【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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番外編

桜の追憶④

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(side 切藤蓮)

「はぁ!?」

翔が椅子の音をたてて立ち上がる。

「…オイ、どう言う事だよ。」

俺の詰問の先は与一郎じゃなく親父だ。

「呼び出されて来てみりゃコイツはいるわ頭沸いてる内容だわ…意味分かんねぇんだけど?」

「いや、私も何がなんだか…。与一郎君がいる事を先に話さなかったのは悪かった。ただ、知ってたらお前達は来なかっただろう?」

それはまぁ、否とは言い切れない。

「与一郎君から話し合いの打診があったのは一昨日だったんだ。丁度そのタイミングで私の方にもが入って来た所だったから、てっきりその話だと思っていたんだが…」

「情報って?」

翔が口を挟むと、親父は言いにくそうに視線を彷徨わせた。

「あぁ、もうあの話をご存じなんですね。流石です叔父上!」

「意識保ってたいならテメェは黙ってろ。…で?」

空気が読めない約一名の耳障りな声を押さえつけて親父に先を促す。

「…そうだな、まずはお前達にも知って貰おう。
 前置きするが、これは国家機密だ。他言は無用で頼む。」

交わされた視線から察するに、晴にもって事だろう。

「一週間前の夜の事だ。ある県境の山間部で火災が起きた。一昼夜燃え続けたらしいそれに政府が気付いた時には既に一面が焼け野原だったそうだ。」

「え、いくら山間部だからって誰も気付かないなんて事あるか?」

翔の疑問は尤もだろう。

一週間前の夜なら、俺は晴と一緒にサッカーの代表戦をテレビ観戦していた。

ハーフタイム中に流れた天気予報では、その地方は
強めの風が吹いていた筈だ。

『一面が焼野原』って表現からしてそれなりの規模だろう火災、普通なら煙と臭いが何処かしらに届く筈。

にも拘わらず、誰も気付かなかったのは妙だ。

意図的に気付かないふりをしたか…或いは…

「元々隠されてたって事か。」

風や煙が内部に籠りやすく、外部から見えにくい地形は存在する。

「隠し沢みたいなもんか?」

 一般的に釣りのスポットとして使われる名称だが、別の意味もある。

小さな沢を天然の生け簀として魚を集め、食用の実が生る木だけを残し、豊富な山菜を生息させる。

謂わば、人間の手で整備された「自然の食糧庫」だ。

厳しい気候と暴政により大量の餓死者が出たと言う苦い歴史から、現在も東北地方のある地域には存在するらしい。

有事の際は村人にのみ開放され、それ以外は厳しく管理され余所者の侵入を許さない。

そんな隠された場所が日本にはある。

「当たらずとも遠からずだな。ただ、どちらかと言えば「隠れ里」かもしれない。焼け跡には人が生活していた痕跡があったそうだ。」

融点の高い金属類か何かが残ってたのか。

「それと…燃えて一部だけが残った人骨が発見された。死後数日しか経っていないものが、少なくとも数十人分。DNA鑑定の結果、その中には血統上の私の母のものもあった。」

一度も会った事の無い俺の祖母は、どうやら焼死したらしい。

何の感慨もないが、重要なのはそんな山奥に何故その女がいたのかって事だ。

「霊泉家は本家と分家で扱いが全く違うと言うのは話しただろう?
 本家は都内の一等地に屋敷を構えているが、分家があるのは地方だ。今回焦土と化した土地は分家からそう遠くない。」

「その集落を分家が管理してたって事か。」

「私はそう考えるのが自然だと思っている。現に分家の屋敷はもぬけの殻で、人どころか家財まで全て無くなっていたそうだから。」

分家が万が一の避難場所として集落を管理してたなら、今回の件は十分その「万が一」に当て嵌まる。

当主の丈一郎が死に、次期当主と目された与一郎は失踪、最後の希望だっ慎一郎までが幹部達と共に逮捕され、余罪の多さから全員極刑は確実。

この非常時に、残された一族は隠された集落に身を寄せた。

ただし、生活は上手くはいかなかっただろう。

分家の人間はともかく、本家で生きてきた人間はこれまで贅沢三昧だった訳だ。

自給自足に近いだろう集落の暮らしに馴染める訳もない。

更にプライドだけはエベレスト級な連中は、自分たちより格下の分家の人間が同空間に生活している事が許せなかった。

一方で分家の人間は、本家に対して激しいコンプレックスを抱えて生きて来た人間達。

辛酸を舐めさせられてきた相手が自分たちと同じ所まで堕ちくるのはさぞ愉快だっただろう。

狭い集落の中の不協和音はやがて大きくなり、とうとう内乱が勃発する。

どっちから仕掛けたかは不明だが、お互いがお互いをテリトリーから追い出そうとした。

命を奪う事すら厭わずに。

「…人骨の中には子供の物もあったらしい。」

「子供まで…」

父親になったばかりの翔の呟きが部屋に落ちた。

子供のような幼い精神年齢の『母親』が、我が子の亡骸を腕に逃げ惑う。

一方でその『父親』や『夫』は、別の血縁者の子供を殺す。

そんな地獄絵図が繰り広げられたのは想像に難く無い。


改めて奴等がどれだけ狂ってるのか思い知る。


どこの馬鹿がそんな一族の当主になるかってんだよ。

…いや、でも待て。

一族はこれで全滅したんじゃないのか?

なら、どうして俺に当主の座なんていらねぇもんが回って来ようとしてる…

俺を指名したのがのトップって事は…つまりそういう事か?

ある確信を持って視線を向けると、その意味を受け取った与一郎が溜息を吐いた。

「子供は見逃すつもりだったようなんだけどね…」

「やっぱり、テメェらが絡んでんのか。」

親父と翔が驚いた表情をする中、与一郎が話し始める。

「叔父上。彼の方に対して僕が子供達の命を嘆願したのは覚えていますか?」

親父が頷き、与一郎は眉を下げて続ける。

「答えは『全て此方に任せろ』でしたが、その後、更生が可能な年齢の子供は見逃すと言ってくれたんです。孤児として施設に入る事にはなりますが、命は保証される。」

その筈だったんです…と言う与一郎の表情に苦しさが混ざる。

「だけどあろう事か、一族の男達が暴走を始めた。お祖父様が死に、父や幹部が全て逮捕され、僕は失踪。そんな状況で次期当主に相応しいのは自分だと。大事にしていた筈の血の濃さとか、何処にいったんでしょうね。…そんなもの最初から下の者達にとってはどうでも良かったんです。ただ権力者に逆らえなかっただけ、そのお零れにあずかりたかっただけ。そして、その権力を今度は自分が手にしたくなった。」

そいつらからしたら、一族のトップの座が突然自分の足下に転がって来たも同然。

「本家の男達は自分こそが当主に相応しいと主張し合った。誰も譲らないそれに決着を付けるべく、分家を取り込もうと各々がこぞって分家に向かう。ただ、彼等は隠れ里へ居を移していた。こうなる事を予想して。」

しかし、直ぐに本家の人間が雪崩れ込んでくる。

「後は推測通りだよ。本家と分家の争い、本家同士の争い…最悪自分と女だけが生き残れば一族は再建できるからね、子供なんて…ましてや他人の子なんて邪魔なだけだ。」

そうして子供が、そして激しい殺し合いの末に男も死に絶えた。

かたの遣いが現地に着いた時には、数人の女だけが生きていた。だけど、誰一人動く事無く宙を見つめていたそうだよ。遣いの者は女達に逃げる猶予を与えて…そして火を放った。」

世間の目から全てを隠す為。

そして、霊泉家の存在を闇に葬る為に。

『誰も知らぬのならば、最初から無かったのと同じ事』

烟る炎の向こうからそんな声が聞こえた気がした。




「君の、妹は…」

暫しの沈黙の後、親父が重い口を開く。

「腹違いの妹は全員死にました。同腹の妹と、僕に手を貸してくれた双子の使用人だけは生きています。僕の情報提供や今後の働きに関する恩赦だそうです。」

今後は監視下に置かれ、国外で生活するらしい。

「…で?霊泉家を闇に葬りたいってのに何で俺を当主に再建って話になるんだよ。」

胸糞は悪いが、一族がどうなろうが俺にとっては正直どうでもいい。

問題なのは自分に…いや、晴にどう関わってくる可能性があるかだ。

「うん、実はかたの遣いって言うのがさっきの昔話に出てきた関白家の子孫でね。」

現代でも『霊泉家を疎かにせぬよう』って家訓が伝わる一族の事か。

「その家訓に反した事を気にしてるらしいんだ。そこで彼の方が出したのが『蓮を当主に据えるなら』って条件だよ。優秀な蓮を当主にして正しい形で一族を再建するなら特別の権利を与えるって。」

「は、それで?権力をやる代わりに自分に仕えろって?」

あまりにも自己中な言い分に苛立ちを隠すのも難しい。

「誰が当主になんて…」「もし受け入れるなら、同性同士で婚姻を結べるようにするって。」

「……は…?」

遮ってきた言葉の衝撃に声を失う。


そんな俺を見て、与一郎が得意気に広角を上げた。



「彼の方ならそれが可能だよ。」




●●●


































抜け目なく弱い所をついてくるな…
さて、蓮の選択は…






































































































































































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