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エルフ王国
王都の外
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馬車が城下町を通り過ぎると、木造製の防壁の前に立ち止まり、将軍であるリンが警備兵に話を通して通過する。ここから先は馬車ではなく徒歩で移動することになり、ここから先は普通に魔物が出現する事を彼女はナオに説明する。
「王都は「結界石」と呼ばれる魔道具によって魔物が侵入する事はありませんが、防壁の外へ移動すれば魔物も出現します。王都近辺では定期的に警備兵が巡回を行い、危険性の高い魔物は討伐していますが、それもで油断は禁物です」
「あ、はい……あの、この装備は一体……」
「こちらはナオ様のために用意した鎧と兜です。外見よりも重量は軽く、そでていて衝撃には強い耐性を持っているので森人族の兵士は誰もが愛用しています」
リンはナオを外に出す前に彼に革製の鎧と木造製の兜を装着させ、更に長剣と短剣を腰元に取り付けさせる。防壁の周辺は伐採されているので草原が広がっているが、見晴らしが良い場所であろうと知能が低い魔物は訪れる事は多々あるため、リンは餌を用意してまずは知能が低い魔物を誘き出す。
「ナオ様はお下がりください、今から魔物を呼び出します」
「え?呼び出すって……」
「この香水を使います。効果が強いので、あまり使用は控えなければなりませんが……」
「香水?」
「モモノと呼ばれる果物の果汁です。数多くの魔物が好物とする果物なので、果汁と言えど臭いを嗅ぎつけて姿を現すでしょう」
彼女が取り出したのは「桃色」の綺麗な液体であり、中身は果物を搾り取って入手した果汁だが、その強烈な甘い匂いは不思議な事に複数の魔物を誘き寄せるという。硝子瓶の蓋を開き、リンは豪快に周囲に巻き散らす。その直後に名前の通りに「桃」のような香りが広がり、しばらくすれば臭いに引き寄せられた魔物が現れるらしい
「それでは魔物が現れるまで我々は待機しましょう。何が起きても私達が守るのでご安心ください」
「はあ……」
ナオは長剣に視線を向け、覚えたばかりの戦技は体力の消耗が激しいため、本当は指弾の戦技だけで対応したいのだが、人目が多すぎる。彼女たちに自分の能力を隠す必要はあるのかと考えてしまうが、ナオは最初の日に紫色の鼠に殺されかけたことを思い出す。
(油断は出来ない。この人たちだって味方とは限らないんだ)
訓練の際は優しく接してくれるリンや女性兵士達もナオは警戒しており、そもそも森人族が人間に対して快くない感情を抱いている事はナオも気付いている。表面上は優しくしてくれる彼女達も裏では自分に対してどのような感情を抱いているのかは分からない。
(まあ、いざという時のために用意してはあるけど……)
今回の外出の際にナオは袋詰めしたグリドンを腰に取り付けており、出かける前にグリドンが欲しいと告げて持ってきたのだ。勿論、食用のためではなく万が一にも襲われたときに「指弾」の戦技の弾丸代わりとして身に着けているだけであり、いざという時は指弾の戦技で危機を切り抜ける覚悟は抱いている。
(指弾なら遠距離や近距離にも対応できるし、拳銃よりも扱いやすいかもしれない)
熟練度を上昇させたお陰で指弾の攻撃威力も馬鹿に出来ず、しかも掌さえ動けば発動可能のため、無暗に近づく必要はない。更に「連射」や「跳弾」の戦技を使えば大多数の相手にも対応できるため、ナオは念のために袋から1つだけグリドンを取り出して握りしめておく。
「むっ……来ましたね」
「えっ?」
「あれはオークです!!」
ナオが考え事をしている間にもモモノの果汁の香りに連れられて森の方角から大きな人影が姿を現し、全長が2メートルを超える豚の化物が出現した。RPGではゴブリンやスライムに次いで出番が多い「オーク」であり、豚というよりは猪と人間が合わさったような生物が森の中から複数姿を現した。
「プギィイイイッ!!」
「ブヒィッ……!!」
「うっ……!?」
「恐れないで下さい!!ナオ様の力ならば大した敵ではありません!!全員、抜刀!!」
オークの数は4体、一方でリンを含めた兵士の数は8人、数の差はナ自分達が有利だと分ってはいるがオークの巨体と威圧感にナオは冷や汗を流し、その一方で自分が思っていたよりも冷静に相手の様子を伺っている事に気付く。
(確かに怖いけど……なんか、思っていたより怖くない?)
恐怖を感じているのは事実だが、想定していたよりも恐怖が小さい事にナオは戸惑い、どういう事か目の前の4体の化物が脅威だとは彼には思えなかった。彼はあ無意識に「観察眼」のスキルを発動させ、相手の首元に視線を向け、長剣を引き抜く。
(これならいけるかも)
ナオは位置的に一番近いオークに視線を向け、相手は油断しているのか、それとも臭いに夢中なのか間抜けな表情を抱きながら歩み寄っており、そんなオークに対してナオは他の人間に気付かれないように剣を握りしめていない方の手に隠し持っていたグリドンを撃ち込む。
(行けっ!!)
狙いはオークの右膝に定め、ナオは親指を弾いてグリドンを撃つ。まるで本物の弾丸のような速度で発射された木の実はオークの足元の地面に衝突し、跳弾の戦技によって軌道を変更させて下から膝を撃ち抜いた。
「プギィッ!?」
『ッ……!?』
唐突に膝を撃たれたオークは悲鳴を上げ、他の仲間やリン達も驚愕の表情を浮かべる。彼等の視界には唐突にオークが膝から血を噴き出して倒れこんだようにしか見えず、その間にナオは接近して長剣を構える。
「王都は「結界石」と呼ばれる魔道具によって魔物が侵入する事はありませんが、防壁の外へ移動すれば魔物も出現します。王都近辺では定期的に警備兵が巡回を行い、危険性の高い魔物は討伐していますが、それもで油断は禁物です」
「あ、はい……あの、この装備は一体……」
「こちらはナオ様のために用意した鎧と兜です。外見よりも重量は軽く、そでていて衝撃には強い耐性を持っているので森人族の兵士は誰もが愛用しています」
リンはナオを外に出す前に彼に革製の鎧と木造製の兜を装着させ、更に長剣と短剣を腰元に取り付けさせる。防壁の周辺は伐採されているので草原が広がっているが、見晴らしが良い場所であろうと知能が低い魔物は訪れる事は多々あるため、リンは餌を用意してまずは知能が低い魔物を誘き出す。
「ナオ様はお下がりください、今から魔物を呼び出します」
「え?呼び出すって……」
「この香水を使います。効果が強いので、あまり使用は控えなければなりませんが……」
「香水?」
「モモノと呼ばれる果物の果汁です。数多くの魔物が好物とする果物なので、果汁と言えど臭いを嗅ぎつけて姿を現すでしょう」
彼女が取り出したのは「桃色」の綺麗な液体であり、中身は果物を搾り取って入手した果汁だが、その強烈な甘い匂いは不思議な事に複数の魔物を誘き寄せるという。硝子瓶の蓋を開き、リンは豪快に周囲に巻き散らす。その直後に名前の通りに「桃」のような香りが広がり、しばらくすれば臭いに引き寄せられた魔物が現れるらしい
「それでは魔物が現れるまで我々は待機しましょう。何が起きても私達が守るのでご安心ください」
「はあ……」
ナオは長剣に視線を向け、覚えたばかりの戦技は体力の消耗が激しいため、本当は指弾の戦技だけで対応したいのだが、人目が多すぎる。彼女たちに自分の能力を隠す必要はあるのかと考えてしまうが、ナオは最初の日に紫色の鼠に殺されかけたことを思い出す。
(油断は出来ない。この人たちだって味方とは限らないんだ)
訓練の際は優しく接してくれるリンや女性兵士達もナオは警戒しており、そもそも森人族が人間に対して快くない感情を抱いている事はナオも気付いている。表面上は優しくしてくれる彼女達も裏では自分に対してどのような感情を抱いているのかは分からない。
(まあ、いざという時のために用意してはあるけど……)
今回の外出の際にナオは袋詰めしたグリドンを腰に取り付けており、出かける前にグリドンが欲しいと告げて持ってきたのだ。勿論、食用のためではなく万が一にも襲われたときに「指弾」の戦技の弾丸代わりとして身に着けているだけであり、いざという時は指弾の戦技で危機を切り抜ける覚悟は抱いている。
(指弾なら遠距離や近距離にも対応できるし、拳銃よりも扱いやすいかもしれない)
熟練度を上昇させたお陰で指弾の攻撃威力も馬鹿に出来ず、しかも掌さえ動けば発動可能のため、無暗に近づく必要はない。更に「連射」や「跳弾」の戦技を使えば大多数の相手にも対応できるため、ナオは念のために袋から1つだけグリドンを取り出して握りしめておく。
「むっ……来ましたね」
「えっ?」
「あれはオークです!!」
ナオが考え事をしている間にもモモノの果汁の香りに連れられて森の方角から大きな人影が姿を現し、全長が2メートルを超える豚の化物が出現した。RPGではゴブリンやスライムに次いで出番が多い「オーク」であり、豚というよりは猪と人間が合わさったような生物が森の中から複数姿を現した。
「プギィイイイッ!!」
「ブヒィッ……!!」
「うっ……!?」
「恐れないで下さい!!ナオ様の力ならば大した敵ではありません!!全員、抜刀!!」
オークの数は4体、一方でリンを含めた兵士の数は8人、数の差はナ自分達が有利だと分ってはいるがオークの巨体と威圧感にナオは冷や汗を流し、その一方で自分が思っていたよりも冷静に相手の様子を伺っている事に気付く。
(確かに怖いけど……なんか、思っていたより怖くない?)
恐怖を感じているのは事実だが、想定していたよりも恐怖が小さい事にナオは戸惑い、どういう事か目の前の4体の化物が脅威だとは彼には思えなかった。彼はあ無意識に「観察眼」のスキルを発動させ、相手の首元に視線を向け、長剣を引き抜く。
(これならいけるかも)
ナオは位置的に一番近いオークに視線を向け、相手は油断しているのか、それとも臭いに夢中なのか間抜けな表情を抱きながら歩み寄っており、そんなオークに対してナオは他の人間に気付かれないように剣を握りしめていない方の手に隠し持っていたグリドンを撃ち込む。
(行けっ!!)
狙いはオークの右膝に定め、ナオは親指を弾いてグリドンを撃つ。まるで本物の弾丸のような速度で発射された木の実はオークの足元の地面に衝突し、跳弾の戦技によって軌道を変更させて下から膝を撃ち抜いた。
「プギィッ!?」
『ッ……!?』
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