最弱職外伝 〈貧弱の勇者は異世界で生き抗う〉

カタナヅキ

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エルフ王国

王国の危機

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「あの、質問良いですか?」
「何でしょうか?」
「国王様が先ほど王国の存亡の危機を迎えたから召喚の儀式を行ったと言っていましたけど、一体どういう問題なんですか?」
「……そうですね、確かに勇者様にはそれを知る権利があります」


ナオの疑問は当たり前であり、彼はどうして自分(本来は桃山なのだが)が召喚された理由を問い質す。リンは言いにくそうに言葉を濁らせるが、流石に理由を教えなければナオとしても納得は出来ない。


「現在の王国の軍隊は実は歴史上で最も弱体化しています」
「弱体化?」
「勇者様は知らないかも知れませんが、この世界には竜種と呼ばれる魔物が存在します。その力はあまりにも圧倒的で災害の象徴とさえも言われています」
「竜種……ドラゴン?」
「名前は土竜。竜種の中で最も巨体で最硬の竜と言われています。我々だけの力ではどうしようも出来ず、隣国のバルトロス帝国の協力も得て討伐を果たしました」
「人間が収める国家の事ですね」


リンの説明によると王国の領地に竜種が唐突に現れ、王国の軍隊に大きな被害を与えたという。結果としては竜種の討伐は隣国の帝国の協力も得て果たす事は出来たが、その結果として王国は帝国に大きな貸しを作ってしまい、しかも大量の謝礼金と王国が生産している回復薬と呼ばれる薬品を渡したという。


「我々エルフ王国は回復薬を世界中に生産しています」
「回復薬?それは……もしかして傷を治すポーションてきな物でしょうか?」
「古の時代ではそう呼ばれていた事もあるそうですが……勇者様はご存じなのですか?」
「まあ、ゲームとかで……」


エルフ王国の収入源は「回復薬」と呼ばれる薬品を世界中に輸出し、その利益で王国の経済を補っている。リンは自分が所有してる回復薬をナオに渡し、硝子瓶に緑色の液体が満たされており、この液体を人体に利用すると驚異的な回復効果を身体に促すという。


「回復薬にも種類がありますが、上級の者だと失われた身体の一部さえも再生させる事が出来る回復効果を誇ります。また、ある程度の体力の回復も行えますし、素材によっては解毒効果を持つ薬品も作り出せます」
「へ~……それは凄い代物ですね」
「この回復薬の素材となる三日月草や満月草は世界中に存在しますが、栽培と呼ばれるスキルを持つ人間にしか育成できません。そして全ての森人族はこの栽培のスキルを生れた時から身に着けています」
「ほえ~……」
「ですが、エルフ王国の領地は薬草が育ちやすい環境だったのですが……先に話した土竜のせいで栽培地としていた土地が荒らされ、現在は回復薬の輸出が滞っています」


王国の最も大きな収入源である「回復薬」だが、先に話した土竜の襲撃によってよりにもよって薬草の栽培地が多大な被害を受けてしまい、現在は生産を中断している。そのせいで各国の回復薬の輸出を止めざるを得ず、現在の王国は非常に不味い状態に追い込められているらしい。


「我が王国は帝国とは現在は同盟を結んでいるのですが、小髭族と獣人族とは何度も争っています。特に小髭族は未だに我等の領地を度々侵しており、先の大戦では獣人族と巨人族と手を結んで我等の領地に侵攻しました」
「そ、そうなんですか」
「無論、普段の我々ならば小髭族如きに遅れは取りませんが、現在は土竜の一件で軍隊も大きな被害を受けており、未だに1万人近くの兵士が重傷を追って治療中なのです。回復薬が不足しているせいで満足な治療も出来ず、今現在も復帰出来ていません」
「大丈夫なんですか……?」
「だからこそ我々は戦力増強のため、償還の儀式を行い、勇者様を召喚しました」
「あ、そこに繋がるんですか!?」


ナオはリンの説明を受けて納得するが、まさかそれほど壮大な理由で召喚された事に動揺を隠せず、彼等が勇者という存在に途轍もない期待を抱いている事だけは分かった。


(でも人違い……いや、勇者違いがなんだよな)


実際に召喚されるはずの「桃山」の代わりに送り込まれたナオではあるが、彼の能力はよりにもよって「貧弱」という初期ステータスが最低値になる能力であり、現状では彼等の期待には応えられない。だが、その一方でもう一つの能力を与えてもらった事を思い出し、ナオは「空間魔法」の存在を思い出す。


(そういえばもう一つだけ能力を与えられたんだっけ。後で確かめないと……)


こちらの場合は貧弱と違い、ナオの遺志でステータスに影響を与えないので本人の意思で使用できる可能性も高く、試しに一人になったときに試すことを決めた。


「あの……一つ聞いていいですか?」
「何でしょうか?」
「さっき言っていた能力値の事ですけど、一般人や城の兵士の方の場合はどれくらいの数値なんですか?」


先ほど玉座の間にてナオは能力値の存在を知り、国王は普通のステータスには表示されないと告げていたが、実際の所はナオの場合はアイリスに見せてもらった自分のステータスにも表示されていた。そこで彼はこの世界の能力値の基準が気になり、自分の能力がどれほど低いのかを確かめるためにリンに問い質す。


「……そうですね、だいたい人間の一般の成人男性の場合は魔法関連の能力以外は100が平均でしょう。ですが、我が王国の兵士の場合は全ての数値が1000を超えているでしょう」
「100!?1000!?」
「各個人の職業やレベルによって能力値に大きな差はありますが、私の場合は剣士と精霊魔導士の職業を習得しています。レベルが51、能力値は攻撃力と防御力が2000程度、移動速度は1500、魔法関連は1800程度です」
「おうっ……」


リンの話を聞いてナオは自分の能力がどれほど低いのかを思い知り、同時に王子に掴まれただけで簡単に痣が出来たのは自分の防御力が低すぎる事が原因だと悟った。そんな彼の考えを読み取ったようにリンは慌てて彼を慰めるように言葉を掛ける。


「あ、安心して下さい。能力値はレベルが上昇すれば必ず上がりますし、それに初期の能力が低くても後半から一気に伸びる者も多いですから」
「そうなんですか……」


彼女の慰めの言葉にナオは苦笑いを浮かべるが、内心では非常に焦っていた。何故なら冗談抜きで今現在の彼の能力は赤子並であり、成人男性の100分の1の力しかない。そして重要なのはここからであり、レベルを上昇させる方法をナオは彼女に問い質す。


「あの……レベルはどうすれば上昇させる事が出来るんですか?」
「言いにくいのですが……レベルに関しては魔物を倒す事で経験値を得られます。只の訓練でも能力値を引き上げる事は出来なくもありませんが、最も効率が良いのは魔物を倒してレベルを上昇させるしかないかと……」
「ですよね」


ステータスという概念がある時点で既にこの世界がゲームのような世界観である事はナオも見抜いており、ゲームでも魔物を倒さなければレベルは上がらない。しかし、初期ステータスがあまりにも低すぎるナオの場合は魔物を倒すという条件があまりにもハードルが高い。
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