最弱職外伝 〈貧弱の勇者は異世界で生き抗う〉

カタナヅキ

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プロローグ

自称天使

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『はいは~い、起きてください。朝ですよ~』
「うっ……あと5日」
『いや、長すぎますよ。ナマケモノですか貴方は』


直央が意識を取り戻すと、聞き覚えの無い女性の声が響き渡り、ゆっくりと瞼を開くと視界が真っ白に染まっている事に気付く。まだ寝ぼけているのかと思ったが、自分が霧のような物で覆われた空間にいる事を知る。


「こ、ここは……?」
『ようこそ、狭間の世界へ。私はこの世界を管理する天使アイリスです』
「天使?」


何処からともなく聞こえてくる声に直央は戸惑い、周囲を見渡しても人間の姿は見えない。しかし、蛍のように光り輝く球体が彼の前に現れた。


『私ですよ』
「うわ、びっくりした!!蛍が喋った!?」
『誰が蛍ですか!!私のお尻は発光しません!!』
「あいてっ!?」


直央の言葉に起こったように光の球体が頬に体当たりを行い、実体がある事から彼は先ほどから喋りかけている声の正体がこの光の球体であると確認する。彼は戸惑いながらも両手を構えると、光の球体がその上に漂う。


「き、君が話しかけているの?」
『そうですよお姉さん……あれ、お兄さんですか?まあ、どっちでもいいですけど』
「ここは何処?さっき、天使とか名乗っていたけど……まさか天国」
『ある意味惜しいですね。死後に辿り着く世界の1つではありますけど、天国ではありません。あ、地獄でもないですよ』
「なら極楽か……」
『違いますよ。どんだけポジティブな思考してるんですか』


天使アイリスと名乗った光の球体の話を聞きながらも直央は周囲を見渡し、霧で覆われているように思われたが実際は本当に真っ白な世界が広がっており、果てが見えない。少なくとも地球上とは考えられず、延々と白色の世界が広がっていた。


「あれ?胸の傷が……」
『傷は治してあげましたよ。というより、この世界で死ぬことはありませんけど』


直央は胸元に視線を向けると銃弾を撃ち込まれた痕跡が消えている事に気付き、痛みも感じられない。それどころか現実離れしたこの状況に流石の彼も危機感を抱き、本当に自分が生きているのか疑問を抱く。


「そうだ、強盗犯は!?」
『あの後に捕まりましたよ。貴方が守った女の子も無事です』
「そうか……あれ、でもそれならどうして俺だけがここに?」
『そこが問題なんですよ。本当はこの世界に訪れるのは貴方じゃなかったんですが……』


アイリスの言葉に直央は疑問を抱き、彼女は手元から離れると直央の周囲を飛び回り、状況の説明を行う。


『ここは世界と世界の間に存在する空間、文字通りに「狭間」なんです。この空間の管理を任されている私はここに迷い込んだ魂を導く役割を与えられています』
「魂を導く……」
『だけど今回の場合はちょっと特殊なんです。貴方は完全には死んでいない状態でこの場所に辿り着きました』
「え?」


彼女の説明によるとアイリスの役割は死後に魂だけとなった存在が狭間の世界に訪れた時、彼女は別の世界に導くという。この別の世界とは文字通りの意味であり、直央が住んでいた世界とは別の世界が存在するという。


『世界は1つだけではありません。直央さんが想像できない程のたくさんの世界が存在します。科学の代わりに魔法が発展した世界、人間その物が存在しない世界、何もない世界、色々とあるんです』
「そんなにあるの?」
『いっぱいありますよ。だけど私が管理を任されているのはあくまでもこの狭間の世界です。他の世界に干渉する事は禁じられているわけではないですけど、少々面倒なんです。私はこの世界に入り込んできた魂を別の世界に転生させる役割を与えられています』
「それなら僕はどうなるんですか?」
『だからそれが問題なんですよ。貴方は本来は死ぬはずではなかった、なのにこの世界に辿り着いてしまった。だけど私の力では元の世界に返せません』
「どうしてこんな事に……あっ!!」


直央は死に際に床に広がった「魔法陣」を思い出し、あれが原因で自分はこの世界に飛ばされたのではないかと考えた。そして彼の予想を読み取ったように光の球体は肩に乗り込む。


『その通りです。さっきも話したようにこの世界に訪れるのは本来はあの桃山という女性の方でしたんですよ。だけど、貴方が死に際に魔法陣から突き飛ばした事で代わりに貴方がこの世界に訪れてしまったんです』
「そんな……人違いという事?」
『というよりは手違いです。ちなみに普通なら別の人間があの魔法陣に飲み込まれる事はないんですけど、よりにもよって拳銃で撃たれた事で魂が肉体から切り離され、魔法陣に取り込まれてしまったんです。つまり今現在の貴方の肉体は本物では無く、私が作り出した仮初の肉体です』
「えっ!?」


アイリスの言葉に直央は自分の身体を覗き込み、特に異変は見当たらないが確かに胸元の傷が消えており、セーターにも痕跡は残っていない。


『肉体を再生したのは私のサービスです。というより、これから貴方を送り込む世界に生きやすいように作り替えたんですけど……』
「送り込むって……どういう事?」
『実はあの魔法陣は異世界の人間が地球の人間を呼び寄せるために作り出した魔法なんです。だから本来はあの桃山という少女が異世界に送り込まれるはずでしたが、直央さんが代わりにその役目を引き継ぐことになりました』
「えええっ!?」


何度目かの驚きの声を上げ、まさか自分が助けた少女の代わりに異世界召喚というファンタジー小説の定番な展開に巻き込まれるとは思わなかったが、更に人違いでこの世界に招かれた事に直央は動揺を隠せない。


『あ、だけど逆に言えばここに訪れなければ直央さんは死んでましたよ。そう考えるとラッキーでしたね』
「ラッキーというのかなそれは……」
『だけど問題なのは桃山さんの場合はあちらの世界に送り込むだけで充分だったんですが、直央さんの場合だと問題なんです。本来は選べれるべきではない人間を送り込むと少々問題があります』
「それ以前に元の世界に帰して欲しいんですけど」
『無理です。それは私の力を大きく超える願い事なので叶えられません。あ、性別を転換させますか?TSなら出来なくもないですけど』
「変えないよ!!」
『あうちっ』


とんでもない事を言いだした光の球体に直央がチョップを食らわせると、光の球体は吹き飛ばされるが何事もなかったように反対の肩に止まる。


『まあ、それは冗談としてこのまま直央さんを送り込むと色々と問題があるんです。ゲームで例えると本当は主人公を送り出すつもりだったのに可愛いぐらいしか取柄がないモブキャラを送り込むようなものですから』
「酷くないっ!?」
『だからこうしましょう。本来は私が与えるはずの能力を増やします』


あまりの言い草に直央は文句を告げるが、アイリスはそんな彼にある条件を突き出す。


『本当はあちらの世界に召喚される存在には私が力を分け与える事も出来るんですけど、直央さんの場合は一般人ですから特別に与える能力を増やしましょう』
「一般人って……桃山さんも一般人じゃないの?」
『あの人は勇者としての素質があったんですよ。あちらの世界では普通の人間でも、異世界に召喚された時に目覚める力があったんでしょう』
「まさか……スタ〇ド能力!?」
『どうしてそれをチョイスしたんですかっ!!というか辞めてください!!この作品を第2話で終わらせるつもりですか!!』
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