!」

堪えきれない様に吹き出したのは翔だった。

「そうだよな、それでこそ蓮だわ!」

「ああ、安心した。」

何故か泣き笑いのような兄も父親も、俺の事を微塵も疑う気配は無い。

「でも…これは彼の方の申し出で…」

声を震わせる与一郎に向かって溜息を吐く。

「ってか、晴の件が無くてもこんな話は呑まねぇよ。仮に俺が引き受けた場合、次期当主が誰になるか分かってんのか?」

そう、当然だが晴と俺の間に子供は生まれない。

他の女と…なんて俺が血迷う訳も訳ないのは「彼の方」とやらも分かってるだろう。

つまり、血縁の中から選ぶ事になる。

俺の後を継ぐ血縁が、誰を指し示すのか。

「アイツらの人生を俺が決めてたまるかよ。」

脳裏に浮かぶのは、産まれてまだ数か月の甥と姪。


『ふふ、本当は産むまで内緒にしたかったんだけど流石に無理だったね?』

『聞いた時マジ焦ったわ!いやサプライズは成功だけども!』

どうやら双子だって事を、美優は暫く翔に黙ってたらしい。

笑い合う美優と翔、目尻を下げまくった親父と陽子。

写真を撮りまくる憲人さんと美香さん。

そして、宝物を触るみたいな手つきで丸い頬を撫でる晴。

『めっちゃ可愛いね、蓮?』

強調してくる晴の額にデコピンを食らわせながら、俺も笑った。

それは何処を切り取っても、幸せな一つの家族の光景でーー。


「蓮…」

感極まったような翔の背後で、与一郎が僅かに首を傾げる。

そうだよな、テメェには理解不能だよな。

世界に晴と二人だけでいいと思ってた頃の俺だったら、同じだったかもしれない。

だけど今は違う。

大切な人間が多いほど、晴の幸せが増える事を知った。

それを教えてくれたのは家族だったり、遥だったり、クロや中野だったり…

そして、晴自身が俺に沢山の幸せをくれた。

今では、晴に対する想いとはまた別のベクトルで家族や友人の事も大切に思ってる。

………まあ、晴に近づきすぎなければって大前提はあるけど。


「これが結論だ。」

「ま、待ってよ蓮…!」

与一郎が縋るような声を出す。

従兄と兄と父親、そして俺。

こうして並ぶと、顔や背格好が良く似てる。

だけど、俺はどうやってもこの従兄とは相容れないらしい。

「俺は死ぬ瞬間まで『切藤』だ。交渉は決裂だな。」










とまぁ、こんな事があった訳だ。

やっと帰れるってのに気が重いのも無理ねぇだろ。

因みにあの後、『お帰りの方はこちら』なんて言いながら直ぐ様ドアを開けた翔によって、与一郎は強制退出させられた。

自分の子供まで巻き込まれそうになって怒らない訳ねぇよな。

与一郎は親父に助けを求めたそうだったけど『今日は帰りなさい』と言われて肩を落として去って行った。

これは俺達三人の共通認識だが、与一郎は随分とに飼い慣らされてるようだ。

妹や使用人を助けたのも、与一郎にある程度の自由を与えてるのも…全ては向こうの思惑。

慣れないアメを与えられて喜び、自分が駒になっている事にすら気付かず働かされている。

それに対してやり切れない思いがあるらしい親父は心配顔だったが、俺と翔には何の憂いもない。

戻った先で奴がどんな目に遭おうとも。

…まぁ、罰を受けるなんて可能性は低いと俺は見てるけど。

そもそも、今回の件はタイミングがおかしい。

丈一郎が死に、慎一郎や幹部が逮捕されてから一年が経とうとしてる。

それまで静観してた「彼の方」とやらが、突然動いたのは何故か。

答えは恐らくこうだ。



権力欲に塗れた本家の人間が、遅かれ早かれ暴挙に出る事を見越してたんだろう。

敢えて泳がせて、じっと刻を待っていた。

逆賊を一網打尽にできる、格好の機会をーー。

恐らく、内乱が起きる事も想定済み。

勝手に殺し合って貰えれば仕事が減る…くらいの感覚だったのかもしれない。

自分達は頃合いを見て最後の仕上げ…炎を放ち、全てを消し去るだけ。

与一郎が何処まで本当の事を聞かされてるのかは分からないが…生き残りに逃げる猶予を与えたのは事実かもしれない。

その中に子供がいれば、助けるつもりだったんじゃないだろうか。

そうすれば、与一郎との約束を反故にした事にはならない。

勿論、子供が生き残る確率がかなり低い事を想定した上でーー。


嫌なやり方だが、間違いなく頭はキレる。

そして恐らく、俺がこの事実に思い至る事も想定済み。

むしろ、気付かせる為に態と与一郎を寄越した。

全てを知った上で、俺がどのスタンスを取るか見極める為に。

俺の意志は与一郎を追い返す事で伝わった筈だ。

『アンタ達とは関わらない』と。






🟰🟰🟰

「申し訳ありませんでした。」

頭を下げた与一郎に、黒スーツの男が近付く。

与一郎がビクリとした所で女の声が割って入った。

「駄目だったものは仕方が無い。与一郎、よくやってくれたの。もう下がってよいぞ。」

その言葉に一礼した背中が見えなくなると、黒スーツの男が言葉を発した。

「主、私を悪者にするのはやめていただけませぬか?」

「んふふ、何を言っておるかサッパリ解らぬなぁ。」

御簾越しに見える人影が愉快そうに仰反る。

「まぁ良いではないか。霊泉家はこれにて本当に終いじゃ。」

逮捕された慎一郎は処刑、幹部達は獄中死する事が

「切藤蓮はどのように?」

「見事にフラれてしまったからの。まぁ、其方は仁義を果たせたからそれで良いのではないか?」

関白家の子孫である黒スーツの男が家訓を気にしていたのは本当の事だ。

それでも、向こうから「いらん」と言われれば何もできる事はない。

御先祖様も怒りはしないだろう。

「是非とも欲しい駒であったが…これはこれで楽しくなるやもしれぬなぁ。」

永い刻を生きる者は暇を持て余している。

「果たして本当に自らの手で成し遂げる事ができるか…むふふ、ワクテカじゃ!」

微妙に古いネット用語を駆使する主人に、男が苦い溜息を吐く。

思いを馳せるのは、類い稀なる人間。

霊泉家の新しい当主となり主に仕えれば、相当な戦力になった筈だが…仕方がない。

逆を言えば、万が一敵に回った場合自分達にとって最も厄介な相手にもなっただろう。

だがしかし、杞憂である事が証明された。

その視線の先にあるのは、ただ一人だけ。

愛の為に生き 愛の為に死ぬ

それは正しく、男が先祖から伝えきく『霊泉家』の姿であった。


🟰🟰🟰



(side 切藤蓮)

「ただいま。」

重い足で辿り着いたマンションの玄関には、晴のスニーカーが脱ぎ散らかされていた。

珍しいな…。

軽く直してからリビングの方へ向かうと、廊下に一切光が漏れてない事に気付く。

帰る前のLAINのやりとりでは、家にいると言ってたのに。

「晴?またソファで寝てんの?」

そう言いながらドアを開けようとして、途中で何かが支えた。

それは暗い床に投げ出された晴のリュックで、口が開いて中身が散らばっていて。

靴の件と言い、晴がに焦っていた事が窺える。


自分がさっきまで相対していた存在を思い出して、嫌な汗が背を伝った。

いや、まさか…

真意を読み違えてはいない筈だ。

だけど…人間の常識が当て嵌まる相手か?

俺の最大の弱味を握ってくる可能性だってーー


「…ッ晴!!!!」



リュックを押し退けて雪崩れ込んだリビングには、覚えのある匂いがたちこめていた。





●●●
























解決編67話と68話の間の出来事は番外編の別の話の方でした(うっかり!)
予告してる3本の中の1つなのでまたいずれお披露目します笑










































































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