最弱職外伝 〈貧弱の勇者は異世界で生き抗う〉

カタナヅキ

文字の大きさ
28 / 36
エルフ王国

王都の外

しおりを挟む
馬車が城下町を通り過ぎると、木造製の防壁の前に立ち止まり、将軍であるリンが警備兵に話を通して通過する。ここから先は馬車ではなく徒歩で移動することになり、ここから先は普通に魔物が出現する事を彼女はナオに説明する。


「王都は「結界石」と呼ばれる魔道具によって魔物が侵入する事はありませんが、防壁の外へ移動すれば魔物も出現します。王都近辺では定期的に警備兵が巡回を行い、危険性の高い魔物は討伐していますが、それもで油断は禁物です」
「あ、はい……あの、この装備は一体……」
「こちらはナオ様のために用意した鎧と兜です。外見よりも重量は軽く、そでていて衝撃には強い耐性を持っているので森人族の兵士は誰もが愛用しています」


リンはナオを外に出す前に彼に革製の鎧と木造製の兜を装着させ、更に長剣と短剣を腰元に取り付けさせる。防壁の周辺は伐採されているので草原が広がっているが、見晴らしが良い場所であろうと知能が低い魔物は訪れる事は多々あるため、リンは餌を用意してまずは知能が低い魔物を誘き出す。


「ナオ様はお下がりください、今から魔物を呼び出します」
「え?呼び出すって……」
「この香水を使います。効果が強いので、あまり使用は控えなければなりませんが……」
「香水?」
「モモノと呼ばれる果物の果汁です。数多くの魔物が好物とする果物なので、果汁と言えど臭いを嗅ぎつけて姿を現すでしょう」


彼女が取り出したのは「桃色」の綺麗な液体であり、中身は果物を搾り取って入手した果汁だが、その強烈な甘い匂いは不思議な事に複数の魔物を誘き寄せるという。硝子瓶の蓋を開き、リンは豪快に周囲に巻き散らす。その直後に名前の通りに「桃」のような香りが広がり、しばらくすれば臭いに引き寄せられた魔物が現れるらしい


「それでは魔物が現れるまで我々は待機しましょう。何が起きても私達が守るのでご安心ください」
「はあ……」


ナオは長剣に視線を向け、覚えたばかりの戦技は体力の消耗が激しいため、本当は指弾の戦技だけで対応したいのだが、人目が多すぎる。彼女たちに自分の能力を隠す必要はあるのかと考えてしまうが、ナオは最初の日に紫色の鼠に殺されかけたことを思い出す。


(油断は出来ない。この人たちだって味方とは限らないんだ)


訓練の際は優しく接してくれるリンや女性兵士達もナオは警戒しており、そもそも森人族が人間に対して快くない感情を抱いている事はナオも気付いている。表面上は優しくしてくれる彼女達も裏では自分に対してどのような感情を抱いているのかは分からない。


(まあ、いざという時のために用意してはあるけど……)


今回の外出の際にナオは袋詰めしたグリドンを腰に取り付けており、出かける前にグリドンが欲しいと告げて持ってきたのだ。勿論、食用のためではなく万が一にも襲われたときに「指弾」の戦技の弾丸代わりとして身に着けているだけであり、いざという時は指弾の戦技で危機を切り抜ける覚悟は抱いている。


(指弾なら遠距離や近距離にも対応できるし、拳銃よりも扱いやすいかもしれない)


熟練度を上昇させたお陰で指弾の攻撃威力も馬鹿に出来ず、しかも掌さえ動けば発動可能のため、無暗に近づく必要はない。更に「連射」や「跳弾」の戦技を使えば大多数の相手にも対応できるため、ナオは念のために袋から1つだけグリドンを取り出して握りしめておく。


「むっ……来ましたね」
「えっ?」
「あれはオークです!!」


ナオが考え事をしている間にもモモノの果汁の香りに連れられて森の方角から大きな人影が姿を現し、全長が2メートルを超える豚の化物が出現した。RPGではゴブリンやスライムに次いで出番が多い「オーク」であり、豚というよりは猪と人間が合わさったような生物が森の中から複数姿を現した。


「プギィイイイッ!!」
「ブヒィッ……!!」
「うっ……!?」
「恐れないで下さい!!ナオ様の力ならば大した敵ではありません!!全員、抜刀!!」


オークの数は4体、一方でリンを含めた兵士の数は8人、数の差はナ自分達が有利だと分ってはいるがオークの巨体と威圧感にナオは冷や汗を流し、その一方で自分が思っていたよりも冷静に相手の様子を伺っている事に気付く。


(確かに怖いけど……なんか、思っていたより怖くない?)


恐怖を感じているのは事実だが、想定していたよりも恐怖が小さい事にナオは戸惑い、どういう事か目の前の4体の化物が脅威だとは彼には思えなかった。彼はあ無意識に「観察眼」のスキルを発動させ、相手の首元に視線を向け、長剣を引き抜く。


(これならいけるかも)


ナオは位置的に一番近いオークに視線を向け、相手は油断しているのか、それとも臭いに夢中なのか間抜けな表情を抱きながら歩み寄っており、そんなオークに対してナオは他の人間に気付かれないように剣を握りしめていない方の手に隠し持っていたグリドンを撃ち込む。


(行けっ!!)


狙いはオークの右膝に定め、ナオは親指を弾いてグリドンを撃つ。まるで本物の弾丸のような速度で発射された木の実はオークの足元の地面に衝突し、跳弾の戦技によって軌道を変更させて下から膝を撃ち抜いた。


「プギィッ!?」
『ッ……!?』


唐突に膝を撃たれたオークは悲鳴を上げ、他の仲間やリン達も驚愕の表情を浮かべる。彼等の視界には唐突にオークが膝から血を噴き出して倒れこんだようにしか見えず、その間にナオは接近して長剣を構える。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...